※ 口元が割れたカップの金継ぎ修理のやり方を説明していきます。本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。ご注意ください。
今回は金継ぎの工程のうち、〈割れた断面に漆を浸み込ませるまで〉のやり方を解説していきます。
金継ぎとは
欠けたり、割れたりした器を漆で直す日本の伝統技法です。漆で接着し、漆で欠けや穴を埋め、漆を塗って、最後に金粉や銀粉を蒔いてお化粧をします。
本漆金継ぎでは漆を使いますので「かぶれ」のリスクがあります。ですがそのリスクを引き受けてでもやるだけの価値があると思います。なんといっても「大切な想い」の詰まった器が直せるのですから。
そして器がよみがえった時にきっと不思議な感じがすると思います。「直った」というより、「生まれ変わったみたい」と。つまりある意味、元のものには見えず別もののようにも見えてしまう。
そこで考えてしまうのですが、どうして日本人はこんな不思議な直し方をしたのでしょうか?
これってきっと日本人の死生観なんかとも深いところで繋がっている気がします。割れた器は「向こうの世界」へ行く。それを「こちらの世界とのインターフェイス」に呼び戻す。ただし死の刻印を強く残したまま。
金継ぎした器が向こう側にあるのかこちら側にあるのか境界がぼやけてくる。どちらの世界に存在しているのかわからなくなる。やわらかで曖昧なインターフェイスが静かに立ち上がってくる。
この不思議な感覚をぜひ味わってください。
器 information
- 器の作家: 角谷啓男先生(←この方が金継ぎ図書館のチーフアドバイザーです)
- 器の特徴: パラジウム仕上げ
- 器のサイズ: 直径60㎜ × 高さ155㎜
- 損傷: 縁部分、割れたピース 2 +本体、割れの幅約30㎜ × 高さ約40㎜
金継ぎ修理する器をチェックします。
- 釉薬…つるつるしたガラス質かそれともざらざら、さらさらしたマットな質感か。→マスキングするかどうか判断する。
- 器の厚み…接着したとき強度がでるかどうか判断する。→薄い場合、割れた断面の面取りを広めにとり、接着面積を増やして接着強度を上げる。
- 見落としている傷がないか…「欠け」や「割れ」の傷とともに「ひび」が生じている場合が多いので、念入りにひびがないかどうかをチェックする。あとは小さな「欠け」がないか。
竹の筒です。コップです。
角谷さんは現物から「型」を作ってそれを焼き物に置き換える作品をつくっています。主に磁器とガラスを組み合わせたオブジェで表現を探っています。
今回の修理品は実用のものです。
パラジウム掛けとのことです。黒っぽい銀色で貫禄があります。
釉薬と絵付けの違いについて、私はよくわかっていません。
器の厚みがしっかりとあるので、接着強度は高くなります。こころ強い。
(薄い器は修理後もちょっと気になります。壊れていないかな?と)
この割れたピースの他に、すごく細かいピースもありました。
が、私はあまり細かいピースは使いません。
細すぎるピースを無理してくっつけると全体のリズムが悪くなることが多い気がします。
個人的な感覚だと思いますので、もちろん割れたピースは
「すべて使う」も「あり」だと思います。
破片を組んでみるとこのような感じになります。
金継ぎ修理に入る前に割れた破片を組んで全体像をチェックする。
と何かいいアイデアが浮かぶかもしれません。
組んでみた方が金継ぎ完成後のイメージができそうですよね。
「割れ」と「欠け」の修理になります。
step 1 素地調整
金継ぎの素地調整で使う道具: ダイヤモンドのリュータ―ビット(▸ 素地調整で使う道具・材料の入手先・値段)
ホームセンターなどで手に入るリュータ―のダイヤモンドビットを使います
▸ダイヤモンドビットのカスタマイズの方法
本体と割れたピースの断面のエッジを軽く研いでいきます。
エッジを削って滑らかにします。
まずは本体から。
ジャリジャリととんがったエッジを軽く削っていきます。
ほんのわずかにエッジを削って「面」をつくります。
本体内側のエッジにもやすりをかけます。
本体のやすり掛け、完了です。
削りで出た粉をウエスできれいに拭き取ってください。
割れた破片のほうにもやすりを掛けます。
ジョリジョリエッジを削ってください。
とくに↑の口元になる部分のエッジはお忘れなく。
ここを少し面取りしておくとよいのです。
小さなピースもやすり掛け。ちょっとやりづらい。
step 2 素地固め
金継ぎの素地固めで使う道具と材料(▸ 素地固めで使う道具・材料の入手先・値段)
- 材料 : 漆(生漆)、テレピン、ティッシュ
- 道具 : 小筆(面相筆)、付け箆(▸ 付け箆の作り方)
- 掃除用、その他 : 定盤(作業台)、サラダ油、小箆、ウエス、テレピン
筆を使う前に筆の中にある油分を洗い出してください
▸ 使用前の詳しい筆の洗い方
素地固めで使う漆は < 生漆 10 : 3 テレピン >
くらいの割合で漆を薄めてください。漆を緩めて浸み込みやすくするということです。
欠けた器の断面に塗布していきます。
割れた断面にしっかりと漆を浸み込ませていきます。
ジョリジョリした面に漆を塗っていくので筆が痛みます。
ので、この作業は安い筆で行った方がよさそうです。
これで本体の方の漆塗布は完了です。
続いて割れた破片のほうにも漆を浸み込ませていきます。
破片の方の作業も終了。
続いて漆の拭き取りです。
ティッシュペーパーを押し当てて、浸み込まなかった漆を吸い取ります。
生地が吸い込まなかった漆が表面に残ってテカテカしています。
ティッシュペーパーを折りたたんだものを用意します。
漆を塗布した場所にティッシュを優しく押し当てます。
ティッシュに余分な漆が吸い取られました。
蒔絵紛を固めた漆を拭き取るときにはティッシュに漆がつかなくなるまで厳密にくりかえしますが、素地固めの場合はそこまでやらなくていいと思います。
おおよそ、余った漆が拭き取られればいいかと。
割れた破片の方も同様にティッシュを使って漆を拭き取ります。
拭き取り作業が完了したら、湿度のある(65%~)場所に置いて漆を硬化させます。でもあまり硬化させすぎると次の作業の錆漆の食いつきが悪くなるので半日~1日程度でいいと思います。
作業が終わったら油で筆を洗います 。
▸ 使用後の詳しい筆の洗い方
次の工程を見る ▸ ② ~麦漆削りまで
その他の工程