※ 口元からひびの入った中国湯呑の〈 漆+合成樹脂 〉を使った金継ぎ修理のやり方を説明していきます。本物の漆も使いますので”カブレ”る可能性があります。ご注意ください。
今回は金継ぎの工程のうち、〈ひびの入った部分の器の素地をやすりで削る~漆塗り・蒔絵完成〉のやり方を解説していきます。
一気に完成までご紹介します。長いですがご付き合いください。
簡漆金継ぎとは
金継ぎとは欠けたり、割れたりした器を漆で直す日本の伝統技法です。本来は漆で接着し、漆で欠けや穴を埋め、漆を塗って、最後に金粉や銀粉を蒔いてお化粧をします。
その伝統的な本漆金継ぎ方法に対し、漆を使いつつも現代の素材である合成樹脂の接着剤やパテも併用することで時間、手間を簡略化したものが「簡漆」金継ぎです。「簡単な漆の金継ぎ」です。
金継ぎする器 information
- 器: メイドインチャイナの湯呑。現代の量産品です。
- 器の特徴: 磁器の絵付け、ややピカピカの釉薬
- 器のサイズ: 直径75㎜、高さ55㎜
- 破損状態: 口元からひび 総計52㎜(縦に42㎜、横に10㎜)、 口元に欠け(大きさ5×5㎜)
今回のメインで取り扱う「ひび」の他に「欠け」もあります。
うっすらとひびが入っています。
しかも男爵の髭のように横にもひびが伸びていました。
かなりしっかりとチェックしないと見えないようなひびです。これを見落とさないように気を付けてください。
内側もひびが入っています。
内側にも横に伸びた髭のようなひびがありました。このひびはかなり発見が難しかったです。
「欠け」あるところに「ひび」あり…と、基本的には疑っていった方がよさそうです。
〈簡単金継ぎのやり方 01〉 素地調整
簡単金継ぎの素地調整で使う道具: 今回はリューターのビットが必要です。
① ダイヤモンドのやすり(ホームセンター等で入手 価格\600‐~) ②③ リューターのダイヤモンドビット (ホームセンター等で入手可能/価格 \200~)
このうっすらと入ったひびに沿ってダイヤモンドのやすりをかけます。
傷をつけて新うるしの食いつきをよくします。
いきなり力を入れてやするのではなく、ゆっくりとなぞるように軽く2,3往復させてから少し力を入れて研ぎます。
ひびが見えづらい場合は目印として鉛筆や油性マジックで線を引いてください。
その上をゆっくりとダイヤモンドビットでなぞっていきます。
内側も同様に作業を行います。
この内側にも「髭ひび」がありました。
うっすらと「傷」がついたら素地調整作業が完了です。
次は「欠け」部分にエポキシペーストを補填します。
「ひび」の修理だけを見たい方は飛ばしてください。 ▸ ひび修理の続き
〈簡単金継ぎのやり方 02〉 エポキシペースト付け
エポキシペースト付けで使う道具と材料
- 道具: ③付け箆 (▸ 付け箆の作り方) ②作業板(クリアファイルなど)
- 材料: ①エポキシ接着剤 ④エポキシパテ ⑤テレピン
欠けた部分に補填するエポキシペーストを作ります。 ▸ エポキシペーストの詳しい作り方
(欠けが大きい場合はエポキシパテを使ってください。 ▸ エポキシパテの使い方)
手順
- エポキシ接着剤のA剤、B剤を作業板の上に等量出して、よく練り合わせる。
ゴム手袋をはめてエポキシパテをよく練り合わせる。 - エポキシパテに少しずつエポキシ接着剤を混ぜていく。程よい硬さになったら接着剤を混ぜるのをやめる。
細かいようですが、へらの扱い方です。覚えると作業がきれいにいきますし、この反復動作が楽しくなります。(職人っぽいですねー)
- 作業板の上でヘラを使い、エポキシペーストを薄く広げます。
- ヘラを寝かせつつ、横からヘラを滑り込ませます。
- するとヘラの先っちょにエポキシペーストが付きます。
ヘラの先に少量のエポキシペーストと取ります。
まずは欠け部分の向かって右側からペーストを置いていきましょう。
欠けのエッジにひっかけるようにしてペーストを置いていきます。
次は欠け部分の向かって左側にペーストを置いていきます。
再度、ヘラの先にペーストを少量取ります。
欠けの左側のエッジにひっかけるようにヘラをスライドして、ペーストを置きます。
最後に向かって奥側のエッジを利用してペーストを置きます。
ヘラをひっかけるようにしてスライドさせます。
ちょっと「盛り気味」ですが、ひとまずこれでよしとさせてください。
まだ「ベスト」なエポキシペーストの使い方が確立していません。試行中です。
現在は「ちょい盛り気味に置く」をベターアンサーとして暫定的にご紹介しています。
以後、やり方が変わるかもしれません。そうしたらまたご説明します。
ちょい盛り気味にして、硬化してから刃物で削ります。
ジャストを狙って盛るのが一番いいのですが、万が一盛り足りなかった場合、そのリカバリーがかなり面倒なのです。(今のところいい方法が見つかっていません)
ですので盛り気味です。
硬化するまでの間に、エポキシペーストは流動性が高いので「垂れて」きます。(この辺が「錆漆」と違いますね)
ですので、「垂れ」が生じても影響の少ない置き方にします。今回は一応、逆さまに置きました。
この「垂れ」をうまく利用したペースト付けというのもありそうですね。今後、検証していきます。
〈簡単金継ぎのやり方 03〉 ペースト削り・研ぎ
エポキシペースト削りで使う道具(次のいずれか、もしくは複数)
▸ 金継ぎで使うおすすめの刃物のご説明
- 道具: ① メス(先丸型) ② オルファのアートナイフプロ(先丸型) ③ カッターナイフ(大) ④ 彫刻刀(平丸)
おススメは平丸の彫刻刀です。 ▸ 金継ぎで使う彫刻刀のカスタマイズ方法
それではエポキシペーストを削っていきます。
器の外側は基本的には彫刻刀の「刃裏」を器に当てながら削っていきます。
上から見るとこんな感じです。刃裏の平面を器に当てることで面の繋がりのガイドとします。
口元周りを削るときもできるだけ周りの器に刃裏を当てて、それを頼りに平面のレベルを把握します。
削りつつ、いろいろな方向からペーストを盛った面の繋がりをチェックします。
膨らんでいる箇所を見つけて削っていきます。
削るときは進行方向に対して彫刻刀を斜めに構えて、しかも斜めにスライドさせていきます。
その方が抵抗が少なくなって、削りやすいです。
この「より多くの(複数の)方向に動きのベクトルを分ける」っていうのは武道でも工藝でも動きの肝心なところなのかもしれませんね。
器の内側は「刃表」を当てて削っていきます。
削るときは少しずつ慎重に削っていってください。削りすぎるとエポキシペーストに戻る羽目になりますし、しかも修正が面倒です。
刃物で削り終わりましたら、続いて耐水ペーパーで水研ぎします。
エポキシペースト研ぎで使う道具と材料
- 道具: ③ 豆皿(水入れ用) ④ ウエス ⑤ はさみ(ペーパー切り専用にしたもの)
- 材料: ① 耐水ペーパー(今回は#400) ② 水
ペーパーをはさみで小さく切り、それを三つ折りして使います。
削りでできたわずかな削り跡の段差を滑らかに研いでいきます。
ペーパーをつまんで、 なるべく器本体を研がないように(厳密には無理ですが)、研いでいきます。
研ぎ終わりました。
〈簡漆金継ぎのやり方 04〉 漆の上塗り
- 道具: ② ティッシュペーパー ③ 付け箆 (▸ 付け箆の作り方) ④ 小筆 ⑦ 作業板(クリアファイルなど)
- 材料: ① サラダ油 ⑤ 精製漆(今回は呂色漆) ⑥ テレピン
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。 ▸ もっと詳しい筆の洗い方
毎回、作業が終わったときに筆を”油”で洗います。 ですので使うときにはまず筆の中の油を取り除きます。
- 作業板の上に数滴テレピンを垂らす。
- その上で筆を捻ったりしてテレピンをよく含ませる。
- ティッシュペーパーの上でヘラで筆を優しくしごく。
筆の準備が済んだら、今度は漆の用意をします。
- 漆のチューブの蓋を開ける。
- 作業板の上に少量の漆を出す。
- 筆に漆を馴染ませる。
- 作業板の上に何本か線を引き、漆の量を調節しつつ、含み具合をチェックする。
漆の中にゴミがたくさん入っている場合などは濾し紙で漆を濾してきれいにします。こちらを見てください。
▸ 基本的な漆の扱い方・濾し方
筆と漆の準備が済んだらいよいよ塗りに入ります。
均一な厚みで薄くなるように心がけます。
漆が厚くなってしまった箇所があったら、そこを含めて周りも一緒に塗るように何度か筆を通します。
ひげ部分も漆を塗ります。
塗り終わったら湿した場所に入れておきます(湿度65%~)。
30分~60分くらい待って、漆の乾き始めの頃合いを狙います。
ちょっと不安だなーという人は早めに蒔絵作業を行ってください。漆が乾いたら蒔絵紛が付かなくなるのでご注意ください。
※ 「漆の乾き」は個々の漆の個性、その日のコンディションに大きく左右されます。本来は手持ちの漆でテスト塗りをして、あらかじめ使用する漆の乾くスピードを把握しておきます。
塗り終わったら油で筆を洗います。 ▸ 詳しい筆の洗い方
筆は付属のキャップを嵌めて保存します。キャップが無かったらサランラップを丁寧に巻いてください。
〈簡漆金継ぎのやり方 05〉 蒔絵
- 道具: ① あしらい毛棒(柔らかい毛質の筆) ② 真綿(綿だと使いづらいです) ③ 重石
- 材料: ④ 蒔絵紛(今回は真鍮粉を使用)
漆の乾きかけを狙って蒔絵紛を蒔いていきます。
乾きかけというのは、息を吐きかけると一瞬「青白く(虹色)」になる頃合いです。「青吐(あおと)」とか「青息(あおいき)」と呼んだりします。地域によって他の呼び方もあるかと思います。
このタイミングですと、べたべたと接着力もありながら金属粉が漆の中に沈み込んでいかない半乾き状態なのです。半熟卵みたいな感じですかね。例えが間違っているかな。
タイミングが判断できなかったら念のため、早めに金属粉を蒔いちゃいましょう。
蒔絵粉の入った包み紙から、筆の先で蒔絵粉を掬い取り、それを漆を塗った場所に乗せていきます。筆は柔らかい毛質のものを使ってください。
バサッと多めの蒔絵粉をのせたら、それを毛棒でささっと掃きながら漆の上に乗せていきます。
内側が終わったら、次は外側も同様に蒔絵粉を蒔いてください。
漆を上塗りしたところに真鍮粉をのせていきます。
筆で軽やかに掃いていきます。
このとき、蒔絵粉の量が十分であれば筆の毛先に漆が付くことはありません。
包み紙の上で作業をすると、掃いて落ちる真鍮粉が回収できます。
蒔き終わりましたら、残した部分がないかよくチェックしてください。
特に、口回りの縁に蒔いた粉の量が足りていないことがありますので、ご注意ください。ここはちょっと蒔きづらいんですよね。
湿した場所に置いて(湿度65%~)、3~4日くらい漆が乾くのを待ちます。
中国湯呑の簡漆金継ぎ完成
今回は、しっかりと内側の「ひび」も蒔絵を施しました。
器の内側の底に描かれている植物のデザインを援用した蒔絵を施してみました。
内側の底に描かれている花のニュアンスを取り込みました。
器をひっくり返しすと、花がすっくと地面から生えている感じになります。
内側も植物っぽい感じです。
この器の特徴で、透かしのようなドットが入っています。
光に翳すと光の粒のような、もしくは雪のようにも見えます。
はらはらと舞う雪の中に花が咲いている風景のようにも見えるな…と一人ほくそ笑んでいます。
わざわざ光にかざして器を見る人などなかなかいないでしょうから、これは偶然にしか出会えない風景になりそうです。でもそういう「はっ」とする出会いっていいですよね。