〈金継ぎTECHNIQUEシリーズ〉05 基本的な漆の扱い方・濾し方

テクニック・コツ

 

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※ こちらのページでは本物の漆の扱い方をご紹介します。本物の漆は「かぶれる」可能性がありますので、ご注意ください。

 

漆屋さんでは漆が「チューブ入り」と「桶入り」で売っています。
少量の取り扱いはチューブ(50g~200g)、大量の扱いは桶(395g~)です。

金継ぎでは少しの量しか使いませんので、基本的に皆さんが扱うことになるチューブのご説明です。

 

(2016-07-15 追記)

ところで、「古くなった漆って使えるんですか?」というご質問をよくいただきます。

古くなった生漆は生漆としては使えません。はい。非常に残念です。
でも「精製」して、新しい生漆で作った精製漆と混ぜたら使えます。はい。非常に嬉しいです。

生漆は時間が経つとともに乾きが悪くなっていきます。漆の中の酵素の活力がなくなっていきます。(だいたい2年くらい経つとキビシイかなと思います。保存のコンディションや漆自体の「性格」にもよりますが。)

乾きが悪くなった漆は『生漆を精製して「素黒目漆」を作り、さらに顔料を混ぜて「色漆」を作る方法』ページで説明する「精製」を行い、新しい生漆で作った精製漆に3割くらい混ぜて使えば、かえって乾きのゆっくりな性格のおっとりとした「塗り漆」になると思います。
意外と使い勝手のよろしい漆になるかもしれませんよ。(私は古い漆を混ぜるのが好きです)

ですので古くなったからといって漆は捨てないでください。ね。

 

 

漆の取り扱い方


 

漆の入ったチューブ

普通のチューブ入りのもの(絵具やマヨネーズとか)と同じで、キャップを回して開けます。

注意点としましては

  • 保存は横置きにする…漆の中の成分が分離します(分離すると漆が乾きづらくなります)。ので、縦置きだと下の層と上の層とで「差」が大きくなります。横置きだとこれが軽減されます。(本当はお茶碗などに中身を移し替えて、使用時には毎回掻き混ぜて漆の成分を均一に攪拌させるのがベストです。ですが、扱いが結構、面倒になるのでチューブのままで行きましょう)
  • 直射日光の当たるところに置かない…金属のチューブに入っていても直射日光に当たり続けていると「劣化」します。乾かない漆になってしまいます。
  • 高温の場所避け、高温(35度くらい)の時期は冷蔵庫など冷暗所で保管する…精製漆である”呂色”や”色漆”はそれほど気にする必要はないのですが、一応。生漆は気にしてください。私は夏場の時期、生漆のみ冷蔵庫で保管しています。
    冷凍庫はアウトです。漆が乾かなくなります。凍ると漆の中の酵素が死んでしまうのだと思います。一度、生漆を入れていた冷蔵庫が壊れて凍ってしまったことがありました。そしたら乾かなくなりました。

 

キャップが開かなくなったらペンチで開ける

キャップが開かなくなったら

漆は接着剤なのでキャップも接着されてしまいがちです。
きれいに使っていてもいつの間にか開かなくなってしまうこともしばしばです。
そうしたらペンチやヤットコでキャップを挟んで開けてください。
注意点はチューブの方を持つ手はなるべくチューブの「肩」などを押さえてください。そうしないとキャップではなくチューブ本体が捻っちゃいます。あまり捻りすぎるとそのうち千切れます。そしたら結構、厄介ですのでご注意ください。

 

チューブから漆を出す

金継ぎで使う漆の量は微々たるものだと思いますので、チューブからは少量の漆を出してください。
漆を出す前に作業板の上にゴミがないように、キレイに拭いてください。

(こう書いておいて、結構問題なのが「きれいに拭く」って何で拭けばいいの?ってことです。本当は漆で掃除する(!?)のがいいと思うのですが、そこまでシビアなことはみなさん求めていないと思います。ティッシュで拭くか、もう少し気にする人は「タッククロス」というゴミ取り用の布を漆屋さんで買ってください。確か価格が\400-くらいだったかと思います。)

チューブから出た漆にゴミは入っていないの?という問題ですが、私は「ベスト」ではないが「ベター」であると考えています。
みなさんが金継ぎで使うレベル(と書くとちょっと失礼な感もありますが)でしたら「チューブからそのまま」でいいと思います。基本的には大きなゴミはしっかりと除去されているはずです(漆屋さんを信じるならば)。

俺は微細なゴミもダンコ許さんよ!という方は次にご説明する「▸ 濾し方」を参考にしてください。

 

漆をヘラで練る

ダラダラと広がらないようにヘラでまとめます。

漆を蒔絵筆に含ませる

筆に漆を含ませます。
このままですと漆の含みが多すぎる場合は…

蒔絵筆の中の漆の量を調整する

作業板の上で何本か線を描きます。
描いていると筆に含まれている漆が少なくなります。
描かれた線の漆の厚みをよくチェックして、今、どのくらいの漆が筆に含まれているのかを把握してください。

金継ぎの蒔絵の準備が整った

程好いところで塗りに入ってください。

 

 

 

漆を濾す方法


 

使う道具と材料

  • 道具: 濾し紙、小皿、ペンチ2本(必要な方のみ)、付け箆とプラ箆の2本(必要な方のみ)
  • 材料: 漆

漆の中にゴミが入っている場合は濾し紙で漆を濾します。
濾しは紙漆屋さんで 価格\1,000-/100枚 くらいで売っています。

 

 

 Step 01  濾す準備

漆を漉す用の濾し紙を用意する

金継ぎで使う漆の量は少ないと思いますので、濾し紙も丸々一枚を使う必要はないと思います。

濾し紙は長方形です(正方形のものもありますが、だいたい長方形です)。長辺側から裂いてください。繊維の絡み具合からいってそういうことになっていますので、よろしくお願いします。

幅は10㎝くらいでいいと思います。

漆を漉す用の濾し紙を用意する

濾し紙を2枚に畳みます。

漆を漉す用の濾し紙を用意する

千切った部分を上にします。

漆を漉す用の濾し紙を用意する

濾した漆を入れる器を濾し紙で拭いて細かいゴミを取ります。
作業板の上に漆を出す場合は、その個所を拭きます。

漆を漉す用の濾し紙を用意する

 ここ、間違えちゃいけないところです。拭き取った面を上にして小皿の上に置きます。
拭き取ったこの面にはゴミがついています。その面が内側になるようにこの後、折り畳んでいきます。

 

 

 Step 02  濾し紙に漆を入れる

濾し紙の中に漆を入れる

漆を入れていきます。チューブから直接入れてください。

以後は「作業板の上に出ている漆を濾す」解説をします。
チューブから直接入れた方は飛ばしてください。 ▸ こちらへワープ

濾し紙の中に漆を入れる

 ヘラを2本使います。付け箆とプラ箆の2本がある場合で説明します。

付け箆の方を左手(利き手ではない方)に持ち、濾し紙の上に固定します。
こちらのヘラは基本的には動かしません。この位置をキープです。

金継ぎの時に漆の濾し方

作業板の上の漆をプラ箆で掬い取ります。
固定した付けヘラに引っ掛けるようにして、漆を切っていきます。

左手に持った付けへらは少し仰向けに倒します。
その付けへらの上を手前から奥側へとプラベラを通します。

金継ぎの時に漆の濾し方

付けヘラのサイドに擦り付けるようにしながら、付け箆の向こう側へと通します。

金継ぎの時に漆の濾し方

 付け箆は固定しておきます。プラへらだけがスライドしていきます。

濾し紙の中に漆を入れる

 そうするとプラベラに付いていた漆が付け箆の方に移り、そこから濾し紙へと垂れていきます。

 作業板の上の漆がなくなるまでこの作業を繰り返します。

濾し紙の中に漆を入れる

最後に付けヘラの方の漆を切ります。
プラべらのヘラの先を使います。この時も基本的にはプラべらの方だけ動かします。

濾し紙の中に漆を入れる

 ラスト、プラべらの先っちょについた漆を濾し紙につけておしまいです。

 

 

 

 Step 03  濾し紙を絞る

漆の入った濾し紙を絞っていく

漆を出した面を内側にして折ります。(当たり前ですね)
この面に「ゴミ」がついていたわけですから、こうすることでゴミは内側に閉じ込められました。

漆を入れた濾し紙を折り畳んでいく

青の点線部分で折ります。ケバケバ側から1~2㎝くらいでしょうか。

漆を入れた濾し紙を折り畳んでいく

内側に折り畳まれました。

漆を入れた濾し紙を折り畳んでいく

 さらに千切ったケバケバを内側に巻き込むように↑画像の青いライン当たりで折りたたみます。これも1~2㎝くらいのラインで折ります。

漆を入れた濾し紙を折り畳んでいく

※ ここからは「金継ぎでのやり方(漉す漆の量が少ない場合)」になります。

今度は、漆が入った手前側の部分を折り畳んでいきます。
ぐるぐると漆が入った部分を巻き込んでいくように何回も畳んでください。

無理のない程度に、畳んだ濾し紙が細くなるまでやってください。
(図を描いていたのですが、もう、どう描けばいいのか頭がこんがらがってこうなっちゃいました。分かりづらいですが、皆さんの頭の中で整理してください)

漆の入った濾し紙を絞っていく

次に折り畳んだ濾し紙を捩じります。
右手と左手で逆回転になるように捩じります。(当たり前ですね~)

このとき、両手で外側に引っ張るような力も加えてください。

漆の入った濾し紙を絞っていく

どうしても両手で逆回転ができない!というちょーブキッチョな方がいましたら(いないと思いますが)、片側(↑画像では左手側)を小皿の縁に固定します。左手の親指などで濾し紙をしっかりと押さえてください。
そして、右手だけ回転させて絞っていきます。こうすれば搾れるはずです。
これもできなかったら、お父さんかご近所さんに声をかけてやってもらってください。きっとできるはずです◎

漆の入った濾し紙を絞っていく

 絞ります。結構、力が要ります。

この絞り作業の時に力の入らない方はペンチやヤットコとを2本使ってください。
指で挟む代わりにペンチ2本で両端を挟み、捩じっていきます。

絞っていくと濾し紙から漆が浸みだしてきます。
搾れるだけ絞ってください。

漆の入った濾し紙を絞っていく

 もう、これ以上はカンベンしてくれーとなりましたら、最後に濾し紙に滲み出している漆をこそげ取ります。

器の縁を使います。
器の内側から外側へ、濾し紙を縁に擦り付けながらスライドさせます。

漆の入った濾し紙を絞っていく

この作業を何回か繰り返します。
擦り付ける濾し紙の面を少しずつずらしていきます。A→B→C→D→…とずらしていきます。

この擦り付け作業の時、器自体が軽いですから器がひっくり返らないように気を付けてください。

 

この最後の絞り作業ですが、勇気のある方は濾し紙の片方を口に咥えて(歯で噛んで)両手の指で捩じっていき(力が入れやすいです)、滲み出てきた漆をヘラでしごいて集めてください。濾し紙の片方は咥えたままでの作業です。
顔に漆がつかないように気を付けてください。ね。

金継ぎで使う漆の漉し方が完了

 小皿に出た漆はゴミが取り除かれてきれいなはずです。

漆の含み具合を調整して、いざ上塗りへ!

 

 

金継ぎ図書館は初心者の皆さんを応援します。