ファイツ!!
※ 口周りが割れてしまった湯飲み茶わんの金継ぎ(金繕い)修理のやり方を説明していきます。本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。ご注意ください。
※ 万が一、漆が肌に付いた場合はすぐに「油(サラダ油など)」でよく洗って下さい。
油?? そうです。「油」をつけ、ゴシゴシ漆を洗い落としてください。その後、その油を石けんや中性洗剤で洗い流してください。
今回は金継ぎ工程の〈ペースト削り~漆の塗り〉までのやり方を解説していきます。
あり?前回はどんな作業をしたんだっけ??と忘れてしまった方はこちらをチェックしてください↓
【前回の作業を見る】 |
【 作業を始める前の「心得」 】
漆をナメちゃいけません◎「漆なんてへっちゃらよ。素手で作業しちゃおうっと」なんて無用な冒険心、もしくは慢心があなたに猛烈な痒みをもたらすかもしれません。
しっかりとガードを固めてから作業に入りましょう◎
必ず「ディフェンシブ」に。ゴム手袋は必需品です◎
05 錆漆の削り
①彫刻刀(平丸刀) ②彫刻刀(平刀) ③障子紙用丸刃カッター ④カッターナイフ(大)
▸ 道具と材料の値段/販売店
上記の道具のいずれか、もしくは複数が用意できると作業がやりやすくなります。
おススメは 【 ①と②の彫刻刀 】ですが、「研ぐ」ことができないと、使い捨てになってしまいますので、現実的な初心者用の刃物チョイスとしては 【 ③と④のカッター 】を用意してもらえたらと思います。
③ の障子用丸刃カッターはホームセンターの「障子貼りコーナー」にありました。刃先がRなので(丸味が付いている)、器の曲面部分、特に「器の内側」部分の削りにもある程度ですが、対応できます。
乾いた錆漆さびうるし(ペースト)を刃物で削っていきます。
乾いたのか乾いてないのか、よくわからないんですが…という方は↓こんな感じでチェックしてください。
【 乾いた 】 |
「カリカリ」している。焼けた食パンみたいに。 ・ 棒で押す→ 凹まない、硬い |
【 乾かない 】 |
「しっとり」している ・ 引っ掻く→ 白い線が残らない |
引っ掻いてみる→引っ掻いた線が白くなる→乾いている ◎
しっかりと乾いている場合、「カリカリ」っとして、爪や棒で引っ掻くと引っ掻いた場所が「白く」線が残ります。それから強く押しても「弾力」を感じません。
※ 万が一、錆漆さびうるし(ペースト)が乾いていない場合は…
- 湿度をかなり高めにした場所に置いて2~3週間待つ
(2~3日経っても乾かなかった錆漆は乾くのにすごく時間がかかります。「やり直し」をおススメします) - 錆漆を取り除いて、やり直す
上記のいずれかを選択してください。
やり直す場合は…
詳しくはこちらへ ↓ |
いざ、実践◎
刃の先に指を置かないように気を付けてください。
削り作業に没頭していると、いつの間にやらうっかり指が刃の先に…ってことがよくあります。
最初の「器を持つ手のポジショニング」に気を付けるのが肝要です◎
器の表の面を削るときは普通のカッターでもイケそうですね。カッターは「デカい」のを使ってください。大きいカッターの方が刃が厚くてたわまないので削りやすいです。
削るときの「コツ」としては…
- 刀を持っていない方の手の親指で刀を「送り出す」ように「横スライド」させます。そうです。「横」スライドです◎
- 器に刃を当てて削っていきます。
錆漆を付けた箇所が、周りの器の素地に比べると少し盛り上がっています。目標としてはこの「盛り上がり」をきれいに削って、周りの器の素地からなだらかに続くラインを作りたいわけです。できれば「目をつぶって指を通した時、違和感を感じないくらい」です◎
※ もちろん、「あたしは”もっこり派”なのよね」という方は好みの「もっこり具合」にしてください◎ ふふふふ。
破片の接着時に「段差(ズレ)」が生じていた場合(どうしたってズレは生じる場合があります)、そこに充填した錆漆さびうるし(ペースト)をどう削るのか?が問題になります。
こういった場合、考えなくてはいけないのは「見た目の美しさ」と「実際的な錆漆の接着強度」です。
Aのようになだらかに削った場合、「段差」が緩やかに繋がって見えるので、段差が誤魔化せます。
一方で、錆の面積が広くなります(→接着のラインが太くなり、ちょっとドン臭くなる可能性がある)。
また、食いつきの悪い素地の場合(器に使われている釉薬がツルツルぴかぴかの場合など)は剥がれ易いリスクを負うことになります。
Bのようになるべく小さい面積になるように削った場合、接着ライン上のシャープな線となり、綺麗に見えやすくなります。
また、接着箇所の上に錆が乗っているので、食いつきもよいです。ただ、付けた錆が「急角度」になるので、修理箇所の段差が見えやすくなります。
これらの要素を考慮しつつ、「ちょうどよい落としどころ」を探るのがいいと思います。
私の方針としては、基本的には「錆の接着強度」の方を優先します(必要最小限の錆面積にします)。ただ、破片同士の「段差」が気になる場合には、少し錆を広めにつけることもあります◎
お、結構、キレいになってきた◎
口周りの継ぎ目も削ります。ここ、削りづらいです(涙) だけど、ここが綺麗に処理できていないと「サマ」になりませんよね。
刃の裏を器に当てながら削っていきます。器の素地をガイドにして、面の「基準」とします。刃は斜めにスライドさせながら削ります。
器の内側も削っていきます。内側の錆を削るときは刃先に「丸味」がないとちょっと無理ですよね。
普通のカッターしか持っていない方は、何とか丸刃の刃物を見つけてくださいー◎
内側を削る時も刃をスライドさせならがです。持ち手の置き場所も気を付けてください。
できました!キレイ◎ ね、きれいね◎
刃物でなるべく綺麗に錆を削っておくと、この後の「研ぎ」の作業が楽になります。最終的な仕上がりも断然、綺麗になります◎
ですので、ガンバって綺麗に削れるようになってくださいね。
06 漆ペーストを研ぐ
道具
②紙ヤスリ(耐水ペーパー) ③ウエス(布切れ) ④ハサミ(いらなくなったもの) ⑤豆皿(水受け)
材料
①水
▸ 道具と材料の値段/販売店
※ ハサミは紙ヤスリを切るのに使います。紙ヤスリを切るとハサミが「ばか」になります。他のものが切れなくなりますので、要らなくなったものか、100均で安いものを買ってきてください◎
※ 彫刻刀であまり削れていない(きれいなラインが出てない)場合は、まずは耐水ペーパーの#240くらい(←粗目)を使って研いでください。それで「形」を作ります。
↓
形ができましたら、仕上げに#600~#800程度で軽く研いで、
表面の肌を整えてください。
- ペーパーを1㎝×1㎝くらいに切る
- 三つ折り(二つ折りでもオッケー)にする
- 水をちょっとつける
なんでこんなに「小っちゃくして」使うの??しかも「三つ折り」って。
(鳩屋さんってかなり神経質な人なの?1㎝を三つ折りってことは約3㎜でしょ。やりすぎじゃない?)
理由は2つです。
- 研ぎ面を極力少なくするため
- 平面保持力を高めるため
えーっとですね、「紙ヤスリ」って研磨力が強いんです。器の釉薬を傷つけてしまうのです。研いだ後、周りの釉薬が薄っすらと曇っているのは、あれは「細かい傷」が付いたからなのです。
なので、「なるべく」ですが、周りの釉薬が傷つかないようにペーパーを小さくして使うわけです◎
それから「三つ折り」っていうのは、ペーパーの「平面保持力」を高くするためです。ペーパー1枚で研いでいると「へなへな」なわけです。紙なので柔らかいですよね。
普通にペーパー1枚で研いでいると「Aコース」になるわけです。紙一枚だと「研ぐ方のもの」が柔らかいので、錆漆(←硬いもの)の形を拾ってしまう。「カクカク」していた錆漆の「山の部分(エッジ)」は軽くさらうことはできるのですが、研ぎによって錆漆を「形作る」ことは難しくなります。
一方、「Bコース」のペーパー3枚重ねだと、「研ぐ方のもの」の「硬さ」が3倍になるわけです。元々の錆漆の形に引っ張られずに錆漆の形を研ぎによって作っていくことが可能になります。
(※ ペーパー1枚に比べて…という話です。平面維持強度をもっと上げて、きちんとした「形と作る」作業がしたかったら「小さな砥石」を使うのがいいと思います)
と、さんざん説明したくせに今回、使っているのは「木賊とくさ」という植物です◎
乾燥させた木賊を水に浸してから使います。水に浸さないと「パリパリ」していますので。
「木賊」って…あの、そこらへんに植えてある「木賊」でいいの??
はいー、あの「そこらへんの木賊」でイケます◎ めちゃくちゃ繁殖力が強いらしいので、ご近所さんの家に植えてある木賊を1,2本、頂いてきてください◎
数週間放置しておくと、いつの間にかカピカピに乾燥しています。そしたら使ってみてください。
水をちょっと付けて研いでいきます。
木賊は二つ折りして使うと、平面維持がしやすくなります。
独特の感触で、意外と気持ちいいです。研ぎ心地がペーパーとはちょっと違います。
研ぎながらウエスでちょこちょこと研ぎ汁を拭き取ります。拭き取って、研ぎ具合チェックです。
出っ張っている箇所があったら重点的に研いでください。というか、出っ張ってたら刃物で削った方が早いです◎
指の腹を通して、「つるっ」といったらオッケーです。
今度は器の内側に行きましょう。
内側も同様に研いでいきます。
接着箇所の周りに付いてしまった錆漆さびうるし(ペースト)が残っていたら、研いで綺麗にしてしまいます。
オケオケ。綺麗に研げました◎
そうしたら、いよいよ「漆の塗り」に入ります。
07 漆の下塗り
道具
②ティッシュぺーパー ③面相筆 ④蒔絵筆(赤軸根朱替わり) ⑥練り竹ベラ ▸作り方 ⑦作業板 ▸作り方
材料 ①エタノール(テレピン、灯油など) ⑤精製漆(今回は”赤口漆”) ⑧サラダ油
▸ 道具と材料の値段/販売店
さ、ついに「漆塗り」します◎
ここまで、長い道のりでした~! けど、まだまだ続きます(涙)
「生漆」しか持っていないのですが、どうしたらいいですか?
はい、それではこちらへどうぞ ↓
↑ この茶色半透明の漆でも「漆塗り」はできるのですが、半透明だと「どこを塗ったのかわかりにくい」のです(涙)漆に色を付けたい方はこちらへ ↓
さらに、「筆」って…何を選べばいいんですか??という方へ
作業に入る前に、筆をテレピンで洗って筆の中の油を洗い出します。
▸ 詳しい作業前の筆の洗い方
※ 何で筆に「油」がついているの??かと言いますと、作業が終わった後に、油で筆を洗っているからなのです◎ヘンですね、漆って。
【 作業前の筆の洗い方 】
|
筆の準備が済んだら、今度は漆の用意をします。
- 漆のチューブの蓋を開ける。
- 作業板の上に少量の漆を出す。
- 筆に漆を馴染ませる。
- 作業板の上に何本か線を引き、漆の量を調節しつつ、
含み具合をチェックする。
漆の中にゴミがたくさん入っている場合などは濾し紙で漆を濾してきれいにします。必要な方はこちらをご覧ください ↓
うう…。漆は塗りに入る前の「準備」に時間がかかる…(涙)
はい、ようやく漆塗りの実践に入ります!
塗っていってください。とにかく塗っていってください。ビビらなくて大丈夫です◎
「塗る順番」ですが、基本的には器の内側から塗り始めた方が作業がやりやすいと思います。
なぜ?
さー、何ででしょう??
先に器の外側を塗ってしまいますと、その後の器の内側を塗っている時に「うっかり」漆を塗ったところを触ってしまいやすいからです。
先に内側を塗ってから、器の外側を塗った方が「うっかり率」が下がります◎
いやー、うっかりするもんですよ。うっかり、うっかり。
僕もときどきうっかりします◎
あら、きれい◎
このまま完成でもイイですね~。器の白い素地に漆の赤色が映えますね~◎
そして…器の外側を塗ります!ガンバレ、館長!
そうです。錆は完全に覆うように塗っていってください。
錆が表面に出ていると、使っていくうちにその個所から剥がれていきやすくなります。ご注意ご注意。
漆の厚みは、気持ち「薄目」になるように気を付けて下さい。あとはいかように塗っても大丈夫です。(ホントか?)
ちょっとくらいはみ出しても気にせず行きましょう◎ おおらかに。
がっつりはみ出した場合は…どうしたらいいですか?(涙)
えーっと、それは見せしめに残しておいてください。己の集中力の無さを反省する材料にして、それを見ながら日々精進してください。はい。
はい、ウソです。
そうですね、そんな時は「アルコール」などの揮発性の高いものを綿棒などに含ませて、拭き取ってください。拭き取って、アルコールもしっかり揮発したら、再度、塗り直します。
テレピンや灯油などは揮発が遅いので、あまり綺麗に掃除ができません。アルコールがいいと思います。
なるべくはみ出さないように集中して塗ってください。
ところで、もし、漆を厚く塗りすぎた場合はどうなるんですか??
はい。こんな感じになります↑。シワシワになるわけです。
塗膜表面と塗膜の中の方との乾くスピードに「差」があり過ぎるとこうなるのだと思います。多分。
げっ!ホント!? やだー。縮んじゃったらどうすればいいの?
えっとですね、そのまま見て見ぬ振りして1ヶ月くらい放置。(縮んだ箇所の乾きは時間がかかります)
しっかりと中まで硬化した後、研いで塗り直す。です。
もしくは、縮んだ箇所を竹べらや彫刻刀でこそげ取って、テレピンを含ませたウエスできれいに拭き取る。その後、研いで塗り直す。です。はい。
どちらにしろ、すごく面倒です。呪いです。呪われないように気を付けてくださいね。
ちなみに、この「シワシワ現象」は湿度が高すぎて、「急激に乾かした場合」にも起こります。漆風呂の湿度を高くし過ぎたり、塗れた布を漆塗りした箇所のすぐ脇に置いたりしないようにしてください。(↑濡れた布のすぐ脇は、そこだけ局所的に”超・高湿度”エリアになります◎)
ご注意、ご注意◎
塗り終わりました~。やっと終わった◎
はい、鳩さん、さよなら、さよなら。
作業が終わったら湿度の高い場所(65%~)に置いて漆を硬化させます。そう、漆は空気中の水分を取り込んで硬化するのです。不思議な樹液ですね◎
湿度が高い場所…って、お風呂場にでも置けばいいんですか??
風呂場…でもいいのですが、風呂場って湿度が100%近くにまでなるので、漆を乾かすにはちょっと「どぎつい」環境だと思います。(漆は急激に硬化すると「やけ」「縮み」といった厄介な現象が起こりやすくなります)
もうちょっとソフトな環境を用意してあげましょう◎そう、実は漆は”やさしさ”で乾くのです。よ◎
【 簡易的な漆乾燥用の風呂 】 湿度が保てる空間を用意します。 |
↑ こんな感じでいかがでしょうか?
え!段ボール…。こんなんでもいいんですか??
はい、大丈夫です◎「段ボールなんてダサくて嫌!」という方は↓のページを参考にバージョン・アップさせていってください。
塗り終わったら油で筆を洗います。
▸ 詳しい作業後の筆の洗い方
※ 油で洗わないと筆の中に残った漆が硬化するので次第に筆がゴワゴワしてきてしまいます。
【 終わった後の筆の洗い方 】
※ 極々、ソフトに押さえるようにして筆の中の漆と油を掻き出すようにしてください。強くしごいてしまうと、筆の毛先が痛んで「カール」してしまします。 |
筆は付属のキャップを嵌めて保存します。キャップが無かったらサランラップを丁寧に巻いてください。
キャップがない、もしくはキャップを作りたいという方はこちらを参考にしてください。
▸ 筆のキャップの作り方
【 お掃除、お掃除 】 テレピン(又はエタノール、灯油など)を垂らして、ウエスやティッシュできれいに拭き取ってください。 caution ! 厳密に言うと、素地をし終わった後の作業板の上には「ごくごく薄っすら」と漆の成分が残っています。ですので、この作業が終わるまではしっかりとゴム手袋をして、ゴム手袋を外したあとは作業板を含めて漆の道具類を触らないようにした方がいいです。 |
いやー、今回のページは長かったー。
それでは、みなさま、さようなら~◎
【 次の作業を見る 】 |