ファイツ!!
このページは金継ぎ図書館のコンテンツを使って「金継ぎ初心者・久恒さんのファースト・チャレンジ」をナビゲートしていく企画です。(がんばれ!ツネちゃん!) 早い話、「インターネット金継ぎ教室」をしちゃおう!ということです。
▸ インターネット金継ぎ教室のルールについての説明
久恒さんは「リアル」に本漆金継ぎ初心者です。(「簡漆金継ぎ」ワークショップにご参加くださったので、簡単な金継ぎは体験しています◎) ですので、久恒さんの金継ぎに関する素朴な疑問などが、皆さんのお役にたつのではと考えています。
今回は〈一回目の漆を研ぐ~蒔絵・完成〉までの工程を説明します。
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久恒さんとは?
久恒さん?ってどなたですか?
家業である林業を営んでいる大分県在住の女性の方です◎
【 profile 】 久恒 まゆ 東京都生まれ、大分県育ち
2011年 武蔵野美術大学 木工専攻 卒業 在学中は「日本のものづくりの文化」「人の手によって生み出される木の魅力」「息の長いものづくり」などを研究 商業空間の内装設計を経て、現在は、家業の 六月八日/久恒山林株式会社(▸ http://rokugatsuyohkanomori.jp/ )で、森を育てるところから製品づくり販売まで一貫して行う、林業の6次化に取り組んでいる
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【 作業を始める前の「心得」 】
漆をナメちゃいけません◎「漆なんてへっちゃらよ。素手で作業しちゃおうっと」なんて無用な冒険心、もしくは慢心があなたに猛烈な痒みをもたらすかもしれません。
しっかりとガードを固めてから作業に入りましょう◎
必ず「ディフェンシブ」に。ゴム手袋は必需品です◎
工程 10> 漆を研ぐ1回目(下塗りの研ぎ)
- ②紙ヤスリ(耐水ペーパー)
- ③ウエス(布切れ)
- ④ハサミ(いらなくなったもの)
- ⑤豆皿(水受け)
【材料】
- ①水
今回は耐水ペーパーの#800~1000くらいを用意してください。
- ペーパーを1㎝×1㎝くらいに切る
- 三つ折り(二つ折りでもオッケー)にする
- 水をちょっとつける
なんでそんな小っちゃく切ってるの??
鳩屋さんは神経質ね◎(もしくはドケチね)
もっとでっかく切って、こう、ざ~っと研いじゃダメなんですか?その方が早いと思いますよ。
そうですね。おっきなペーパーでざーっと研ぎたいところですよね。
なのですが、ペーパーのザラザラというのはすごく「硬い」ので、器の表面に傷が入っちゃうのです。なので、できるだけ修理部分の上だけをやするようにします。
もちろん、どうしたって、修理箇所の周りも研いでしまうことになるのですが、できるだけ小さい範囲にとどまるようにします。
「器にちょっと傷が入っているくらいの方がちょうどいいぜ」というワイルド系の人でしたら、でっかいペーパーでがっつり研いじゃいましょう◎
そのワイルドが羨ましい~。
漆を塗った箇所を研いでいきます。
水をほんのちょっと付けながら研ぎます。
ちょくちょく、研ぎ汁をウエスで拭き取って、研ぎ具合をチェックします。
研いでいきます。
ペーパーの研ぎ味が悪くなって来たら、折り畳んでいる新しい面を使って研いでください。
で、どのくらい研げばいいんですか??と言いますと、↑これじゃまだ足りないです。
真っ黒の点と、ピカッと光っている箇所はまだペーパーが当たっていません。当たっていないから漆の光沢がそのまま出ているのです。
ペーパーが当たっていない…ということは「平滑な面」が出ていないということになります。凹んでいる箇所が残っていて、そこが当たっていないということですね。
できればこの凹みがなくなるまで研ぎたいところです。
ひとまず、もうちょっと研ぎます。
↑まだ凹んでいる箇所があるので、もっと研ぎたいところですが、研ぎ過ぎると、どんどん下地の「錆漆」が出てきてしまいます。
ですので、ひとまず今回はこれくらいにしておいて、二回目の漆を塗ることにします。
漆は3回くらい塗り重ねると漆特有の「ふっくら感」が出ますので、その塗り重ねの中で凹みが埋まるように考えればいいと思います◎
ちなみに、「ペーパーで傷が入るのも気になるのですが~」という方がいらっしゃいましたら、「駿河炭」という炭が漆屋さんに売っています。これで研ぐと傷が入りません。そう、炭って研ぐことができるのです!スゴイですね。
ホームセンターなどで売っているBBQ用の炭でも研げますか??
うー…、それ、試したことがありません。どうでしょう???ちょっと厳しいような気がしますが、もし、テストしてみた方がいらっしゃいましたらメールください◎ よろしくお願いします。
あのー…、研いだんですけど、凹みがかなり深いようなんです…(涙)
ナルホド。あります、あります。そういったことも。
もし、↑こうなっちゃた場合の対処方法はこちらのページをご覧ください。
工程 11> 漆の塗り(地塗り)
漆を三回くらい塗り重ねて、平滑な面が作れてたら、いよいよ最後の塗りを行います。
【道具】
【材料】
- ①エタノール(テレピン、灯油など)
- ⑤精製漆(今回は”赤弁柄漆”…赤茶色の漆)
- ⑧サラダ油
初心者におススメの筆ですが、こちらになります。
「生漆」しか持っていないのですが、どうしたらいいですか?
はい、そうゆう方はこちらへどうぞ ↓
↑ この茶色半透明の漆でも「漆塗り」はできるのですが、半透明だと「どこを塗ったのかわかりにくい」のです(涙)漆に色を付けたい方はこちらへ ↓
生徒の久恒さんには自分で生漆を精製してから、弁柄漆を作ってもらいました。
塗り作業に入る前に、筆をテレピンで洗って筆の中の油を洗い出します。
▸ 詳しい作業前の筆の洗い方
※ 何で筆に「油」がついているの??かと言いますと、作業が終わった後に、油で筆を洗っているからなのです◎ ヘンですね、漆って。
【 作業前の筆の洗い方 】
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筆の準備が済んだら、今度は漆の用意をします。
【漆の準備】
漆の中にゴミがたくさん入っている場合などは濾し紙で漆を濾してきれいにします。必要な方はこちらをご覧ください ↓
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漆を塗っていきます。
この後に蒔く金属粉が金色の場合(金粉、真鍮粉)は赤い色の漆を塗った方が金属粉の発色がよくなります。
銀色の粉を蒔く場合(銀粉、錫粉)は黒い色の漆を塗った方が、落ち着いた色味になります。
(赤い漆を塗って錫粉を蒔いた場合、少し赤味が感じられる仕上がりになります。それはそれで綺麗ですので、好みで選んでください◎)
塗ります。
この地塗り(粉蒔き前の漆塗り)は薄く塗っていきます。
特にこの後、金粉の消し粉や、3号粉くらいの大きさの粉を蒔く方は「極薄」を心掛けてください。
真鍮粉を蒔く方はそれほど気にする必要はありません◎ 「薄め」を心掛ければ大丈夫です。
修理部分全体に漆を塗ったら、最後に筆を通していきます。
「左から右へ」を少しずつずらしながら繰り返します。それが終わったら、今度は「右から左へ」。その後「上から下へ」。そして「下から上へ」と通してお終いです。
この作業は塗った漆の厚みをなるべく均一にするためです。これは「マスト」です。意外と、厚みが不均一になっているので、この作業をすることで綺麗な面になります。
塗ります、塗ります。「薄め」を心掛けて塗っていきます。
薄く塗るには「腰の強い」筆の方がいいです。腰が柔らかいと漆を引っ張ることができません。
こういった「幅広」の面を塗る場合はインターロンという筆の【丸2号】が使いやすいです◎
※久恒さんが使っているのは面相筆です。
塗り残しがないか、入念にチェックしてください。特に修理部分の「キワ」に塗り残しがあることが多いので、気を付けてください。
湿した漆風呂に30分くらい入れて、漆に乾くきっかけを与えます…とこれまで説明してきました。が、どうやらこの作業はやらない方がいいかもしれません。
現在、私が習っている蒔絵の先生の指導は、「待ち」を入れずに「すぐに蒔く」でした。むしろ「すぐに蒔いた方がいい」。
この件に関しては私がまだ習い途中なので、もう少し蒔絵の実践を積んでから、実体感を元に詳しく解説していきたいと思います。
で、そうなると、これまで金継ぎ図書館内で解説してきた蒔絵のやり方に「誤り」があった…ということになります。それに関しましては本当に申し訳ございませんでした。
知識・技術ともにまだまだ未熟であると再確認しました。特に「蒔絵」作業に関して私の技量・知識が足りていません。しっかりと先生に教えていただいて、より正しい情報を皆さんにお伝えしていきたいと思います。
近いうちに図書館内コンテンツの全面改稿をしなくちゃいけなくなりそうです。
塗り終わったら油で筆を洗います。
▸ 詳しい作業後の筆の洗い方
※ 油で洗わないと筆の中に残った漆が硬化するので次第に筆がゴワゴワしてきてしまいます。
【 終わった後の筆の洗い方 】
※ 極々、ソフトに押さえるようにして筆の中の漆と油を掻き出すようにしてください。強くしごいてしまうと、筆の毛先が痛んで「カール」してしまします。
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筆は付属のキャップを嵌めて保存します。キャップが無かったらサランラップを丁寧に巻いてください。
キャップがない、もしくはキャップを作りたいという方はこちらを参考にしてください。
▸ 筆のキャップの作り方
【 お掃除、お掃除 】 テレピン(又はエタノール、灯油など)を垂らして、ウエスやティッシュできれいに拭き取ってください。
caution ! 厳密に言うと、掃除が終わった後の作業板の上には「ごくごく薄っすら」と漆の成分が残っています。ですので、この作業が終わるまではしっかりとゴム手袋をして、ゴム手袋を外したあとは作業板を含めて漆の道具類を触らないようにした方がいいです。 |
工程 12> 蒔絵
【材料】
- ①エタノール
- ④蒔絵紛(今回は真鍮粉)
※ 金粉、銀粉を蒔くやり方のご説明はこちらを参考にしてください。
▸ 欠けた上泉秀人さんカップの金継ぎ方法 ④ 蒔絵
いよいよ最後の工程の「蒔絵」作業に入ります。
中に真鍮粉が入った包み紙を重石で押さえます。
柔らかい毛足の筆で真鍮粉を少量掬い取ります。
とりあえずこんなもんでいかがでしょうか?
さぁ、金継ぎの「粉蒔き」作業です。
これはなかなか気持ちがいいです◎
掬い取った真鍮粉を上塗りした漆の上にのせます。
バサッと。
バサッとのせた真鍮粉を筆で掃くようにして、漆の上に広げていきます。
手早く作業を行ってください。
漆の上に金属粉が乗ってしまえば、その上を筆で掃いても大丈夫です。(ソフトに掃いてくださいね◎)
ビビらずにいきましょう。
筆で強く擦らないように気を付けて、「ソフトタッチ」を心掛けて、金属粉を掃いて全体に広げていきます。
漆を塗った部分全体に粉が乗りました。作業終了です。
そうしたら、ある程度、綺麗になるように粉を払って掃除します。
粉を蒔いた直後に、周りに付いた粉を「しっかりきれいになるよう」掃除しようとすると、蒔絵をした部分を擦ってしまったりする恐れがあります。ですので、金属粉が残っていますが、現時点ではこのまま乾かしてください。
↑久恒さんの実践画像
そうです。思い切って「バサッ」といってください◎
あら、きれいにできました◎
器の表面がツルツルしているから、きれいに粉が掃除できたのかもしれませんね。
作業が終わったら高温度、高湿度の場所に置いて漆を硬化させます。
漆が最も早く乾固するのは湿度(75%~85%)、温度(25~30度)の環境です。
(この数値は「最もよく乾く」ということでして、この温湿度よりある程度低くても、ゆっくりとになりますが乾いてくれます◎)
そう、漆は空気中の水分を取り込んで硬化するのです。不思議な樹液ですね◎
【 簡易的な漆乾燥用の風呂 】 湿度が保てる空間を用意します。 ※ びしゃびしゃの布を入れると(湿度が高すぎると)、漆が急激に乾き過ぎて「縮み」が起きる恐れがあります。ご注意ください。
caution !
以上の点をくれぐれも注意して、風呂を快適状態にしてあげてください。 |
↑ こんな感じでいかがでしょうか?
え!段ボール…。こんなんでもいいんですか??
はい、大丈夫です◎「段ボールなんてダサくて嫌!」という方は↓のページを参考にバージョン・アップさせていってください。
大事をとって一週間ほど漆風呂の中で乾かしてください。
最初の2日間くらいは湿度が高い状態になるように管理し、その後は放置して大丈夫です。
ようやく金継ぎ完成!
一週間ほど乾かした後、残った金属粉を水で洗い流します。食器洗い用の柔らかいスポンジを使って洗います。
時間はかかりましたが、初めてでもこれだけ綺麗にできました◎
(そうなると…「金継ぎ師って必要ないんじゃない?」なんて言わないでくださいね)
必要な道具・材料さえ手に入れば、「独学でもイケる」ってことです◎
自分で器が直せるようになれば、怖がらずに器が扱えますし、作家さんが作った器にも思い切って手が出せるようになりますよね。
万が一、壊しちゃったとしても、修理すればもっと魅力的になるのだから。
HISATSUNE Mayu 2018-01-18 challenger 久恒さん/青いカップ
詳細 欠け/
- P 01 素地固めまで
- P 02 刻苧漆(パテ)で埋める
- P 03 刻苧のやり直し/削り/錆漆(ペースト)をつけるる
- P 04 漆を塗るまで
- P 05 蒔絵・完成まで