「合成接着剤」や「合成うるし」を使った【簡易(簡単)金継ぎ】のやり方を説明していきます。
本物の漆は使っていませんのでご注意ください。
今回は簡単金継ぎの工程のうち、〈欠けた縁をやすりで削る~新うるしで仕上げるまで〉のやり方を解説していきます。
【必要な道具・材料を見る】↓
新うるしの安全性について
「新うるし」の安全性についてのメーカー側の説明:
・本品は毒性の強い物質ではありませんが念の為、食器等口に含む恐れの有る物に塗装しないでください。
※ 新うるしの安全性について、詳しく知りたい方はこちらのページをご覧ください↓
‣新うるしって何?安全なの??
当図書館としては、新うるしなどの「合成うるし」の安全性について、「黒寄りのグレー」と考える立場をとっています。ので、下記の使い方をおススメします。
合成うるしで壊れた器を直してもOK!
ただし、「合成うるし」を使って直した器は直接、修理箇所に口を付けない使い方を強くおススメします。
例えば
・食器として使わない(大切な思い出の品として飾っておく・小物入れとして使う)
・食器として使う場合は「乾きもの」を入れる程度の使い方に限定する(菓子器として使うとか)
金継ぎ図書館ではこのような使い方を前提にして、「簡易金継ぎのやり方」を解説しています。
簡易金継ぎする 器information
- 器: マリナーズのマグカップ。現代の量産品です。
- 器の特徴: 磁器、ピカピカの釉薬
- 器のサイズ: 直径80㎜、高さ80㎜
- 破損状態: 取っ手部分が根元から割れている+ひび3カ所
取っ手が壊れています。こういう修理はよくあります。実によくあります。
(今回は取っ手のみ簡易金継ぎの修理を行います。口元の破損は本漆金継ぎで修理します)
ちょっと厄介なことにひびも数カ所入っています。
ですが内側に貫通したひびではないので楽ちんです。
と思っていたら…内側にもやはり貫通していました。今、発見しました。
いやー、やっぱりあるんですね。油断大敵です。
今回は見なかったことにします(ナヌ!!)。内側は後日、本漆で直しますので今回はお見逃しください。
こちらにもひびが入っています。
壊れた取っ手です。
〈step 01〉 素地調整
道具:
① ダイヤモンドのヤスリ
②③ リューターのダイヤモンドビット
※ 簡易金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
ダイヤモンドビットのカスタマイズのやり方は↓こちらのページをご覧ください。
まずは砲弾型のダイヤモンドビットを使ってひびを研いでいきます。
新うるしを塗ったときに食いつきがよくなるようにマグカップの表面に傷をつけます。
やすります。
もし、ひびが見えづらかったら鉛筆や油性マーカーなどでひびをなぞっておくとわかりやすくなります。
目視で確認できるひびの範囲よりも、もう少し先まで研いでおいてください。
たいがい、気が付かないくらい薄っすらと傷が伸びているものなので。
ひびを研ぎ終わりました。
こんな感じです。ほとんどわからない?確かに。
いや、さきほどよりちょっと白っぽくなっているんです。
とにかく器の表面が荒らされていることが重要です。はい。
続いて、取っ手の割れた断面のエッジを研いでいきます。
本体の方をやすります。
取れた方の取っ手もやすります。
半丸の棒鑢を使いました。やはりこれも持っていると便利です。
ファイツ!!
〈step 02〉 エポキシ接着
道具:
② 作業板(クリアファイルなど)
③ 付けベラ ‣作り方ページ ‣作り方の動画
④ 練りベラ ‣作り方ページ ‣作り方の動画
材料:
① マスキングテープ
⑤ テレピン
⑥ エポキシ接着剤
〈エポキシ接着剤について〉
硬化速度の違う接着剤がいろいろと売っていますが、30分~60分くらいのものが使いやすいと思います。
5分、10分硬化型はちょっと早すぎて焦りそうです。
接着剤が2液に分かれていまして、それぞれを等量ずつ作業板に出して、ヘラでしっかりと混ぜ合わせます。
今回は画像で見えやすいように黒い顔料(松煙)を入れました。皆さんは入れなくて大丈夫です。
ヘラの先にエポキシ接着剤を少量取ります。
なるべく薄く均一になるように塗っていきます。
ですけど接着剤は流動性が高いので、だんだん窪んだ所に溜まってきてしまいますね。
これは仕方がないんでしょうね。
マグカップ本体の取っ手の付け根にエポキシ接着剤を塗っていきます。
取れた方の取っ手の断面にも接着剤を塗っていきます。
接着する断面には全てエポキシを塗っていくということです。
接着剤の塗布が完了しました。
で、待ちます。接着剤が乾き始めるまで待ちます。
接着剤の乾き具合を確かめるためにいらない紙やDMなどに残ったエポキシ接着剤を付けておきます。
これをヘラで時々つっついて乾きのチェックをします。
半乾きになってこんな具合に簡単に紙が持ち上がるようになったら接着しましょう。
今回は30分硬化型の接着剤を使ったのですが、作業終了後10分くらいでこのくらいの乾き具合になりました。作業時間が多分10分弱だったと思うので合計20分弱で結構乾き始めたということですね。
冬場と比べると接着剤の乾きが早いです。
(ちなみに今日は2016-05-13です。最高気温が25度くらいです。春です)
それでは取っ手を本体にくっつけます。
ぎゅっとしてください。ぎゅっとです。
ぐりぐり押し込んで密着させます。
接着剤の強度がでるまでしばらく安置しておきます。30分くらいでしょうか。
接着時にすでに接着剤が硬化し始めていたのでもうズレることはないと思うのですが、一応、大事をとって気を使った置き方をしてみました。
重力で接着面に「圧」が加わるようにします。
〈step 03〉 接着剤の削り
道具:下記のいずれか
① 〈平丸〉の彫刻刀
② 〈平〉の彫刻刀
③ 〈カーブ刃〉のカッター
④ 普通のカッター(大)
※ 簡易金継ぎで使うおススメの道具・材料一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
初心者さんには「障子用のカーブ刃」のカッターが扱いやすいかと思います。
替刃式なので、切れ味が落ちたら刃を変えられますし◎
「普通のカッターナイフ(大)」も100均で購入できるので、できれば「障子用カッター&普通のカッター」の二刀流で作業してもらえたらはかどると思います。
刃物を砥石で研ぐことができる方におススメの刃物は「平丸」の彫刻刀です。かなり作業が楽にきれいに、さらには楽しくできます。(言い過ぎかしら)
▸ 金継ぎで使う彫刻刀のカスタマイズ・ページ
はみ出した接着剤を削ります。
…の予定だったのですが、接着剤がはみ出していませんでした。綺麗にくっついちゃいました。
ですので画像がありません。
これじゃ説明できませんね。失敗しました。こういう時はわざとはみ出すようにしないと写真が取れないですよね。
大人げなく真面目に作業してしまいました。すみません。
〈step 04〉 エポキシパテの充填
道具:
① サランラップ
② ゴム手袋
③ 作業板(クリアファイルなど)
④ 刻苧箆 ▸作り方ページ ‣作り方の動画
⑤ 豆皿 ⑦ 水差し
※ 簡易金継ぎで使うおススメの道具・材料一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
今回使っているエポキシパテは「セメダインのエポキシパテ木部用」です。
柔らかくて使いやすいです。
エポキシパテで深い穴や大きな欠け部分を補修します。
極小の穴や、わずかな隙間はエポキシペーストを使います。
▸ エポキシペーストの作り方と使い方ページ
① 二層式のエポキシパテです。「木部用」が使いやすいです◎
② 中心部の「白色の材」と周辺部の「茶色い材」のパテを等量取ります。
③ 二材が混ざり合うように、しっかりと練り込みます。3~5分程度。
※ 素手でやると結構、べたつくのでゴム手袋をしてやったほうがいいです。
④ 二材が混ざり合って「一色」になったらオッケーです。
エポキシパテは2剤をよく練り合わせます。詳しく見たい方は
▸簡単金継ぎのエポキシパテの使い方
※ エポキシパテは二材を等量、しっかりと混ぜ合わせないときちんと硬化しないパテになってしまいます。1日経っても硬化しない場合は分量ミスの可能性が高いです。
そうなると硬化しません。諦めてパテを剥がし、やり直しです(T_T)
※ 僕の経験上、1回に作る量が「少なすぎる」と分量ミスが起こりやすく、硬化しないことが多いと感じています。
作業上は「少量」しか作る必要がないとしても、分量ミスを避けるために、少し多めに作っておいた方が無難かな~と思います。
エポキシパテで大きな凹みを埋めていきます。
刻苧箆を使って少しずつ埋めていきます。
僅かにパテがはみ出すくらいの分量を充填してください。ほんのちょい多目ということです。
はみ出した分は硬化した後に刃物で削ります。
パテの上から小さくちぎったサランラップを被せます。
サランラップの上から指で押し込み+成形していきます
細い隙間にも箆でパテを詰め込みました。
パテで詰め込みやすいくらいの隙間でしたらやっておいてください。
「ほんの僅かな隙間」はパテ埋めしていません。
後の作業で充填していきます。
これでパテ埋めまで完了です。
どうでしょうか?意外と簡単ですよね。
次の作業工程を見る↓
《鳩屋の余計なつぶやき》
いや、でもこの専門家の「簡単です」って言葉は意外と危険な言葉ですよね。
うっかりすると「このくらい当然できますよね?」っていうニュアンスの考え方になっていきます。
私はPC関係が非常に苦手なのですが(それ以外にも税金の申告とかもろもろ苦手ですが)、「誰でもわかる~」と書かれている本やサイトを見た時、「簡単です」と書かれていても全く簡単じゃないことばかりです。
「上級者君、君にとっては簡単なことでも初心者の私にとってはチンプンカンプンなのだよ」ってことがよくあります。どうしてこの人たちは初心者の気持ちがわからないのかな~と小言を言いたくなってしまいます。
金継ぎ図書館はどんな感じでしょうか?
「初心者おいてけぼり」サイトになってないでしょうか。
内田樹先生の「街場の文体論」(文庫本/P285)に心に引っかかって離れない箇所があります。
漱石は明治四十年代の日本のフロントランナーでした。彼が道を切り拓いた。だから、ちょっと進んだら必ず後ろを振りかえった。振りかえって、「みんなついてきているか」と訊ねた。「先生の足が速すぎてついていけません」と言われたら、立ち止まる。こっちを回るほうが来やすいから、こっちへ来なさいと道筋を教えてあげる。迷いそうな分岐点では標識を立てる。急な傾斜には木の枝を並べて階段をつける。皆が追いついてきたら、また先へ進む。そんなふうに、先頭に立って「道なき道」を進み、進んでは振りかえり、道を広げ、整え、後に続く人が歩きやすくしておくこと、それが少なくとも、明示四十年代までは、学者や知識人に集団的責務として自覚されていた。漱石や鴎外や、あるいは兆民や諭吉の書き物を読めば、そのことはよくわかります。
金継ぎ図書館は先頭集団から剥がされていったランナーではありますが、後ろを振りかえり、後続集団が走りやすいよう道を整備しながら進むサイトでありたいと思っています。
人は「伝える」ことで自我意識や己という存在から開放されるのかもしれません。「伝統」という中に身を置くことで、人は過去や未来という長大な時間軸や空間軸の中に自分を溶かし込んでしまうことができます。
これって意外と気持ちのいいものです。