※ 縁が数カ所欠けた内田鋼一さんのカップの金継ぎ修理方法を説明していきます。本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。ご注意ください。
今回は金継ぎの工程のうち、〈欠けた個所の蒔き地~蒔絵・完成まで〉のやり方を解説していきます。
蒔き地による「ちょいマット目な仕上げ」、ぜひマスターしてください。
壊れてしまった器に合う金継ぎ修理ができるよう、仕上げのバリエーションを増やしていってください。
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Page 01 素地をやする~錆1回目
step 05 蒔き地前の漆塗り
- 道具: ② ティッシュペーパー ③ 付け箆 (▸ 付け箆の作り方) ④ 小筆 ⑦ 作業板(クリアファイルなど)
- 材料: ① サラダ油 ⑤ 精製漆(今回使ったのは呂色漆) ⑥ テレピン
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。 ▸ 詳しい筆の洗い方
毎回、作業が終わったときに筆を”油”で洗っているので、使うときにはまず筆の中の油を取り除きます。
- 作業板の上に数滴テレピンを垂らす。
- その上で筆を捻ったりしてテレピンをよく含ませる。
- ティッシュペーパーの上でヘラで筆を優しくしごく。
筆の準備が済んだら、今度は漆の用意をします。
- 漆のチューブの蓋を開ける。
- 作業板の上に少量の漆を出す。
- 筆に漆を馴染ませる。
- 作業板の上に何本か線を引き、漆の量を調節しつつ、含み具合をチェックする。
漆の中にゴミがたくさん入っている場合などは濾し紙で漆を濾してきれいにします。必要な方はこちらをご覧ください。
▸ 基本的な漆の扱い方・濾し方
筆と漆の準備が済んだらいよいよ塗りに入ります。
※ すみません。漆を塗った時の画像を撮っていませんでした。「いつもの塗りだから必要ないでしょ」と思っていたのですが、初めて金継ぎのやり方を見た人にとっては何だか分かりませんよね。
手抜き、厳禁ですね。
(簡漆金継ぎの時に撮った画像を使っています。↑画像では赤い漆が塗られていますが、実際は黒い漆を使いました。)
全体に漆を塗ったあと、なるべく均一な厚みになるように漆を均します。
今回は「地」を蒔くのでいつもの蒔絵よりかは少し厚めに塗ってください。
作業が終わりましたら油で筆を洗います。 ▸ 詳しい筆の洗い方
筆は付属のキャップを嵌めて保存します。キャップが無かったらサランラップを丁寧に巻いてください。
キャップがない、もしくはキャップを作りたいという方向けに ▸ 筆のキャップの作り方 ページを作りましたので、ご覧ください。
今回は「地」を蒔くので、すぐに次の作業に移ります。
※ いつもの「湿した場所には置いて乾きかけを待つ」はやらないでください。
step 06 蒔き地
蒔絵で使う道具と材料
- 道具: ① 毛の柔らかい筆
- 材料: ② 地の粉
※ ②の「地の粉」は漆屋さんで扱っています。輪島地の粉(三辺地)、中国地の粉(細目)など。地の粉以外に、顔料の黒い粉(弁柄の黒、レーキ顔料の黒、松煙)でも似たようなマットな質感が出せます。
漆を塗ったら「待ち」を作らずに蒔き地の作業に入ります。
筆の穂先で地の粉を掬います。
漆を塗った箇所に地の粉を蒔きます。
この時、地の粉の入ったタッパーの上で作業すると、落ちた地の粉が回収されますよ。
地の粉を蒔いたら、その上から筆先でソフトに押さえます。
こちらの大きな面積の方にも地の粉を乗せます。
軽いタッチで地の粉を漆の上に移動させていきます。
地の粉を蒔いて、しばらくすると(10~20分)地の粉が漆を吸い上げてきますので、そうしたらもう一度、地の粉を蒔きます。
こんな塩梅です。どうでしょう?と言われても分かりませんよね。
次に進みましょう。
器を湿した場所(湿度65%~)に1~2日置いて、漆をしっかり乾かします。
step 07 蒔き地研ぎ
蒔き地研ぎで使う道具と材料
- 道具: ③ 豆皿(水入れ用) ④ ウエス ⑤ はさみ(ペーパー切り専用にしたもの)
- 材料: ① 耐水ペーパー(今回は#400~600) ② 水
耐水ペーパーをハサミで小さく切って、それを三つ折りします。
ペーパーに水を少量つけながら研ぎ作業をおこなってください。
ほんの軽く研いでいきます。
ザラザラした引っ掛かりを消すだけです。
ごりごり研いじゃダメです。研ぎ過ぎると蒔き地がなくなっちゃいますのでご注意ください。
さらさら研いでいます。研ぎ過ぎ厳禁です。ソフトに。
こんな感じです。よくわかりませんね。
step 08 蒔き地固め
- 道具: ② ティッシュペーパー ③ 付け箆 (▸ 付け箆の作り方) ④ 小筆 ⑦ 作業板(クリアファイルなど)
- 材料: ① サラダ油 ⑤ 漆(今回は赤漆) ⑥ テレピン
「蒔き地をしっかりと固定、固着させる + 色味を付ける」作業です。
今回は「赤味」をつけたかったので赤い漆を使いました。
赤漆をテレピンで少し希釈します。
漆 10 : 3 テレピン
くらいの割合で薄めてください。
黒色のままにしたい場合は生漆か呂色を使います。希釈して使ってください。
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。 ▸ 詳しい筆の洗い方
希釈した赤漆を塗っていきます。塗るというより漆をペタペタ「置いていく」という感じです。
塗り終わったら吸い込まなかった漆をティッシュで拭き取ります。
折り畳んだティッシュを漆の上から優しく押し当てます。
ティッシュが余分な漆を吸い取ってくれます。
このティッシュ押し当て作業を数回繰り返します。
どのくらい漆を拭き残すかで表情が変わってきます。
拭き残せば赤味が強くなりますが、少し漆のテカりも強くなります。
しっかりと拭き取れば黒味の方が強くなり、マットな仕上がりになります。
様子を見ながら拭き取を調節してください。
今回は赤漆を少し拭き残しました。
器を湿した場所(湿度65%~)に1~2日置いて、漆をしっかり乾かします。
作業が終わりましたら油で筆を洗います。 ▸ 詳しい筆の洗い方
Step 09 蒔絵前の漆塗り
- 道具: ② ティッシュペーパー ③ 付け箆 (▸ 付け箆の作り方) ④ 小筆 ⑦ 作業板(クリアファイルなど)
- 材料: ① サラダ油 ⑤ 精製漆(今回は呂色漆) ⑥ テレピン
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。 ▸ 詳しい筆の洗い方
通常の蒔絵と同じ工程です。
蒔き地の上に漆で模様を描いていきます。薄目、均一な厚みを心掛けてください。
今回はこのカップで使われている内田鋼一さんデザインの「クロス」を使わせていただきます。
クロスしていきます。
内田鋼一さんは何でクロス描いたんでしょうね?
漆を塗り終わったら湿した場所にしばし置いておきます。
湿度65%~、40~50分くらいでしょうか。
漆に乾くきっかけを与えてください。
作業が終わりましたら油で筆を洗います。 ▸ 詳しい筆の洗い方
step 10 蒔絵
- 道具: ① あしらい毛棒(柔らかい毛質の筆) ③ 重石
- 材料: ④ 蒔絵紛(今回は錫粉を使用)
筆の先で包み紙の中の錫粉を掬い取ります。
漆を塗った場所に錫粉を蒔き、それを筆先で優しく掃いて漆の上に伸ばしていきます。
カップの縁部分は作業がしづらいですが抜かりなく蒔絵を行ってください。
蒔絵完了です。
銀色のクロスができました。
器を湿した場所(湿度65%~)に3~4日置いて、漆をしっかり乾かします。
内田鋼一さんのコップ 金継ぎ修理完成
蒔き地中心の仕上げにしました。
↑画像の蒔き地は赤漆で固めたので少し赤味がついています。
小さな「クロス」は蒔き地を生漆で固めて黒くしました。
こっちのちっちゃいクロスの方が可愛らしいですねー◎
いかがだったでしょうか?
「蒔き地」使えそうでしょうか?ぜひぜひ皆さんの仕上げテクのバリエーションの一つにしていただけたらと思います。
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Page 01 素地をやする~錆1回目
〈鳩屋の追記〉
このページを見ていただき、どうもありがとうございました。
実は、つねづね「見てもらえた」ということがめちゃくちゃ励みになっています。
金継ぎ図書館を立ち上げ、こつこつとコンテンツを積み重ねてきたことが徒労ではなかったのだな…と救われる気持ちです。
みなさんがご自分の器を直すことを通じて、忘れていた「記憶」と再会していただけたらと思います。