※ 小さく2か所欠けた抹茶茶碗の金継ぎ(金繕い)修理のやり方を説明していきます。本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。ご注意ください。(カブレがすごく気になる方は、病院でパッチテストを受けてみてください。)
※ 万が一、漆が肌に付いた場合はすぐに「油(サラダ油など)」でよく洗って下さい。
油?? そうです。「油」をつけ、ゴシゴシ漆を洗い落としてください。その後、その油を石けんや中性洗剤で洗い流してください。
今回は金継ぎ(金繕い)工程のうち、〈錆漆の削り・研ぎ~蒔絵・完成〉までのやり方を解説していきます。
少しページが長くなってしまいましたが、よろしくお付き合いください。
前回の作業工程を見る↓
作業を始めるにあたって、まずは装備を…
金継ぎでは本漆を使うので「ディフェンシブ」に行きましょう。ゴム手袋は必需品です◎ 漆をなめちゃいけない◎
錆削り・研ぎ
道具 ①彫刻刀(平丸刀) ②彫刻刀(平刀) ③障子紙用丸刃カッター ④カッターナイフ(大)
▸ 道具と材料の値段/販売店
上記の道具のいずれか、もしくは複数が用意できると作業がやりやすくなります。
おススメは 【 ①と②の彫刻刀 】ですが、「研ぐ」ことができないと、使い捨てになってしまいますので、現実的な初心者用の刃物チョイスとしては 【 ③と④のカッター 】を用意してもらえたらと思います。
③ の障子用丸刃カッターはホームセンターの「障子貼りコーナー」にありました。刃先がRなので(丸味が付いている)、器の曲面部分、特に「器の内側」部分の削りにもある程度ですが、対応できます。
乾いた錆漆さびうるし(ペースト)を刃物で削っていきます。
乾いたのか乾いてないのか、よくわからないんですが…という方は↓こんな感じでチェックしてください。
【 乾いた 】 |
「カリカリ」している。焼けた食パンみたいに。 ・ 棒で押す→ 凹まない、硬い |
【 乾かない 】 |
「しっとり」している ・ 引っ掻く→ 白い線が残らない |
引っ掻いてみる→引っ掻いた線が白くなる→乾いている ◎
しっかりと乾いている場合、「カリカリ」っとして、爪や棒で引っ掻くと引っ掻いた場所が「白く」線が残ります。それから強く押しても「弾力」を感じません。
※ 万が一、錆漆さびうるし(ペースト)が乾いていない場合は…
- 湿度をかなり高めにした場所に置いて2~3週間待つ
(2~3日経っても乾かなかった錆漆は乾くのにすごく時間がかかります。
「やり直し」をおススメします) - 錆漆を取り除いて、やり直す
上記のいずれかを選択してください。
やり直す場合は…
詳しくはこちらへ ↓ |
前置きが長くなってしまいました!それでは(やっと)作業の方に入ります。
はみ出した錆、出っ張った錆を刃物で削っていきます。
基本的には器の外側は彫刻刀の「刃裏」を器に当てながら使うのですが、今回の抹茶茶碗は口元が「巻き込むようにカーヴ」しているので彫刻刀の「刃表」の方を使って削っていきます。
削りすぎないように少しずつ作業を行います。
刃の「半分くらい」を器に当てて、器の面を基準面のガイドとして利用します。
さらに注意点としては「刃の角度」です。
錆漆さびうるし(ペースト)を削るときの「刃の角度」としては始めは①のように角度を少し大きめにつけます。(「錆漆側の刃」を少し浮かし気味にする)
ちょっとずつ削りつつ、ちょっとずつ刃の角度を〈②→③→④〉と、器のラインと平行にしていきます。こうすると失敗が少なくなります。(たまに失敗しますが)
何で「角度」を付けるの??かと言いますと…錆漆を彫るときは削り過ぎて凹まないように注意したいわけです。
(この作業で凹んでしまった場合は、もう一度「錆漆さびうるし(ペースト)」を付けてちょっと凹んだところをリカバリーしてください◎)
いきなり、器のラインと刃を平行にして削ると「食い込んで」削り過ぎる可能性が高まります。(↑図の「Aコース」になるわけです)
器の面は基本的に「湾曲」しているので、その「丸味」を意識して削っていかなくてはいけません。何となく削っているといつの間にか食い込んでいて、「削り過ぎた!…(涙)」となることが多いのです。(特に初心者)
なので、その対処法としては「刃を斜めに当てる」です。刃の「器側」の部分は器の素地に当てます。一方、「錆漆側」は少し斜めに「浮かす」ようにします。(↑図の「Bコース」になるわけです)
この「浮かし」によって、「彫り過ぎ(涙)」を防止します。ちょっとずつ、ちょっとずつ斜めに彫っていくわけです。
口周りは彫刻刀の刃裏を使います。
「口周り部分」はどうやって削るの??かと言いますと…
これも同様の手順で削っていきます。
刃の半分くらいを器に当て、錆側は少し浮かす。
左側からある程度、削っていったら、途中で、今度は右側からも削っていく。
徐々に器のラインと平行にしていく。
上下左右、斜めから随時チェックして綺麗で平滑なラインが出ているか?
器とのラインは繋がっているか?を確認してください。
なるべく彫刻刀の削りでラインを出してしまいます。
「彫刻刀は苦手だな~」という方は無理せず、そこそこでやめておいて、次のペーパー研ぎで頑張りましょう◎
彫刻刀で削ってきれいなラインが出たら、続いて耐水ペーパーで水研ぎします。
漆ペーストを研ぐ
道具 ②紙ヤスリ(耐水ペーパー) ③ウエス(布切れ) ④ハサミ(いらなくなったもの) ⑤豆皿(水受け)
材料 ①水
▸ 道具と材料の値段/販売店
※ ハサミは紙ヤスリを切るのに使います。紙ヤスリを切るとハサミが「ばか」になります。他のものが切れなくなりますので、要らなくなったものか、100均で安いものを買ってきてください◎
※ 彫刻刀であまり削れていない(きれいなラインが出てない)場合は、まずは耐水ペーパーの#240くらい(←粗目)を使って研いでください。それで「形」を作ります。
↓
形ができましたら、仕上げに#600~#800程度で軽く研いで、
表面の肌を整えてください。
- ペーパーを1㎝×1㎝くらいに切る
- 三つ折り(二つ折りでもオッケー)にする
- 水をちょっとつける
少量の水を付けながら研いでいきます。
修理箇所からなるべくはみ出さないように研ぎます。けど、しっかり「キワ」も研がないといけないので、器の方も少し研ぐことになります。
だけど、前の作業のとき、彫刻刀できれいに成形したのに何でわざわざペーパーで研がなくちゃならないの??(この作業、抜かしちゃっていいですか?)
そうですね、研がなくても怒られませんよ◎
ただ、「刃物で削った跡」というのが、錆漆の形に残っているわけです。大袈裟に言うと、「ちょっとカクカクしている」ってことになります。それをペーパーで研ぐと、キレイな平滑面ができるわけです◎
ちなみに ② で黄色で描かれているのは「耐水ペーパー」です。(ナメクジじゃありません。ちょっとしくじりました。そのうち描き直します◎)
できました。
どでしょう?滑らかに研げました。と思います。
漆の下塗り
道具 ②ティッシュぺーパー ③面相筆 ④蒔絵筆(赤軸根朱替わり) ⑥練り竹ベラ ▸作り方 ⑦作業板 ▸作り方
材料 ①エタノール(テレピン、灯油など) ⑤精製漆(今回は”赤口漆”) ⑧サラダ油
▸ 道具と材料の値段/販売店
「生漆」しか持っていないのですが、どうしたらいいですか?
はい、それではこちらへどうぞ ↓
↑ この茶色半透明の漆でも「漆塗り」はできるのですが、半透明だと「どこを塗ったのかわかりにくい」のです(涙)漆に色を付けたい方はこちらへ ↓
作業に入る前に、筆をテレピンで洗って筆の中の油を洗い出します。
▸ 詳しい作業前の筆の洗い方
※ 何で筆に「油」がついているの??かと言いますと、作業が終わった後に、油で筆を洗っているからなのです◎ヘンですね、漆って。
【 作業前の筆の洗い方 】
|
筆の準備が済んだら、今度は漆の用意をします。
- 漆のチューブの蓋を開ける。
- 作業板の上に少量の漆を出す。
- 筆に漆を馴染ませる。
- 作業板の上に何本か線を引き、漆の量を調節しつつ、
含み具合をチェックする。
漆の中にゴミがたくさん入っている場合などは濾し紙で漆を濾してきれいにします。必要な方はこちらをご覧ください ↓
筆と漆の準備が済んだらいよいよ塗りに入ります。
漆が厚くならないように気を付けて塗っていきます。
漆の塗り厚の「感覚」がつかめるまでは、気持ち、「薄く」塗っていってください◎
もし、漆を厚く塗りすぎた場合…
こんな感じになります。シワシワになるわけです。塗膜表面と塗膜の中の方との乾くスピードに「差」があり過ぎるとこうなるのだと思います。多分。
錆漆面は完全に覆うように漆を塗っていきます。
塗りやすく、見やすいポジションが取れるように器を持ってください。横でも逆さまでもオッケーです。
もう一か所の「欠け」部分も塗っていきます。
塗り終わりました。
作業が終わったら湿度の高い場所(65%~)に置いて漆を硬化させます。そう、漆は空気中の水分を取り込んで硬化するのです。不思議な樹液ですね◎
湿度が高い場所…って、お風呂場にでも置けばいいんですか??
風呂場…でもいいのですが、風呂場って湿度が100%近くにまでなるので、漆を乾かすにはちょっと「どぎつい」環境だと思います。(漆は急激に硬化すると「やけ」「縮み」といった厄介な現象が起こりやすくなります)
もうちょっとソフトな環境を用意してあげましょう◎そう、実は漆は”やさしさ”で乾くのです。よ◎
【 簡易的な漆乾燥用の風呂 】 湿度が保てる空間を用意します。※ 水を固く絞った布を中に入れて湿度を高くしてください。 |
↑ こんな感じでいかがでしょうか?
え!段ボール…。こんなんでもいいんですか??
はい、大丈夫です◎「段ボールなんてダサくて嫌!」という方は↓のページを参考にバージョン・アップさせていってください。
塗り終わったら油で筆を洗います。
▸ 詳しい作業後の筆の洗い方
※ 油で洗わないと筆の中に残った漆が硬化するので次第に筆がゴワゴワしてきてしまいます。
【 終わった後の筆の洗い方 】
※ 極々、ソフトに押さえるようにして筆の中の漆と油を掻き出すようにしてください。強くしごいてしまうと、筆の毛先が痛んで「カール」してしまします。 |
筆は付属のキャップを嵌めて保存します。キャップが無かったらサランラップを丁寧に巻いてください。
キャップがない、もしくはキャップを作りたいという方はこちらを参考にしてください。
▸ 筆のキャップの作り方
【 お掃除、お掃除 】 テレピン(又はエタノール、灯油など)を垂らして、ウエスやティッシュできれいに拭き取ってください。 caution ! 厳密に言うと、素地をし終わった後の作業板の上には「ごくごく薄っすら」と漆の成分が残っています。ですので、この作業が終わるまではしっかりとゴム手袋をして、ゴム手袋を外したあとは作業板を含めて漆の道具類を触らないようにした方がいいです。 |
下塗り研ぎ
道具 ②紙ヤスリ(耐水ペーパー) ③ウエス(布切れ) ④ハサミ(いらなくなったもの) ⑤豆皿(水受け)
材料 ①水
▸ 道具と材料の値段/販売店
今回は耐水ペーパーの#800~1000くらいを用意してください。
- ペーパーを1㎝×1㎝くらいに切る
- 三つ折り(二つ折りでもオッケー)にする
- 水をちょっとつける
漆を研いでいきます。
これも、あまりはみ出し過ぎないように研いでいきます。
いろいろな角度からチェックしてください。
漆を塗ることで錆漆研ぎの時点ではわからなかった「凹み」などが見やすくなっています。
なるべく凹みがなくなるまで研いでいきます。凹みが深すぎたら…錆漆を付け直してください。え~(涙)と思われますよね。でも、やっぱり錆を付け直した方が綺麗な仕上がりになりますので、どうか頑張ってください◎(凹みだけにピンポイントで錆付けしてください。楽ですよー)
まだ少しうっすらとした凹みがあります。↑画像の「色の濃い、点てん」が凹んでいる箇所です。
この後、もう2回程漆を塗り重ねるので、その作業でこのくらいの凹みは埋まると判断しました。
漆の上塗り
道具 ②ティッシュぺーパー ③面相筆 ④蒔絵筆(赤軸根朱替わり) ⑥練り竹ベラ ▸作り方 ⑦作業板 ▸作り方
材料 ①エタノール(テレピン、灯油など) ⑤精製漆(今回は”朱漆”…赤い色の漆) ⑧サラダ油
▸ 道具と材料の値段/販売店
筆の洗い方、漆の準備などは上記の 【〈金繕いの工程 05〉 漆の下塗り】 を参考にしてください。
細い筆を使って修理箇所の「縁」を塗っていきます。
ぐるりと一週、漆を塗ります。塗り絵の「縁取り」ですね。
次に少し幅のある筆で、縁取りした内側を塗っていきます。
漆はなるべく薄く、均一になるように塗っていきます。
最後に筆を揃えて通していきます。
横、横、横、と少しずつずらしながら筆を通します。
今度は縦、縦、縦…と通していきます。
作業が終わりましたら油で筆を洗います。これもお忘れなく◎
▸ 詳しい筆の洗い方
作業板の上もテレピン、アルコール類できれいに拭き掃除をしてください。
このあと、本来であれば漆が乾き「始める」タイミングを待ちます。1時間でも、2時間でも漆の具合を見ながら待ちます。
乾き始めるタイミングとは…塗った漆に「はぁー」と息を吐きかけた時に一瞬、塗膜が「虹色」に変化するタイミングです。(何のこっちゃ??わかりませんよね)
けど、「意味、わからん(鳩屋の説明、ヘタ)」「そんな余裕はないぜ(忙しいのだ)」「乾きかけが判断できないわよ」という方も多いかと思います。
ひとまず便宜的に20~30分ほど、湿した場所(湿度65%~)に置いて、漆が乾く「きっかけ」を与えるとしましょう◎
蒔絵
道具 ②ティッシュ ③真綿 ⑤重石(包み紙を押えるもの) ⑥あしらい毛棒(柔らかい毛質の筆) ⑦練り竹ベラ ▸作り方 ⑧作業板 ▸作り方
材料 ①エタノール ④蒔絵紛(今回は真鍮粉を使用)
▸ 道具と材料の値段/販売店
いよいよ「蒔絵」です。
ですけど、真鍮粉でやる蒔絵は本当に簡単ですのでビビらずに行きましょう◎(金粉、銀粉などでやる蒔絵はちょっと難しいです)
筆の先で掬った蒔絵紛を漆を塗った箇所にのせていきます。
筆先で錫粉を掃きながら広げていきます。
手早く、軽いタッチで。
こんな感じです。
作業が終わったら湿した所に置いて丸三日は乾かしてください。
※ 湿度65%~くらい(水気を固く絞った布を入れた段ボールの中とか)
【 簡易的な漆乾燥用の風呂 】 湿度が保てる空間を用意します。※ 水を固く絞った布を中に入れて湿度を高くしてください。 |
↑ こんな感じでいかがでしょうか?
え!段ボール…。こんなんでもいいんですか??
はい、大丈夫です◎「段ボールなんてダサくて嫌!」という方は↓のページを参考にバージョン・アップさせていってください。
実は…この後、3回程やり直しました。
持ち主の小牟田夫人の人柄やライフスタイルに合う意匠で、この器の傷にちょうどいいものは何かないかな…?と考え、いろいろと試してみました。
が、結局はシンプルな直しが今回は一番合うな―――ということになりました。
(ちょっとだけラインを単純化しました)
何か「いいデザインで直して、驚かせてやろう」みたいな自己顕示欲のようなものが入っていたのかもしれません。ちょっと悔しいような、残念なような、でもやっぱりオーソドックスな直しが一番いい時もあるということが骨身に沁みました。
「ベスト」な修理を見つけるには、この狭間で揺れ動くのを常態とするしかないのでしょうね。
漆がしっかりと乾いて、蒔絵紛が定着したら、余分な蒔絵紛を洗い流します。食器用の柔らかいスポンジで水をかけながら洗って下さい。食器用の洗剤をつかっても大丈夫です◎
タワシ、硬いスポンジ、クレンザーは使わないでください。だんだん蒔絵が剥げていっちゃいます◎
<金繕いの完成>
最終的な仕上げは真鍮粉にしました。
お茶の先生にいただいた抹茶茶碗だそうです。
先生の先生の先生(!)から代々、渡ってきたそうです。ということは…どのくらいでしょう?明治くらいなのでしょうか。
実はこちらにもちょっとした傷がありました。
周りの模様に合わせる感じで、少しシンプルなラインになっています。
ではお隣さんのご紹介です。
こちらがお隣さんの小牟田夫妻です。
旦那さんは元海上自衛隊のパイロット。ダジャレ好き(笑)。周り置いてけぼりのダジャレ連発の時があります。
マダム小牟田です。通称「こむこむ」(私は心の中でそう呼んでいます)
ちょっと天然系のご婦人。以前、夕飯にお呼ばれしてお酒をご馳走になった時に、ワインと間違えてお酢を呑まされました(苦笑)(いや、あれは天然を装った意図的な攻撃だったのかも…(笑))
料理上手の料理好きマダムです。スリランカカレーもお作りになるのですが、半端じゃなく辛い!恐るべし小牟田夫人!!(もちろん美味しいです◎)