ファイツ!!
● 2020.6 出版
【漆塗りの種類】
漆塗りの呼び名
金継ぎ図書館では便宜上、漆塗りを…
- 捨て塗り
⇩
────────
- 下塗り
⇩
- 中塗り
⇩
──────── - 地塗り
というように「4種類」に分けています。
「きれいに仕上げよう」とした時に必要となる基本的な塗りは上記の4つの工程になります。
ただし、修理人の「こだわり具合」や「持っている技術」、「修理案件の難易度」によってはこの回数は前後します。
※ 塗る回数が2回、3回というケースや、6回以上というケースもあります。
めんどーだね
それぞれの漆塗りの目的
それぞれ、以下のような違いがあります。
分類 | 目的 | |
捨塗り (+研ぎ) |
下地 作り |
「下地作り」の一環
|
下塗り (+研ぎ) |
蒔絵肌作り (塗り) |
※ 研いだ時、多少の「漆の研ぎ破り」はオッケー |
中塗り (+研ぎ) |
表面の肌をきれいに整え、蒔絵ができる状態にするための塗り
状態に持っていくための塗り
|
|
地塗り | 蒔絵 |
蒔絵粉を定着させるための塗り |
これが塗りの基本的な目的になります。
上記の表を読んでみて、
- 「捨て塗り」と「地塗り」はその目的が分かりやすく、他と区別しやすかったかと思います。
- 「下塗り」「中塗り」は上記の説明を読んでもちょっと分かりづらかったかと思います。
ということで、この後、「捨て塗り」「地塗り」は簡単に解説し、「下塗り」「中塗り」の方を詳しく解説していきたいと思います。
【「捨て塗り&研ぎ」の目的】
「捨て塗り」とは
「捨て塗り」とは…
です。
「捨て塗り&研ぎ」の特徴
塗り厚:普通
「捨て塗り+研ぎ」は「下地作り」に含まれる作業で、下地の精度を上げるためにおこなわれます。
「下地作り」工程で、ある程度、きれいに錆漆が付けられた段階で一回「塗り+研ぎ」を、挟みます。
この作業を間に挟むことで「わずかな凹み」や「ピンホール」といった見つけづらい歪みを簡単に発見することができます。
見つかった凹みは錆漆でピンポイント修正します。(繕い錆)
「捨て塗り」はあくまで、「下地作り(錆付け&研ぎ)」の中でおこなわれる漆塗りです。
「捨て塗り&研ぎ」に関してはこちらのページで詳しく解説しています↓
【「下塗り&研ぎ」/「中塗り&研ぎ」の目的】
「下塗り+中塗り」とは
「下塗り+中塗り」とは…
・「凹み/ピンホール」がない
・ 「漆の研ぎ破り」もない
状態のことです。
「下塗り&研ぎ」/「中塗り&研ぎ」の特徴
塗り厚:できれば「少し厚目」に塗りたいところ。
だけど、厚くなり過ぎると「縮み」という現象が起きてしまい、リカバリーが面倒になります。
ということで初心者さんは、むしろ「少し薄目」に塗る方がおススメ。
■「下塗り&研ぎ」の役割
- 下地作りが終わった(繕い錆研ぎ)後の最初の漆塗り
- 「微細な凸凹」を消しつつ、自分が望む最終的な「欲しい形」の精度に詰めていく
…が基本的な役割です。
↑ 繕い錆「研ぎ」後の図
「繕い錆→繕い錆研ぎ」でかなり精度の高い平滑面ができたはずなのですが、それでも実は、まだわずかに凸凹していることが多いのです。
大袈裟に描くと上図↑のような感じです。
意外と凸凹している。
その「微細な凸凹」を繕い錆後の「一発目の塗り(下塗り)&研ぎ」で消していきます。
全体に漆を塗ります。
※ 初級者を脱したくらいの方なら、「気持ち厚目」に塗れるといいです。
ただし、塗り厚が厚すぎると「縮み」ますので、十分注意してください。
初心者は用心のため「薄目」に塗っておいた方がいいと思います◎
漆が乾いたら、研いでいきます。
「駿河炭」まはた「#600~800程度の耐水ペーパー」を使って水研ぎします。
「自分が望むきれいな形」になるようにしっかりと研いで、形の精度を詰めていきます。
→ そうすると、漆層を研ぎ破って錆地が出てくる場合が多いです。
金継ぎ図書館的な理解だと、この「下塗り+研ぎ」作業というのは、研ぎ破ってでも高精度な平滑な「形」を作っていく段階だと考えています。
次の「中塗り+研ぎ」でバチっと研ぎ破りなく仕上げるための布石を置く作業と捉えています。
この「繕い錆研ぎ後」の1回目の漆塗り(下塗り)を「わずかな凹み/研ぎ破り」も無く研ぎ上げることができれば、そのまま「中塗り」を飛ばして「地塗り(蒔絵)」へと工程を進めることができます。
ただし、あくまで優先させるべきは「微細な凸凹を消し、最終的な自分が望む形の精度に詰めていく」ということです。
塗った漆を「研ぎ破らない」ことを優先させ、恐る恐る研ぐ段階ではない…と金継ぎ図書館では考えています。
■「中塗り&研ぎ」の役割
- 「地塗り(蒔絵)」ができる状態にする
=錆下地を完全に漆で覆う(←漆の研ぎ破りがない状態) - お好みによって修理箇所を「ふっくら」させる(←個人の好み次第です)
…が基本的な役割です。
① 錆下地を完全に漆で覆う
「下塗り研ぎ」で微細な歪みも無くなったところに「中塗り」をほどこします。
※ 初級者を脱したくらいの方なら、「気持ち厚目」に塗れるといいです。
ただし、塗り厚が厚すぎると「縮み」ます。
初心者は用心のため「薄目」に塗っておいた方がいいです◎
漆が乾いたら、研いでいきます。
「駿河炭」まはた「#800~1000程度の耐水ペーパー」を使って水研ぎします。
この時、塗った漆を研ぎ破って、「下の錆地層」が出てこないで欲しいわけです。
ただし、だからといって「研ぎ破らないように恐る恐る研いでいく」のではなく、いつも通り普通に研いでいきます。
もちろん、必要以上に研ぎ過ぎると研ぎ破りますので、注意が必要ですが、基本的には前回の「下塗り&研ぎ」で形の精度がかなり高いレベルにまで達しているはずなので、「ごくごく普通に研いでいれば」研ぎ破ることはありません。
● もし、研ぎ破ってしまった場合
「そもそも“形の精度”がまだ足りていなかった」…ということになります。
ファイッ!!
その場合は、次に地塗りに進むことを諦め、気持ちを切り替えて、「下塗り研ぎ」のつもりで、形の精度を詰めていくことに注力してください。
何カ所か研ぎ破ってでも、どんどん研いで、形を詰めていきます。
しっかりと形が作れたら、「中塗り」をもう一度おこないます。
研ぎ破っても、「錆漆の下地層」が出てこなければ大丈夫です。
● なぜ研ぎ破って下地が出てくるといけないのか?
何で研ぎ破っちゃいけないの?
錆漆が出てきちゃったって
地塗りしちゃえばいいんじゃない?
ダメなの??
このような疑問が浮かんできますよね。
錆漆の下地層が出てきちゃっているということは次の2点が懸念されます。
- 「形の精度が出ていない=形が歪んでいる」ということになるので、仕上りもそのまま歪む
- 錆地が露出しているところは地塗りの漆を吸い込んでしまう
「①」は分かりやすいと思うので、「②」の方を解説させていただきます。
● 錆地が漆を吸い込んでしまう
もし、中塗り研ぎが終わった段階で、↑このように錆地が露出した箇所があって、そのまま地塗り(蒔絵)の工程に進んだとすると…
蒔絵をする時の「地塗り」という作業は漆を「極薄」に塗るので、錆地が露出した箇所にわずかながら塗った漆を吸い込まれてしまいます。
そうすると漆が吸われた個所というのは周りと比べると漆層が薄くなっているので、蒔絵粉の付き方も「薄く」なってしまいます。
結果、仕上げの「粉磨き」をしている時に、粉が薄くしかついていない個所は「研ぎ破ってしまう」リスクが高くなります。
※ もしかしたら、蒔絵粉の付き方に「厚い/薄い」があると、薄っすらと凸凹ができるかもしれません。…けど、ほとんど影響がないと考えていいのかな??
ですので、「錆漆の下地は完全に漆層で覆う」というのが基本になります。
● 「ほんの薄っすら」と錆地が透けて見えた場合
中塗り研ぎが終わった段階で、錆下地が「ほんの薄っすらと透けていた!」(もしくはギリギリ錆下地が出たか、出ないかくらい)…という場合、できればもう一度、中塗りをした方がいいのですが、「擦り漆」を1,2回おこなうことで「地塗り」作業に進めることもできます。
修理箇所全体に生漆を塗布し、ティッシュできれいに拭き取ります。
擦り漆をして、漆を吸い込む可能性のある箇所にあらかじめ漆を吸い込ませ、固めておきます。
こうすることである程度、地塗りの際の漆の吸い込みを止めることができます。
※ ただし、「擦り漆で吸い込みを止めた箇所」と「完全に漆層で覆われた箇所」とが混在していると仕上りに少しムラが出るような感じがします。
② 修理箇所を“ふっくら”させる
人によって、修理箇所の「ふっくら具合」が強い方が好み…という方もいるかと思います。
お好みの膨らみ具合になるまで「漆塗り⇆研ぎ」を何度も繰り返して「盛り上げて」いってください。
納得がいったら、地塗り→蒔絵と作業を進めてください◎
【「地塗り」の目的】
塗り厚:超・極薄
漆を「超・極薄」に塗って、その漆が乾かないうちに、蒔絵粉を蒔きます。
他の「漆塗り」と比べると、これだけはかなり特殊な漆塗りですよね。