ファイツ!!
2020.5 全面リニューアル済み
artist 斎藤裕美子さんの器
初心者向け
難易度:
充填材:錆漆(ペースト)
使用粉:真鍮粉(金色の金属粉)
こだわり度:丁寧・こだわり
今回のシリーズは「完成度の高さ」にこだわって、頑張ってきれいに仕上げます◎
※ 口周りが欠けたカップの「伝統的な本当の金継ぎ修理」のやり方を説明していきます。
このページでは金継ぎの工程のうち
〈錆漆削り/研ぎ~捨て塗りまで〉
のやり方を解説していきます。
金継ぎ修理を始めるその前に…
本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。
※ 万が一、漆が肌に付いた場合はすぐに「油(サラダ油など)」でよく洗って下さい。
油?? そうです。「油」をつけ、ゴシゴシ漆を洗い落としてください。その後、その油を石けんや中性洗剤で洗い流してください。
※ もし、かぶれてしまい、それがひどくなるようでしたら、医者に行って処方してもらってください。
【道具・材料と購入先を見る】↓
作業を始めるにあたって、まずは装備を…
金継ぎでは本漆を使うので「ディフェンシブ」に行きましょう。
ゴム手袋は必需品です◎ 漆をなめちゃいけません◎
※ 作業後、油分多めのクリームを手、腕など、肌が露出していたところ(夏場は脚・足にも)に塗っておくと、カブレにくかった…というコメントをいただきました。
(塗り忘れたときは、毎回、痒くなった…そうです)
気になる方はやってみてください◎
注意:
修理箇所に油分をつけてしまうと、その箇所だけ漆が乾かなくなります。(手脂でも乾かなくなります)
ご注意ください!
※ 修理箇所に油分が付いてしまった場合は、エタノールで入念に拭きあげるか、台所用中性洗剤で洗えば大丈夫です◎
【(2回目の)錆漆を削る】
錆漆が乾いたら削り作業に入ります。
錆漆が乾いたか?の確認
錆漆は通常1日でしっかりと乾きます。
(条件がいいと5、6時間で削れる硬度になります)
「時間」以外で乾きのチェックをするやり方ですが、こんな感じ↓で判断してください。
【乾いた】 |
「カリカリ」している。焼けた食パンみたいに。 |
【乾いていない】 |
「しっとり」している |
(6:35~7:00まで再生)
しっかりと乾いている場合、「カリカリ」っとして、爪や棒で引っ掻くと引っ掻いた場所が「白く」線が残ります。それから強く押しても「弾力」を感じません。
※ 万が一、錆漆が乾いていない場合は…
・湿度をかなり高めにした場所に置いて1週間程待つ
・錆漆を取り除いて、やり直す
…上記のいずれかを選択してください。
※ 1週間待ってもあまり硬化していなかった場合は、錆漆を除去してやり直す。
※ 2~3日経っても乾かなかった錆漆は乾くのにすごく時間がかかります。
しばらく待っても、乾かない場合もあります。さらには乾いても「強度が極端に低い」場合もあります。
「やり直し」た方が断然、効率的だし、強度的にも安心できます。基本的にはやり直しをおススメします
やり直す場合はこちらのページ↓を参考にしてください。
〈使う道具/材料〉
道具: 下記の道具のいずれか、もしくは複数が用意できると作業がしやすくなります。
①〈平丸〉の彫刻刀
②〈平〉の彫刻刀
③〈カーブ刃〉のカッター
④ 普通のカッター(大)
※ その他、本漆金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
▸ 本漆金継ぎで使う道具・材料ページ
★ ベストな組み合わせは「①〈平丸〉の彫刻刀+②〈平〉の彫刻刀」です。
が、彫刻刀は砥石で研ぐ必要があります。←これって普通の人には厳しいですよね?
ということで、ベストではありませんが「落しどころ」として…
★ 初心者さんには「③〈カーブ刃〉のカッター+④ 普通のカッター(大)」をおススメしています。
▪実作業▪
乾いた錆漆を削っていきます。
写真や文字よりも「動画」の方が断然、分かりやすいかと思います。
● 「小さく欠けた」個所に盛った錆漆を削る時の参考になる動画です↓
(0:34~1:35まで再生)
● 「中くらいに欠けた」個所に盛った錆漆を削る時の参考になる動画です↓
(0:49~2:54まで再生)
● 「幅広に欠けた」個所に盛った錆漆を削る時の参考になる動画です↓
7:00∼10:31まで再生
さぁ、削りましょう。
私は彫刻刀の「平丸」という形のものを使います。
すこぶる使い勝手がいです。おススメです。
器の内側の削り作業をするときは基本的に彫刻刀の「刃表」を使います。
(上画像参照:斜めになっている側を裏にして使います←意味、分かりづらいですよね)
錆漆を削るときのコツは刃物の半分くらいを器の方に当てて、それを面の基準として利用しながら削るようにします。
削りのコツ
▪▪▪
刃の「半分くらい」を器に当てて、器の面を基準面のガイドとして利用します。
さらに注意点としては削る時の「刃の角度」です。
※ 刻苧漆も錆漆も削る時のポイントは一緒です。
削るときの「刃の角度」として…
1.始めは①のように「角度を少し大きめ」につけます。(「刻苧/錆漆側の刃」を少し浮かし気味にする)
2.ちょっとずつ削りつつ、ちょっとずつ刃の角度を〈②→③→④〉と、器のラインと平行にしていきます。こうすると失敗が少なくなります。(たまに失敗しますが)
何で「角度」を付けるの??かと言いますと…
刻苧/錆漆を彫るときは、削り過ぎて凹まないように注意したいわけです。
Aコース
いきなり、刃を器のラインと平行にして削ると「食い込んで」削り過ぎる可能性が高まります。
器の面は基本的に「湾曲」しているので、その「丸味」を意識して削っていかなくてはいけません。何となく削っているといつの間にか食い込んでいて、「削り過ぎた!…(涙)」となることが多いのです。
(特に初心者さんは失敗しがちです)
Bコース
なので、その対処法としては「刃を斜めに当てる」です。
刃の「器側」の部分は器の素地に当てます。
一方、「刻苧/錆漆側」は少し斜めに「浮かす」ようにします。
この「浮かし」によって、「彫り過ぎ(涙)」を防止します。ちょっとずつ、ちょっとずつ斜めに彫っていくわけです。
刃表の半分くらいを器に当てて錆漆を削ります。
それから、私は「削る方向」に対して刃を斜めに構えてそのままスライドさせます。
その方が抵抗が少なくてきれいに削れます。
縁のちょい内側の錆漆を削ります。刃表で削ります。
このときもなるべく器を面基準のガイドとして利用するようにします。
器口元の縁部分は彫刻刀の刃裏を器に当てます。
器の外側の錆を削るときも基本的には刃裏を使います。
進行方向に対して刃物を斜めに構えたままスライドさせます。
錆漆の削りの程度
▪ ▪ ▪
錆漆を削る際、「どのくらい削り取るか?」ですが、金継ぎ図書館では…
修理箇所の周りの器の高さと「同じ程度(ほぼフラット)」になるまで削る
…をおススメしています。
※ 段差も膨らみも無く…ということです。器の形状には沿わせます。
● 刻苧漆をフラットに削る理由
←① こちらを目指している/こちらじゃない ②→
上図の①左側…こちらが最終的に目指している仕上がり具合です。
(個人的な好みです)
「ほんの少しふっくら」としているくらいが上品だと最近は感じているので、このくらいの仕上がりを目指したいわけです。
もちろん上図の②右側くらい「もっこり」させると「いかにも金継ぎしてすよ!」って感じに見えるので、こちらでも面白いと思います◎
■ 「ほんの少しふっくらとした仕上がり(①)」を目指す場合
修理箇所の「内側」はどうゆう「層」になっているかというと…
こんな感じ↑になります。
漆を数回塗り重ねると、それなりに「薄っすらとした厚み」がつきます。
ということは、その厚みを計算に入れると、錆漆は「周りの器と同じ高さ=フラット」に研ぎ上げるのがベターだと考えられます。
※ 皆さんが望む最終的な仕上がり次第で、錆漆の段階で「ふっくら気味」にさせておいてください。
ちょい凹みがあります↑
この時点でもう一度、錆漆を付けてもいいです。
が、この後の作業工程が「捨て塗り(漆塗り1回目)→捨て塗り研ぎ→繕い錆」というように、漆を塗った後、細かなピンホールや薄っすらとした凹みを埋めるために、もう一度、錆漆を付けるのです。
その際に、この凹みを埋めればいいかな~ということで、今はスルーして次の作業へと進みます。
彫刻刀で削ってきれいなラインが出たら、続いて耐水ペーパーで水研ぎします。
【(2回目の)錆漆を研ぐ】
〈使う道具/材料〉
道具:
③ ウエス→スポンジの方が使いやすい
④ 要らなくなったハサミ
⑤ 小さな水入れ
〇 水桶(もあった方がベター)
材料:
① 水差し
② 耐水ペーパー(使うペーパーの番手は下で説明します)
→実は駿河炭が断然おススメ
※ その他、本漆金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
▸ 本漆金継ぎで使う道具・材料ページ
※ 「要らなくなったハサミ」は耐水ペーパーを切るのに使います。
ペーパーを切るとハサミが「ばか」になって他のものが切れなくなります。
要らなくなったものか、100均などで買った安いものを使ってください◎
● 使う耐水ペーパーの番手(荒さ)について
耐水ペーパーっていろいろな番手(荒さ)がありますが、どの状況で何番くらいを使うのが適しているのか??…ちょっとわかりませんよね。
↓このくらいを一応の基準と考えてください。
錆漆は
何番のペーパーで研ぐ?
▪▪▪
● 削り作業できれいに成形できている場合、#320~400程度で研いでください。
● 先ほどの「削り作業」で、あまりきれいに削れていない(まだまだ凸凹している)場合
↓
まずは耐水ペーパーの#240~320くらい(←粗目)を使って研いでください。
粗い方がどんどん研げますので、効率がいいです。
粗いペーパーで「きれいな曲面の形」を作ります。
↓
滑らかな形ができましたら、仕上げに#320~400程度で軽く研いで、
表面の肌のキメを細かく整えてください。
● 耐水ペーパーの仕立て方
ちょっと面倒ですが、研ぎ面をよりきれいな形に仕上げるためと、修理箇所以外を傷付けないために、ペーパーにひと手間加えます。
耐水ペーパー
の使い方
▪▪▪
耐水ペーパーを小さく切って使います。
切れ味の落ちたハサミで、耐水ペーパーを1×1㎝くらいに小さく切ります。
それを「三つ折り」にします。
(↑ペーパーを三層構造の「硬い」板にして使います)
ペーパーは少量の水をつけながら研ぎ作業をおこないます。
理由は2つです。
1.研ぐ面積を極力少なくするため
2.平面保持強度を高めるため
【1の理由】
「耐水ペーパー」って研磨力がとても強いので、器の釉薬(表面)を傷つけてしまうのです。
研いだ後、修理箇所周辺の釉薬が薄っすらと曇っているのは、あれは「細かい傷」が付いたからなのです。
なので、「なるべく」ですが、周りの釉薬が傷つかないようにペーパーを小さくして使いたいわけです◎
【2の理由】
「三つ折り」するというのは、ペーパーの「平面保持強度」を高くするためです。
なるべく「研ぐ方の道具」の平面を維持したいわけです。
ペーパー1枚で研いでいると「へなへな」してしまいます。紙なので柔らかいですよね。
それを使って研いでいると↓この「Aコース」のような仕上がりになります。
↑ペーパー1枚で研いでいると「Aコース」になるわけです。
紙一枚だと「研ぐ方の道具」が柔らかいので、「研がれる方のもの=錆漆(←硬いもの)」の形に沿ってしまい、その形通りに研いでしまいます。
錆漆の「山の角の部分(エッジ)」は軽くさらうことはできるのですが、「綺麗な曲面に形作る」ことは難しくなります。
一方、「Bコース」のペーパー3枚重ね(三つ折り)だと、「研ぐ方の道具」の「硬さ」が3倍になるわけです。
「研がれる方のもの=錆漆」の形に引っ張られず、研ぎによって錆漆の形を作っていくことが可能になります。
※ ペーパー1枚に比べて…という話です。
平面維持強度をもっと上げて、「きれいにな形を作る」作業がしたかったら
「漆研ぎ用の“駿河炭”」が断然おススメです。
● 駿河炭の仕立て方
「研ぎ道具」としては、実は「駿河炭」が最強のアイテムです◎
何といっても、耐水ペーパーと違って器に傷が入らない!
できれば使ってみていただきたいです!
‣駿河炭が断然おススメな理由
駿河炭
の仕立て方
▪▪▪
炭は大きな塊で売っているので、自分で小さく切って使います。
① まずはカナノコ(金鋸)の刃で厚さ15~20㎜程度に輪切りにします。
② 次に薄い板状になった炭の塊りを、大き目のカッターナイフで「割っていきます」
③ さらにカッターで割って、大小さまざまな面積のものを用意します。
使う際は炭の「研ぎ面」を砥石(または耐水ペーパー)の上で研いで、平面にします。
少量の水を付けながら修理箇所を研いでいきます。
修理箇所を研いでいると炭の研ぎ面が崩れてきますので、ちょこちょこと砥石(またはペーパー)に当てて、研ぎ面を修正します。
詳しくはこちらのページをご覧ください↓
▪実作業▪
前の作業で、刃物できれいに成形したのに
何でわざわざペーパーで研がなくちゃならないの??
この作業、抜かしちゃっても大丈夫?
そうですね~。。
「軽くでもいい」のでやっておいた方がいいと思います◎
図 ①
「刃物で削っただけ」というのは、実は無数に小さい「角」が立っている状態なんです。
精密に見ると「面が繋がっていない」のです。
ちょっとカクカクしている。
図 ②③
それをペーパーで研ぐと、角が丸まって、面が繋がり、きれいな平滑面ができるわけです◎
※ 他の器修理の写真を使っています。
豆皿などに出した水を少しだけつけて錆漆を研いでいきます。
平滑な面になるように意識して、研いでいきます。
写真が全然なかったので、申し訳ありませんが、「動画」の方で確認してください↓
● 「小さく欠けた」個所の錆を研ぐ時の参考になる動画です↓
2:08~3:15まで再生
●「中くらいに欠けた」個所の錆を研ぐ時の参考になる動画です↓
2:54~5:38まで再生
● 「幅広に欠けた」個所の錆を研ぐ時の参考になる動画です↓
10:37~12:20まで再生
錆研ぎ終了です◎
【捨て塗り(漆塗り1回目)】
〈使う道具/材料〉
道具:
② ティッシュぺーパー
④ 蒔絵筆またはインターロン筆
⑥ 練りベラ ‣作り方ページ ‣作り方の動画
⑦ 作業盤(ガラス板など)
‣作り方ページ ‣作り方の動画
○ ゲル板 ○ サランラップ
材料:
① アルコール(テレピン、灯油など)
⑤ 精製漆(今回は”呂色漆”…黒い色の漆)
⑧ サラダ油
※ その他、本漆金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
▸ 本漆金継ぎで使う道具・材料ページ
「生漆」しか持っていないのですが、どうしたらいいですか?
はい、それではこちらへどうぞ ↓
↑ この茶色半透明の漆でも「漆塗り」はできるのですが、半透明だと「どこを塗ったのかわかりにくい」のです(涙)漆に色を付けたい方はこちらへ ↓
使用「前」の筆の洗い方
※ 蒔絵筆(高級な筆)の場合は「漆」で洗ってください。毛が痛みづらくなります。
‣ 蒔絵筆の洗い方の動画
まずは筆をテレピン(または灯油)で洗って筆の中の「油」を洗い出します。
▸ 詳しい作業前の筆の洗い方
どうして筆に「油」が付いてるの??…かといいますと、漆作業で使った筆は最後に油で洗っているからなのです。油で洗うと筆の中に残った微量な漆が乾きません。
漆と油とは相性が悪いのですが、それを利用して、保管するときには油で洗います。
逆に、使う時にはその油を除去します。
作業工程
① 畳んだティッシュに筆を包む
② ティッシュをギュッと摘まんで、筆の中の油を吸い取る
③ 作業板の上に数滴テレピンを垂らす
④ その上で筆を捻ったりしてテレピンをよく含ませる
⑤ 筆をティッシュで包む
⑥ ティッシュをぎゅっと押えて、「油+テレピン」を絞り出す
⑦ 「4→5→6」を2~3回繰り返す
① 折り畳んだティッシュに筆を包みます。
② ティッシュの上に筆を置きます。
④ これを3,4回繰り返して、しっかりと油を搾り取ります
⑤ 作業盤の上にテレピンを数滴、垂らします。
⑥ 筆にテレピンを含ませます。
筆は作業盤の上で捻ったりして、しっかりとテレピンと馴染むようにします。
⑦ ティッシュの上に筆を乗せます。
⑧ ティッシュの上からギュッと摘まんで、「油+テレピン」を絞り出します。
この後、「⑥→⑦→⑧」を2~3回、繰り返します。
この作業で筆のなかの油分をしっかりと除去します。
筆の中に油が残っていると漆が乾かないことがありますのでご注意ください。
「エタノール」などの揮発性の強いもので洗うと、テレピンよりも油分がしっかりと除去できますが、その分、筆への負担も大きくなり、傷みやすくなります。
ですので、金継ぎ図書館では筆が傷みにくいテレピン、灯油などをおススメしています。
ちなみに筆が一番、痛まないのは「漆」で洗うことです。
‣ 漆での筆の洗い方動画
特に高価な「蒔絵筆」を洗う際には漆で洗ってください。
筆に漆を付けて、いきなり塗り始めると、初めのうち、テレピンの影響で薄くなる可能性があります。
ですので、「塗り始める」前に一度、筆に漆を含ませて、筆と漆とを馴染ませてください。
漆の準備
筆の準備が済んだら、今度は漆の用意をします。
漆の中にゴミがたくさん入っている場合などは「濾し紙」で漆を濾してきれいにします。
必要な方はこちらをご覧ください↓
▪実作業▪
12:41~15:03まで再生
それでは下塗りに取り掛かります。
まずは「極細筆」を使って「輪郭」を括っていきます。
塗りの手順
▪▪▪
始めは「極細筆」↑を使用
㊧ 塗りの手順は「広い面」も「狭い面(線)」も同じです。
1.㊨ まずは「極細筆」で輪郭を塗っていきます。
キワキワまで塗り残しが無いように気を付ける。かつ、なるべくはみ出さない◎
ここからは「小筆」↑を使用
2.「小筆」輪郭の内側を塗り潰します。
とりあえず内側全体に漆を配ってしまいます。
3.㊧ 修理箇所の「短手方向」(例えば左→右)に小筆を細かく通す。
「隙間」が空かないように、「筆を通した跡」に少し被せるようにして次の筆を通す。
※ 下図を参照してください。
線が細過ぎて、「短手方向に」筆が通せない場合は無理せずスルーしてください。
(Ⓑの細い箇所)
4.㊨ 反対方向の短手側に筆を通す。
これら作業の際、「漆の塗り厚」がなるべく均一になるように意識して、筆を通してください。
ちょっと「漆の厚いところから、薄いところに移動させる」ような感覚です。
つまり、漆の表面を「撫でるように」筆を動かすのではなく、もうちょっと筆圧を上げる感じです。
「筆を通した跡」に少し筆を被せて通す…とは↑こうゆうことです◎
(伝わりますか??)
5.同様に「長手方向」にも筆を揃えて通します。
線が細過ぎて、「短手方向に」筆が通せなかった部分でも、「長手方向」になら通せることが多いので、できるだけ筆を通して、漆の厚みを均一にしておきます。
特に最後の「通し」では、「筆跡(筆を通した筋)」を消すような感覚で、撫でるような筆圧で通してください◎
「キワ」塗りの手順
▪▪▪
「極細筆」でキワを塗るときの手順です。
「極細筆」↑を使用
※ 修理箇所の部分だけを「塗り残し&はみ出し無く」きれいに塗りたい場合の話です。
漆がはみ出しても気にしない方針でやっている人は読まなくて大丈夫です◎
↑最初からキワキワを攻めて一発で塗れたら、めちゃくちゃオッケーです◎
ですが、「一発」で「はみ出し&塗り残し」なしで塗るのは至難の技ですよね。
一発でキワを塗ろうとすると下図のように↓
所々、はみ出してしまう箇所が出てきやすくなります。
ですので、「はみ出さないで塗りたいな~」という人は、塗りの一発目からキワのぎりぎりを攻めすぎない方がいいと思います。
(特に技術がついてきていないうちは)
まずは上図↑のようにキワの「ぎりぎり内側を塗る」ような感覚を意識します。
キワの「境界線の内側」を強く意識します。
所々、キワに「塗り残し」があってもいいです。
「はみ出す」よりも「塗り残す」方がいいです◎
もちろん、きわきわまでピタッと塗れたら、それが一番いいです。
次にキワの塗り残しを、筆を何度か通して塗り潰していきます。
筆を何度も通しつつ、修理箇所の「内側から外側(「キワ」の境界線)に向かって」、徐々に漆で塗り潰していくようなイメージでキワ塗りの作業をおこないます。
上で解説した「塗りの手順」通りにやっていません。済みません。
まずは「輪郭」を、はみ出さないように塗っていってください。
あほ館長は
アホね
皆さんはぜひ、手順通りにやってください◎
錆漆をついている面はすべて覆うように漆を塗っていきます。
塗り残しのないように気を付けます。
赤点線部分の器とのキワを特に注意してください。
漆がはみ出した時
の掃除
▪▪▪
● 地塗り以外の漆塗りの場合(漆の捨て塗り/下塗り/中塗りの場合)
・アルコールをほんのり含ませた綿棒でピンポイント掃除
・アルコールを付けたウエス/ティッシュで全面拭き取ってやり直し
・朴の木ベラでピンポイント掃除
(ルーペで見ながら作業するとやりやすい)
輪郭が塗り終わったら、その「内側」を普通の小筆で塗っていきます。
輪郭の内側を塗りつぶします。
漆が厚塗りにならないように注意します。
漆は厚く塗ると「縮む」可能性があります。
ですので、基本的には「薄く」「均一」になるように塗っていきます。
「ちぢむ…ってなんですか??どういうことですか?」
はい、厚すぎると”ちぢみ”が生じます。しわしわになります。しかも中が乾きません。一か月くらい待てば乾きますが。
漆のちぢみ
▪▪▪
● 縮みが起こる条件
① 漆の塗り厚が厚過ぎる
② 乾きが早すぎる
・湿し風呂の中をあまりに高温湿度条件にした場合
・濡れタオルが近すぎる場合
こんな感じになります。シワシワになるわけです。
塗膜表面と塗膜の中の方との乾くスピードに「差」があり過ぎるとこうなるのだと思います。多分。
最後、筆を「上下左右」に通します。
「塗り厚」をなるべく均一にするとともに、「筆跡」を揃えます。
漆を乾かす
作業が終わったら湿度の高い場所に置いて漆を硬化させます。
そう、漆は空気中の水分を取り込んで硬化するのです。不思議な樹液ですね◎
【漆が乾く最適条件】
え~!
「高」湿度!の場所??
はい、その通りです◎
漆が乾く上記の条件を作るために「箱」を用意します。
手っ取り早く手に入る「段ボール」を例にご説明します。
① まず下にビニール袋を敷いて、段ボールが濡れるのを防ぎます。
次に濡らして「固く絞った」キッチンペーパー(もしくはウエス)を中に置きます。
② 作業が終わった器を入れます。できればウエスから少し離した場所に置きます。
(上の画像よりも、もう少し離れた場所に置いた方がいいです)
③ 蓋を閉めて、湿度が逃げないようにします。
④ 鳩は入らないようにします◎
漆の乾きがよくないようでしたら、こまめに湿度を与えます。(5時間おきとか)
大体の場合は、初めに湿度を与えてあげればしっかりと乾きます。
※【箱】…段ボール、コンテナ、発泡スチロール…等々、何でも構いません。
要するに湿度が逃げない(逃げにくい)ように「閉じた空間」が作れればオッケーです。
※【布類】…水を含ませておくためのものですので、何でも構いません。
使っているうちにカビが生えたり、匂いがしてきたりするので、「キッチンペーパー」が使い勝手がいいようです。(匂ってきたら捨てられますから)
漆の乾きに1~2日間待ちます。
??何で「湿度の高い」場所に置くの??乾かないんじゃない?…と思われますよね。
実は漆が乾くメカニズムというのが、普通じゃないんです。
…ということなのです。
漆の世界では「硬化」することを「乾く」と呼んでいる…ってことです。
「ラッカーゼ」が元気に働いてくれると、漆が硬化するということでして、、、
【漆が乾く最適条件】
湿度:70~85%
温度:20~30℃
ということになります。
だたし、この条件は「最適条件」ということでして、この条件を上回っていても、下回っていても、乾きます。
しかし、この最適条件から
●「下回るにつれ」と「乾きづらく」なっていき、「大幅に下回る」と「ほぼ乾かなくなる」こともあります。
●「上回るにつれ」と「乾きづらく」なっていき、「大幅に上回る」と「ほぼ乾かなくなる」こともあります。
のでご注意ください。
「段ボールなんてダサくて嫌!」という方は↓のページを参考にバージョン・アップさせていってください。
使用「後」の筆の洗い方
漆を使った筆は作業後、「油」で洗います。
油で洗わなで、アルコールやテレピンで洗うと筆の中に僅かに残った漆が硬化するので、次第に筆がゴワゴワしてきて使い物にならなくなります。
作業工程
① 折り畳んだティッシュで漆の付いた筆を包む。
② ティッシュを摘まんでギュッと漆を絞り出す。(数回おこなって、しっかりと絞り出す)
③ 筆に油を含ませる。
④ 作業盤の上で捻ったりしながら油を馴染ませる。
⑤ 筆の根元からヘラで「油+漆」を「優しく」しごき出す。
(特に毛先はヘラが強く当たらないようにする。強く当てると毛先が劣化してカールしてきたり、まとまらなくなってきます)
⑥ ヘラで廃油を掬い、ティッシュに吸わせる。
⑦ 再び油を含ませる
⑧ 作業盤の上で、ヘラを使って絞り出す
⑨ 廃油の中に漆分が(ある程度)含まれなくなるまで…つまり「透明度」が高くなるまで繰り返す。
⑩ 最後に綺麗な油を筆に含ませ、軽くティッシュに吸い取らせます。
⑪ 洗い終わった筆は付属のキャップをして保管する
使う道具/材料
・サラダ油
・ゲル板
・ティッシュペーパー
・エッジが鋭くないヘラ(筆洗いベラ)
① 折り畳んだティッシュの上に漆の付いた筆を置きます。
② 両側から筆をティッシュで包んで、ぎゅっと摘まみ、漆を絞り出します。
③ これを数回おこなって、しっかりと絞り出します。
この時点でしっかりと漆を絞り出してしまった方が、この後の「油で洗う」時、筆が早く綺麗になります◎
③ 油の入った瓶に筆を入れて、油を含ませます。
④ ゲル板の上で優しく捻ったり、クネクネ(?)させたりして、筆に油を馴染ませます。
(こんな表現でいいんでしょうか?)
⑤ ゲル板の上で筆の根元からヘラで「油+漆」を「優しく」しごき出します。
※ 「優しく」しごかないと筆が痛みやすくなります。特に「毛先」が痛みやすいので、毛先は軽く触る程度にしてください。
※ 根元に漆が残りやすく、それが影響して、筆先が割れてくると思われますので、入念に掻き出します。
⑥ 筆の中の「油+漆」の廃油がしごき出せたら、ヘラで廃油を掬い、、、ティッシュに吸わせます。
こうして廃油をどかしておくと、作業盤の上が常にクリーンな状態で筆の洗い作業ができます◎
この後は「③→④→⑤→⑥」を繰り返します。
廃油の中に漆分が(ある程度)含まれなくなるまで…つまり「透明度」が高くなるまで繰り返します。
⑦ 最後に綺麗な油を筆に含ませ、軽くティッシュに吸い取らせます。
⑧ 付属のキャップを被せて終了です◎
※ キャップが無かったらサランラップを丁寧に巻いてください。キャップがない、もしくはキャップを作りたいという方はこちら↓を参考にしてください。
▸ 筆のキャップの作り方
使用後の筆の洗い方でもっと詳しく知りたい方は↓こちらのページをご覧ください。
▸ 使用後の詳しい筆の洗い方
【 お掃除、お掃除 】
全ての作業が終わったら作業板を掃除します。
テレピン(又はエタノール、灯油など)を垂らして、ウエスやティッシュできれいに拭き取ってください。
caution !
厳密に言うと、掃除をし終わった後の作業板の上には「ごくごく薄っすら」と漆の成分が残っています。
ですので、この作業が終わるまではしっかりとゴム手袋をして、ゴム手袋を外したあとは作業板を含めて漆の道具類を触らないようにした方がいいです。
本日の作業はここまでです◎
お疲れ様でした。
次の作業をご覧になりたい方はこちらのページへ↓
この器の他の修理ページを見る
<番外ヘン> 金継ぎについてちと気になったこと
「字通」の白川先生が提唱した「サイ」説。
私たちが「『右、吉』などの字に含まれている『口』という形を、人の『口』だと考えてきたが、それは間違いで神への祈りの文である祝詞を入れる器の形の(さい)をあらわしたものである。
そして、中国の殷での占い(ウィキペディアより)
骨・甲羅などの裏側に小さな穴を穿ち、熱した金属棒(青銅製であったといわれている)を穴に差し込む。しばらくすると表側に卜形のひび割れ が生じる。事前に占うことを刻んでおき、割れ目の形で占い、判断を甲骨に刻みつけ、爾後占いの対象について実際に起きた結果が追記された。その際に使われ た文字が甲骨文である。
ひびや割れ目を異界や天からのメッセージとして読み取る。
この二つを考えると(特に白川先生のサイ説)、器のひびや割れ目に何かのメッセージを読みだそうとするのは人間の抗いがたい本性的な行いのような気がしてきます。古代中国でもそうだったのですから。