※ このページでは、多くの写真を他の修理コンテンツから借りて解説しています。
ご了承ください。
ファイツ!!
2020.6 全面リニューアル済み
急須の取っ手
初心者向け
難易度:
充填材:刻苧(パテ)+錆漆(ペースト)
使用粉:真鍮粉(金色の粉)
こだわり度:簡単・お手軽
今回のシリーズはあまり「完成度の高さ」にこだわらずに、「そこそこ」に仕上げます◎
※ 〈取っ手の壊れた急須〉の「伝統的な本当の金継ぎ修理」のやり方を説明していきます。
このページでは金継ぎ修理の工程のうち〈繕い錆を研ぐ~中塗りまで〉のやり方を解説していきます。
金継ぎ修理を始めるその前に…
本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。
※ 万が一、漆が肌に付いた場合はすぐに「油(サラダ油など)」でよく洗って下さい。
油?? そうです。「油」をつけ、ゴシゴシ漆を洗い落としてください。その後、その油を石けんや中性洗剤で洗い流してください。
※ もし、かぶれてしまい、それがひどくなるようでしたら、医者に行って処方してもらってください。
【道具・材料と購入先を見る】↓
作業を始めるにあたって、まずは装備を…
金継ぎでは本漆を使うので「ディフェンシブ」に行きましょう。
ゴム手袋は必需品です◎ 漆をなめちゃいけません◎
※ 作業後、油分多めのクリームを手、腕など、肌が露出していたところ(夏場は脚・足にも)に塗っておくと、カブレにくかった…というコメントをいただきました。
(塗り忘れたときは、毎回、痒くなった…そうです)
気になる方はやってみてください◎
注意:
修理箇所に油分をつけてしまうと、その箇所だけ漆が乾かなくなります。
(手脂でも乾かなくなります)
ご注意ください!
※ 修理箇所に油分が付いてしまった場合は、エタノールで入念に拭きあげるか、台所用中性洗剤で洗えば大丈夫です◎
【繕い錆研ぎ】
前回、ピンポイントで付けた「繕い錆」を研いでいきます。
ササさッと研ぐだけなので簡単で、直ぐに終わります◎
※ 錆漆が「厚目」についていて、研ぐよりも「削り作業」から始めた方が早そうだったら、彫刻刀やカッターなどで削ってください。
繕い錆研ぎの目的
「捨て塗り&研ぎ」で見つけた「わずかな凹み/ピンホール」を、前回、「繕い錆」で埋めたわけです。
それを研ぐことで、「凹み」も「ピンホール」もない「錆下地」を完成させ、次からの「漆塗り」に繋げます。
※ ただし、まだほんの微細な歪み/凸凹は残っているので、次の「下塗り&研ぎ」でそれを修正していきます。
〈使う道具/材料〉
道具:
③ ウエス→スポンジの方が使いやすい
④ 要らなくなったハサミ
⑤ 小さな水入れ
〇 水桶(もあった方がベター)
材料:
① 水差し
② 耐水ペーパー
→実は駿河炭が断然おススメ
※ その他、本漆金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
▸ 本漆金継ぎで使う道具・材料ページ
※「要らなくなったハサミ」は耐水ペーパーを切るのに使います。
ペーパーを切るとハサミが「ばか」になって他のものが切れなくなります。
要らなくなったものか、100均などで買った安いものを使ってください◎
今回は「繕い錆」の研ぎなので、#400~600程度の耐水ペーパーで研いでいきます。
使う耐水ペーパーの選択ですは下記の表を参考にしてください↓
使うペーパーの
チョイス!
▪▪▪
錆研ぎ | ・(きれいに削れていない場合) #240~#320 ・(きれいに削れた場合) #320∼#400 |
捨て塗り研ぎ (漆塗り1回目) |
#400~600程度 |
繕い錆研ぎ | #400~600程度 |
下塗り研ぎ (漆塗り2回目) |
#600~800程度 |
中塗り研ぎ (漆塗り3回目) |
#800~1000程度 |
の耐水ペーパーで研ぐのがよろしいかと思います。
■ 耐水ペーパーの仕立て方
ちょっと面倒ですが、研ぎ面をよりきれいな形に仕上げるためと、修理箇所以外を傷付けないために、ペーパーにひと手間加えます。
耐水ペーパー
の仕立て方
▪▪▪
耐水ペーパーを小さく切って使います。
切れ味の落ちたハサミで、耐水ペーパーを1×1㎝くらいに小さく切ります。
それを「三つ折り」にします。
(↑ペーパーを三層構造の「硬い」板にして使います)
ペーパーは少量の水をつけながら研ぎ作業をおこないます。
理由は2つです。
1.研ぐ面積を極力少なくするため
2.平面保持強度を高めるため
【1の理由】
「耐水ペーパー」って研磨力がとても強いので、器の釉薬(表面)を傷つけてしまうのです。
研いだ後、修理箇所周辺の釉薬が薄っすらと曇っているのは、あれは「細かい傷」が付いたからなのです。
なので、「なるべく」ですが、周りの釉薬が傷つかないようにペーパーを小さくして使いたいわけです◎
【2の理由】
「三つ折り」するというのは、ペーパーの「平面保持強度」を高くするためです。
なるべく「研ぐ方の道具」の平面を維持したいわけです。
ペーパー1枚で研いでいると「へなへな」してしまいます。紙なので柔らかいですよね。
それを使って研いでいると↓この「Aコース」のような仕上がりになります。
↑ペーパー1枚で研いでいると「Aコース」になるわけです。
紙一枚だと「研ぐ方の道具」が柔らかいので、「研がれる方のもの=錆漆(←硬いもの)」の形に沿ってしまい、その形通りに研いでしまいます。
錆漆の「山の角の部分(エッジ)」は軽くさらうことはできるのですが、「綺麗な曲面に形作る」ことは難しくなります。
一方、「Bコース」のペーパー3枚重ね(三つ折り)だと、「研ぐ方の道具」の「硬さ」が3倍になるわけです。
「研がれる方のもの=錆漆」の形に引っ張られず、研ぎによって錆漆の形を作っていくことが可能になります。
※ ペーパー1枚に比べて…という話です。
平面維持強度をもっと上げて、「きれいにな形を作る」作業がしたかったら
「漆研ぎ用の“駿河炭”」が断然おススメです。
■ 駿河炭の仕立て方
「研ぎ道具」としては、実は「駿河炭」が最強のアイテムです◎
何といっても、耐水ペーパーと違って器に傷が入らない!
できれば使ってみていただきたいです!
‣駿河炭が断然おススメな理由
駿河炭
の仕立て方
▪▪▪
炭は大きな塊で売っているので、自分で小さく切って使います。
① まずはカナノコ(金鋸)の刃で厚さ15~20㎜程度に輪切りにします。
② 次に薄い板状になった炭の塊りを、大き目のカッターナイフで「割っていきます」
③ さらにカッターで割って、大小さまざまな面積のものを用意します。
使う際は炭の「研ぎ面」を砥石(または耐水ペーパー)の上で研いで、平面にします。
少量の水を付けながら修理箇所を研いでいきます。
修理箇所を研いでいると炭の研ぎ面が崩れてきますので、ちょこちょこと砥石(またはペーパー)に当てて、研ぎ面を修正します。
詳しくはこちらのページをご覧ください↓
▪実作業▪
● 器は違いますが、参考になりそうな「繕い錆研ぎ作業」の動画です↓
4:40~7:19まで再生
4:00~5:26まで再生
前回、「ピンポイントで付けた繕い錆」を研いでいきます。
「捨て塗り研ぎ」の時点である程度の平滑面の精度が出ているはずなので、この作業は簡単に済むかと思います。
研ぎ終わりました。
「①ピンホール/②凹み」がきれいに錆漆で埋まっています◎
これでかなりの精度の平滑面ができてきました。
【漆の下塗り】
「漆を塗って⇆研ぎで」を2,3回繰り返します。
「下塗り&研ぎ」の目的
「下塗り」も「中塗り」も同じ「漆を塗る」作業なのですが、「目的」が少し異なります。
■「下塗り&研ぎ」の役割
「微細な凸凹」を修正しつつ、自分が望む最終的な「欲しい形」の精度に詰めていく
前回作業の「繕い錆&研ぎ」でかなりの精度の平滑な面ができたのですが、実はまだ微妙に凸凹しているのです。
大袈裟に描くと↑こんな感じの歪みがまだ残っています。
この「微細な歪み」を「下塗り&研ぎ」で修正していきます。
そういえば
「下塗り」以外にも
「中塗り」とか「地塗り」とか、
さらには「捨て塗り」とか
いろいろあるけど、、、
それって何が違うの?
どんな意味があるの??
…という疑問が湧いてきますよね。
ちょっと込み入った話にはなってしまいますが、詳しく解説したページを用意しましたので、興味のある方はこちらをご覧ください↓
〈使う道具/材料〉
道具:
② ティッシュぺーパー
④ 蒔絵筆またはインターロン筆
⑥ 練りベラ ‣作り方ページ ‣作り方の動画
⑦ 作業盤(ガラス板など)
‣作り方ページ ‣作り方の動画
○ ゲル板 ○ サランラップ
材料:
① アルコール(テレピン、灯油など)
⑤ 精製漆(今回は”黒呂色漆”…黒い色の漆)
⑧ サラダ油
※ その他、本漆金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
▸ 本漆金継ぎで使う道具・材料ページ
「生漆」しか持っていないのですが、どうしたらいいですか?
はい、それではこちらへどうぞ ↓
↑ この茶色半透明の漆でも「漆塗り」はできるのですが、半透明だと「どこを塗ったのかわかりにくい」のです(涙)漆に色を付けたい方はこちらへ ↓
使用「前」の筆の洗い方
※ 蒔絵筆(高級な筆)の場合は「漆」で洗ってください。毛が痛みづらくなります。
‣ 蒔絵筆の洗い方の動画
まずは筆をテレピン(または灯油)で洗って筆の中の「油」を洗い出します。
▸ 詳しい作業前の筆の洗い方
どうして筆に「油」が付いてるの??…かといいますと、漆作業で使った筆は最後に油で洗っているからなのです。油で洗うと筆の中に残った微量な漆が乾きません。
漆と油とは相性が悪いのですが、それを利用して、保管するときには油で洗います。
逆に、使う時にはその油を除去します。
使う道具/材料
・テレピン
・ティッシュペーパー
① 折り畳んだティッシュに筆を包みます。
④ これを3,4回繰り返して、しっかりと油を搾り取ります
⑤ 作業盤の上にテレピンを数滴、垂らします。
⑥ 筆にテレピンを含ませます。
筆は作業盤の上で捻ったりして、しっかりとテレピンと馴染むようにします。
⑦ ティッシュの上に筆を乗せます。
⑧ ティッシュの上からギュッと摘まんで、「油+テレピン」を絞り出します。
この後、「⑥→⑦→⑧」を2~3回、繰り返します。
この作業で筆のなかの油分をしっかりと除去します。
筆の中に油が残っていると漆が乾かないことがありますのでご注意ください。
「エタノール」などの揮発性の強いもので洗うと、テレピンよりも油分がしっかりと除去できますが、その分、筆への負担も大きくなり、傷みやすくなります。
ですので、金継ぎ図書館では筆が傷みにくいテレピン、灯油などをおススメしています。
ちなみに筆が一番、痛まないのは「漆」で洗うことです。
‣ 漆での筆の洗い方動画
特に高価な「蒔絵筆」を洗う際には漆で洗ってください。
筆に漆を付けて、いきなり塗り始めると、初めのうち、テレピンの影響で薄くなる可能性があります。
ですので、「塗り始める」前に一度、筆に漆を含ませて、筆と漆とを馴染ませてください。
漆の準備
筆の準備が済んだら、今度は漆の用意をします。
漆の中にゴミがたくさん入っている場合などは「濾し紙」で漆を濾してきれいにします。
必要な方はこちらをご覧ください↓
▪実作業▪
● 違う器の「捨て塗り作業」ですが、参考になりそうな動画です↓
4:18~9:53まで再生
0:43~3:44まで再生
漆を塗っていきます。
下塗りの
「塗り厚」
■■■
- 漆塗りに慣れてきた方は、「少し厚目」に塗ってください。
- 初心者の方は用心する意味で、基本的に「少し薄目」に塗ってください。
※ 漆の厚みが「厚過ぎる」と「縮み」という現象が起こります!
① 輪郭を括る
まずは「輪郭」を括ったり、「細いライン」を描いていきます。
この筆を使います。
【塗りの手順】
その①
▪▪▪
■ 輪郭を括る
始めは「極細筆」↑を使用
塗りの手順は「広い面」も「狭い面(線)」も同じです。
1.まずは「極細筆」で輪郭を塗っていきます。
キワキワまで塗り残しが無いように気を付ける。かつ、なるべくはみ出さない◎
「広い面」のところは輪郭を括ります。
ぎりぎりのキワを塗っていきます。
修理箇所からなるべくはみ出さないように気をつけます。
「塗るキワ」は常に左側
(右利きの人)
■■■
右手で筆を持って塗る人でしたら、「常に“向かって左側”のキワ」を塗っていきます。
その方がキワのぎりぎりが見やすいはずです。
※ 左手で筆を持つ人は「向かって右側のキワ」を塗ってください。
片側がのキワが塗れたら、器をひっくり返し、反対側のキワが「向かって左側」にくるように持ち直して塗っていきます。
細いラインも「向かって左側のキワ」を塗っていきます。
器をひっくり返して、再び「左キワ」を塗っていきます。
基本的なことなのですが、一応、「キワの塗り方」についても説明しておきます↓
「キワ」塗りの手順
▪▪▪
「極細筆」でキワを塗るときの手順です。
「極細筆」↑を使用
※ 修理箇所の部分だけを「塗り残し&はみ出し無く」きれいに塗りたい場合の話です。
漆がはみ出しても気にしない方針でやっている人は読まなくて大丈夫です◎
↑最初からキワキワを攻めて一発で塗れたら、めちゃくちゃオッケーです◎
ですが、「一発」で「はみ出し&塗り残し」なしで塗るのは至難の技ですよね。
一発でキワを塗ろうとすると下図のように↓
所々、はみ出してしまう箇所が出てきやすくなります。
ですので、「はみ出さないで塗りたいな~」という人は、塗りの一発目からキワのぎりぎりを攻めすぎない方がいいと思います。
(特に技術がついてきていないうちは)
まずは上図↑のようにキワの「ぎりぎり内側を塗る」ような感覚を意識します。
キワの「境界線の内側」を強く意識します。
所々、キワに「塗り残し」があってもいいです。
「はみ出す」よりも「塗り残す」方がいいです◎
もちろん、きわきわまでピタッと塗れたら、それが一番いいです。
次にキワの塗り残しを、筆を何度か通して塗り潰していきます。
筆を何度も通しつつ、修理箇所の「内側から外側(「キワ」の境界線)に向かって」、徐々に漆で塗り潰していくようなイメージでキワ塗りの作業をおこないます。
ちなみに、器のどこから塗りはじめてもいいのですが、基本的には器の内側から始めて、次に器の外側という順番の方がおススメです。
「外側」→「内側」の順番だと、器の内側を塗っている時にうっかり「外側の塗ったところを手で持っちゃった!!」という失敗が起こりやすいのです。
それから、「器を持つ手の置き場所」や「塗ってる方の“小指の置き場”」がなるべく確保できるように、塗る順番を考えて塗っていってください。
もし、漆を塗っていて「うっかりはみ出してしまった!!」場合は…↓
漆がはみ出した時
の掃除
▪▪▪
● 地塗り以外の漆塗りの場合(漆の捨て塗り/下塗り/中塗りの場合)
・アルコールをほんのり含ませた綿棒でピンポイント掃除
・アルコールを付けたウエス/ティッシュで全面拭き取ってやり直し
・朴の木ベラでピンポイント掃除
(ルーペで見ながら作業するとやりやすい)
② 輪郭の内側を塗り潰す
輪郭が塗り終わったら、その「内側」を普通の小筆で塗り込んでいきます。
この小筆を使います。
全体がなるべく同じような厚みになるように気を付けながら、どんどん塗っていきます。
この時点では「きれいに塗ろう」というよりかは、厚みだけは気にしつつ、どんどん漆を「配って」塗り潰していく…という感じです。
【塗りの手順】
その②
▪▪▪
■ 輪郭の内側を塗り潰す
ここからは「小筆」↑を使用
2.「小筆」輪郭の内側を塗り潰します。
とりあえず内側全体に漆を「配って」しまいます。
できれば「均一な厚み」を意識して
漆を配ってください。
全体に漆が配れたら、最後に「筆を通し」ます。
③ 筆を通して漆を均す
漆が配り終わったら、最後、筆を上下左右に通すことで漆の塗り厚をなるべく均一にします。
「短手方向」に筆を小刻みに通し
↓
次に「長手方向」に筆を通します。
「細い線」の部分も、最後に筆を通します。
【塗りの手順】
その③
▪▪▪
■ 短手方向に筆を通す
3.修理箇所の「短手方向」(例えば左→右)に小筆を細かく通す。
4.反対方向の短手側に筆を通す。
Point
・線が細過ぎて、「短手方向に」筆が通せない場合は無理せずスルーしてください。
例:Ⓑの細い箇所
・「漆の厚いところから、薄いところに移動させる」ような感覚で「漆の塗り厚」がなるべく均一になるように意識して、筆を通してください。
つまり、漆の表面を「撫でるように」筆を動かすのではなく、もうちょっと筆圧を上げて「漆を引っ張る」感じです。
・この作業では「隙間」が空かないように、「筆を通した跡」に少し被せるようにして次の筆を通してください↓
「筆を通した跡」に少し筆を被せて通す…とは↑こうゆうことです◎
(伝わりますか??)
■ 長手方向に筆を通す
線が細過ぎて、「短手方向に」筆が通せなかった部分でも、「長手方向」になら通せることが多いので、できるだけ筆を通して、漆の厚みを均一にしておきます。
なるべく「小筆」で通していきます。
小筆だと太くて通しづらい線は「極細筆」を使って通してください。
Point
・特に最後の「通し」では、「筆跡(筆を通した筋)」を消すような感覚で、撫でるような筆圧で通してください◎
塗り終わりました◎
最後、塗り残しが無いかをチェックします。
これで「地塗り作業」は終了です。
ご注意!
● 漆は厚く塗りすぎると「縮む」可能性があります。
ですので、初心者の方は用心する意味で、基本的に「薄く」「均一」になるように塗ってください。
ちぢむ??
って何ですか?
漆のちぢみ
▪▪▪
● 縮みの影響
・こんな感じに↑漆の表面がシワシワになる
・表面は乾いているのに、塗膜の内側は乾いていない
内側まで乾くのに2~3週間くらいかかります。
塗膜表面と塗膜の中の方との乾くスピードに「差」があり過ぎるとこうなるのだと思います。多分。
● 縮みが起こる条件
① 漆の塗り厚が厚過ぎる
② 乾きが早すぎる
・湿し風呂の中をあまりに高温湿度条件にした場合
・濡れタオルが近すぎる場合
● 縮んだ場合の対処方法
① 放っておく(内側が乾くまで気長に待つ)→乾いたら研ぐ→塗り直す
② 固めのヘラなど(刻苧ベラとか?)でシワシワの箇所の塗膜を剥がす
※ 塗膜が柔らかいので、簡単に剥がせる。
→アルコール+ウエスでゴシゴシ拭き上げる→研ぐ→塗り直す
基本的には②の「剥がして→やり直す」方がよろしいかと思います◎
漆を塗る時って
やっぱ「一筆描き」じゃなくちゃ
ダメなんですか??
確かに「一筆描き」…って「達人」っぽいですね◎
でも全然、こだわらなくていいです。
それよりも、同じところを筆を数回通して、なるべく「漆の厚み」が一定になるようにしてください。
漆を乾かす
作業が終わったら湿度の高い場所に置いて漆を硬化させます。
そう、漆は空気中の水分を取り込んで硬化するのです。不思議な樹液ですね◎
【漆が乾く最適条件】
前後の環境に置く
※ 最適条件より下回っても、少しゆっくりになりますが乾きます◎
え~!
「高」湿度!の場所??
はい、その通りです◎
漆が乾く上記の条件を作るために「箱」を用意します。
手っ取り早く手に入る「段ボール」を例にご説明します。
① まず下にビニール袋を敷いて、段ボールが濡れるのを防ぎます。
次に濡らして「固く絞った」キッチンペーパー(もしくはウエス)を中に置きます。
② 作業が終わった器を入れます。できればウエスから少し離した場所に置きます。
(上の画像よりも、もう少し離れた場所に置いた方がいいです)
③ 蓋を閉めて、湿度が逃げないようにします。
④ 鳩は入らないようにします◎
漆の乾きがよくないようでしたら、こまめに湿度を与えます。(5時間おきとか)
大体の場合は、初めに湿度を与えてあげればしっかりと乾きます。
※【箱】…段ボール、コンテナ、発泡スチロール…等々、何でも構いません。
要するに湿度が逃げない(逃げにくい)ように「閉じた空間」が作れればオッケーです。
※【布類】…水を含ませておくためのものですので、何でも構いません。
使っているうちにカビが生えたり、匂いがしてきたりするので、「キッチンペーパー」が使い勝手がいいようです。(匂ってきたら捨てられますから)
漆の乾きに1~2日間待ちます。
??何で「湿度の高い」場所に置くの??乾かないんじゃない?…と思われますよね。
実は漆が乾くメカニズムというのが、普通じゃないんです。
…ということなのです。
漆の世界では「硬化」することを「乾く」と呼んでいる…ってことです。
「ラッカーゼ」が元気に働いてくれると、漆が硬化するということでして、、、
【漆が乾く最適条件】
湿度:70~85%
温度:20~30℃
ということになります。
だたし、この条件は「最適条件」ということでして、この条件を上回っていても、下回っていても、乾きます。
しかし、この最適条件から
●「下回るにつれ」と「乾きづらく」なっていき、「大幅に下回る」と「ほぼ乾かなくなる」こともあります。
●「上回るにつれ」と「乾きづらく」なっていき、「大幅に上回る」と「ほぼ乾かなくなる」こともあります。
のでご注意ください。
「段ボールなんてダサくて嫌!」という方は↓のページを参考にバージョン・アップさせていってください。
使用「後」の筆の洗い方
漆を使った筆は作業後、「油」で洗います。
油で洗わなで、アルコールやテレピンで洗うと筆の中に僅かに残った漆が硬化するので、次第に筆がゴワゴワしてきて使い物にならなくなります。
作業工程
① 折り畳んだティッシュで漆の付いた筆を包む。
② ティッシュを摘まんでギュッと漆を絞り出す。(数回おこなって、しっかりと絞り出す)
③ 筆に油を含ませる。
④ 作業盤の上で捻ったりしながら油を馴染ませる。
⑤ 筆の根元からヘラで「油+漆」を「優しく」しごき出す。
(特に毛先はヘラが強く当たらないようにする。強く当てると毛先が劣化してカールしてきたり、まとまらなくなってきます)
⑥ ヘラで廃油を掬い、ティッシュに吸わせる。
⑦ 再び油を含ませる
⑧ 作業盤の上で、ヘラを使って絞り出す
⑨ 廃油の中に漆分が(ある程度)含まれなくなるまで…つまり「透明度」が高くなるまで繰り返す。
⑩ 最後に綺麗な油を筆に含ませ、軽くティッシュに吸い取らせます。
⑪ 洗い終わった筆は付属のキャップをして保管する
使う道具/材料
・サラダ油
・ゲル板
・ティッシュペーパー
・エッジが鋭くないヘラ(筆洗いベラ)
① 折り畳んだティッシュの上に漆の付いた筆を置きます。
② 両側から筆をティッシュで包んで、ぎゅっと摘まみ、漆を絞り出します。
③ これを数回おこなって、しっかりと絞り出します。
この時点でしっかりと漆を絞り出してしまった方が、この後の「油で洗う」時、筆が早く綺麗になります◎
③ 油の入った瓶に筆を入れて、油を含ませます。
④ ゲル板の上で優しく捻ったり、クネクネ(?)させたりして、筆に油を馴染ませます。
(こんな表現でいいんでしょうか?)
⑤ ゲル板の上で筆の根元からヘラで「油+漆」を「優しく」しごき出します。
※ 「優しく」しごかないと筆が痛みやすくなります。特に「毛先」が痛みやすいので、毛先は軽く触る程度にしてください。
※ 根元に漆が残りやすく、それが影響して、筆先が割れてくると思われますので、入念に掻き出します。
⑥ 筆の中の「油+漆」の廃油がしごき出せたら、ヘラで廃油を掬い、、、ティッシュに吸わせます。
こうして廃油をどかしておくと、作業盤の上が常にクリーンな状態で筆の洗い作業ができます◎
この後は「③→④→⑤→⑥」を繰り返します。
廃油の中に漆分が(ある程度)含まれなくなるまで…つまり「透明度」が高くなるまで繰り返します。
⑦ 最後に綺麗な油を筆に含ませ、軽くティッシュに吸い取らせます。
⑧ 付属のキャップを被せて終了です◎
※ キャップが無かったらサランラップを丁寧に巻いてください。キャップがない、もしくはキャップを作りたいという方はこちら↓を参考にしてください。
▸ 筆のキャップの作り方
使用後の筆の洗い方でもっと詳しく知りたい方は↓こちらのページをご覧ください。
▸ 使用後の詳しい筆の洗い方
【 お掃除、お掃除 】
▪▪▪
全ての作業が終わったら作業板を掃除します。
テレピン(又はエタノール、灯油など)を垂らして、ウエスやティッシュできれいに拭き取ってください。
caution !
厳密に言うと、掃除をし終わった後の作業板の上には「ごくごく薄っすら」と漆の成分が残っています。
ですので、この作業が終わるまではしっかりとゴム手袋をして、ゴム手袋を外したあとは作業板を含めて漆の道具類を触らないようにした方がいいです。
【下塗り研ぎ】
漆が乾いたら研いでいきます。
下塗り研ぎの目的
「微細な凸凹」を消しつつ、自分が望む最終的な「欲しい形」の精度に詰めていく
「下塗り研ぎ」の段階では塗った漆を研ぎ破って「錆下地」が出てきてもいいので、とにかく「修理箇所の形状」を自分が理想とする形に詰めていきます。
〈使う道具/材料〉
道具:
③ ウエス→スポンジの方が使いやすい
④ 要らなくなったハサミ
⑤ 小さな水入れ
〇 水桶(もあった方がベター)
材料:
① 水差し
② 耐水ペーパー
→実は駿河炭が断然おススメ
※ その他、本漆金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
▸ 本漆金継ぎで使う道具・材料ページ
※「要らなくなったハサミ」は耐水ペーパーを切るのに使います。
ペーパーを切るとハサミが「ばか」になって他のものが切れなくなります。
要らなくなったものか、100均などで買った安いものを使ってください◎
今回は「下塗り」の研ぎなので、#600~800程度の耐水ペーパーで研いでいきます。
ちなみに使う耐水ペーパーの選択ですが下記の表を参考にしてください。
使うペーパーの
チョイス!
▪▪▪
錆研ぎ | ・(きれいに削れていない場合) #240~#320 ・(きれいに削れた場合) #320∼#400 |
捨て塗り研ぎ | #400~600程度 |
繕い錆研ぎ | #400~600程度 |
下塗り研ぎ | #600~800程度 |
中塗り研ぎ | #800~1000程度 |
の耐水ペーパーで研ぐのがよろしいかと思います。
● 耐水ペーパーの仕立て方
ちょっと面倒ですが、研ぎ面をよりきれいな形に仕上げるためと、修理箇所以外を傷付けないために、ペーパーにひと手間加えます。
耐水ペーパー
の仕立て方
▪▪▪
耐水ペーパーを小さく切って使います。
切れ味の落ちたハサミで、耐水ペーパーを1×1㎝くらいに小さく切ります。
それを「三つ折り」にします。
(↑ペーパーを三層構造の「硬い」板にして使います)
ペーパーは少量の水をつけながら研ぎ作業をおこないます。
理由は2つです。
1.研ぐ面積を極力少なくするため
2.平面保持強度を高めるため
【1の理由】
「耐水ペーパー」って研磨力がとても強いので、器の釉薬(表面)を傷つけてしまうのです。
研いだ後、修理箇所周辺の釉薬が薄っすらと曇っているのは、あれは「細かい傷」が付いたからなのです。
なので、「なるべく」ですが、周りの釉薬が傷つかないようにペーパーを小さくして使いたいわけです◎
【2の理由】
「三つ折り」するというのは、ペーパーの「平面保持強度」を高くするためです。
なるべく「研ぐ方の道具」の平面を維持したいわけです。
ペーパー1枚で研いでいると「へなへな」してしまいます。紙なので柔らかいですよね。
それを使って研いでいると↓この「Aコース」のような仕上がりになります。
↑ペーパー1枚で研いでいると「Aコース」になるわけです。
紙一枚だと「研ぐ方の道具」が柔らかいので、「研がれる方のもの=錆漆(←硬いもの)」の形に沿ってしまい、その形通りに研いでしまいます。
錆漆の「山の角の部分(エッジ)」は軽くさらうことはできるのですが、「綺麗な曲面に形作る」ことは難しくなります。
一方、「Bコース」のペーパー3枚重ね(三つ折り)だと、「研ぐ方の道具」の「硬さ」が3倍になるわけです。
「研がれる方のもの=錆漆」の形に引っ張られず、研ぎによって錆漆の形を作っていくことが可能になります。
※ ペーパー1枚に比べて…という話です。
平面維持強度をもっと上げて、「きれいにな形を作る」作業がしたかったら
「漆研ぎ用の“駿河炭”」が断然おススメです。
● 駿河炭の仕立て方
「研ぎ道具」としては、実は「駿河炭」が最強のアイテムです◎
何といっても、耐水ペーパーと違って器に傷が入らない!
できれば使ってみていただきたいです!
‣駿河炭が断然おススメな理由
駿河炭
の仕立て方
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炭は大きな塊で売っているので、自分で小さく切って使います。
① まずはカナノコ(金鋸)の刃で厚さ15~20㎜程度に輪切りにします。
② 次に薄い板状になった炭の塊りを、大き目のカッターナイフで「割っていきます」
③ さらにカッターで割って、大小さまざまな面積のものを用意します。
使う際は炭の「研ぎ面」を砥石(または耐水ペーパー)の上で研いで、平面にします。
少量の水を付けながら修理箇所を研いでいきます。
修理箇所を研いでいると炭の研ぎ面が崩れてきますので、ちょこちょこと砥石(またはペーパー)に当てて、研ぎ面を修正します。
詳しくはこちらのページをご覧ください↓
▪実作業▪
ペーパーの#600~800程度、または駿河炭で水研ぎしていきます。
耐水ペーパーを使う場合には修理箇所以外に「なるべくはみ出さないように」研いでください。
(と言ったって、「線」を研ぐ時ははみ出しますよね~)
器の釉薬(器の表面)よりも耐水ペーパーの方が「硬い」ので、ごく薄っすらとですが傷が入るのです。
炭の場合は、器に傷が入りません。
炭で研いだ方が「研いだ形」がうねうねしづらいので、「炭研ぎ」がおススメです◎
大袈裟に描くと、下塗り段階ではこんな感じ↑に「歪んでいる」場合が多いです。
これを研いで修正していきます。
「形自体」を「自分が望むきれいな形」になるように修正していくので、漆層を研ぎ破って錆地が出てくる場合が多いです。
この「下塗り+研ぎ」作業というのは、研ぎ破ってでも高精度な平滑な「形」を作っていく段階と考え、次の「中塗り+研ぎ」でバチっと研ぎ破りなく仕上げるための布石を置く作業と捉えるべきだと思います。
器の内側は研ぎづらいことも多いですが、しっかりと研ぎ上げます。
「下塗り研ぎ」終了です◎
「下塗り研ぎ」が終わった時点で
- 自分なりに納得のいく形状になった
- 研ぎ破って「錆下地」が出てきていない
…という状態だったら、次の「中塗り&研ぎ」を飛ばして、「地塗り(蒔絵)」に進んで大丈夫です。
この「繕い錆研ぎ後」の1回目の漆塗り(下塗り)を「わずかな凹み/研ぎ破り」も無く研ぎ上げることができれば、そのまま「中塗り」を飛ばして「地塗り(蒔絵)」へと工程を進めることができます。
ただし、あくまで優先させるべきは「微細な凸凹を消し、最終的な自分が望む形の精度に詰めていく」ということです。
塗った漆を「研ぎ破らない」ことを優先させ、恐る恐る研ぐ段階ではない…と金継ぎ図書館では考えています。
【漆の中塗り】
「漆を塗って⇆研ぎで」を2,3回繰り返します。
「中塗り&研ぎ」の目的
■「中塗り&研ぎ」の役割
錆下地を完全に漆で覆う(←漆の研ぎ破りがない状態)
=「地塗り(蒔絵)」ができる状態にする
「下塗り研ぎ」の段階では塗った漆の層を所どころ研ぎ破ってしまって、「錆下地」が露出して待っているケースが多くなります。
「地塗り(蒔絵)」をするためには、基本的には修理箇所に「錆下地」が露出していないことが条件になります。
その条件を満たすため、「中塗り&研ぎ」の作業で↑このように、錆下地を完全に漆で覆います。
そういえば
「中塗り」以外にも
「下塗り」とか「地塗り」とか、
さらには「捨て塗り」とか
いろいろあるけど、、、
それって何が違うの?
どんな意味があるの??
…という疑問が湧いてきますよね。
ちょっと込み入った話にはなってしまいますが、詳しく解説したページを用意しましたので、興味のある方はこちらをご覧ください↓
▪実作業▪
中塗りの
「塗り厚」
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- 漆塗りに慣れてきた方は、「少し厚目」に塗ってください。
- 初心者の方は用心する意味で、基本的に「少し薄目」に塗ってください。
※ 漆の厚みが「厚過ぎる」と「縮み」という現象が起こります!
作業内容としては「下塗り」と同じになりますので、そちらを参考に作業してください。
漆の乾きに1~2日間待ちます。
本日の作業はここまでです◎
お疲れ様でした。
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その他の作業ページを見る
- P01 素地の研ぎ~麦漆接着
- P02 麦漆削り~刻苧付け
- P03 刻苧削り~錆付け
- P04 錆削り・研ぎ~捨て塗り
- P05 捨て塗り研ぎ~繕い錆付け
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