2/7 【取っ手が割れた】急須の金継ぎ方法~刻苧漆の充填まで

本漆金継ぎ

※ このページでは、多くの写真を他の修理コンテンツから借りて解説しています。
ご了承ください。

 

 ファイツ!!

 

2020.5 全面リニューアル済み

 

急須の取っ手

初心者向け

難易度1.5
充填材
刻苧(パテ)+錆漆(ペースト)
使用粉真鍮粉(金色の粉)
こだわり度簡単・お手軽
今回のシリーズはあまり「完成度の高さ」にこだわらずに、「そこそこ」に仕上げます

 

 

 

〈取っ手の壊れた急須〉の「伝統的な本当の金継ぎ修理のやり方を説明していきます。

このページでは金継ぎ修理の工程のうち
麦漆を削る~刻苧漆の充填まで
のやり方を解説していきます。

 

 

 

金継ぎ修理を始めるその前に…

 

 
【ご注意!】


本物の漆
を使った修理方法ですのでかぶれる」可能性があります。

 

※ 万が一、漆が肌に付いた場合はすぐに「油(サラダ油など)」でよく洗って下さい

油?? そうです。「油」をつけ、ゴシゴシ漆を洗い落としてください。その後、その油を石けんや中性洗剤で洗い流してください。

※ もし、かぶれてしまい、それがひどくなるようでしたら、医者に行って処方してもらってください。

 

 

【道具・材料と購入先を見る】↓

▸本漆金継ぎで使う道具・材料ページ

 

 

作業を始めるにあたって、まずは装備を…

←:使い捨てゴム手袋 / アームカバー:→

金継ぎでは本漆を使うので「ディフェンシブ」に行きましょう。
ゴム手袋は必需品です◎ 漆をなめちゃいけません◎

作業後、油分多めのクリームを手、腕など、肌が露出していたところ(夏場は脚・足にも)に塗っておくと、カブレにくかった…というコメントをいただきました。
(塗り忘れたときは、毎回、痒くなった…そうです)

気になる方はやってみてください◎

注意:
修理箇所に油分をつけてしまうと、その箇所だけ漆が乾かなくなります
(手脂でも乾かなくなります)
ご注意ください!

※ 修理箇所に油分が付いてしまった場合は、エタノールで入念に拭きあげるか、台所用中性洗剤で洗えば大丈夫です◎

 

 

 

 

【麦漆削り】

 

 

3∼4週間ほど待って麦漆(漆の接着剤)が乾いたら、接着時にはみ出した麦漆を刃物で削ります。

→次の作業(刻苧の充填または錆漆付け)をやりやすくします。

 

 

〈使う道具/材料〉

 道具:
下記の道具のいずれか、もしくは複数が用意できると作業がしやすくなります。
平丸〉の彫刻刀
〈平〉の彫刻刀
カーブ刃〉のカッター
普通のカッター(大)


※ その他、本漆金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
▸ 本漆金継ぎで使う道具・材料ページ

 

ベストな組み合わせは「①〈平丸〉の彫刻刀+②〈平〉の彫刻刀」です。

が、彫刻刀は砥石で研ぐ必要があります。←これって普通の人には厳しいですよね?

 

ということで、ベストではありませんが「落しどころ」として…

初心者さんには「③〈カーブ刃〉のカッター+④ 普通のカッター(大)」をおススメしています。

 

障子用のカーブ刃」は替刃式なので、切れ味が落ちたら刃を変えられます◎
「④ 普通のカッター(大)」は100均のものでオッケーです。

 

障子用丸刃カッターはホームセンターの「障子貼りコーナー」にありました。

刃先がRなので(丸味が付いている)、器の曲面部分、特に「器の内側」部分の削りにもある程度ですが、対応できます。

 

【平らな刃(直刃)の場合】
▪▪▪
  

想像してみると容易にご理解いただけると思いますが、「凹んでいる箇所に充填した素材」を削るのに、「平らな刃物」では削ることができません。
 

↑の画像を見てもらうと分かるように、「刃のエッジ」が器に当たってしまって、素材を綺麗な曲線に削ることができないのです。
 

この図像は分かりやすいように彫刻刀のイラストを使っていますが、カッターの刃でも同じです。
「直刃のカッター」では「内側に湾曲した箇所」を削ることはできません。
 
 
 
【カーブした刃の場合】
▪▪▪
 

 

「刃先がカーブした刃物」の場合、「刃のエッジ」が当たらないので、素材を綺麗な曲線に削ることができます。
 

カッターナイフの場合も「刃先がカーブした」ものの方が、凹んだ部分は綺麗に削れます。
 

 

 

▪実作業▪

 

違う器の「麦漆削り作業」ですが、参考になりそうな動画です↓


 
0:38~6:21まで再生

 


 
0:29~1:34まで再生

 

 

 

はみ出している麦漆があったら削っていきます。

 

接着時に麦漆(漆の接着剤)が薄く塗れていると、ほとんど「はみ出し」がありませんので、この削り作業も直ぐに終わります。

 

今回は「平丸の彫刻刀」を使いました。

彫刻刀には「刃表はおもて」「刃裏はうら」がありますが、どちら側を使ってもオッケーです。

削る場所場所によって使いやすい方を使ってください◎

 

器に「ピタリ」と刃を当てながら削っていきます。

 

 

器の方が刃物よりも硬いので、器が削れることはありません
当たっても大丈夫です。

 

器の内側も同様にはみ出した麦漆を削っていきます。

 

削った麦漆の削りかすを拭き取る

麦漆の削りカスが出ますので、削り作業が終わったらウエスできれいに拭きとります。

 

 

 

 

 

【刻苧漆(パテ)の充填】

 

 

割れたパーツを接着した時にできた「深い隙間」を充填材で埋めていきます。

金継ぎで使う「充填材」には2種類あります。

① パテ状の「刻苧漆こくそうるし
② ペースト状の「錆漆さびうるし

…の2種類です。

 

刻苧or錆漆を使うかの判断基準

←刻苧漆(写真左)/(写真右)錆漆→

欠損箇所を直す素材として「刻苧漆こくそうるし(漆のパテ)」と「錆漆さびうるし(漆のペースト)」の2種類があります。

 

錆漆を使うのか、それとも刻苧漆を使うのか…がよくわからない場合は、下記の表をジャッジする際の参考基準としてください。

 

 

基本的には「面積」ではなく、「深さ」を基準にしてください。

 傷の深さ   使う充填材 
深さ2㎜以上

刻苧漆こくそうるし(パテ)】を使用

一回の盛り厚は3㎜程度まで
それ以上の深さに充填する場合は数回に分けて充填する

 

深さ1~2㎜

錆漆でも刻苧漆でもどちらでもオッケー

※ 錆漆を充填する場合は一回の盛り厚は1㎜程度まで
それ以上の深さに充填する場合は数回に分けて充填する

 

深さ0~1㎜未満

錆漆さびうるし(ペースト)】を使用

一回の盛り厚は1㎜程度まで
それ以上の深さに充填する場合は数回に分けて充填する

 

 

●「深さ」を基準にするので、充填箇所が…

・面積が狭くても「深ければ」→刻苧漆
・面積が広くても「浅ければ」→錆漆

…というように考えてください。

 

● 「造形」を必要とされる場合には基本的には「刻苧漆」を使ってください。

↑こういった場合の「造形」には「粘土のように使える」刻苧漆の方が適しています。

 

   

今回は「深い穴」を埋めるので、「刻苧漆(漆のパテ)」を使うことにします。

 

 

 

【マスキング】

 

●「刻苧漆の充填」作業をする前に、もしかしたら「マスキング」が必要??

 

【 ザラザラ・マットな器を直している場合 】
▪ ▪ ▪

ヘラの扱いに慣れていなくて、修理箇所以外に刻苧漆が「はみ出しちゃいそうな気がする…」という方は、汚れ防止のための「マスキング」をしておいてください。

詳しくは↓こちらのページをご覧ください。

‣マスキングのやり方

 

 

 

〈使う道具/材料〉

 道具:
サランラップ
作業板(ガラス板など)
‣作り方ページ ‣作り方の動画
③ 刻苧ベラ ‣作り方ページ ‣作り方の動画  
④ 練りベラ ‣作り方ページ ‣作り方の動画
計量スプーン 1/4 (0.25㏄)

材料:
⑤ 生漆 ⑥ 小麦粉
⑦ 木粉 ‣作り方ページ ⑧ 水差し


※ その他、本漆金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
▸ 本漆金継ぎで使う道具・材料ページ

 

 

 

刻苧漆の作り方

 

 作業手順 
1.小麦粉に少しずつ水を加えつつ練り込み、「耳たぶ~つきたてのお餅」くらいにする
2.生漆を少しずつ「水練り小麦粉」に足しながら、よく練る
3.「ヘラがぎりぎりくっつかなくなるまで」木粉を少しずつ加えていく
 

 

それでは「刻苧漆」を作っていきます。
刻苧漆は…
刻苧漆 = 麦漆(漆の接着剤) + 木粉

で作ります。

 

配合比は…

【目分量の体積比】

小麦粉 10 : 10 生漆
↑この割合で「麦漆」を作って…

+ 木粉を加える


※ ヘラがぎりぎりくっ付かなくなる程度

 

※ 【体積比】です。お間違いなく。

 

 

それではまずは「麦漆」を作ります。

1.小麦粉、水を出します。

2.水を少しずつ足しつつ、練っていきます。
耳たぶ~突きたてのお餅くらいの感触になるまで

 

3.生漆を少しずつ足しつつ、練っていきます。

4.完成です◎

初めのうちは失敗しないように、計量スプーンを使うことをおススメします◎

   

麦漆が作れたら、次に木粉を混ぜていきます。

1.麦漆むぎうるし(接着剤)漆を1割くらい横に取っておきます。
(木粉を混ぜ過ぎた時のために)

2.木粉を少しずつ足しつつ、練っていきます。

 

3.ちょっとずつ様子を見ながら木粉を足していきます。

4.ヘラがぎりぎり「ぱっ」と離れるようになったらオッケーです。

(まだ「べたっ」「ねちょっ」とくっつくようだったら、もう少し木粉を足してください)

 

※ 木粉が少ない(麦漆の分量が多すぎる)といつまで経っても乾かない刻苧漆(パテ)になってしまいます!

 

 

さらに詳しい「刻苧漆の作り方」を見たい方はこちらをご覧ください↓

 

 

 

▪実作業▪

 

残念ながら、今回の作業にピタリと合う動画が無かったのですが、「そこそこ」参考になりそうな動画です↓


 
4:53~から再生

 

※もし、「欠けた」箇所があった場合の参考になる動画です↓


 
1:34∼から再生

 

 

刻苧ベラを使って、深い隙間に刻苧漆を詰め込んでいきます。

 

 

■ 段差がない箇所の刻苧付け

 

 

少しずつ埋めていきます。
しっかりと詰め込んでいく感じでやっていきます。

 

「刻苧漆が詰め込めそうなところは全て詰め込む」…というのが金継ぎ図書館の基本方針です。

 

 

 

「 一回の盛り厚は3㎜程度まで」としておいてください。
それ以上盛ると、乾かない場合があります。

3㎜以上の深さに充填する場合は数回に分けて充填します。

 

刻苧漆に混ぜる木粉の量などを調整することで、実際のところ3㎜以上盛っても大丈夫なのですが、初心者さんは大事をとって「3㎜程度まで」としておいた方が安全です◎

 

 

 

 

刻苧の「盛り上げ」る程度
▪ ▪ ▪

「欠けた箇所」や「穴」などに刻苧を充填する際、「どのくらい盛り上げるか?」ですが、金継ぎ図書館では…

周りの器の高さ「同じ程度(ほぼフラット)」もしくは「それよりもほんの少し高いくらい」
…をおススメしています。

刻苧漆をいっぱい盛り上げたとしても、「刻苧削り作業」↑でほぼフラットに削ってしまうからです。

 

 

 

 

 

取っ手部分の接着箇所の隙間にも刻苧を詰め込んでいきます。

 

金継ぎの方法。取っ手の内側も刻苧漆を詰める

取っ手の内側の隙間にも刻苧を詰め込みました。

 

 

 

 

■ 接着がズレて「段差」がある個所の刻苧付け

 

接着箇所に「段差」がある場合の刻苧付けですが…

「面取りしたエッジ同士(赤の矢印)を結ぶライン」に刻苧漆を充填するのがいいです。

基本的には「釉薬の上(器の表面)」というのは刻苧漆(錆漆も漆も全て)の食いつきがあまりよくありません

ですので、釉薬の上になるべくはみ出さないようにします。

 

段差をなだらかにしようと考えて、こんな感じに↑釉薬の上(器の表面)にまで刻苧漆を付けない方がいいです。

剥離しやすくなります。

 

 

 

■ 穴が貫通している場合

 

 

こんな感じに↑接着したパーツ同士の「隙間が貫通している」場合、もしくは「紛失したピースがある」場合の刻苧漆の詰め方です。

 

① まずは適当な大きさに切ったサランラップを充填する穴の内側に当てがいます。

② 穴の箇所を内側から指で押えます。内側から穴を塞ぐわけです。

 

③ 外側から刻苧漆を充填していきます。
しっかりとヘラで詰め込みます。

 

④ この時、詰めた刻苧漆の「外側」はしっかりと「密」に詰め込まれています。
器の素地にも密着しています。

しかし、刻苧漆の「内側」は「疎」の状態で、しっかりと詰め込まれていないし、素地にも密着されていません。

 

⑤ 内側に当てがっていたサランラップを、今度は外側に当てがいます。

サランラップの上から刻苧漆を指で押え、内側から刻苧ベラで刻苧漆をさらに詰め込んでいきます。

 

⑥ 最後に両面にサランラップを当てがい、その上から刻苧漆を指でギュッと押し込みます。

刻苧漆を両方から押し込むことで、器の素地にしっかりと密着させます。

 

 

 

実際の例


 

ちょこちょこと「貫通した隙間」が空いています。
「欠損している箇所」もあります。

 

 

① 内側からサランラップを当てて…

② その上から指で押えます。

 

③ 外側から刻苧漆を詰め込んでいきます。

④ 器が「厚い」場合は、器と同じ高さになるまで刻苧を詰め込むと、厚盛りし過ぎな場合がありますので、気を付けてください。

 

⑤ 今度は外側から修理箇所にサランラップを当てます。
その上から指で押えます。

⑥ 内側から刻苧漆を詰め込んでいきます。

 

⑦ 最後に内側、外側の両方からサランラップを当てて、その上から指で挟み込みます。

力をぎゅっと入れて、刻苧を押し込むとともに、器の素地に密着させます。

 

 

 

金継ぎの方法。刻苧箆で少しずつ刻苧漆の充填をしていく

全ての隙間に刻苧漆を充填しました。

 

金継ぎの方法。刻苧の充填作業終了

 このまま刻苧漆を乾かします。

 

 

 

 

 

【 お掃除、お掃除 】
▪ ▪ ▪

インターネット上で初心者相手の金継ぎ教室

全ての作業が終わったら作業板を掃除します。

テレピン(又はエタノール、灯油など)を垂らして、ウエスやティッシュできれいに拭き取ってください。

 

  caution ! 

厳密に言うと、掃除をし終わった後の作業板の上には「ごくごく薄っすら」と漆の成分が残っています

ですので、この作業が終わるまではしっかりとゴム手袋をして、ゴム手袋を外したあとは作業板を含めて漆の道具類を触らないようにした方がいいです。

 

 

刻苧漆を乾かす

 

刻苧漆の乾きに2,3週間待ちます。

 

刻苧漆の乾きに2,3週間待ってください。
※ 盛った刻苧漆の厚み、刻苧に含まれる漆の割合、木粉の割合、漆自体の活力、気温などによって乾きのスピードが異なります。

刻苧漆はそれ自体に「水分」が入っているので、とくに湿度のある「漆風呂」に入れなくてもしっかりと硬化してくれます

ですが、
・「古い生漆」
・「乾きの悪い生漆」

…を使っていた場合は乾きが悪いかもしれません。その場合は初めから湿し風呂に入れて、湿度を与えてください。

始めに湿度を与えて、漆に「闘魂を注入」することが大切です◎

 

 

 

※ 水を固く絞った布を中に入れて湿度を高くしてください。

 

もうちょい詳しく見たい方は↓こちらのページをご覧ください。

 

 

 

 

 

本日の作業はここまでです◎
お疲れ様でした。

 

 

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