ひびの入った木の器の本漆金継ぎ修理のやり方を説明していきます。本物の漆を使いますので、カブレる可能性があります。ご注意ください。
今回は、〈麻布の目に錆漆を刷り込む~器全体の擦り漆〉までを解説していきます。
〈木の器の金継ぎ工程 07〉 錆漆を布目に刷り込む
金継ぎの布目擦りで使う道具と材料(▸ 錆漆付けで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: ①プラスチック箆、②付け箆(▸ 付け箆の作り方)、
- 材料: ④生漆、⑤砥の粉、⑥水、③作業板(クリアファイル)
錆漆を作ります。 ▸ 詳しい錆漆の作り方
※ 今回は①,②の箆の代わりに「檜箆」を使います。 ▸ 自分で作る金継ぎ用ひのき箆・完全ガイド 01
檜箆を作るのはちょっと…無理!という方は小さな平筆でやってみましょう。
平筆は幅9~12㎜くらいのものがスプーン塗りでは使いやすい大きさかと思います。
前回、貼った麻布の目に錆漆を擦り込んで、布目を埋めていきます。
この作業を「布目擦り」と言います。
器の内側から作業を行いたいと思います。
箆に取る錆漆は多からず、少なからずで。
ちなみに、器の内側の錆付けに使う箆の先は少し丸みがついていないと使いづらいです。
ということは檜の箆も2,3本作っておいた方がいろいろと使い勝手がいいということになりますね。
錆漆を付けていきます。
手前にヘラを通したら…
次は奥に通します。
今度は縦方向に箆を通します。
「目擦り」作業では錆漆を「盛る」という感じではなく、
「刷り込む」感じです。
器の外側も同様に錆漆を擦り込んでいきます。
箆は縦、横、斜めなどに通して、しっかりと布の目と目の間に錆漆が入っていくようにします。
こんな感じです。
布目が見えています。が、これで大丈夫です。
これが「布目擦り」です。
錆漆が乾くまで1~2日、待ちます。
※ 筆を使って錆漆を刷り込む方は、「縦、横、斜め」に筆を動かしてしっかりと布目に錆漆が入り込むようにしてください。
筆で「錆漆」が塗れるの?と思いますよね。ええ、塗れるのですとも。意外と。
ゼヒ、やってみてください。
〈木の器の金継ぎ工程 08〉 錆漆研ぎ
漆の研ぎで使う道具と材料
- 道具: ③ 豆皿(水入れ用) ④ ウエス ⑤ はさみ(ペーパー切り専用にしたもの)
- 材料: ① 耐水ペーパー(今回は#400~600) ② 水
今回は「当てゴム」も使います。
①は市販の消しゴムです。柔らかいので素地の「凹凸」を比較的よく拾ってしまいます。けど、入手が簡単なのでこれでひとまずやってみてもいいと思います。
②はホームセンターやハンズなどで売っている「ゴム板」を切って成形しました。¥200~¥300程度で入手できるかと思います。使ったのは板厚10㎜のものです。
器の内側を研ぐ時に使う当てゴムは削って丸みを付けておきます。
カッターでゴムを削って大体のカーブを作ります。
そのあと仕上げに紙ヤスリをかけてきれいなカーブにします。
研ぐ時の当てゴムの使い方です。
ペーパーを適当な大きさにハサミで切って、それを当てゴムに巻いて使います。
まずは器の外側を研ぐので、当てゴムもフラットな面が出ているものを使います。
器の外側を研ぎます。
水を付けながら研いでいきます。
あまりガッツリ研ぐと「布目」が出てきますので、そこそこでやめておきます。
(そこそこって…ちょっと布目が出てきたかどうか、くらいですかね)
今度は器の内側を研ぎます。
丸みのついた当てゴムにペーパーを巻きます。
同様に水を付けながら研いでいきます。
こんな感じです。
ちょっと布目が見えているところもあります。
この後、もっときれいでフラットな「面」が出したければもう一度錆漆を付けます。
そして研ぎます。
今回は少しテクスチャーが残っているこの感じで、漆の塗りに入ります。
〈木の器の金継ぎ工程 09〉 漆の下塗り
- 道具: ② ティッシュペーパー ③ 付け箆 (▸ 付け箆の作り方) ⑧ 平筆 ⑦ 作業板(クリアファイルなど)
- 材料: ① サラダ油 ⑤ 精製漆(今回使ったのは呂色漆) ⑥ テレピン
↑画像の「小筆」の代わりに「平筆」を使ってください。
平筆は幅9~12㎜くらいのものが今回は使いやすい大きさかと思います。
100均のナイロン筆です。ちょっと「腰」が弱いので、もしかしたら少し毛先をカッターなどで短く切った方がいいかもしれません。
もう少し検証してみてから、また情報を掲載します。
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。 ▸ 詳しい筆の洗い方
毎回、作業が終わったときに筆を”油”で洗っているので、使うときにはまず筆の中の油を取り除きます。
- 作業板の上に数滴テレピンを垂らす。
- その上で筆を捻ったりしてテレピンをよく含ませる。
- ティッシュペーパーの上でヘラで筆を優しくしごく。
筆の準備が済んだら、今度は漆の用意をします。
- 漆のチューブの蓋を開ける。
- 作業板の上に少量の漆を出す。
- 筆に漆を馴染ませる。
- 作業板の上に何本か線を引き、漆の量を調節しつつ、含み具合をチェックする。
漆の中にゴミがたくさん入っている場合などは濾し紙で漆を濾してきれいにします。必要な方はこちらをご覧ください。
漆を塗っていきます。
塗るときの注意点としましては…
「厚塗り厳禁!」です。
塗りが厚くなると…
こうなります。
お~、恐ろしいですね~。塗膜が縮みます。
こうなると非常に面倒なので、厚くならないように気を付けてください。
慣れていない方は「薄塗り」を心掛けた方がいいと思います。
それでは漆を塗っていきましょう。
器の内側が塗り終わったら、外側も塗っていきます。
漆を塗るときは「縦、横…」というように筆を通して全体が均一な厚みになるように心がけます。
できました。
漆が塗り終わったら、湿した場所(湿度65%~)に置いて漆を硬化させます。
2~3日程度待ってください。
作業が終わりましたら油で筆を洗います。 ▸ もうちょい詳しい平筆の洗い方
平筆はサランラップで包んで保管します。 ▸ もうちょっと詳しい平筆の保存の仕方
〈木の器の金継ぎ工程 10〉 拭き漆 1回目
素地固めで使う道具と材料(▸ 素地固めで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: ⑥ 小筆 ⑤ 付け箆
- 材料: ⑦ 生漆 ① テレピン ② サラダ油 ② ティッシュペーパー ③作業板(クリアファイル、ガラス板など)
⑥の小筆の代わりに100均の平筆を使います。
今回は木の器全体に漆を浸み込ませる「拭き漆」をしたいと思います。
木の器を修理した際はなるべく「拭き漆」か「漆の塗り」を施した方がいいと思います。
白木(無塗装)のままですと、水分の吸収、放出が頻繁に起こって、木地が動きますので、せっかく修理したところがまた破損しやすくなります。
漆で「防水加工」を施して木地が動きづらい状態にすることをおススメします。
拭き漆、擦り漆、固め…全部一緒の作業です。
漆を木地に薄く吸い込ませる作業です。
生漆にテレピンを3割程度混ぜてください。
作業板の上でしっかりと箆で混ぜます。
平の小筆を使って漆を塗布していきます。
バシャバシャ吸い込むだけ吸い込ませていきます。
器の内側に塗布し終わりました。
ウエスで拭き取ります。
薄っすら拭き残すくらいでオッケーです。
こんな感じです。
次に器の外側も漆を塗布していきます。
前回塗った黒漆は後程、研ぎますので、その上は塗っても(塗らなくても)大丈夫です。
ウエスで拭き取ります。
できました。
拭き漆、簡単です。
図書館の隅っこ
よく、こうやって手の内を明かして、技術を提供してしまうことに対して、「同業者」が見ているのにそれを見せちゃうなんて…「ちょっとおバカね」というように言われることがあります。
「同業者」の人たちを「ライバル」「競合他社」というように「ビジネス」マインドで捉えるならば確かにその通りだと思います。
けど、金継ぎ図書館では「同業者」を「同じ伝統の担い手」というように考えています。
マンガ業界がそのようなのですが、一人のマンガ家が見つけたすごいテクニックは瞬く間に、他のマンガ家も採用する。それで別に誰が訴えるということもない。普通のこと。
それはつまり「マンガ」という文化が「読み手」にとってどれだけいいもの、面白いものを提供できるか。読み手のワクワク感が増し、満足度が高くなるのならどんどん良いもの、良いテクニックをみんなで共有していこう―――という強い共同体意識をもっているようなのです。
読み手を幸福にすることが目的であり、自己利益や自己評価を高めることが目的ではない。このマインドは誰が聞いたって「いいなぁ」と思うはずです。
金継ぎ図書館が採用するのもこの考え方です。
だいち、金継ぎ図書館のコンテンツでヒントを得ている同業者がいるとしたら、その人は金継ぎ図書館のレベルまで達していなかった人ということになります。となると、その人は私たちにとっては「後輩」ということになります。
「先人」の智慧、技術を「次の人」にパスするとことで初めて「伝統工藝」と呼ぶことができるのだとしたら(定義上、「伝統」とはそういうことだと思います)、その人たちを排除したときに私たちのやっていることは「伝統工藝」ではなくなってしまいます。
ただし、自己利益追求型の「嫌な人」オーラが出ている人たちとは関わりたくないな、と思っています。
「パスするといったくせに選り好みする気か?」と言われそうですが、そこは「はい」と答えられます。
その人にパスしても、その人が「『次の人』へパスしない人」だとしたら、やはりそれも「伝統」にはならない。伝わらないので。
金継ぎ図書館では「次の人に伝える」工藝をやっていきたいと思います。