※ 小さく2か所欠けた抹茶茶碗の金継ぎ(金繕い)修理のやり方を説明していきます。本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。ご注意ください。
※ 万が一、漆が肌に付いた場合はすぐに「油(サラダ油など)」でよく洗って下さい。
油?? そうです。「油」をつけ、ゴシゴシ漆を洗い落としてください。その後、その油を石けんや中性洗剤で洗い流してください。
今回は金継ぎ(金繕い)工程のうち、〈欠けた個所の素地調整~漆のペーストで欠けを埋める〉までのやり方を解説していきます。
私、初めてなんですけど、どんな道具とか材料を買えばいいんですか?どこで買えるんですか?? ↓ こちらのページを参考にしてください◎ |
作業を始めるにあたって、まずは装備を…
金継ぎでは本漆を使うので「ディフェンシブ」に行きましょう。ゴム手袋は必需品です◎ 漆をなめちゃいけない◎
金継ぎ(金繕い)とは
金継ぎ(金繕い)とは欠けたり、割れたりした器を漆で直す日本の伝統技法です。漆で接着し、漆で欠けや穴を埋め、漆を塗って、最後に金粉や銀粉を蒔いてお化粧をします。
器 information
information
- 器の作家: どこかの窯元でしょうか?不明です。
- 器の特徴: ややピカピカした釉薬。
- 器のサイズ: 直径123㎜、高さ75㎜
- 破損状態: 欠け2か所…口元の欠け15×8㎜、外側の側面に欠け5×3㎜
- 持ち主: お隣に住む・やさしい小牟田さん
お隣に住むご婦人の抹茶茶碗です。お茶の先生から頂いたものだそうです。
お隣さんにはすごくお世話になっています。
私の家の草むしりを手伝ってくれたり(!)、ご飯のおすそ分けをしてくれたり。
めちゃくちゃ有り難いです。今時、こんな方がいるんです。
まさしく「贈与する人」です。
なのでたまには器の修理で「返礼」したいと思います。
いきなり作業を始める前に、まずは
- 傷の確認(細かいところまで)
- 修理計画を立てる(完成のイメージも作りつつ)
です。
1. 傷の確認
修理する器の傷の具合を入念にチェックします。意外と自分で気が付いている以外の傷が入っていたりします。「ちいさな欠け」や「薄っすらと入ったひび」は特に見落としがちです。
いろいろな角度から器に光を当てて、チェック、チェックです◎(←”ひび”は当てる光の角度をいろいろと変えて見ていると”見える”ことが多いです)
2. 修理計画を立てる(完成のイメージも作りつつ)
傷の具合を見て、例えば欠けが大きかったら「刻苧漆こくそうるし(パテ)→錆漆さびうるし(ペースト)」となりますし、欠けが小さかったらいきなり錆でオッケーです。
また、器の釉薬の具合を見て、「ツルツルのガラス質」ならば「マスキングで汚れ防止」をする必要は基本的にはありません(絶対に汚したくない人はもちろんやってください◎)。「ガサガサのマットな表情」だったら、マスキングをした方がいいと思います。
…などなど、作業に入る前にある程度の「計画」や「完成イメージ」を作っておきます。けど、それほど厳密にやる必要はないと思います。経験を積んでいくうちにこのあたりの計画は立てやすくなってきますし、完成イメージに関しては作業を進めていくうちに「変更」「修正」を加えていく方が実はいいと思います◎
縁の部分が少し欠けています。
もう一か所、欠けがあるのですが、今回はこの欠けのみの修理をご説明していきます。もう一か所もほとんど同じような欠けなので。
比較的「よくある」ベーシックな欠けパターンです。
欠けの深さからいって、錆漆一回で穴が埋められそうです。
釉薬も少しツルツル目のものなので、修理箇所の周りが汚れなくて済みそうです。
ガラスのようなピカピカ釉薬でもないので、そこそこ漆の食いつきもよさそうです。
この手の器は直すのが比較的、楽です。
01> 素地調整
道具 ①リューターのダイヤモンドビット ▸作り方 ②ダイヤモンドやすり
▸ 道具・材料の値段/販売店
※ 今回は①の道具で、「ビット」の部分を「球体」から「砲弾型」に取り替えて使いました。
ダイヤモンドビットは市販のものを購入したままだと使いづらいので(先っちょの部分しかないので)、簡単なカスタマイズをすると使いやすくなります。
▸ ダイヤモンドビットのカスタマイズの方法
まずは欠けた箇所のエッジをやすりで軽く削ります。
どのくらいやればいいのですか??と言いますと、「適当」です◎ いや、エッジの尖がりが少し丸みが付く程度でいいと思います。
サラサラと軽目に鑢がけします。
02> 素地固め
道具 ③小筆 ⑤練りべら(大き目のヘラ) ▸作り方 ⑥作業板(ガラス板) ▸作り方
材料 ①テレピン ②ティッシュ ④生漆 ⑦サラダ油
▸ 道具・材料の値段/販売店
※ この作業で使う「小筆」は安価な筆にしてください。陶器の断面に擦り付けるので、毛先が痛みやすいのです。蒔絵筆だとモッタイナイです。
まずは筆をテレピンで洗って筆の中の油を洗い出します。
▸ 詳しい作業前の筆の洗い方
【 作業前の筆の洗い方 】
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【筆を使う前の儀式です◎】
次に、浸み込みやすくするために生漆をテレピンを混ぜて希釈してください。作業板の上でヘラを使ってよく混ぜ合わせます。
【 生漆の希釈 】 【体積比/目分量】… 生漆 10:3 テレピン ※おおよそ ※ テレピンの代わりにアルコール、灯油でもオッケーです◎ |
それを欠けた場所に浸み込ませていきます。
【素地固め動画】
それでは作業に入ります。みなさん、「ゴム手袋」してくださいね◎ しないとカブレちゃうかもしれませんよ。
欠けた箇所を筆でなぞっていきます。
十分に漆を浸み込ませてください。
こんな感じです。
器の木地が吸い込まなかった余分な漆をティッシュで拭き取ります。
折り畳んだティッシュをそっと欠けた箇所に押し当てます。
ティッシュが表面に残った漆を吸い取ってくれます。
この作業をティッシュの面を変えながら、漆がほとんどつかなくなるまで繰り返します。
漆の拭き取り作業終了です。
拭き取り作業が終わったら湿度の高い場所(65%~)に置いて漆を硬化させます。そう、漆は空気中の水分を取り込んで硬化するのです。不思議な樹液ですね◎
湿度が高い場所…って、お風呂場にでも置けばいいんですか??
風呂場…でもいいのですが、風呂場って湿度が100%近くにまでなるので、漆を乾かすにはちょっと「どぎつい」環境だと思います。(漆は急激に硬化すると「やけ」「縮み」といった厄介な現象が起こりやすくなります)
もうちょっとソフトな環境を用意してあげましょう◎ そう、実は漆は”やさしさ”で乾くのです。よ◎
【 簡易的な漆乾燥用の風呂 】 湿度が保てる空間を用意します。 |
↑ こんな感じでいかがでしょうか?
え!段ボール…。こんなんでもいいんですか??
はい、大丈夫です◎「段ボールなんてダサくて嫌!」という方は↓のページを参考にバージョン・アップさせていってください。
湿度のある場所(65%~)に6時間くらい置いて漆を硬化させてください。
理想的には「漆の乾きかけ」のタイミングで次の接着作業に入れたらステキです。けど、そのタイミングで次の作業に入るのが難しいようでしたら、なるべく1,2日後くらいに次の作業に取り掛かるようにしてください。
とはいえ、↑これは「厳密に言うと」ということですので、1~2週間空いてしまっても「ヤバイ!」ってことにはなりませんのでご安心ください◎
塗り終わったら油で筆を洗います。
▸ 詳しい作業後の筆の洗い方
※ 油で洗わないと筆の中に残った漆が硬化するので次第に筆がゴワゴワしてきてしまいます。
【 終わった後の筆の洗い方 】
※ 極々、ソフトに押さえるようにして筆の中の漆と油を掻き出すようにしてください。強くしごいてしまうと、筆の毛先が痛んで「カール」してしまします。 |
【使い終わった筆の洗い方動画】
筆は付属のキャップを嵌めて保存します。キャップが無かったらサランラップを丁寧に巻いてください。
キャップがない、もしくはキャップを作りたいという方はこちらを参考にしてください。
▸ 筆のキャップの作り方
テレピン(又はエタノール、灯油など)を垂らして、ウエスやティッシュできれいに拭き取ってください。 caution ! 厳密に言うと、素地をし終わった後の作業板の上には「ごくごく薄っすら」と漆の成分が残っています。ですので、この作業が終わるまではしっかりとゴム手袋をして、ゴム手袋を外したあとは作業板を含めて漆の道具類を触らないようにした方がいいです。 |
03> 錆漆付け
道具 ③作業板 ▸作り方 ④付けベラ ▸作り方 ⑤練りベラ ▸作り方
材料 ①水 ②生漆 ⑥砥の粉
▸ 道具と材料の値段と売っているお店
錆漆さびうるし(ペースト)を作ります。
体積比(目分量)… 砥の粉 10 : 8 生漆 ※ 水は適量
|
※ 錆漆の「作り置き」はおススメしません。「使うときに作る」が原則です。作ってから2~3日くらは乾きますが、どんどん乾きが悪くなっていきます。
とはいえ、「明日も他の器を直すので」という方は、残った錆漆さびうるし(ペースト)を保存してください◎
▸ 余った錆漆・麦漆・漆の保存方法
【錆漆の作り方動画】
今回の抹茶茶碗の欠けた箇所は、傷が浅いので錆漆で補修していきます。
もし、皆さんの欠けた傷が深い場合は刻苧を使ってください。
刻苧漆の〈作り方〉 ▸
刻苧の〈使い方〉 ▸
それでは器の欠けた凹みに錆漆を充填していきます。
と、その前に<箆テク>をご紹介します。
- 作業板の上で錆漆を薄く均一に広げる。
- ヘラを少し寝かしつつ、横から滑り込ませる。
- 右側から左側へ通す。
- そうするとヘラの先っちょだけに錆漆がつきます。
慣れてくるとテンポよく作業ができて、それだけで気持ちがよくなります。<同一動作の反復>というのは集中していくととても心地いいものです。
それでは錆漆付け作業に取りかかります。
ヘラ先にちょこっと錆漆をとります。
抹茶茶碗の口元のエッジを利用して、錆漆を「切って」いきます。
欠けのエッジに擦りつけるようにヘラを通していきます。
錆漆が欠けた箇所に乗りました。
まだ「乗ったまま」です。
次にヘラで錆漆を押さえていきます。
先ほどとは反対がわにヘラを通します。
ヘラの面で錆漆を軽く押し付けるようにして欠けた箇所に密着させます。
密着。
さらに反対方向にも箆を通します。
箆を左右に通すことで、錆漆を軽く「動かし」、器の素地との密着度を上げます。
こんな感じです。
まだ少し凹んでいますね。錆漆が足りていません。
再び、箆先に錆漆を少量取って、それを付けます。
器のエッジを利用して錆漆を乗せます。
乗っかりました。
こんな感じです。
その錆漆を押さえていきます。
今回も左右にヘラを通してください。
オッケーです。
ちょい盛り気味になってしまいましたが、硬化後に削りますので大丈夫。
錆漆が乾くまで1~2日待機してください。
(調子のいい生漆を使うと4~5時間後に次の作業ができますが、一応大事を取って「待って」ください)
錆漆さびうるし(ペースト)はそれ自体に「水分」が入っているので、とくに湿度のある「漆風呂」に入れなくてもしっかりと硬化してくれます。
けど、古い生漆や乾きの悪い生漆を使っていたり、数日、取り置きしておいた錆を使った場合は乾きが悪いかもしれません。その場合は漆風呂に入れて、湿度を与えてください。
※ 水を固く絞った布を中に入れて湿度を高くしてください。
もうちょい詳しく見たい方は↓こちらへ
テレピン(又はエタノール、灯油など)を垂らして、ウエスやティッシュできれいに拭き取ってください。 caution ! 厳密に言うと、素地をし終わった後の作業板の上には「ごくごく薄っすら」と漆の成分が残っています。ですので、この作業が終わるまではしっかりとゴム手袋をして、ゴム手袋を外したあとは作業板を含めて漆の道具類を触らないようにした方がいいです。 |
【次の作業工程を見る】