【2日目】〈初級〉割れた青い豆皿~接着まで

最終講義

 ファイツ!!

 

山登りの際に全行程のルートチェックをしてから歩き出すように、金継ぎもスタートする前に「ルートチェック=ダイジェスト動画のチェック」をすると、「今、自分が作業している場所」の全体との関係性が理解しやすくなります。

 

本日の作業【動画】

本日は〈【2日目】接着〉までの作業をしていきます。

まずは「本日分の作業動画」を見ていただくと、作業の流れが確認しやすくなると思います。

 本日の講義~

動画部分 5:38~最後まで

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前回【1日目/素地固めまで】の作業を見る↓

‣1日目/素地固めまで

 

 

 

 
【ご注意!】


本物の漆
を使った修理方法ですのでかぶれる」可能性があります。

※ 万が一、漆が肌に付いた場合はすぐに「油(サラダ油など)」でよく洗って下さい
 油?? そうです。「油」をつけ、ゴシゴシ漆を洗い落としてください。その後、その油を石けんや中性洗剤で洗い流してください。

※ もし、かぶれてしまい、それがひどくなるようでしたら、医者に行って処方してもらってください。

 

 

 私、金継ぎ初めてなんですけど、どんな道具とか材料を買えばいいんですか?どこで買えるんですか??という方へ

↓ こちらのページを参考にしてください◎

▸ 本漆金継ぎで必要な道具と材料/そのお値段と買えるお店のご紹介

 

 

 

作業を始める前に…

 金継ぎでは「本物の漆」を使うので、直接、漆に触れると「カブレる」可能性が高くなります。「ディフェンシブ」に行きましょう。ゴム手袋は必需品です◎

 

漆の接着剤(麦漆)を作る

いよいよ割れた破片を接着していこうと思うのですが、金継ぎではそのための「接着剤」を漆で作ります。

「自分で接着剤を作る」…というと、難易度が高そうな感じがするのですが、実はすごく簡単です。

金継ぎではこの接着剤のことを業界用語で「麦漆(むぎうるし)」と呼びます。

 

 

使う道具・材料

  道具 
② 作業板 ▸作り方 ③ 練りベラ ▸作り方 〇 軽量スプーン

  材料
① 水 ⑤ 生漆 ⑥ 小麦粉

▸ 道具・材料の値段/販売店 


 

※ 麦漆むぎうるし(接着剤)の”正味期限”は2~3日くらいと考えてください。 基本的に「使うときに作る」が原則です。
保存があまり効かないので、「作り置き」は避けてください◎
作った時が一番「乾き」がよく、時間が経つほど、どんどん乾きが悪くなってきます。

 

 

麦漆作りの動画

麦漆作り~

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動画を見ていただけると、この作業の何となくの「感じ」が掴めると思います。

 

 道具・材料 
・小麦粉 ・水 ・生漆 ・軽量スプーン ・ ヘラ ・作業盤 ・テレピン

 作業工程 
① スプーン1杯分の小麦粉を出す。
「耳たぶ~つきたてのお餅」くらいになるまで水を加えつつよく練る。
③ スプーン1杯分の生漆を出す。
④ 水練りした小麦粉に少しずつ生漆を加えていき、よく練り合わせて完成。

 

 小麦粉:水:生漆=10:適量:10 

(目分量の体積比)

 

 

麦漆を作る

 

スプーン擦切り1杯分の小麦粉を出す。
② 小麦粉の脇に少量の水を出す。

「耳たぶ~つきたてのお餅」くらいになるまで水を加えつつよく練る。
スプーン1杯分の生漆を出す。

⑤ 水練りした小麦粉に少しずつ生漆を加えていき、よく練り合わせる。
⑥ 全部の生漆を練り合わせたら完成◎

 

 小麦粉:水:生漆=10:適量:10 

(目分量の体積比)


この配合比は暗記してしまう(もしくはノートにメモする)といちいちネット検索しなくて済むのでかえって効率的になります◎
(でも、なかなか覚えられませんよね~。僕もたまに忘れます。)
ちなみに「漆のペースト(錆漆)」の配合比は【 砥の粉:水:生漆=10:適量:7~8 】です。

この「麦漆/錆漆」が頭のなかでごっちゃになるんですよね~。
なにか語呂合わせとかで覚える方法はありますかね??

 

 

 

割れた破片を接着する

いよいよ割れた破片をくっつけていきます。

この作業は意外と簡単です。
「割れた全てのパーツの断面に麦漆を塗る→接着する」だけです。
一般の接着剤の接着作業と何ら変わりがありません。

慣れてくると、むしろ普通の接着剤よりも扱いが楽かもしれません。
麦漆の乾きが「非常に遅い」ため、接着作業にどれだけでも時間がかけられます

 

 

使う道具・材料

  道具 
② 作業板 ▸仕立て方 ④ 付けベラ ▸作り方 ⑦ マスキングテープ 〇 小筆(豚毛筆)

  材料
〇 麦漆(漆の接着剤)

▸ 道具・材料の値段/販売店 


 

「付けベラ」もしくは「豚毛筆」で麦漆(漆の接着剤)を付けていきます。

一般的には「ヘラ」で麦漆を塗っていきます。(僕もずっとヘラで塗っていました)
が、「豚毛筆」の方が圧倒的におススメということに気が付きました◎

100均で売っている小さな豚毛筆で十分ですので、ぜひやってみてください。
僕自身もこれを使ってみて作業効率のよさにびっくりしました。

 

 

豚毛筆の使用「前」の筆洗い

 

 まずは筆をテレピン(または灯油)で洗って筆の中の油を洗い出します。
 ▸ 詳しい作業前の筆の洗い方

何で筆に油が付いてるの??…かといいますと、漆作業で使った筆は最後に油で洗っているからなのです。油で洗うと筆の中に残った微量な漆が乾きません。漆と油とは相性が悪いのですが、それを利用しています◎

 

 使用「前」の豚毛筆洗い~

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 道具・材料 
・筆 ・テレピン(または灯油など) ・ティッシュ ・作業盤

 作業工程 
① 畳んだティッシュに筆を包む
② ティッシュをギュッと摘まんで、筆の中の油を吸い取る
※ 上の動画内では「①②のティッシュをギュッと摘まんで、
筆の中の油を吸い取る」ステップを撮り忘れています!済みません~(T_T) そのうちまた撮影し直します!
③ 作業板の上に数滴テレピンを垂らす
④ その上で筆を捻ったりしてテレピンをよく含ませる
⑤ 筆をティッシュで包む
⑥ ティッシュをぎゅっと押えて、「油+テレピン」を絞り出す
⑦ 「4→5→6」を2~3回繰り返す

 

 

① 折り畳んだティッシュに筆を包みます。
② ティッシュの上からギュッと摘まんで、筆の中の油を吸い取ります。

③ 作業盤の上にテレピンを数滴、垂らします。
④ 筆にテレピンを含ませます。
筆は作業盤の上で捻ったりして、しっかりとテレピンと馴染むようにします。

⑤ 再び、ティッシュの上に筆を乗せます。
⑥ ティッシュの上からギュッと摘まんで、「油+テレピン」を絞り出します。

この後、「④→⑤→⑥」を2~3回、繰り返します。

この作業で筆のなかの油分をしっかりと除去します。
筆の中に油が残っていると漆が乾かないことがありますのでご注意ください。

 

「エタノール」などの揮発性の強いもので洗うと、テレピンよりも油分がしっかりと除去できますが、その分、筆への負担も大きくなり、傷みやすくなります。
ですので、金継ぎ図書館では筆が傷みにくいテレピン、灯油などをおススメしています。

 

 

接着剤を塗る

 

 麦漆の塗布~

動画部分 5:52~7:47まで

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動画を見ていただけると、本日の作業の何となくの「感じ」が掴めると思います。

 

 

筆の準備ができたら、いよいよ実践です。

※ もちろん「ヘラ」で付けていっても全く構いません◎

 

少量の麦漆を筆の先っちょに取り、それを割れた断面に配ります。

 

次に筆で広げていきます。

 

麦漆を塗る~

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今回の器は「磁器」という種類の器で、器の表面が「ツルツル」しています。
こういった器の場合、漆や麦漆、錆漆がはみ出して器の表面についてしまったとしても簡単に拭き取ることができるし、乾いてからでも掃除するのが楽です。

ですので、麦漆が表面に「はみ出さないように…」とあまり正確性を気にし過ぎないで大丈夫です。

 

ただし、器の表面がザラザラしていたり、「嵌入(かんにゅう…微細なヒビ)」が入っているような器の場合は、はみ出さないように注意が必要です。

 

 

この作業を繰り返し続けていきます。

麦漆の乾きはものすごく遅いので、ゆっくり作業して大丈夫です◎

 

このように「全面」に塗っていきます。

 

小さい方のパーツの断面にも塗っていきます。

麦漆は割れた全てのパーツの断面に塗っていきます。

 

↑このように「極薄」とも思えるくらい薄く塗っていってください。
(写真だと「厚く」見えるかもしれませんが、実際は薄いです!)

金継ぎ図書館では麦漆(漆の接着剤)は「薄く塗る」を原則と考えています。
(金継ぎ師さんによっては接着した時「ぶにゅっと」はみ出るように「厚塗り」する人もいるようです)

 

麦漆を「なるべく薄く」塗る理由…

  • ズレを最小限に抑えたい
  • 乾きをよくしたい

 

当然ですが、割れた破片の間に挟まる「異物」の量が多ければ多いほど、破片を接着した時に「ズレ」が大きくなります。
つまり接着剤が厚いほど、ズレやすくなります。

また、麦漆自体の乾きがすごく悪いので、厚いほどさらに乾きが悪くなります。最悪な場合、表面は乾いているのに、内側が乾いてなくて、次の作業をしているときに「ポロっ」と取れてしまう…なんてこともあります。

 

 

それでは接着作業に移りましょう。

 

接着する

 接着作業~

動画部分 7:39~最後まで

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これは全然、一般的なやり方ではないのですが、
「接着剤を塗ってから→接着するまでの間、しばらく待つ(3~5時間程度)」…というやり方をおススメしています。
(一般的なやり方は「塗ったら→直ぐに接着」です)

ただし、これは「時間的な余裕」がないとできないので、無理にやらなくて大丈夫です。

 

 

麦漆(漆の接着剤)の「表面が半乾き」の時に接着するとメリットがあります。

  • 乾きが早い!1週間もすれば次の作業ができる程度の接着強度が出る
    (完全には硬化していないとは思いますが)
  • 「半乾き」だと接着作業の時にくっ付けたパーツがズレにくい

 

↑これ、半乾き状態です。(写真の明度を上げ過ぎて分かりづらくなっちゃいました。済みません!)

どうやって「半乾き」かどうかをジャッジしているのかと言いますと…「触ってます」◎
(何だよ!)

 

ゴム手袋をして触ってみて、ぎりぎり引っ付くか、引っ付かないか…というくらいが程よいタイミングかと思います。

↑素手で触ってみると、指紋の跡が付いてしまうくらいです。
(皆さんは素手で触らない方がいいですよ~)

 

もしくは「ヘラ」などで触ってみて、ぎりぎりペトっとするくらいです。

麦漆の表面が「ほとんど」乾いちゃっていても、その内側は生乾きですから、そんな状態でもしっかりと強力にくっ付いてくれます。

 

「麦漆塗布の直後」→→「少し乾きかけ」→→「そこそこ、乾きかけ」→→「(表面が)ほとんど乾いている」
これらのどのタイミングで接着しても構いません。
それで右にいくほど「接着後の硬化」が早くなると考えてください。

 

 

完全に乾いちゃうとさすがにくっつきませんのでご注意くださいね◎

 

 

前置きがすこぶる長くなりましたが、接着します!

はい、合体させてください。

貼り合わせてからもズレの微調整ができますので、ビビらずにくっつけちゃってください。

 

この後、ズレの微調整をしていくので、この時点ではあまり神経質にならなくいいのですが、それでも「おおよそ」は正確に張り合わせたいところです。

↑画像の「赤枠(口縁)部分」をひとまず合わせていってください。

 

「仮り接着」が済んだら、張り合わせパーツ同士を「擦り合わせる(歯軋りする)」感じでギシギシとやってください。
(これ、伝わりますか??)

 

それぞれのパーツに塗った麦漆同士をしっかりと接着(融合)させる感じとでも言いましょうか。

この作業をしていると、当然、また少しズレます。

 

それで、ここから本格的に「ズレ修正」にかかります。

器を回して、いろいろな角度からズレが無いか「目視」でチェックします。

目視でできるところまで合わせていったら、今度は「触覚」でチェックします。
ヘラなどの「ちょっと固い棒」を使います。

ヘラを接着箇所を横断させて「引っ掛かり」がないかをチェックします。

 

「カッ」と引っ掛かったら、そこにはズレが生じています。
ズレているのは分かるけど、パーツのどちらが手前で、どちらが奥にズレているのかはかなり分かりづらいです(涙)
(つまり「どう動かして修正したらいいかがわからない…)

ヘラをゆっくり注意深く動かすと…何となく分かる気がします◎
頑張ってください。はい。

 

この「ズレ修正」はやり出すと、結構、「カオス」なのでほどほどで切り上げた方がいいと思います。

接着した隙間には元々は存在してなかった「麦漆」という「異物」が挟まっているわけですから、厳密なことをいうと「ズレは必ず生じる」と考えていいと思います。

あちらのズレを直していたら、こちらのズレが大きくなって、こちらのズレを直していたら、先ほど直したはずのあちらのズレが大きくなって…といった感じでイタチごっこになります。

「ほどほど」で諦めるのが肝心です◎

 

ズレの修正が終わったら、「補助的」にマスキングテープで「仮り固定」しておきます。
(その方がいいと思います)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

使用「後」の豚毛筆洗い

漆を使った筆は作業後、「油」で洗います。

 使用「後」の豚毛筆洗い~

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 道具・材料 
・筆 ・サラダ油 ・ティッシュ ・ ヘラ ・作業盤 ・テレピン

 作業工程 
① 折り畳んだティッシュで漆の付いた筆を包む。
② ティッシュを摘まんでギュッと漆を絞り出す。(数回おこなって、しっかりと絞り出す)
 ※ 上の動画では②の「ティッシュを摘まんでギュッと漆を絞り出す」作業を撮影し忘れました。そのうち撮り直します!済みません。
③ 筆に油を含ませる。
④ 作業盤の上で捻ったりしながら油を馴染ませる。
⑤ 筆の根元からヘラで「油+漆」をしごき出す。
⑥ ヘラで廃油を掬い、ティッシュに吸わせる。
⑦ 再び油を含ませる
⑧ 作業盤の上で、ヘラを使って絞り出す
⑨ 廃油の中に漆分が(ある程度)含まれなくなるまで…つまり「透明度」が高くなるまで繰り返す。
⑩ 筆をサランラップで包んで保管する。
⑪ 作業盤に数滴テレピンを垂らし、拭きあげる。(油分を除去する)

 

※ この洗い方は100均等で買った豚毛筆などの安価な筆の洗い方です。「雑」に洗っています。
蒔絵筆やインターロン筆など、ちょっとでも高い筆はこの洗い方をしないでください。毛が痛みます。

 

① 折り畳んだティッシュに漆の付いた筆を包み込みます。
② 外側からティッシュをぎゅっと摘まんで漆を絞り出す。
これを数回おこなって、しっかりと絞り出します。

この時点でしっかりと漆を絞り出してしまった方が、この後の「油で洗う」時、筆が早く綺麗になります◎

③ 油の入った瓶に筆を入れて、油を含ませます。
④ 作業盤の上で捻ったりしながら筆に油を馴染ませます。

筆の根元からヘラで「油+漆」をしごき出します。
今回は安価な「豚毛筆」を使っているので、わりかしガシガシやっちゃっていいです◎
⑥ 筆の中の「油+漆」の廃油がしごき出せたら、ヘラで廃油を掬い、、、

 

ティッシュに吸わせます。

こうして廃油をどかしておくと、作業盤の上が常にクリーンな状態で筆の洗い作業ができます◎

 

この後は「③→④→⑤→⑥」を繰り返します。
廃油の中に漆分が(ある程度)含まれなくなるまで…つまり「透明度」が高くなるまで繰り返します。

今回は安価な「豚毛筆」を使っているので、適当なところで止めておきます。
高価な筆を洗う場合はしっかりと念入りに洗ってください。じゃないと、筆が劣化しますので◎

 

これで筆洗い作業は完了です◎

 

 

この後、筆を仕舞います。

⑨ サランラップを取り出し、その上に筆を置きます。
この時、筆先に「余白」(赤の矢印分くらい)を残しておいてください。

⑩ ラップに筆を巻いていきます。ローリングです。

⑪ 途中でローリングを止め、先ほど残しておいた「余白分」のラップを畳み込みます。

⑫ 最後までラップを巻いて、完成です◎

 

 

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