ファイツ!!
漆の塗り方シリーズ第2弾です。
みなさんお手持ちのスプーンに漆を塗っちゃいましょう!
え、いいんですか?いいんです◎
漆を扱う専門家に怒られちゃいそうですが、
今回はホームセンター(カインズホーム)で買った木製スプーンに漆を塗ります。(樹脂金継ぎの紹介をしている時点ですでに相手にされてないかな)
自作のスプーンに漆を塗る方法はすでにページを作りました。
が、「あたし、スプーンなんて作れないのですが」とか
「刃物、嫌い」とかいう方へのフォローもしてあげてはどうかね?
と、宮下智吉師匠に諭されました。ので、作りました。
「樹脂(ポリエステルウレタン)塗装された木製スプーンに漆を塗る方法」です。
確かに私も昔、やりました。
スプーンなんて自分で作れると思っていなかったころ、
お店で買った¥200~300の木製スプーンに漆を塗りました。
無印のスプーンにも塗りました。
既製品に漆を塗る。最初のステップとしてはいい気がします。
手持ちのスプーンに塗ったり、お箸に塗ったり。
(↑使い古して、先っちょがガビガビになったものでもオッケーです◎)
「漆って意外と塗れちゃうのね」とか「漆を塗るとなんか感じいいなー」とか、
少しずつ漆が身近な存在になってもらえたらと思います。
※ 当初、2ページに分けようかと考えていたのですが、
1ページにした方が収まりがよさそうだったのでまとめてしまいました。
少し長くなりますがお付き合いください。
注意事項としては2点あります。
- 漆を塗る前の「研ぎ」は#240~320くらいで、
もともと塗ってある塗料が剥がれるくらいしっかりと
研いでください。
(そうしないと、塗った漆が剥がれやすくなる場合があります) - 「漆塗り仕上げ」をご希望の方は、
(できれば)3回くらい漆を塗り重ねてください。
1回塗り仕上げだとゴミだらけになりやすいです。
3回重ねると漆特有の「ふっくら感」が出ます◎
市販木製スプーンの漆塗りで使う道具と材料
- 道具: ② 平筆 ③ ゴム ④ 鉛筆 ⑥ 大きなクリップ
- 材料: ① 市販の木製スプーン ⑤ 紙やすり
それから「漆」が必要です。後程、説明します。
今回、漆塗りに使ったのは
- 「木製スプーン(大)」サイズ19㎝/¥200-くらい (カインズホーム)
- 品名: 合成漆器 / 材質: 天然材・ポリエステルウレタン塗装
このポリウレタンの上に漆を塗ります。
「ポリウレタン塗装」のスプーンより「漆塗り」のスプーンの方が
体にはよさそうですよね。
〈市販スプーンの漆の塗り方 01〉 紙やすりで研ぐ
- 道具: ①② 消しゴムなど
- 材料: ③ 空研ぎペーパー(#240~#320くらい)
①は市販の消しゴムです。
柔らかいので素地の「凹凸」を比較的よく拾ってしまいます。
けど、入手が簡単なのでこれでひとまずやってみてもいいと思います。
②はホームセンターやハンズなどで売っている
「ゴム板」を切って成形しました。
¥200~¥300程度で入手できるかと思います
。使ったのは板厚10㎜のものです。
この「研ぎ作業」をしっかりとやってください。
製品に塗られている塗料を剥がすぐらいの勢いで!
(この「研ぎ」が不十分だと、使っているうちに
漆が剥がれてくる場合があります)
まずは「どこまで漆を塗るか」を決めます。
全面、漆を塗りたい方は…どうしましょうか?
全面、塗ろうとすると持てませんね…。
なので最低限、手で持てる部分は塗り残すことにしましょ◎
漆を塗る部分に鉛筆で印のラインを引いておきます。
今回はスプーンのヘッド部分全体を塗ることにします。
スプーン内側の凹みを研ぐ時に使う当てゴムですが、
その凹みに合わせた形に成形します。
カーブにピタリと合わせる必要はまったくありません。
大雑把に合わせてあればオッケーです。
カッターでゴムを削って大体のカーブを作ります。
そのあと仕上げに紙ヤスリをかけてきれいなカーブにします。
研ぐ時の当てゴムの使い方です。
ペーパーを適当な大きさにハサミで切って、
それを当てゴムに巻いて使います。
空研ぎペーパー(#240~#320くらい)を使うのがいいかと思います。
空研ぎペーパーがない。買うのが面倒。
という方は「水研ぎ」ペーパーで代用してください。
スプーン内側の凹んでいる部分を研いでいきます。
ペーパーをかけるのは
漆を塗ったときの「食いつき」をよくするためです。
満遍なくペーパーが当たるように動かしていきます。
続いてスプーン表側のフラットな部分を研ぎます。
当てゴムもフラットな面が出ているものを使います。
鉛筆で引いた線に沿ってペーパーをかけます。
スプーンの外側も研ぎます。
曲面に沿って手を動かします。
スプーンの「先っちょ」も研ぎます。
研ぎ終わりました。
研いだところは「白っぽく」なっています。
〈市販スプーンの漆の塗り方 02〉 漆を塗る
【 漆の塗りで使う道具と材料 】
- 道具: ② ティッシュペーパー ③ 付け箆 (▸ 付け箆の作り方) ⑧ 平筆 ⑦ 作業板(クリアファイルなど)
- 材料: ① サラダ油 ⑤ 精製漆(今回使ったのは呂色漆) ⑥ テレピン
↑画像の「小筆」の代わりに「平筆」を使ってください。
平筆は幅9~12㎜くらいのものがスプーン塗りでは
使いやすい大きさかと思います。
100均のナイロン筆です。
ちょっと「腰」が弱いので、もしかしたら少し毛先をカッターなどで
短く切った方がいいかもしれません。
もう少し検証してみてから、また情報を掲載します。
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。
▸ 詳しい筆の洗い方
毎回、作業が終わったときに筆を”油”で洗っているので、
使うときにはまず筆の中の油を取り除きます。
- 作業板の上に数滴テレピンを垂らす。
- その上で筆を捻ったりしてテレピンをよく含ませる。
- ティッシュペーパーの上でヘラで筆を優しくしごく。
筆の準備が済んだら、今度は漆の用意をします。
- 漆のチューブの蓋を開ける。
- 作業板の上に少量の漆を出す。
- 筆に漆を馴染ませる。
- 作業板の上に何本か線を引き、漆の量を調節しつつ、
含み具合をチェックする。
漆の中にゴミがたくさん入っている場合などは
濾し紙で漆を濾してきれいにします。必要な方はこちらをご覧ください。
▸ 基本的な漆の扱い方・濾し方
スプーンの漆塗りのやり方のもう少し詳しい解説がありますので、
そちらも参考にしてください。
▸ 初めての漆の塗り方・蒔絵の方法 page02
この後、「蒔絵仕上げ」をする場合は漆は「薄目」に塗っていください。
「塗り仕上げ」の場合は、漆は「普通」の厚みで塗ります。
※ 以下、「塗り仕上げ」のつもりで解説を書いてしまいました。
「蒔絵仕上げ」の方はもうちょい「薄目」の感じで読んでいってください。
適量の漆を筆に取ります。
…適量って、わかるわけないでしょ!と言われちゃいそうですね。
すみませんが、これは体で覚えるしかないところです。
初心者の方は基本、少な目に漆を塗っていった方がいいと思います。
気持ち、少な目です。カスカスじゃダメですけど、
薄く、薄く塗っていってください。
もし、漆を厚く塗りすぎた場合…
こんな感じになります。
げっ!ホント!? やだー。
縮んじゃったらどうすればいいの?
知りません。うそです。
えっとですね、そのまま見て見ぬ振りして1ヶ月くらい放置
(縮んだ箇所の乾きは時間がかかります)。
その後、研いで塗り直す。です。
もしくは、縮んだ箇所を竹べらや彫刻刀でこそげ取って、
テレピンを含ませたウエスできれいに拭き取る。
その後、研いで塗り直す。です。はい。
どちらにしろ、すごく面倒です。呪いです。
呪われないように気を付けてくださいね。
私はよく呪われます。
では気を取り直して、漆を塗っていきます。
まずはスプーン内側の凹んだ部分から塗ります。
ピッとスプーン中央ラインに漆を置いていきます。
その漆を延ばしていきます。
筆の「腰」を使うような感じで漆を引っ張っていきます。
筆の根元に近い部分を使うことでしっかりと漆を動かすことができます。
フラットな部分にも漆を塗っていきます。
鉛筆でラインを引いた箇所に沿って慎重に塗っていきます。
私は鉛筆ラインをギリギリ漆で覆う感じで塗っていきます。
続いてスプーン外側です。
こちらも中央ラインに漆を置いたあと、
その周りに漆を延ばしていきます。
筆の「腰」を使います。
全面に漆を配り終えたら、今度はその漆の厚みを均一にしていきます。
まずは横方向に筆を通していきます。
①→②と通します。通すときに筆幅の半分を重ねます。
この時はどちらかと言うと筆の「腹」近くを使うといいと思います。
「腰」ほどには力を入れる必要はないのですが、
漆の厚みを均一にもっていくだけの引っ張る力は必要です。
ですので「腰」と「先っちょ」の中間くらいの
「腹」を使う感じがいいと思います。
さらに③→④→⑤と筆を重ねつつ通していきます。
今度は逆方向に筆を通します。この時も筆は重ねていきます。
横方向が終わったら、今度は縦方向に筆を通します。
筆の「先」を使ってソフトに、漆の表面をなでるように塗ります。
刷毛目がなるべく残らないようにします。この時も筆は重ねます。
最後に鉛筆ラインの所を横に通します。
先ほどの筆を縦に通した時の塗りの「始点」がここだったので、
塗り面が汚くなっていると思います。
そこを最後に筆を通して消します。
裏面が終わったら、今度は表面を仕上げていきます。
この時の注意すべきポイントは
▸ 初めての漆の塗り方・蒔絵の方法 page02
の解説を参考にしてください。
筆の「腹」を使って横に通していきます。
漆の厚みを均一にしていきます。
逆方向にも通します。筆は重ねます。
筆の「先」を使って、縦方向に通します。
筆は重ねて、なでるように優しく通します。
最後、「始点」部分に筆を横に通します。
塗り終わりました!
クリップに挟んで乾かします。
何を使っても構いませんが、
塗ったところが他のものにつかないように
気を付けてください。
※ スプーンを乾かすときは「横向き」にした方がいいと思います。
(↑この「縦向き」だと漆が先端からダラダラと
垂れてくる感じが出た乾き方になります。)
何かにクリップで挟んで、
横向きに「中空」に浮かぶ状態で乾かしてください。
この後の作業…
- 金属粉を蒔く人は…
40~60分程度、湿度のある所に置いて、蒔絵の作業にはいります。 - 漆塗り仕上げの人は…
塗ったスプーンを湿度のある所に置いて、今日の作業はお終いです。
何で漆を塗ったら、湿度の高いところに置くんですか??
そう、なぜかと言いますと…漆は空気中の水分を取り込んで硬化するのです。
不思議な樹液ですね◎
なので、作業が終わったら湿度の高い場所(65%~)
に置いて漆を硬化させます。(2~3日)
「湿度の高いところ」って…お風呂場にでも置けばいいんですか??
風呂場…でもいいのですが、風呂場って湿度が100%近くにまでなるので、
漆を乾かすにはちょっと「どぎつい」環境だと思います。
(漆は急激に硬化すると「やけ」「縮み」といった厄介な現象が
起こりやすくなります)
もうちょっとソフトな環境を用意してあげましょう◎
そう、実は漆は”やさしさ”で乾くのです。よ◎
【 簡易的な漆乾燥用の風呂 】
湿度が保てる空間を用意します。 ※ 水を固く絞った布を中に入れて湿度を高くしてください。
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作業が終わりましたら油で筆を洗います。
▸ もうちょい詳しい平筆の洗い方
平筆はサランラップで包んで保管します。
▸ もうちょっと詳しい平筆の保存の仕方
全ての作業が終わったら作業板を掃除します。
テレピン(又はエタノール、灯油など)を垂らして、
caution ! 厳密に言うと、きれいに拭き終わった作業板の上にも
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※ ちなみに「塗り仕上げ」ご希望の方は、
塗りは3,4回重ねた方が断然綺麗に仕上がります。
全然、違います!
塗り→研ぎ(耐水ペーパー#1000くらい)→塗り→研ぎ…を繰り返します。
「手間」がかかりますが、やってみてください。
本当に「ふっくらとした」感じになるのです◎
蒔絵をする場合は
「漆が乾き始めるタイミング」まで待ちます。
のが、本式だと思いますが、
錫粉ですとそこまで神経質になる必要もないです◎
〈市販スプーンの漆の塗り方 03〉 蒔絵
【 蒔絵で使う道具と材料 】
- 道具: ① あしらい毛棒(柔らかい毛質の筆) ③ 重石
- 材料: ④ 蒔絵紛(今回は錫粉を使用)
蒔絵で使う真鍮粉、錫粉などは漆屋さんで売っています。
「箕輪漆行」さんが品揃え豊富です。
(外部リンクの張り方がわからないので検索してみてください。
リンクの張り方…誰かに教わりたいと思います)
錫粉をバサバサ蒔いていきます。
筆先で錫粉を掬い取ります。
一気に蒔いていきます。
一気にやらないと「ムラ」ができやすくなります。
ちなみにわたしはこの「ムラ」を意図的に作るのが好きです。
面白いですよ。いろいろやってみてください。
手早く錫粉を筆で掃いていきます。
表面完了!
続いて裏面です。
こちらも手早く錫を蒔きます。
スプーンヘッドの先っちょがやりづらいですが、
ここにもしっかりと錫粉がつくようにします。
お忘れなく。
でけました!
クリップに挟んで乾かします。
湿したムロに入れてください。4~5日くらいは硬化に時間を取ります。
(漆の厚みなどによりけりで、もっと早く乾く場合も、
もっと遅く乾く場合もあります)
【 簡易的な漆乾燥用の風呂 】
湿度が保てる空間を用意します。 ※ 水を固く絞った布を中に入れて湿度を高くしてください。
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〈市販スプーンの漆の塗り方 04〉 完成
お好みでキラッとさせたい方は磨いてください。
その場合はガラス棒、メノウ棒などでコリコリ磨きます。地道に。
私は耐水ペーパーの#600~#1000くらいで水研ぎを行いました。
「ムラ」のある表情を出したかったので
研ぎも少しランダムな感じで作業を行いました。
これ、面白いですよ。
どうでしょう?妙な組み合わせに見えませんか?
木+金属
もちろんその組み合わせのものも世の中にたくさんありますが、
「蒔絵」の金属部分って妙な接続の仕方になっていますよね。
しかも使ってみた時の「違和感」もなかなかのものですよ。
私たちはこのスプーンの表情から
「金属」で作られているイメージを無意識的にしてしまいます。
なので口の中に入った時に少し「冷やっ」とした感触を
どうしても同定してしまいます。
ところがどっこい、冷やっとしないんです。
なんせ、ほぼ「木」でできていますから。ほぼ木の温度なんです。
これってなかなか面白い体験ですよ。
「妙」な感じです。
ぜひぜひご自分の家のスプーン、お箸を塗ってみてください◎