いよいよ「麻布」を貼ります。
えっ!?布、貼るの?何、それー。って思いますよね。これ、漆の世界だとよくやることなんです。
漆と布の関係は深いのであります。
汁椀などでも手間のかかっているもの(一般的に高い価格のもの)には補強で布を着せています。
他にも、「乾漆(かんしつ)」と呼ばれる技法があります。興福寺の有名な阿修羅像などで使われている技法で、漆を含ませた麻布を何層も重ねて作られています。
どう言えば伝わりやすいのか…ちょっとわからないのですが、鉄筋コンクリート造りの要領と言えばいんでしょうか。鉄筋コンクリートでは心材(?)に鉄の棒を格子状に組んで、その周りにコンクリートを流しこんでいる(のだと思います)。
同じように麻布(布自体が格子状に組んであります)の周りを漆でコーティングすることで造形が可能となります。(分かりづらいですか?)
漆は硬化すると硬度は高くなるのですが、柔軟性がなくなります。ポキリと折れやすい。
麻の繊維は柔軟性、粘る力が高いようです。ですので、漆と麻布が相互に補い合って、「強度」の高い造形物の製作ができあがるということです。
麻布に漆が浸み込んだら、やっぱりポキリと折れやすくなるんじゃないの?と思いますが、ところがどっこい、麻布の繊維の中の方までは漆が浸み込まないようです。ですので麻特有の柔軟性を保持したままでいられる。
「綿」の場合、麻に比べて繊維が「細切れ」状態なので漆が浸み込みやすくなりますし、そもそも綿製の「糸」は弱いということになります。一本の糸、麻と綿のそれぞれを引っ張って、比べてみるとあきらかに綿の糸はすぐにプッツリと切れ、。麻は切れづらいです。
ですので漆で布を使う場合は「麻」がいいです。が、「麻布を揃えるのはちょっと面倒だわ」という方は「綿」でもいいと思います。ちょっと弱いですけど。
前回の作業を見る ▸ 木皿の金継ぎ工程 Page 02
〈木の器の金継ぎ工程 05〉 麻布を貼る
布を貼ることを「布着せ」と言います。
この技法を使って以前「金銀マグカップの取っ手修理」を行いました。
ご興味のある方は覗いてみてください。陶器の金継ぎにも使えるのです◎
▸ 取っ手の壊れた黒いマグカップを麻布で補強する金継ぎ修理
金継ぎの布着せ作業で使う道具と材料
麻布は漆屋さんで入手できます。メーターの量り売りをしています。粗目、中目、細目、極細目…などがあります。金継ぎで使うには細目か極細目がいいと思います。
1mあたり ¥2,000-前後です。もっと高いものもあります。(ちょっと高いでしょうか?)
〈綿〉ですと 1m/¥400~¥500から買えます。
ドラックストアなんかに売っている「ガーゼ」はどうなの?というご質問もあるかと思います。試してみたことがありませんが、いけそうですよね。綿ですけど。
今度、チェックしてみます。
それでは漆を使って「麦漆」と呼ばれる接着剤を作ります。 ▸ 麦漆の詳しい作り方
布を貼る時の接着剤として、私は通常、「糊漆」と呼ばれる米糊と漆を混ぜたものを使っています。ですが、「米糊」を作るのが少し手間なので「麦漆」でいきたいと思います。麦漆の方が接着力が高いと私は考えています。
麻布は↑画像のようなサイズにカットしました。
修理箇所に合わせて、それよりも大き目のサイズに切ってください。
ここで重要なのは布を切るときに布目が「バイアス」になるようにカットするということです。
布目が斜めにクロスするようにします。
バイアスの布目の方が縦、横へ木地が動いたときに、より柔軟にその動きを吸収してくれます。
麻布は↑画像のように、修理箇所を完全にぐるっと覆ってしまいます。
あらかじめ、目印に鉛筆で線を引いておきます。
麻布に沿って鉛筆でラインを引いておきます。
お椀の内側も描いておいてください。
画像でわかりやすいように色鉛筆で書き直しました。
内側も。
この線を基準にして麦漆を塗布していきます。
箆で麦漆を塗布していきます。
お椀の内側は凹んだカーブになっていますので、箆の方は少し凸形のものを用意した方がやりやすいです。断然
ぜひ、檜箆をカスタマイズしてみてください。 ▸ 自分で作る金継ぎ用ひのき箆
均一の厚みで、薄目になるように付けていきます。
鉛筆で引いたラインより少し広い面積に麦漆を塗布しておきます。
横方向にヘラを通したら…
次は縦方向にヘラを通して、麦漆が均一な厚みになるようにします。
…と、今になって気が付いたのですが、初めての人がお椀に麦漆をヘラで付けるなんて「できるわけないじゃん!」って怒られちゃいますね。いや、確かに。済みません、気が付きませんでした。
「平筆」でやってください。100均で売っている平筆で十分です。豚毛とかの少し固めのものの方がいいかもしれません。アクリル毛のものがお手元にあるようでしたらそれでやってみてください。
麦漆を薄く塗布し終わったら、今度は麻布を貼っていきます。
麻布を指で持って、ふわっと載せます。
もちろん、皆さんは素手ではやらないでくださいね。ゴム手袋してください。
口周りの分部でぐるっと麻布を折り返します。
指先で軽く押さえて麻布がお椀の木地に着くようにします。
箆を使って、麻布が密着するように擦りつけます。
布の中心から周辺に向かってヘラを通します。
お椀の内側も同様の作業を行います。
麦漆がしっかりと浸み込んでいくようにします。
次にヘラに麦漆を取り、それを麻布の上から塗布していきます。
これも、薄く、均一になるように塗っていきます。
箆でなんかできないわよ!という方は、筆でやってください。ね。
箆は、縦、横、斜めに通して、布目の隙間にしっかりと麦漆が入り込んでいくようにしてください。
器の外側も同様の作業をおこないます。
薄く、均一に…
さらに縦、横、斜めに箆を通して、隙間を埋めていく…
麦漆の塗布が完了しまいした。
麻布を麦漆でバインドしているような状態ですね。
布を置くとき、それをヘラで押さえるとき、布の上から麦漆を塗布していく時、布を引っ張ってしまわないように気を付けて作業してください。
この布着せ作業後、数日、乾くのを待ってください。
陶片同士を接着するときほどには待つ時間は長くありません。
麦漆の厚みにもよりますが、4~6日も待てば次の作業に進めると思います。
〈木の器の金継ぎ工程 06〉 麻布を軽く研ぐ
貼った布のコンディションを整えることを〈布目揃え〉と言います。
場合によっては麻布のキワを刃物で斜めに薄く削いでいく作業をするときもありますが(文字で書いてもよくわかりませんよね。済みません)、今回はその作業は行いません。
空研ぎペーパーの#240~#320程度で軽く研いでいきます。
ペーパーは二つ折りにして面精度を少し高くします。
ざざざっと、本当に軽く研ぐだけです。
布表面のガサガサを取るだけです。
口元も軽く。
器の内側も。
ペーパーをかけることで、布表面のちょっとした突起物が除去され、表面も少し荒れますので、次の作業の錆漆の食いつきがよくなります。
この時、あまり気合を入れ過ぎてゴリゴリ研いでしまうと、折角、着せた布の繊維が切られてしまい、強度が落ちます。
ですので、飽くまで軽く作業をおこなってください。
表面に残った研ぎ粉をウエスで拭き取ります。
布目揃え、完了です。
この技法を使って「金銀マグカップの取っ手修理」を行いました。
ご興味のある方は覗いてみてください。陶器の金継ぎにも使えるのです◎
▸ 取っ手の壊れた黒いマグカップを麻布で補強する金継ぎ修理
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