※ 縁が数カ所欠けたカップの金継ぎ修理のやり方を説明していきます。本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。ご注意ください。
今回は金継ぎの工程のうち、〈欠けた個所の素地調整~錆漆で欠けを埋めるまで〉のやり方を解説していきます。
次のページをご覧になる方は ▸
Page 02 蒔き地前の漆塗り~蒔絵・完成
それで「蒔き地」ってなんだ?と思いますね。
そんなん聞いたことないぞー。
「蒔き地」とは蒔絵と同じ要領で金属粉の代わりに「土の粉」を蒔く技法です。
本来は蒔絵のような加飾の技法ではなく、「下地」と呼ばれる漆を塗る前の下仕事で使われたりする技法です。
ですが、蒔き地は蒔き地で独特なマットな表情が出るので加飾としても使ってもいいと思います。使ってらっしゃる作家さんもたくさんいます。
金、銀のピカッとシャープな見え方ももちろんいいんだけど、今回は目立たない仕上げがしたい。だけど黒い漆を塗っただけの仕上げというのはどうもイメージに合わない。てかてかしているし…という方。「蒔き地」を試してみてはいかがでしょうか?
今回はそのやり方をご説明します。といっても蒔絵と全く同じなので教えるというほどのものではありません。やり方だけご確認いただければと思います。
金継ぎとは
金継ぎとは欠けたり、割れたりした器を漆で直す日本の伝統技法です。漆で接着し、漆で欠けや穴を埋め、漆を塗って、最後に金粉や銀粉を蒔いてお化粧をします。
金継ぎする器 information
- 器の作家: 内田剛一さん
- 器の特徴: 白いカップ。ややピカピカした釉薬。
- 器のサイズ: 直径72㎜、高さ105㎜
- 破損状態: 口元に欠け6カ所/大きさ 15×7㎜、11×6㎜ 他、
どこかで見たことのあるコップ…。そです。〈簡漆金継ぎ〉で直した内田鋼一さんのコップです。
本漆金継ぎでやり直すのです。
ですので、素地調整まで簡漆金継ぎで使ったコンテンツの使いまわしです。ご了解ください。
口元が欠けています。白い釉薬が素地から浮いたようです。
ちょこちょこ欠けています。相当、釉薬の食いつきが悪いのかもしれません(たまたまでしょうけど)。使っているうちにまた他の箇所が欠けてくるかもしれませんね。
6か所直します。
実はこのカップのシリーズは以前も金継ぎ修理をしました。
以前、修理したとき、意外とこの釉薬は漆の食いつきがよいことがわかりました。ツルツルしているのに。釉薬の知識も必要ですね。
step 01 素地調整
簡漆金継ぎの素地調整で使う道具: ②③ リューターのダイヤモンドビット (ホームセンター等で入手可能/価格 \200~)、① ダイヤモンドのやすり
まずは欠けた箇所のエッジをやすりで軽く削ります。
本当に軽くで構いません。
とんがったエッジを丸めます。
研ぎ終わったら、ウエスで研ぎ粉を拭き取ります。
step 02 素地固め
「素地固め」ですが、やった方がいいという人(こちらの方がオーソドックスな意見ですが)と、やったらイカンという人とがいます。
金継ぎ図書館ではケースバイケースでやってます。「もの」によりけりです。
今回修理している内田鋼一さんの器の土は少しボソボソしているので、漆による固めを行った方がいいと思いました。
素地固めで使う道具と材料(▸ 素地固めで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: ⑥小筆、⑤付け箆
- 材料: ⑦生漆、①テレピン、②サラダ油、②ティッシュペーパー、③作業板(クリアファイル)
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。
▸ 詳しい筆の洗い方
- 作業板の上に数滴テレピンを垂らす。
- その上で筆を捻ったりしてテレピンをよく含ませる。
- ティッシュペーパーの上でヘラで筆を優しくしごく。
次に、浸み込みやすくするために生漆をテレピンを混ぜて希釈してください。
作業板の上でヘラを使ってよく混ぜ合わせます。
生漆 10 : 3 テレピン
くらいの割合で生漆を希釈します。
それを欠けた場所に浸み込ませていきます。
↑こちら、やります。
たっぷりと生漆を含ませた筆でコップの欠けに浸み込ませていきます。
塗り終わったら油で筆を洗います。 ▸ 詳しい筆の洗い方
筆は付属のキャップを嵌めて保存します。キャップが無かったらサランラップを丁寧に巻いてください。
キャップがない、もしくはキャップを作りたいという方向けに ▸ 筆のキャップの作り方 ページを作りましたので、ご覧ください。
次に吸い込まなかった余分な漆をティッシュで吸い取ります。
4回(?だたかな)折り畳んだティッシュを欠け部分に押し当てます。
そうするとティッシュの方に余計な漆が吸収されます。
ティッシュの面を替えて、これを何度か繰り返します。ティッシュにほとんど漆が付かなくなるまで繰り返してください。けどこの作業はそれほど厳密におこなう必要はありません。です。
こんな感じでフィニィッシュです。
1、2時間~1日、湿した場所(65%~)に置いて漆が乾くきっかけを与えてください。
step 03 錆漆付け1回目
金継ぎの錆付けで使う道具と材料(▸ 錆漆付けで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: ①プラスチック箆、②付け箆(▸ 付け箆の作り方)、
- 材料: ④生漆、⑤砥の粉、⑥水、③作業板(クリアファイル)
錆漆を作ります。 ▸ 詳しい錆漆の作り方
今回のコップの欠けた場所は傷が浅いので錆漆で補修していきます。
もし、皆さんの欠けた傷が深い場合は刻苧を使ってください。
刻苧漆の〈作り方〉 ▸
刻苧の〈使い方〉 ▸
それでは器の欠けの凹みに錆漆を充填していきます。
- 作業板の上で錆漆を薄く均一に広げる。
- ヘラを少し寝かしつつ、横から滑り込ませる。
- 右側から左側へ通す。
- そうするとヘラの先っちょだけに錆漆がつきます。
箆先に取った錆漆を欠けた部分に付けていきます。
今回、まずは〈欠け〉箇所の下のエッジを利用します。
欠け部分のエッジに擦りつけながら(ソフトにです)ヘラを画像右下の方に引いていきます。
そうするとエッジ部分で錆が切られて欠け部分に錆漆が乗ります。
(文字じゃわかりずらいっすね)
↑画像のように錆漆が乗ります。
一回だと錆漆の量が足りなかったら2回、3回と繰り返してください。
先ほどのっけた錆漆を今度はヘラで押しつけつつ(といってもソフトに)、器の素地の方に密着させます。
ヘラを奥から手前と引きます。
さらにヘラを反対方向に通して、錆漆と器の素地との間のわずかな隙間を潰します。
僅かですが、錆漆を左右、上下に動かすことで中の空気を抜き、密着度を高めます。
次は欠け部分の上のエッジ(口周りの縁の内側)を利用して錆漆を付けていきます。
まずは錆漆を「置いていく」感じです。
ヘラを画面右下へとスライドさせていきます。箆を器の内側へと下していきます。
エッジに擦りつけながらヘラを引いていきます。
ヘラを画面右から左へと通します。
ヘラの面で錆漆を押さえ、器の素地へ密着させます。
今度はヘラを反対側に通してください。
そのあと、2,3回ヘラを軽いタッチで通して、付けた錆漆の形を整えます。
この段階でのヘラの使い方は錆漆を「押さえる」ではなく、「整える」です。
で、こんな感じです。
錆漆が乾くまで1~2日安置してください。
(安置って言い方、おかしいですかね?)
step 04 錆漆の削り研ぎ
錆漆削りで使う道具(次のいずれか、もしくは複数) ▸ 金継ぎで使うおすすめの刃物のご説明
- 道具: ① メス(先丸型) ② オルファのアートナイフプロ(先丸型) ③ カッターナイフ(大) ④ 彫刻刀(平丸)
おススメは平丸の彫刻刀です。かなり作業が楽にきれいに、さらには楽しくできます。(言い過ぎかしら) ▸ 金継ぎで使う彫刻刀のカスタマイズ方法
錆漆の盛り上がっている部分を彫刻刀で削っていきます。
器の方に刃物の裏を当てて、それを平面の基準にしながら削っていきます。
削りすぎたら錆漆付けのやり直しですので、注意しながらちょっとずつ削っていってください。
今回の金継ぎ修理部分が器の外側だったので、主に刃物の「刃裏」を使って作業を行いました。
コップの口周りを削るときも彫刻刀の刃裏を器に当てながら、それを基準面にしてちょっとずつ削っていきます。
刃物の段階でなるべく綺麗に形を整えてしまいます。
といっても刃物が不得意な方、ちと怖いのよって方は無理せずペーパーの方でガシガシ研ぐようにしましょ。はい。
彫刻刀である程度きれいなラインが出たら、続いて耐水ペーパーで水研ぎします。
エポキシペースト研ぎで使う道具と材料
- 道具: ③ 豆皿(水入れ用) ④ ウエス ⑤ はさみ(ペーパー切り専用にしたもの)
- 材料: ① 耐水ペーパー(今回は#600) ② 水
耐水ペーパーをハサミで小さく切って、それを三つ折りします。
ペーパーに水を少量つけながら研ぎ作業をおこなってください。
刃物の削りでできた「面の変わり目の稜線」をペーパーで消していきます。
平滑な面のつながりを作ってください。
稜線って何だ?…ガタピシしているところです。このカクカクを丸くして滑らかにします。
360度、いろいろな方向からチェックしてきれいな面が出るまで研いでいきます。
出っ張っているところがあればそこを重点的に研ぎます。
こんな感じでどうでしょうか?
今回はここまでです。
次回は「蒔き地」を行います。
次のページをご覧になる方は ▸
Page 02 蒔き地前の漆塗り~蒔絵・完成