※ 口元からひびの入った湯呑の金継ぎ修理のやり方を説明していきます。本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。ご注意ください。
今回は金継ぎの工程のうち、〈欠けた部分の器の素地をやすりで削る~蒔絵まで〉のやり方を解説していきます。
金継ぎとは
金継ぎとは欠けたり、割れたりした器を漆で直す日本の伝統技法です。漆で接着し、漆で欠けや穴を埋め、漆を塗って、最後に金粉や銀粉を蒔いてお化粧をします。
金継ぎ修理されて戻ってきた器に再会した時、「妙な」感動を味わいます。大概の人は感動します。けどその感動には「妙な」感じが混じっています(と思います)。この妙な感じって何なんでしょうね?
想い出の詰まった愛すべき器がある時、何の前触れもなく壊れ、さよならが突然、訪れる。そう、突然です。
しくしくと泣きながら値段交渉の末、(あー、高いなーと思いながら)修理屋さんに器を送る…。3ヶ月、4ヶ月と月日が経ち、いつの間にかその器を失った食卓が日常となっていく。そしてある日、突然の再会を果たすのです。そう、あの「愛しき器」に。
内田樹先生はブログの中で「韓国TVドラマおよび韓国恋愛映画に伏流するドラマツルギー上の定型」について「それは『宿命』である」と語っています。ちょっと長いですが引用させてもらいます。
「宿命」について、かつてレヴィナス老師はこう書かれたことがある。
宿命的な出会いとは、その人に出会ったそのときに、その人に対する久しい欠如が自分のうちに「既に」穿たれていたことに気づくという仕方で構造化されている、と。
はじめて出会ったそのときに私が他ならぬその人を久しく「失っていた」ことに気づくような恋、それが「宿命的な恋」なのである。
「初恋」が「二度目の(あるいは何度目かの)恋」として、眩暈のするような「既視感」に満たされて重複的に経験されるような出会い。
私がこの人にこれほど惹きつけられるのは、私がその人を一度はわがものとしており、その後、その人を失い、その埋めることのできぬ欠如を抱えたまま生きてきたからだという「先取りされた既視感」。
それこそが宿命性の刻印なのである。
だから、どのような出会いも、作為なく二度繰り返され、そこに既視感の眩暈が漂うと、私たちはそこに宿命の手を感じずにはいられない。
『猟奇的な彼女』も『ラブストーリー』もそうだった。
『冬ソナ』は全編が「同一情景の回帰」によって満たされている。
そういう意味ではきわめて経済効率のよい脚本である。
なにしろ「同じ情景」が二度繰り返されると、みんな感動しちゃうんだから。
私だって、「その手はもうわかった」とうめいたこともある。
しかし、二度の交通事故、二度の「入院」による関係の断絶、そして繰り返される二人の偶然の出会い(一度目はチュンサンとして、二度目はミニョンとして、 三度目はチュンサンとして、四度目は…)という「これでもか」とたたみかけるような「同一情景再帰の手法」の前にウチダはなすすべもなく、ただ滂沱の涙で 応じるばかりだったのである。
ラストシーンで私はまた泣いた。
必ずや二人は偶然の糸に導かれてまた会ってしまうに違いないと知りつつ、その偶然の糸をウチダは「作為」ではなく「宿命」と呼びたくて、「宿命」の甘美さに、泣いた。
わかっちゃいるけどやめられない的に泣いた。
この確信犯的な「宿命の乱れ撃ち」に、条理をもって抗することは不可能である。
なんとでも言うがよろしい。
私はDVDを買うことにした。
おそらくこれから先、心が凍てつく夜が訪れる度に、私は「予定調和的な宿命」というドラマの不条理に「やっぱ人生って、こうじゃなくちゃ」と深く頷きつつ、熱い涙を注ぎ続けるであろう。
金継ぎは「同一情景再帰の手法」でもって持ち主を「『宿命』の甘美さ」の渦に巻き込んでいきます。完全に失われたはずの「最愛のもの」がある一定期間の後にちょっとだけ姿を変えて回帰してくるのです(このちょっと間が空くことと、ちょっとだけ姿が変わっているといのも味噌なんでしょうね)。
「どのような出会いも、作為なく二度繰り返され、そこに既視感の眩暈が漂うと、私たちはそこに宿命の手を感じずにはいられない」。
なるほど。
金継ぎした器と再会したときの感動って韓国恋愛ドラマ/映画と一緒だったんですね。
器 information
- 器の作家: 角谷啓男さん(白金陶芸教室の先生)
- 器の特徴: 陶器、少しテカテカとした釉薬
- 器のサイズ: 直径77㎜、高さ57㎜
- 破損状態: 口元から高台に向かってひび(内側25㎜、外側25㎜)
白金陶芸教室の角谷くんに「金継ぎ図書館に『ひび』の修理例がなくてね~」とぼやいていたら、早速、ひびの入った器を提供してくれました。ありがたや。
うっすらと口元から真下に向かってひびが入っています。
「ひび」だけの金継ぎは手間がかかりませんのでサクサク進めていきます。
step 01 素地調整
金継ぎの素地調整で使う道具: リューターのダイヤモンドビット (ホームセンター等で入手可能/価格 \200~)
新うるしの食いつきをよくするために修復箇所にやすりをかけて傷をつけます。
今回使ったビットは球状のものです。
まずは漆の器への食いつきをよくするためにやすりで傷を付けます。
今回はピカピカツルツルというほどのガラス質の釉薬ではなかったので、この作業はやらずに、直接「塗りを行う」もありだったかと思います。
ピカピカツルツルの釉薬の場合はこのやすり掛け作業をしておいた方がいいと思います。そうしないと意外と漆が剥がれ易いですよー。
ゴリゴリやすり掛けします。器の内側も入念に。
どこまでひびが入っているのかわかりづらかったら、鉛筆などであらかじめ目印を書いておいてください。
ゴリゴリ研いで、金継ぎの素地調整作業が終了です。
STEP 02 漆の下塗り
金継ぎの下塗りで使う道具と材料(▸ 漆の塗りで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: 小筆、付け箆(▸ 付け箆の作り方)
- 材料: 漆(今回は弁柄漆)、テレピン、サラダ油、ティッシュペーパー
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。
▸ 詳しい筆の洗い方
金継ぎの漆の下塗りを行います。
器の内側から漆を塗っていきます。ひびの上に筆先を置いて、それをそのまま手前に引っ張っていく感じです。
器の口元も塗ります。漆の塗りが厚くならないように気を付けます。
器の外側。ひびのラインに沿って漆を描いていきます。
今回はちょいとアクセントに途中に「点」を置きました。
何となくこうした方がリズムが良くなる気がしまして。
塗り終わったら湿した場所(湿度65%~)に入れて漆を乾かします。
2~3日乾かします。
作業が終わったら油で筆を洗います。 ▸ 詳しい筆の洗い方
洗い終わったら筆にキャップをつけて保管します。
キャップがなかったらサランラップで優しく包んでください。
この後、漆の中塗り→中塗り研ぎを行いました。
今回はひびの線に少し「存在感」があったほうが収まりがよさそうだなと思いまして、線に立体感を持たせるべく漆を塗り重ねました。
「線はフラットの方がいい」とか「なるべく目立たせたくない」という場合は漆を塗り重ねる必要はありません。
STEP 03 漆の下塗りの研ぎ
金継ぎの下塗り研ぎで使う道具と材料(▸ 漆の塗りで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: はさみ、豆皿
- 材料: 耐水ペーパー(1000番)、水
私は耐水ペーパーを1㎝×1㎝くらいの小ささにはさみで切り、それを三つ折りにして使っています。豆皿に出した水を少しだけつけて錆漆を研いでいきます。
漆の中塗りは黒漆(呂色)で行いました。
しかも実は欠けた部分もあったのです。でも今回のこのページは「ひび修理」をメインにやっていきますので、こちらの「欠け」はさらりと流します。
水を少し付けた#1000の耐水ペーパーで研ぎます。
中塗りした漆をなるべく全部研ぐようにします。
ひび部分もペーパーをかけます。
軽目にさらさらと。
研げました。けど研いだのかどうかこの画像ではわかりませんね。
STEP 04 漆の上塗り
金継ぎの上塗りで使う道具と材料(▸ 漆の塗りで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: 小筆、付け箆(▸ 付け箆の作り方)
- 材料: 漆(今回は弁柄漆)、テレピン、サラダ油、ティッシュペーパー
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。
▸ 詳しい筆の洗い方
金継ぎの上塗り工程です。
漆はなるべく薄く均一に塗っていきます。筆に含む漆の量は作業板の上で調整します。
器の内側から塗っていきます。塗り残しがないように気を付けてください。
器の外側も漆を塗っていきます。筆先を置いてそれを引っ張っていく感じです。
ずるずると薄く塗っていきます。
そして、例えば、です。例えば「うっ!」と思った瞬間…と言うと正確ではないですね。「うっ」と思ったその一瞬前に、筆先がピュッと横にズレたわけです。いや、もしかしたら「うっ!」と思いながら筆先をずらしているのかも知れません。
その時どうするか。あくまで例えばの話です。
普通はやり直したいなと考えます。この「うっ」を失敗と捉えるわけです。それもありです。その場合はテレピンを2,3滴ティッシュに含ませたもので拭き取ります。それからテレピンが乾くのをしばらく待ちます。(アルコールでやると乾きが早くて便利です)
これもありです。
器の口元も忘れずに漆を塗ります。
先ほどの「うっ!」の続きです。筆先がズレました。残念ながらズレました。がっくしします。「でも…」と今回は強引に接続詞をつけてみます。すると続いて出てくる言葉は「これもありだよね」です。
「どう『あり』なんだよ?」と自分にツッコんでみます。するともう一人の私がもじもじと答え始めます。「いや、このラインはもう少し『抑揚』があった方がいいと思ってさ。だって器の雰囲気からいっても太いところと細いところがあった方がいいんじゃないのかな。その方がいい。素敵なリズムが生まれた。僕はそう思うんだな」と。
ひび部分の漆の上塗りが終わりました。
先ほどの話の続きです。「うっ」で生まれたズレ。これって器が割れた瞬間に少し似ていませんか?もし、そう感じていただけたとしたら、そのズレを受け入れてあげるのはまさしく「金継ぎ的」でありますよね。
実際に自分の意図とは別のところから侵入してきた「異物」を受け入れてみる。その瞬間、目の前に現れた事象、そこを「出発点」と捉えて次の一手を考えてみる。
以外とその方が「いい」金継ぎが出来上がるものだと思います。
器の外側も終了です。
続いて欠けた部分の上塗りです。
なるべく薄く、均一に漆を塗っていきます。
塗り終わりました。
これで金継ぎの上塗り工程が終了です。
塗り終わった器は湿し風呂に入れて漆の「乾き初め」を待ちます。
今回、風呂の湿度が55%くらいにしか上がりませんでした。
3時間、風呂に入れて漆が乾き始めるのを待ちました。
作業が終わりましたので、筆をサラダ油で洗います。 ▸ 使用後の詳しい筆の洗い方
洗い終わったら筆にキャップをつけて保管します。
キャップがなかったらサランラップで優しく包んでください。
STEP 05 蒔絵
金継ぎの蒔絵で使う道具と材料(▸ 蒔絵で使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: 真綿
- 材料: 金丸紛2号
上塗りした漆に金粉を蒔いていきます。
金粉の入った包み紙を拡げて小石で押さえます。
小さくちぎった真綿を軽くまとめたものに金粉をつけます。
躊躇せずに金粉をつけてください。
ひとまずこんなもので。
上塗りした漆の上に金粉をつけていきます。優しく叩くような感じで金粉のついた場所を当てていきます。
金粉が足りなくなったら適宜、包み紙の方から金粉を補充してください。
とんとんとんと真綿で金粉を置きつつ、周りについた金粉を真綿でかき集めるようにして漆の上に載せていきます。
器の外側も同様に金継ぎの蒔絵作業を行います。
優しくなでるような、軽いタッチで金粉をつけていきます。
周りについた金粉も真綿で絡めとって、漆の上にのせていきます。
ひび部分はこんな感じで蒔絵完了です。
続いて欠けの部分の蒔絵もやっちゃいます。
包み紙の金粉を真綿に取って…
上塗りした漆の上にのせます。この時、金粉の包み紙の上で作業を行って、金粉がその上に落ちるようにします。
欠け部分の蒔絵ができました。
金粉を蒔いたあと、20~30分待って、それからダメ押しで、また金粉を真綿で付けます。その時はささっと。
これで金継ぎの蒔絵作業が完了です。
そうしたら器を湿した場所(湿度65%~)に置いて、漆を硬化させます。4~5日くらいしっかりと乾かします。(途中、霧吹きで水を撒いたり、濡れタオルを置いたりして、湿度を保つようにしてください)
次の工程を見る ▸ ②~蒔絵磨き完成まで