※ 今回ご紹介するお皿の修理方法は〈 合成樹脂 + 本漆 〉で行うやり方です。
「簡単な漆金継ぎ」略して『簡漆(かんしつ)金継ぎ』と名付けました。
修理工程の「接着」「穴埋め」「段差埋め」などは合成樹脂で行い、最後の「塗り」は本物の漆で行います。合成樹脂を使うことで作業期間の短縮化と、手順の簡略化を図ります。一方、修理表面の塗りには本物の漆を使用することで食器として使える安全性を確保します。
塗りだけにしか本物の漆を使いませんので「かぶれ」のリスクも減らすことができます。(とはいえかぶれのリスクはあります)
合成樹脂で直す「簡易金継ぎ」と、本漆のみで直す「本漆金継ぎ」の中間的な修理方法です。
Step 01 接着剤の削り/簡漆金継ぎの方法
(今回の所要時間:10~15分)
接着剤の削り・研ぎで使う道具と材料
- 彫刻刀などの刃物
接着時にはみ出したエポキシ接着剤を刃物で削っていきます。
この段階では とことんまできれいにする必要はありません。
次の「ペースト付け」作業で周辺がまた汚れてしまいますので。
出っ張っているところ、次のペースト付け作業で邪魔になりそうなところだけ削り取ってしまいます。
そこそこきれいになったら次の作業に進みます。
↑画像ではきれいに見えるかもしれませんが、そんなにきれいにはなっていません。
Step 02 エポキシペースト付け/簡漆金継ぎの方法
(今回の所要時間: 20分)
エポキシペーストで使う道具と材料
- 道具: 付け箆(▸ 付け箆の作り方)
- 材料: エポキシ接着剤(30分硬化型)、砥の粉、テレピン
※今回の修理品の表面はツルツルピカピカのガラス質なので、ペーストで修理箇所の周りが汚れても後で掃除が簡単にできます。ということでマスキングをしませんでした。
もし、直す器がガサガサ、マットな表面のものでしたら、この作業の前に汚れ防止のマスキングを行ってください。
それでは細かい穴や隙間、段差を埋めていきます。
※大きな穴、欠け、隙間、段差はエポキシパテで埋めてください。
いつものエポキシペーストは〈エポキシ接着剤+エポキシパテ〉で作っていたのですが、 今回のエポキシペーストは〈エポキシ接着剤+砥の粉〉で作っていました。
使い勝手を比べてみました。が、まだ「砥の粉」での経験が少ないのでもう少しサンプルを集めてからご報告します。
砥の粉の含有量は…適当にやってみました。もう少し砥の粉を加えた方が使いやすかったかなと思います。イメージは「ケッチャップ~ねりからし」くらいの固さです。
ペーストを付けていきます。
箆先に少量のペーストを取ります。
接着のラインに対して直角気味にヘラを動かして、ペーストを隙間に埋めていきます。
①、②と右側に少しずつヘラをずらしていきます。
そのまま右に③,④、⑤、と付けてから、↑のように手前から奥へとヘラをすーっと通します。
ヘラを通したら、こんどは周りについてしまったペーストをヘラで軽く掃除します。
掃除はそこそこで大丈夫です。頑張ってもそんなにきれいにならないし、それよりもペーストが硬化してきてしまう前に、他の場所の作業をやってしまいましょう。
余裕があったらじっくりきれいにしてください。
ソーサーの表面の作業が終わったら、裏面の作業に進みます。
小さい穴や隙間、段差があります。ここをペーストで埋めていきます。
箆先に少量のペーストを付けて、それを隙間に置いていきます。
接着ラインに対して90度にヘラを通して付けていきます。①→⑤というように、少しずつずらしていきます。
⑨→⑩とずらしつつ。
今度は接着ラインに沿って左側から右側へヘラを通します。
ラインに沿ってヘラを通すことで、隙間に盛ったペーストを周りの面レベルと均一に整えます。
まわりにはみ出したペーストをヘラで取り除きます。
これで簡漆金継ぎのペースト付け作業が終了です。
結構、周りにべとべととペーストがついています。がしょうがない。
ちょっとした穴、隙間が埋まりました。
作業で使ったヘラや板はテレピン(または灯油など)で拭いてきれいにしてください。
この後、樹脂がしっかり硬化するのを待ちます。
1時間くらい待てば削り作業ができますが、ちょっと硬化が足りずに削りにくい感じがします。2~3時間、もしくは一日明けてから次の削り作業をおこなった方がよいと思います。
Step 03 ペーストの削り・研ぎ/簡漆金継ぎの方法
(今回の所要時間: 20~30分)
ペーストの削り・研ぎで使う道具と材料
- 彫刻刀などの刃物
- 耐水ペーパー(#600)、水、ウエス、はさみ、豆皿
前回、塗布したペーストを削ります。まわりについてしまったペーストもきれいに掃除します。
器の表側です。ペーストがべたべたついています。
器の裏側です。こちらもべたべたです。
がんばってきれいにします。
器の外側です。
ペーストを盛りすぎたところや、はみ出したところを彫刻刀で削っていきます。
器の内側も同様の作業を行います。地道に削っていきます。刃物でできるだけきれいに削っておきます。
刃物で削りましたが、まだ周りにペーストが残っています。
これを刃物で全部除去しようとすると結構しんどいです。ので、このくらいでオッケーです。
器の外側もこのくらいです。
残ったペーストは耐水ペーパーで水研ぎします。
私は耐水ペーパーを1㎝×1㎝くらいの小ささにはさみで切り、それを三つ折りにして使っています。豆皿に出した水を少しだけつけて錆漆を研いでいきます。
三つ折りした#600のペーパーに水を少し付けて、サラサラと軽く研いでいきます。
どうでしょうか?なかなかきれいになりました。
器の外側も同様にペーパーで研いできれいにしてください。
Step 04 漆の下塗り/簡漆金継ぎの方法
(今回の所要時間: 30分)
金継ぎの下塗りで使う道具と材料(▸ 漆の塗りで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: 小筆、付け箆(▸ 付け箆の作り方)
- 材料: 漆(今回は呂色漆)、テレピン、サラダ油、ティッシュペーパー
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。
▸ 詳しい筆の洗い方
研いできれいになったペーストの上に漆を塗っていきます。
↑画像が見づらくなってしまいました。
どんな描き順でも構わないのですが、一応、私が気を付けているポイントです。
利き手が右なので、漆を塗る順番としては向かって左側から作業をしていきます。左側から作業を行うことで、右側に右手の小指を置く場所を確保します。
こんな感じです。漆の塗り厚は厚くなりすぎないようにご注意ください。
厚すぎると「縮み」という現象が起こって悲惨なことになります。
器の表面の漆塗り作業が終わったら、次に縁の部分も塗ります。
ソーサーの裏側です。向かって左側のラインから漆塗り作業を進めます。
①→④という順番です。
⑤→⑥と塗って、お終い。
簡漆金継ぎの漆塗り作業が完了しました。
作業が終わったら油で筆を洗います。 ▸ 詳しい筆の洗い方
洗い終わったら筆にキャップをつけて保管します。
キャップがなかったらサランラップで優しく包んでくださ
今さら気が付いたのですが、真っ白なお皿に黒いラインというのはなかなか魅力的ですね。真っ白な和紙に書いた筆で書いた「書道」のような。
うーん。古代の「漢字」のようです。
器の割れた表情から何かのメッセージを読み取る。古代中国の甲骨文字。繋がりますね。(妄想かな?)白川静先生の本を読まなければですね。
これで簡漆金継ぎ完成―――としても構いません。問題なく使えます。
使う場合は1~2週間じっくりと乾かした後にしてください。
私はもう少し完成度を上げたいので作業を続けます。
湿した場所(湿度65%~)に置いて2~3日乾かします。
次の作業工程を見る ▸ ③ 蒔絵完成まで
前の作業工程に戻る ▸ ① 接着まで