今回「木」のお椀を直す方法を解説していきます。
え、木地のお皿って直せるの? はい、直せます。よ。
三谷龍二さんのお皿が欠けたって直せるのです。(カビが生えたら、「拭き漆」をおススメします)
欠け、ひび、割れも陶器の金継ぎ方法とほぼ同様の手順で直せます。
ただし「陶器の金継ぎ方法」に、プラス「布着せ」の手順が入ります。
傷口に麻布を1,2枚貼って補強します。麻布は漆屋さんで売っています。
※ 木の器の修理はあまり「金継ぎ」とは呼ばないと思うのですが、手順はほとんど一緒なので「金継ぎ」と呼ばせてください。木地の器修理は特に呼び名が無いと思います。
金継ぎする木の器 information
- 器: 大江戸骨董市で入手
- 器の特徴: 横木、大きく歪んでいる
- 器のサイズ: 直径125㎜ 高さ80㎜
- 破損状態: 口元にひび1カ所 長さ17㎜
今回修理するこのお椀は骨董市で買った、もともとが「漆塗り」のお椀でした。
が、しかし使っているうちに塗膜がバリバリ剥がれてきたので、砥石や耐水ペーパーでガリガリ研いで、塗膜と下地を取り除き、「木地のお椀」にしていまいました。
塗膜を剥がすのはえらく手間がかかりますので、あまりおススメしません。
口元に薄っすらとひびが入っています。
「乾いている」状態だとほとんどわからないのですが、水に濡れると木地が動いてパックリと筋が入ります。
おっ!はと!?
無視していきましょう。
このお椀は「布着せ」がしてありませんでした。(専門的な話ですみません)
轆轤のカンナで深くえぐられている箇所もあります。
そこも刻苧で補修してあります。
形はえらく歪んでいます。
おそらく生木を挽いたのではないかな?と思っています。(私は轆轤を挽かないので「あてずっぽ」です)
しかも「電動轆轤」ではない時代のものだと思っています。
生木だからというのもあると思いますが、カンナの入りが「深い」。
「削る」というより「彫っている」という感じです。
こういう感じが現代の木地椀にはありませんよね。経済の論理も考えると仕方ないところが多々ありますが。
ただ、やはりサラサラと表面を削っていく現代の木地椀の作り方では、どうしても木と刃物のもっている生命力のようなものが大きく減殺されてしまっているような気がします。
(轆轤を挽かないのにエラソーです。挽かないから言えるのでしょうね)
器のフォルムは「そこそこ」です。(でもこのどんくさい感じも時間とともに愛着が湧いてきました)
もっと惹かれる漆椀があったのですが、そうなるとお値段が4,5万円くらいからとなります。これは確か1万円以下でした。6、7千円くらいだったんじゃないかな?
で、ひびはどこ?かと言いますと。
こちらになります。
見えますでしょうか?
分かりやすいようにひびを色鉛筆でなぞりました。
この後、彫刻刀で削るのですが、その目印になるようにしておきます。
内側も目印を描いておきます。
「ひび」の場合、目視で確認できるより数ミリ(3~5ミリ)程度、長く見積もっておいた方がいいと思います。
見えていなくても、ひびは意外と長く入っています。(私はそれで何度もやり直しをする羽目になりました)
〈木の器の金継ぎ工程 01〉 彫刻刀で器の木地を彫る
木地を彫る作業(刻苧彫り、薬研彫り)で使う道具:
- 彫刻刀(① 三角刀 6㎜ ② 平刀 9㎜ のどちらか)
三角刀の方が彫るときは楽ですが、研ぐのが大変です。平刀、もしくは印刀(小刀)の方がいいかもしれません。研ぐのが楽なので。
三角刀の代わりに丸刀でも大丈夫です。その場合は刃幅は3㎜くらいの小さいものにしてください。
ひびの上を彫ります。
えっ!何で彫るの!?直すんじゃないの?
はい、直すために彫ります。
ええっとですね、やや事情は込みいっているのですが、まずはひびの入った「裂け目」を彫ります。その後、そこを刻苧で埋めます。そしてさらにその上から麻布を貼って補強します。
刻苧で埋めるんだったら、最初から彫らなきゃいいじゃん。
おっ!なるほど。
いやいや、刻苧っているのは木地が動いた時の「緩衝材」となってくれるのです。木のままだと、木地が動いた時、表面にダイレクトに「ズレ」が生じます(もしくは隙間)。刻苧はそれを緩やかに吸収して表面に影響が出づらくしてくれるのです。あくまで「出づらく」してくれているだけですので、木地が大きく動いた場合、そのズレを吸収しきることができなくなります。
木地が「動く」のは水に浸けた時に水を吸収したり、空気中の水分を吸ったり吐いたりしているからです。
ですので、なるべくその運動を止めた方がいいと思います。
水分の出し入れを止めるために拭き漆を数回重ねたり、漆塗りをしたりすることをおススメします。
今回も工程の最後の方に擦り漆を数回重ねるつもりです。
彫刻刀の平刀を使う場合は刃のキワの方を使います。
ひびのラインがV字の谷底になるように彫っていきます。
V字は片方ずつ彫っていきます。
もう片方の斜面を削ります。
口周りも「V」です。
器の内側も彫ってください。
この「彫り」作業を「刻苧彫り」とか「薬研彫り」とか言います。
「薬研」とは…ウィキに詳しくでていると思います。気になる方はチェックしてみてください。
彫り、完了です。
こんな感じです。
刻苧彫りをするときの「幅」や「深さ」は人それぞれです。
ただし、「狭過ぎ」「浅過ぎ」だと「緩衝」効果が期待できませんので、ある程度は広く、深くがいいと思います。
「ある程度」って言ったって、私は初めてなんだから知るわけないでしょ~。
そうっすね。
一応、私なりの目安としては幅5~7㎜、深さ3㎜…といったところでしょうか。
もうちょっと広くて、深くても全く構いません。
その方がいいかもしれませんね。
〈木の器の金継ぎ工程 02〉 漆で木地を固める
木地固めで使う道具と材料(▸ 素地固めで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: ⑥ 小筆 ⑤ 付け箆
- 材料: ⑦ 生漆 ① テレピン ② サラダ油 ② ティッシュペーパー ③ 作業板(クリアファイル)
刻苧彫りした箇所を漆で固めます。
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。 ▸ 詳しい筆の洗い方
毎回、作業が終わったときに筆を”油”で洗いっているので、使うときにはまず筆の中の油を取り除きます。
- 作業板の上に数滴テレピンを垂らす。
- その上で筆を捻ったりしてテレピンをよく含ませる。
- ティッシュペーパーの上でヘラで筆を優しくしごく。
続いて漆を用意します。
ひびに浸み込んでいきやすくするために生漆にテレピンを混ぜて希釈してください。
作業板の上でヘラを使ってよく混ぜ合わせます。
生漆 10 : 3 テレピン
くらいの割合で生漆を希釈します。
生漆をたっぷりと浸み込ませてください。
遠慮はいりません。
器の外側が終わったら、内側もしっかりと漆を浸み込ませてください。
表面に残った生漆をティッシュで吸い取ります。
折り畳んだティッシュを漆を浸み込ませた箇所に優しく押し当てます。
ティッシュに漆がほとんどつかなくなるまで、この吸い取り作業を繰り返してください。
こんな感じです。
木地固め作業完了です。
作業が終わったら油で筆を洗います。 ▸ 詳しい筆の洗い方
筆は付属のキャップを嵌めて保存します。キャップが無かったらサランラップを丁寧に巻いてください。
キャップがない、もしくはキャップを作りたいという方向けに ▸ 筆のキャップの作り方 ページを作りましたので、ご覧ください。
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