↑なんか現代アートの杉本博司さんの「アーキテクチャー」シリーズの写真のようですね~。
ファイツ!!
スミアシ…??初耳だけど、それって何?漆の業界用語??
いえ、「机」業界用語なんでしょうかね?ちょっとわかりませんが。
「角足」とか「角脚」とか書きます。机の「脚」のことです。現在、仏像の台座を作っているのですが、その台座の下に着ける短い脚のことも「角足」と呼ぶんです。
ふーん、でも仏像の乗っている台座に「脚」なんてあったっけ?そういうイメージってないんだけど。
ほら、見てごらんなさい。台座の下に「影」があるでしょ?影があるってことは「隙間がある」ってことです。
この隙間は台座が「空中浮遊」しているってわけじゃないんです。仏像だったら浮いててもいい気がしますが、諸事情からそういうわけにはいかないんです。(重力とか、みんなが怖がるとか)
スミアシって何で付けるの?必要なの??
角足を付ける理由としては実際的な機能面と、ビジュアル的な面との二つがあります。
機能面としては、框を移動させる際、台の下に指が入るようにする…ということです。
台の下に指が入らないと台を持ち上げることができません。さらに、漆塗りをして、磨き上げると、ツルツルするので、台の横っ面を持って持ち上げるというのが難しいのです。ツルッと滑って落としたら…悲しいですよね。ということで、やっぱり指が下に入らないとマズいのです。
もう一つの理由として…ビジュアル的機能ですが、角足を付けることで、台の下に「影」が落ちます。影が薄っすらと見えるということは「浮いている」「隙間がある」…ということで、そうすると無意識的にでも「軽やかさ」を感じてしまうものなのです。
黒い塊がドスンと置いてあると、その空間全体が「重~く」なります。框という黒い塊が「重苦しさ」を演出してしまうのです。だけど、できたら「仏像の台座の足元を強い黒でキュッと引き締め」ている…というように感じてもらえるようにしたいわけです。
ですので、框の下には風の通り抜ける空間を設けることによって、ちょっとした「軽やかさ」を作り出すのです。
ですが、この空間も広すぎると(角足が高すぎると)、足元が不安定な印象になってしまい、見る人の意識の中にも「不安な感情」を作ってしまうことになります。
キリンのような、脚が高くてシュッとしたフォルムの台だと不安定な印象を与え、カメのような、脚が低いフォルムだと、安心感を与えるわけです。
人々の様々な心(不安だったり、悲しみの感情など)を受け止める仏像が乗る台としては、やっぱり「安心感」を与える、どっしりとした台座にした方がよいのです◎
只今、框かまち(仏像が乗る台)を作っているのですが、その台の下に着ける角足も作っています。
漆を一回、塗ったところです。
今、やっている工程としては「漆の塗り→研ぎ」を繰り返して、「平滑な面」の精度を高くしていきます。
研ぎ面の大きさ、長さに合わせて様々な大きさの砥石を用意します。砥石屋さんに「ちょうどいい大きさの砥石」が置いてある…なんてことは、ほぼほぼありませんので、大きな砥石を買ってきて、それを自分で切ります。
砥石って「切れる」んですか?!って思いますよね。
切れます◎ けど、めちゃ大変です(苦笑) 金属用の鋸を使って切ったりするのですが、えらく時間がかかるし、鋸の刃がすぐに切れなくなります。どんどん刃を替えて(替刃式なので)、それで切っていきます。
私はその作業に嫌気が差して、小さな「バンドソー」を買いました◎ 1万円くらいのダイヤモンドチップの付いた刃を装着させると、砥石も切れるのです◎
これ、便利ですよ~。
角足の側面を研いでいきます。全体を研いでいきます。
一か所だけ集中して研いでしまうと、そこだけ凹みます。だからまずは全体を満遍なく研いでいきます。
あらかじめ水に浸しておいた砥石を使って、さらにちょっと水をつけつつ研いでいきます。
研ぎに使っている砥石を、さらに大きな砥石に当てることで、小さな砥石の平面を保たせます。これをやらないと意外と砥石の研ぎ面が凹んだり出っ張ったりします。
それじゃ、その「大きな砥石」の平面はどうなるの??凹まないの?…うーん、そうですね、だんだん形が崩れてきます。なので、他の砥石とすり合わせます◎
なんか面倒そうですね~(笑)
ところで、なんで「釘」が刺さっているの?
「ワンポイント」です◎ うそです。
漆を塗るときに「取っ手」として持ちやすいようにです。
研ぎつつ、ちょくちょく研ぎ汁をスポンジで拭き取って、「面のチェック」をします。
グレーになっているところは砥石が当たっているところで、黒色のところは凹んでいて、まだ砥石が当たっていないところです。
さらに研いでいきます。
研ぎ続けると…まだ黒色のところがちょっと残っています。と同時に、茶色いところも出てきました。この「茶色」は漆塗りの下の層の「錆漆さびうるし(ペースト)」の層です。研ぎ破っちゃった…ってことです。
でも、この段階ではこの「研ぎ破り」は全然、気にする必要はありません。ガンガン研いでいきます。「平滑な面を作ること」を優先させます。
研ぎ破りも出てきてしまいましたが、全体に砥石が当たりました。
「平滑な面」が出ているか?のチェックもします。
定規を当てて、その隙間から差し込む「光」を見ます。これで側面の形をチェックするわけです。
角足の側面の形も「框かまち」と同様に、少し「R」をつけます。(丸みを付けるってことです)
形をチェックして、出っ張っているところがあったら、その周辺だけ重点的に砥石で研いで、形を修正していきます。これが結構、手間がかかるし、難しいのです。
研ぎ終わったら、漆塗りの二回目を行います。
幅の狭い小さめの漆刷毛を使います。この「漆用の刷毛」って女性の髪の毛を使っているんです。江戸時代から「髪の毛」を使うようになったらしく、それ以前は獣毛を使っていました。
ちなみに「漆刷毛」は値段が高いです。
塗る面積に合わせた分量の漆を刷毛の先で掬い取ります。
この「漆の塗り方」は十人十色です。つまり綺麗に塗れればどうやったって構わない…ってことです◎
私はまずは刷毛を横滑りさせつつ、漆を配っていきます。
刷毛の先の漆を「ちょんちょんちょん」と点付けしていく塗り方をしている人も時々いるのですが、ちょっとそれは効率が悪いし、刷毛の動かし方としても「きれいじゃないなー」って感じるので、私はこうしています。
動作に無駄がなく、道具の持つ能力を上手く引き出す動きができたら、それってきっとすごく美しいだろうなーって思いますよね。
一流のスポーツ選手の動きと同じような感銘を受けそうですよね。
横一直線に配った漆を今度は広げていきます。
まずは小刻みに刷毛を斜め下に動かしていきます。
次に斜め上に動かしていきます。
全体に漆が配れたら、今度は刷毛を通します。
反対方向にも通します。
刷毛の「入り」と「抜け」の部分はどうしても「刷毛目」が残りやすく、さらには漆が厚く溜まったり、薄くなったりしやすいので、最後に直角方向に刷毛を小さく通します。
裏と表にはみ出した漆をヘラで切っていきます。
4面とも塗り終わったら、塗りの作業は終了です。
漆を乾かすために適当な冶具を見つけて、それにクリップで止めます。宙に浮くようにするわけです。
漆風呂に入れて一昼夜。
7月の関東の気候だったら、一日で乾きます◎
この後、さらに「研ぎ→塗り」…と繰り返しつつ、さらに面の精度を高めていきます。
すごく大雑把な説明になりましたが、こんなふうに「塗り→研ぎ」を繰り返しています◎