レッツ うるし塗り!
※ 本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。ご注意ください。
※ 万が一、漆が肌に付いた場合はすぐに「油(サラダ油など)」でよく洗って下さい。 油?? そうです。「油」をつけ、ゴシゴシ漆を洗い落としてください。その後、その油を石けんや中性洗剤で洗い流してください。
きゃー、何これ!?器がカビてる……!
あります。確かにあります。そう、木の製品は「カビ」が生えることがあります…。残念ですよね。
ウレタンやアクリルがこってりと塗装してあればそんなことは起こらないですが、木地の無塗装仕上げ、オイルフィニッシュ、などは気が付くと「黒い点々」が…
せっかくちょっと高いお金を出して買った器なのにカビちゃうなんて…ガックシ。あ~やっぱり陶器にしとけばよかった!木の器なんて買うんじゃなかった!
そんながっくりへこんでいる方にご提案です。「擦り漆」をしてごまかしちゃえ!!—-です。
みなさん、熱湯消毒、アルコール消毒などで頑張っておられる方が多いと思いますが、いかんせん、それでは太刀打ちできないことも多いと思います。カビがとれないこともありますよね。
そしたら「擦り漆」しちゃいましょうよ。せっかく漆を持っていることだし。
漆を浸み込ませてこげ茶色、もしくは黒色にしちゃえばカビはほとんどわからなくなります。
漆は抗菌作用もあるようですので、一石二鳥ではないでしょうか◎(もしかしたら、カビを内側に閉じ込めているだけかもしれませんが…。ちょっとそこらへんの専門的なことは分かりません。すみません)
しかも木地仕上げの器が「漆器」に変身!木地ならではの素朴な表情や、湿気の吸収・放出の機能はなくなってしまいますが、そのかわり「漆器」として防水、抗菌作用などが付加されます。
これまでの修理依頼で三谷龍二さんの木地の器など、カビの生えてしまってアルコール消毒では対処できなかった器を何点か「擦り漆」で復活させました。
カビは全然、分からなくなりました。「どこがカビていたの?」というくらい全く分からなくなりました。
今回のサンプルは「木の器」ではなく「木の匙」ですが、擦り漆をするだけですので手順は同じです。
ちなみに「擦り漆」と「拭き漆」、「漆で固める」は同じ作業です。呼び方が違うだけです。
カビた玉杓子 information
- 産地: 群馬県入山地区の伝統工芸品
- 素材: アカマツ(おそらく)
- サイズ: 長さ21㎝×幅6.5㎝×高さ2.5㎝
手元のお尻の部分が少し黒ずんでいます。
そんなに重症ではないのですが、よい「サンプル」になるので拭き漆をしたいと思います。
裏面の方が少しひどいです。
こういった「カビもの」を写真でアップするのはちょっとマナー違反かもしれませんが、「対処方法をお伝えするために」…ということでご理解ください◎
ちなみになんで手元だけカビたかというと、おそらく洗ったときに水切り籠の中に立てて置いているからだと思います。
その後、すぐに布巾で水気を拭き取ればいいんですけど、ズボラなので放置しちゃうんです。
カビ隠しに使う道具と材料
道具: ①ウエス ③平筆 ④練りベラ ▸作り方 ⑤作業板 ▸作り方 ⑥ゴム手袋
材料: ②漆 ⑦テレピン類
① ウエス … 使い古した布切れ
② 漆 … 生漆、黒漆、朱漆、などなどどれでも可
③ 平筆 … 100均のものでオッケー
④ 練りベラ … 竹の割り箸から作れます◎
⑤ 作業板 … クリアファイルでも大丈夫
⑥ ゴム手袋 … これ必需品です
⑦ テレピン類 … ドラッグストアで売っているアルコール(¥300/500ml)でもオッケー
道具: ①②消しゴムなど
材料: ③空研ぎペーパー(#240~#400くらい)
今回は「柄」の部分しか作業をしないので、①②のゴムは使いませんでした。
ヘッドの「窪み」も作業をする場合はゴムもあるといいです。なくてもいいです◎
①は市販の消しゴムです。柔らかいので素地の「凹凸」を比較的よく拾ってしまいます。けど、入手が簡単なのでこれでひとまずやってみてもいいと思います。
②はホームセンターやハンズなどで売っている「ゴム板」を切って成形しました。¥200~¥300程度で入手できるかと思います。使ったのは板厚10㎜のものです。
step 01 木地のペーパーがけ
まずはペーパー(紙ヤスリ)で研ぎます。
これでカビを取る。わけじゃないです。
カビがとれたらいいなーと思ったのですが、やっぱりとれませんでした。
この作業は漆が木地に均一に浸み込んでいくように下準備です。
漆を塗布する箇所はすべて研いでおきます。
側面
裏面
こんな感じです。
step 02 擦り漆
木地に生漆を浸み込ませていきます。
まずは漆を緩めます。
テレピンを2~3割混ぜます。
箆でしっかりと混ぜてください。
平筆は幅15㎜くらいのものが杓子塗りでは使いやすい大きさかと思います。100均のナイロン筆です。
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。
▸ 詳しい筆の洗い方
毎回、作業が終わったときに筆を”油”で洗っているので、使うときにはまず筆の中の油を取り除きます。
- 作業板の上に数滴テレピンを垂らす。
- その上で筆を捻ったりしてテレピンをよく含ませる。
- ティッシュペーパーの上でヘラで筆を優しくしごく。
筆に生漆をたっぷり含ませます。
塗っていきます。
じゃぶじゃぶ塗っていってください。
木地にたっぷり吸い込ませてください。
生漆を塗り終わりました。
塗り直後はまだ漆が「茶色」になっていないので、相変わらずカビが目立っています。
でもご心配なく。
吸い込まなかった漆をウエスで拭き取ります。
みなさん、素手で作業は行わないでくださいね。カブレますよー。
ゴム手袋を使ってください。
拭き取りが終わりました。
先ほどより少し、漆の色が濃くなってきました。
この後、もう少し濃くなると思います。
作業が終わりましたら油で筆を洗います。
▸ もうちょい詳しい平筆の洗い方
平筆はサランラップで包んで保管します。
▸ もうちょっと詳しい平筆の保存の仕方
〈カビごまかし作業〉 完了
できました!
どうでしょう?
いや、ほとんどわかりませんよね。カビ。
表面
側面
こちらの側はアップにすると少しカビっぽいのがわかりますね。
これももう1回、擦り漆を行えばほぼ色が濃くなってわからなくなると思います。
裏面
これで防水機能もバッチリです。抗菌機能も。
三谷龍二さんの器がカビちゃった方、ぜひこの方法で蘇らせてください。
ついでに他のもので同じく黒っぽいカビが生えてしまったもの…
こちらです。
「入山メンパ」!おっ、かっこいい!
「わっぱ」のお友達です。「めんぱ」は側面に「直線」が出ているところが「わっぱ」と違うと作り手の職人さんに教わりました。
こちらも使っているうちに黒いカビが生えてしまいました。
蓋の方だけ。
※ ↑画像の色が濃くなっている箇所がカビた場所…って訳ではないですよー!色の濃いところは「漆が多く吸い込まれた箇所」です。お間違えの無いように。
側面の板の立ち上がりの隅に薄っすらと数カ所、カビがでちゃったので擦り漆をしました。
蓋のみ、擦り漆をしました。ボディーの方はやっていません。
なぜかというと擦り漆をすると木地の吸水性が損なわれるからです。
ご飯などを入れた時に程よく湿気を吸ってくれた方がありがたいので、漆を使うのを避けました。蓋のほうの擦り漆もかなり漆を薄めたもので行っています。
ちなみに、桜の皮で閉じている箇所が蓋と身で互い違いになるように蓋を被せるそうです。
知っていましたか?
言われると、確かにその方が桜の皮へのダメージが少ないからかな、という気がします。
「入山メンパ」
どうでしょう?グッときた方、いらっしゃいますか?
上品な感じの「わっぱ」ばかりが注目を浴びていますが、こちらは「ざ・民芸・オブ・ザ・民芸」といった感じです。
山仕事に行く人が持って行った仕事人のためのリアルな道具としての弁当箱です。しゃれっ気ゼロ。
群馬県の入山地区の民芸品です。3年ほど前はご高齢の職人さんが2人ほど続けられていました。(今はどうなっているかわかりません)
ちょっと前まで群馬の高崎駅でも売っていたのですが、最近見たら置いてありませんでした。
残念ながら、もうこのお弁当箱が手に入らないのかもしれませんね。