※ 口元からひびの入ったフリーカップの金継ぎのやり方を説明していきます。本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。ご注意ください。
今回は金継ぎ修理の工程のうち〈ひびをちょっと削るところ~錆漆付け〉までのやり方を解説していきます。
金継ぎとは
欠けたり、割れたりした器を漆で直す日本の伝統技法です。漆で接着し、漆で欠けや穴を埋め、漆を塗って、最後に金粉や銀粉を蒔いてお化粧をします。
本漆金継ぎでは漆を使いますので「かぶれ」のリスクがあります。ですがそのリスクを引き受けてでもやるだけの価値があると思います。なんといっても「大切な想い」の詰まった器が直せるのですから。
そして金継ぎで器がよみがえった時にきっと不思議な感じがすると思います。「直った」というより、「生まれ変わったみたい」と。つまりある意味、元の器には見えず別もののようにも見えてしまう。
この不思議な感覚をぜひ味わってください。
器 information
- 器の作家さん: 韓国の有名な方とのことです。
- 器の特徴: 青磁(かな?)
- 釉薬: ツルツルガラス質
- 破損個所: 口元
- 破損状況: ひび(ニュウ) 約4㎝、口元に小さな欠け 幅2㎜×高さ4㎜
- 仕上げ: 金粉仕上げ希望
まずは器の釉薬の感じや傷などを確認して修理方針(というほどでもないですが)を確認する。
すぐにわかる欠け、ひび以外にも損傷がないかよくチェックします。
意外なところにほんのちょっとした欠けが合ったりするので見落とさなにように気を付けてください。
うっすらと縦にひびがはいっています。よく見ると結構、長くひびが入っていることが多いのでそのつもりでチェックしてください。
step 01 ひびの入った器の素地調整
素地調整で使う道具: リュータ―、マスク
この金継ぎの素地調整の工程では、ひびをほんのり削って漆の食いつきをよくします。
リュータ―という道具(機械)で削ります。「溝を切る」ってな感じです。
ビット(機械の先端につけるヤスリのようなもの)はダイヤモンドの粉末が付いているそうです。
リューターを持っていない人(が普通だと思います)はリューターのビットだけ購入して、それでひびを軽く削るのがおススメです。
▸ リュータービットのカスタマイズのやり方はこちら
ひび部分に沿ってリューターで削っていきます。
ひびがよく見えない(分かりづらい)ことがよくあります。
その場合は鉛筆でひびに印をつけておくのもいいと思います。
ひびに溝を切りました。
溝を切ることで、ここに錆漆を埋めることができますし、漆の食いつきもよくなります。
器の内側も同様にリューターで溝を切ります。
金継ぎの素地調整の工程が終わったら水を固く絞ったウエスで粉を拭き取ります
step 02 器の素地固め
金継ぎの素地固めの工程では器のひびに生漆を染み込ませます。
素地固めで使う道具と材料
- 道具: 小筆、付け箆 (▸ 付け箆の作り方 )
- 材料: 生漆、テレピン
生漆 10 : 3 テレピン
くらいの割合で生漆を薄めます。定盤にそれぞれ出して、箆でよく混ぜてください。
小筆を使ってひびや小さな欠けの修理する部分に漆を染み込ませていきます。
今回は青磁なのでほとんど染み込みませんが…。
溝を切った部分に漆を浸み込ませていきます。
小筆を使い、なるべく溝からはみ出さないように漆を塗っていきます。
もし、漆がはみ出してしまったとしても大丈夫です。テレピンを少し付けたティッシュできれいに拭き取ってください。
器の内側も同様に漆を染み込ませます。
器の内側の漆塗り作業が完了しました。
器の外側の漆浸み込ませ作業も完了です。
この後、ティッシュでやさしく押さえて、
器が吸い込まなかった漆をしっかり拭き取ってください。
▸ 詳しい「素地固めの方法」はこちら
素地固めで漆を塗ったら半日~一日くらい湿度のある場所(65%~)に器を置いて乾くきっかけを与えます。
おう、鳩屋、お前さん”漆の焼き付け”ってのはやんないのかい?
いいらしいぞ。
うす、やらないッス。漆の塗膜が完全硬化して次の作業の漆が
食いつかなくなるッス。
一度、それで猛烈な失敗をしたことがあります。
金継ぎじゃなくて、仏像の台座制作で。ありゃ悲劇でした。
だからやらないことにしています。
でも焼き付けでよりよい方法がみつかったらやります。
step 03 器のマスキング
金継ぎの錆漆の工程に進む前に汚れ防止のマスキング(養生)をします。
次の錆漆の作業時に修理箇所以外が汚れるのを防止します。
(今回の器は青磁で釉薬もピカピカのガラス質ですので本当はマスキングをやらなくてもいいと思います。説明のためにおこないました。)
マスキングで使う道具と材料
- 道具: はさみ
- 材料: マスキングテープ(幅24㎜)
マスキングしやすいようにテープを用意しておきます。
▸ 詳しいマスキングテープの切り方・ちぎり方
今回の修理物件はひびの部分が直線になっているのでハサミで切ったテープが使えそうです。
小さな欠け部分は指で千切ったテープで少しずつマスキングしていきます。
左手前がはさみで切ったテープです。
右奥が指で千切ったテープです。
あらかじめ使いやすいサイズに切ってスタンバイさせておきます。
ひびに沿って小さく切ったマスキングテープを張っていきます。
手間がかかりますが、一枚一枚ひびに沿わせてマスキングテープを丁寧に貼っていきます。
口元の小さな欠けは千切ったテープを何枚も使いました。
器の外側終了。
器の内側もマスキング完了。
step 04 切った溝に錆漆を埋める1回目
金継ぎの錆漆付けの工程です。1回目です。
錆漆付けで使う道具と材料(▸ 錆漆付けで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: プラスチック箆、付け箆(▸ 付け箆の作り方)
- 材料: 生漆、砥の粉、水、テレピン
まずは錆漆を作ります。 ▸ 詳しい錆漆の作り方
金継ぎ修理で細かい穴や段差などを埋めたい場合は錆漆を使います。
(大きな穴や、段差、隙間は刻苧漆で埋めます)
器の外側から錆漆付け作業を始めます。
(たいがい、いつもは器の内側からやっています)
箆で少量の錆漆を取って、それを溝を切った部分に乗せます。
錆漆が溝に乗りました。
錆漆を箆で左右に通して、しっかりと溝の中に入れ込みます。
「錆漆を置く→箆を左右に通して均す」を繰り返していきます。
器の外側の錆漆付け完了です
器の内側も同様に錆漆を使って、溝を埋めていきます。
錆漆を置いて→箆で左右に通す…を繰り返していきます。
器内側も金継ぎの錆漆作業が完成したら、後は錆漆の乾き待ちです。
一日で乾くと思います。
step 05 錆漆付けの2回目
そうです。1回目とやることは同じです。。
1回目の錆漆が乾いて水分が抜けて痩せます(少し目減りする)ので、2回錆漆をおこないます。
乾いた一回目の錆漆がゴリゴリ出っ張っているようでしたら、軽くペーパー(#320くらい)で研いでください。
では金継ぎの錆漆2回目をおこないます。
1回目と作業手順は同じです。
少量の錆漆を箆に取り、それを溝の部分につけます。
箆を左右に通して、錆漆を溝に埋める。
器の外側も同様に錆漆を溝に入れていく。
錆漆でだいたい面位置まで埋まりました。
金継ぎの錆漆工程完了です。マスキングテープは錆漆が乾いてから剥がしてください。
錆漆の乾きに1日待ってください。
次の作業工程を見る ▸ ② 完成まで