※ このページでは、多くの写真を他の修理コンテンツから借りて解説しています。
ご了承ください。
ファイツ!!
現在全面改訂中
7寸の平皿
超・初心者向け
難易度:
充填材:刻苧(パテ)+錆漆(ペースト)
使用粉:真鍮粉(金色の金属粉)
こだわり度:簡単・お手軽
今回のシリーズはあまり「完成度の高さ」にこだわらずに、「そこそこ」に仕上げます◎
※ 〈真っ二つに割れた七寸平皿〉の「伝統的な本当の金継ぎ修理」のやり方を説明していきます。
このページでは金継ぎ修理の工程のうち〈割れた断面をやすりで削る~接着するまで〉のやり方を解説していきます。
● 今回の修理の参考になりそうなダイジェスト動画です↓
これを見れば「割れた器のおおよその金継ぎ修理の流れ」が分かると思います。
【金継ぎ修理を始めるその前に…】
本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。
※ 万が一、漆が肌に付いた場合はすぐに「油(サラダ油など)」でよく洗って下さい。
油?? そうです。「油」をつけ、ゴシゴシ漆を洗い落としてください。その後、その油を石けんや中性洗剤で洗い流してください。
※ もし、かぶれてしまい、それがひどくなるようでしたら、医者に行って処方してもらってください。
【道具・材料と購入先を見る】↓
作業を始めるにあたって、まずは装備を…
金継ぎでは本漆を使うので「ディフェンシブ」に行きましょう。
ゴム手袋は必需品です◎ 漆をなめちゃいけません◎
※ 作業後、油分多めのクリームを手、腕など、肌が露出していたところ(夏場は脚・足にも)に塗っておくと、カブレにくかった…というコメントをいただきました。
(塗り忘れたときは、毎回、痒くなった…そうです)
気になる方はやってみてください◎
注意:
修理箇所に油分をつけてしまうと、その箇所だけ漆が乾かなくなります。(手脂でも乾かなくなります)
ご注意ください!
※ 修理箇所に油分が付いてしまった場合は、エタノールで入念に拭きあげるか、台所用中性洗剤で洗えば大丈夫です◎
【金継ぎとは】
金継ぎ(金繕い)とは欠けたり、割れたりした器を本物の漆で直す日本の伝統技法です。
漆で接着し、漆で欠けや穴を埋め、漆を塗って、最後に金粉や銀粉を蒔いて装飾をします。
「金継ぎ」と呼びますが、実は「金」で接着や穴埋めをするわけじゃありません。
ベースは全て漆を使っての作業になります◎
続きの長いお話↓
この「壊れた痕を目立たせる」修理方法は日本独自のものだと思います。
普通は傷って隠したくなるものだと思いますが、なぜ、敢えて金を蒔いて強調したのでしょうね?
修復した箇所に金を蒔いて仕上げる「金継ぎ」は室町時代の茶の湯から始まったようですが、壊れた器を漆で修理すること自体は縄文時代から行われてきました。
祭器の中にわざわざ漆で継いで直したものが多数、見つかっています。
僕たちの感覚からいえば、祭り(神とのやり取りの場?)で使われる器が「修理品」でいいの??と思いますよね。
「壊れた器を使うなんて、神様に失礼じゃない?作り直せばいいのに…」と思ってしまいます。
ただ、この「感覚」というのは「現代に生きる」私たち固有の(ある意味)「偏見」であり、何かを見落としていたり、何かを感じる力を失っているからこそ抱いてしまう感覚なのかもしれません。
勝手な想像を巡らせていいのならば、きっと、「作り直す」ではなく、「継ぎ直す」でなければならなかった理由が何かあるはずだと思うのです。
「壊れたもの、解体したもの(=〈死者の世界/異世界〉に移行したもの)」が「再び繋がり合う、継ぎ合わされる(=〈生者の世界/この世界〉に戻ってくる)」というプロセスをくぐり抜けたものだけが獲得し得る「力」のようなものを古代の人はリアルな身体実感として理解していた。
だからこそ継ぎ直したものも祭事に使っていた…のではないかと推測します。
千宗屋さんの本に、茶の湯の究極的な目的は”直心の交わり”だと書かれています。
直心の交わりを成立させるためには、その場に居合わせた各人それぞれが「自我のフレーム」を手放す、もしくは一度解体する必要があります。
主も客も道具も空間も一度そのアイデンティティがすべてが解体される。そしてばらばらになった破片同士をひとつに継ぎ直すことによってその場に「共身体」のようなものが立ち上がる。
その時、「わたし」も「あなた」もなくなった”直心の交わり”がなされる。
室町の茶人たちは「漆継ぎ」した器の中に、
「解体→再構築」のプロセスを通過したときに立ち上がる不可思議な「力」を具現化したもの
…として再発見した(つまり漆継ぎという技法の中にもともとあったのだと思います)。
その「力」をもっとビビットに表現する手段が「金継ぎ」だったのではないか、と思います。
さらになぜ「金」にしたのか…と書き出すとさらに長くなるのでまた今度にします。
とにかく金継ぎをやってみてください。
器の直しが完成したのに、きっと、「なんかヘン」「なんか不思議」という感覚を覚えます。
手元の傷をしげしげと眺めつつ、その不可思議な体験をぜひ。
【器の情報】
【information】
- 作家: 毛塚ゆりさん
- 特徴: 水色の釉薬、ピカピカしてはいないけどそこそこツルツルしている
- 本体サイズ: 直径220㎜×高さ25㎜
- 破損状態: 中央で真っ二つに割れ、破片が4パーツ
- 仕上げ方法: 真鍮粉仕上げ
いきなり作業を始める前に、まずは
- 傷の確認(細かいところまで)
- 修理計画を立てる(完成のイメージも作りつつ)
作業をします。
傷の確認
・小さな欠けの有無
・ひびの有無
修理する器の傷の具合を入念にチェックします。(周辺部も要チェック)
自分で気が付いている以外の傷が意外と入っていたりします。
「ちいさな欠け」や「薄っすらと入ったひび」は特に見落としがちです。
いろいろな角度から器に光を当てて、チェック、チェックです◎
(↑”ひび”は当てる光の角度をいろいろと変えて見ていると”見える”ことが多いです)
修理計画を立てる
完成のイメージも作りつつ
・傷の大きさ/深さによる修理工程の確認
・器表面の質感(ツルツルかマットかザラザラか)
傷の具合を見て、例えば…
■ 欠けが大きかったら
・刻苧漆こくそうるし(パテ)で埋めてから
・表面を錆漆さびうるし(ペースト)でコーティング
…となりますし
■ 欠けが小さかったら
・いきなり錆漆
…でオッケーとなります。
また、器の釉薬の具合を見て…
・「ツルツルのガラス質」ならば「マスキングで汚れ防止」をする必要は基本的にはありません。
(絶対に汚したくない人はもちろんやってください◎)
・「ガサガサのマットな表面」だったら、マスキングをした方がいいです。
…などなど、作業に入る前にある程度の「計画」や「完成イメージ」を作っておきます。
ただし、それほど厳密にやる必要はありません。
経験を積んでいくうちにこのあたりの計画は立てやすくなってきますし、完成イメージに関しては作業を進めていくうちに「変更」「修正」を加えていく方が実はいいと思います◎
▪実作業▪
● 違う器ですが、「器チェック」の参考になりそうな動画です↓
0:42~1:42まで再生
それでは今回の依頼品を見ていきます。
画像が黄色くなってしまっていますが、本当はほんのり水色です。
依頼された傷以外にも損傷がないかチェックします。いろいろな角度から見ます。
よくあるのが「ごく小さい欠け」と「うっすらと入ったひび」です。
と同時に修理の手順・方向性をイメージします。
❖ 釉薬はややマットですが、錆漆がついても「激落ち君」で汚れが落とせそうです。
→ということで基本的にマスキングの必要はなさそうです。
ただし、高台の裏には釉薬がかかっていないので錆漆の際、そこだけはマスキングをします。
❖ 器自体の持っている雰囲気…今回の器は色あい、デザインともに控えめで緩やかです。描かれている数個の円は手書きのノイズをそのまま受け入れたような有機的なラインです。小学生のころ顕微鏡で見たような。
依頼主の雰囲気…やわらかなお人
などを考慮して、金継ぎの仕上がりのライン・形をイメージします。
→今回は傷のラインをビビットに拾う(抑揚をつける)部分と、少しシンプルなラインに整理したところが部分的にあってもよさそうだなと思います。
この段階で明確に完成図が見えないことがほとんどです。何となくの方向性がとりあえず立てられればいいと思います。実際に修理していく中で「もうちょい、こうした方がいいな」とわかることが多いです。
【割れた断面のヤスリ掛け+ヒビの処置】
・「割れた断面のエッジ」をダイヤモンドヤスリで削ります↑
・「ヒビ」の箇所に、ケガキやリューター(機械)を使って溝を切ります。
作業の目的
● 割れた断面の処置
① 「全ての断面のエッジ」をヤスる
- 接着箇所に錆漆(漆のペースト)を充填できるだけのスペースを確保するため
- 接着時にズレてしまった場合、その段差を緩やかに吸収するため
② 「口周りの角」を多目にヤスる
- 「口」をつける箇所なので、接着時にズレた場合、なるべくその段差をなだらかにするため。
● ヒビの処置
③ ヒビの入った箇所に溝を彫る
- ヒビの入った箇所に錆漆(漆のペースト)を充填できるだけのスペースを確保するため
① 「全ての断面のエッジ」をヤスる理由
接着した際に、その接着したラインが「狭すぎる(細すぎる)」箇所というのは、錆漆が入らなかったり、漆を塗ったとしてもその「細すぎる箇所」は非常に剥がれやすくなります。
ですので、接着前にあらかじめ破片のエッジをヤスリでヤスって、「斜めの面」を作ります。
(面の幅は0.2~0.3㎜ほど)
そうすることで、接着した時に「V字の溝」↑ができるようにしておきます。
こうすると、「接着したライン」の幅が広くなり、錆漆が充填できるので、漆を塗ったとしてもかなり剥がれづらくなります。
② 「口周りの角」をヤスる理由
「口周りの角」をヤスらずに接着して→ちょっとズレて段差ができた場合(よくあることです)→錆漆を付けても「急な段差」となります。
この「急な段差」というのは口を付けた際に強い違和感を感じてしまいます。
(お口というのはかなり敏感なのです)
なので、なるべくだったら「急な段差」は避けたいところです。
ですので、接着前にあらかじめ「口周りの角」をヤスリでヤスって、接着した時に「破片同士の角と角の間に広めの空間」ができるようにしておきます。
こうすると、先ほどと全く同じだけのズレ(段差)ができたとしても、その隙間を錆漆で埋めて、「なだらかな段差」とすることができます。
修理箇所の面積は広くなってしまいますが、金継ぎ図書館ではこの方がベターだと考えています。
● かなり詳しい解説ページを作りました。もう少し知りたいという方はこちらをご覧ください↓
③ 「ヒビの箇所」に溝を切る理由
ヒビの入った箇所に、下処理をせず直接、器の表面に漆を塗ると、、、
釉薬(器の表面)と漆との食いつきがそれほどよくないので、使っているうちに漆が剥がれやすくなります。
なので、現在の金継ぎ図書館では「下処理」を施すことをおススメしています。
← 斜め上から見た図 / 断面図 →
①「ケガキ」という道具か、「ダイヤモンドビットを付けたリューター(機械)」で、ヒビの箇所を彫り下げます。
← 斜め上から見た図 / 断面図 →
② 掘り下げたスペースに錆漆(漆のペースト)を充填します。
← 斜め上から見た図 / 断面図 →
③ 錆漆の上に漆を塗ります。
錆漆と漆とは相性がいいので、しっかりと食いつきます。
錆漆が「器の内側に」食い込んでいるので(ほんの僅かですが!)、その上に塗った漆が剥がれることはそうそうありません。
〈使う道具〉
道具 :
① リューターのダイヤモンドビット
▸作り方ページ
② 半丸のダイヤモンドやすり
③ ケガキ
※ 本漆金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
ダイヤモンドビットのカスタマイズのやり方は↓こちらのページをご覧ください。
▪実作業▪
まずは欠けた箇所のエッジをやすりで軽く削ります。
● 違う器の修理ですが、「面取り作業」の参考になる動画ですのでご覧ください↓
0:53~2:29まで再生
2:27~6:48まで再生
※「ヒビの下処理方法」についても解説があります↑(4:12~)
● エッジの面取り
※ 今回は「ダイヤモンドビット」を使っていますが、「半丸のダイヤモンドやすり」の方が作業しやすいです。
この「エッジをヤスる」作業のことを「面取り」と言います。
エッジのところを削って「薄っすらと細い面」を作る作業だからだと思います。
面取りの幅は0.2~0.3㎜くらいです。
全ての断面の「エッジ」↑をヤスリます。
「口周りの角っこ」↑をヤスリます。
■ ダイヤモンドビットを付けたリューターで削る
リューター(機械)をお持ちの方はそれでやっちゃってもオッケーです。
(ほとんどの方は持ってませんよね~)
簡単にどんどん研げていくので、やり過ぎないように気を付けた方がいいと思います。
マシーンはめちゃ早いっす◎
● ヒビの薬研彫り
「V字」に彫ることを「薬研彫りやげんぼり」と言います。
ヒビの入っている箇所を少し彫り込んでいきます。
● 違う器ですが、「薬研彫り作業」の参考になる動画です↓
4:12~6:45まで再生
今回は「ケガキ」を使ってヒビの薬研彫りをおこないます。
リューター(機械)を使った方が断然早いです◎
僕の場合、リューターに慣れていないせいなのか、ケガキの方が「きれいな細いライン」が彫れます。
基本、手道具ばかり使っている人間にとっては高速回転系の電動工具って制御不能な「暴れる感じ」がしちゃうんですよね。
薬研彫りをやっていきますが、ケガキを使うにしろ、リューターを使うにしろ、どちらにしろ手が滑ってヒビの箇所を外すとそこに深い傷が入ります…(T_T)
ですので、なるべくミスをしないように、ゆっくりと細心の注意をもって作業していきます。
※ 特に磁器のもので、表面がツルツルピカピカしている場合、ヒビの箇所をケガキでなぞろうとしても最初の食いつきが悪く、ツルッと滑りがちです。
めちゃくちゃ慎重に作業してください。(注意していても滑っちゃうのですが…(T_T))
■ ケガキの使い方
- 最初2,3回、力を抜いてヒビの上を「ゆっくりと軽く」なぞります。
その程度の力の入れ具合でも薄っすらと筋が入ります◎ - 浅い「筋」ができると、ケガキを引いた時に横に外れにくくなります。
そうなったら、少しずつ、力を加えてケガキを引いていきます。 - 何度もケガキを引いて、溝を徐々に深くしていきます。
器の内側を削る際に、ケガキの「直線側」が使いづらかったら、こちら↑の「直角側」を使ってください。
こちらもかなり使いづらいのですが…(*_*)
頑張って慎重に削っていきます。
リューターマシーンを使う場合、特に「形のすぼまった器の内側」というのはかなりやりづらいです。
コップのような形状の場合、手が入らない場合もあるし、手が入ったとしても「手が邪魔で削っている箇所が見えない!」なんてことがあります。
作業がおわったら最後、水を固く絞ったウエスで粉塵をきれいに拭き取ってください。
金継ぎの素地調整で使う道具: リュータ―・ダイヤモンドビット、マスク
リュータ―を使って割れた断面のエッジを削っていきます
リューターを持っていない方は(普通持っていませんよね)、ビット部分だけを購入してこの作業を行ってください。
▸ ダイヤモンドビットのカスタマイズのやり方
ほんとにうっすらとだけ、割れた断面の面取り(エッジを削る)をします。
表も裏も
小さなパーツも面取りします
STEP 1.3
割れた器の素地固め |
素地固めで使う道具と材料(▸ 素地固めで使う道具・材料の入手先・値段)
- 材料 : 漆(生漆)、テレピン、ティッシュ
- 道具 : 小筆(面相筆)、付け箆(▸ 付け箆の作り方)
- 掃除用、その他 : 定盤(作業台)、サラダ油、小箆、ウエス、テレピン
筆を使う前に筆の中にある油分を洗い出してください
▸ 使用前の詳しい筆の洗い方
テレピンで生漆を緩めます。 生漆 10 : 3 テレピン くらいの割合です。
それを筆に含ませ塗布していきます
金継ぎの素地固め作業では希釈した生漆を割れた断面に塗っていきます。
はい、破片のほうは塗布終了です
続いて本体の方に漆を塗っていきます。
金継ぎの素地固め作業では漆をたっぷりと素地に吸わせます。
あまりはみ出さないように気を付けて漆を塗っていきます。
はみ出したらテレピンのつけたティッシュや綿棒で拭き取ってください。
生漆を塗布し終わったら
吸い込まなかった生漆をティッシュで
押えて吸収します
はい、本体終了です
作業が終わったら油で筆を洗います 。
▸ 使用後の詳しい筆の洗い方
STEP 1.4
割れた器の麦漆接着 |
金継ぎの麦漆接着で使う道具と材料
- 道具: 付け箆 ( ▸ 付け箆を作り方 )
- 材料: 生漆、小麦粉、水
漆を使って接着剤を作ります。 ▸ 麦漆の詳しい作り方
金継ぎ工程の麦漆を塗布する前にあらかじめどのパーツがどの部分に来るか確認しておきます。
できれば接着する順番に並べておいた方が、
あとで「これどこだったっけ?」と焦らずに済みます。
まずは小さい破片から麦漆を付けていきます。
金継ぎの麦漆接着ではなるべく薄く均一に塗っていきます。
小パーツの麦漆付けが完了しまいした。
割れた器の大きい方のパーツにも麦漆を付けていきます。
こちらもなるべく薄く均一に麦漆を塗っていきます。
大きい破片も完了です。
この金継ぎの麦漆付け作業はすべてのパーツ、全ての断面に行ってください。
このあと30、40分くらい放置して麦漆が乾き始めるのを待ちます。
器を接着します。
ぐりぐりしっかりとパーツ同士が食いつくようにしてください。
麦漆がはみ出してきて大丈夫です。
はみ出した麦漆は乾いた後に刃物などで削り取ります。
重力で接着箇所が加圧されるような
ポジションを考えて固定します
これで金継ぎの麦漆接着作業が終了しました。
麦漆がしっかり乾くまで1~2週間じっくりと待ってください。
ご苦労様でした。
次の作業工程を見る ▸ ② 漆の下塗りまで