ファイツ!カワチ!!
↑なんか、カワチさん、「ソフト」なイメージになりましたね。
※ 金継ぎ(金繕い)修理のやり方を説明していきます。本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。ご注意ください。
※ 万が一、漆が肌に付いた場合はすぐに「油(サラダ油など)」でよく洗って下さい。
油?? そうです。「油」をつけ、ゴシゴシ漆を洗い落としてください。その後、その油を石けんや中性洗剤で洗い流してください。
今回は金継ぎ工程の内の〈刻苧漆こくそうるし(パテ)埋め〉までのやり方を解説していきます。
このページは金継ぎ図書館のコンテンツを使って「金継ぎ初心者・川地さんのファースト・チャレンジ」をナビゲートしていく企画です。(がんばれ!カワチ!)
早い話、「インターネット金継ぎ教室」をしちゃおう!ということです。
▸ インターネット金継ぎ教室のルールについての説明
川地さんは「本当」に金継ぎ初心者です。ですので、カワチさんの金継ぎに関する素朴な疑問などが、皆さんのお役にたつのではと考えています。
前回の作業工程を見る
カワチ製菓とは?
カワチ製菓…??それはお菓子屋さんですか??
そです。お菓子屋さんです。それと金属カトラリーを作る作家さんです。
二足の”わらじ”を履いている女性の方です。
↓金継ぎファースト・チャレンジャー
【 profile 】
川地 あや香
岐阜県多治見市生まれ
在学中はフライパンやケーキ型、カトラリーなどを研究
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【カワチ個展 information】
2017.03.25~04.02
福島 オプティカルヤブウチさんでのスプーン個展
↑川地さんの作品。
今回は丸いお皿の画像をお借りしました。
このカワチの「歪んだ」感じがすごくいいと思うんです。僕は。
魅力的ですよね。
「カワチ製菓さんとは誰ぞ?」ともっと知りたくなった方は
カワチさんのHPを覗いてみてください。
↓をクリック
<カワチさんの金継ぎ工程 04> 麦漆むぎうるし(接着剤)の削り・研ぎ
削りで使う道具(次のいずれか、もしくは複数) ▸ 金継ぎで使うおすすめの刃物のご説明
- 道具: ① メス(先丸型) ② オルファのアートナイフプロ(先丸型) ③ カッターナイフ(大) ④ 彫刻刀(平丸) ⑤ (下の画像)障子紙用丸刃カッター
おススメは<④平丸の彫刻刀>です。かなり作業が楽にきれいに、さらには楽しくできます。(言い過ぎかしら) ▸ 金継ぎで使う彫刻刀のカスタマイズ方法
次善策としては<⑤障子紙用丸刃カッター>です。近所のホームセンターでは「障子の貼り替えコーナー」にありました(カッターナイフ・コーナーにはありませんでした。ご注意!)。ホームセンターにあるってことは、きっとハンズにもあるのではないでしょうか。(未確認です)
(↑カワチ画像)
↑カワチさんの直している器
無事に接着したようです◎
よかったね、カワチ。
(↑カワチ画像)
なのですが…隙間が(涙)
いやいや、そうなることもあります。当然です。
これも全然リカバリーできますので、地道にいきましょう!
「削り・研ぎ」の作業は次の作業工程
がスムーズにできるように行います。
はみ出した麦漆むぎうるし(接着剤)を刃物で削って、その後、耐水ペーパーで軽く研ぎます。
でろでろと少し麦漆むぎうるし(接着剤)がはみ出しています。これを削り取ります。
器の外側は基本的に彫刻刀の刃裏を使って削ります。
器の外側が削り終わりました。
今度は内側です。
器の内側は彫刻刀の刃表を使います。
ティーカップの内側も削り終わりました。
(↑カワチ画像)
カワチさんも削ります。
この削った刻苧漆こくそうるし(パテ)の「削りカス」も直接素手で触らな方がいいのですか??
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そですね。完全に刻苧が乾いていたら大丈夫なはずなのですが、
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続いて耐水ペーパーで水研ぎします。
研ぎで使う道具と材料
- 道具: ③ 豆皿(水入れ用) ④ ウエス ⑤ はさみ(ペーパー切り専用にしたもの)
- 材料: ① 耐水ペーパー(今回は#600) ② 水
耐水ペーパーをハサミで小さく切って、それを三つ折りします。
ペーパーに水を少量つけながら研ぎ作業をおこなってください。
水をつけた耐水ペーパーでサラサラと軽く研ぎます。
↑画像で使っているのは「木賊」(とくさ・植物)です。使いやすいですよ◎
この後、はみ出した「麦漆むぎうるし(接着剤)」を削ったら、接着した隙間に「刻苧漆こくそうるし(パテ)」や「錆漆さびうるし(ペースト)」を充填して、埋めます。
「刻苧漆こくそうるし(パテ)」と「錆漆さびうるし(ペースト)漆」の使い分けってどう考えればいいのですか??
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接着箇所にできた隙間の「大きさ」や「深さ」によって作業工程が変わります。
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刻苧を使うのか、それとも錆漆を使うかジャッジする際の
ご参考までに。
傷の深さ | 使う充填材 |
深い(2㎜以上) | 刻苧漆こくそうるし(パテ) ※ 一回の盛り厚は3㎜程度まで それ以上の深さに充填する場合は 数回に分けて充填する |
どっちつかず(1~2㎜) | どちらでもお好みで◎ ※ 錆漆を使う場合は1回で厚盛しない。 一回の盛り厚は1㎜程度まで。 それ以上の深さに充填する場合は 数回に分けて充填する |
浅い(1㎜未満) | 錆漆さびうるし(ペースト) |
<カワチさんの金継ぎ工程 05> 刻苧漆こくそうるし(パテ)の充填
刻苧漆こくそうるし(パテ)充填で使う道具・材料 ▸ 道具・材料の値段と売っているお店
↑の材料を使って穴に埋めるパテ状のものを作ります。
▸ 詳しい刻苧漆こくそうるし(パテ)の作り方
※ このページも刻苧漆こくそうるし(パテ)の使い方を詳しく説明していますが、
もうちょい(くどいくらいに)説明したページを作りました。
ご興味のある方は覗いてみてください。
▸ 刻苧漆こくそうるし(パテ)のつけ方・使い方
麦漆むぎうるし(接着剤)に木粉を混ぜて、刻苧漆こくそうるし(パテ)を作ります。
▸ 詳しい麦漆むぎうるし(接着剤)の作り方
3週間前の接着作業で使った残りの麦漆むぎうるし(接着剤)漆があるのですけど、あれを使って刻苧漆こくそうるし(パテ)を作ればいいんですよね?
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あ、それダメなんです◎ 言い忘れてました。 麦漆むぎうるし(接着剤)ですが、”正味期限”は2~3日くらいと考えてください。 |
【 刻苧漆こくそうるし(パテ) = 麦漆むぎうるし(接着剤) + 木粉 】
ですので、まずは麦漆むぎうるし(接着剤)を作ります。
▸ 麦漆の詳しい作り方
体積比(目分量)… 小麦粉 1 : 1 生漆 ※ 水は適量
- 小麦粉、水を出します
- 水を少しずつ足しつつ、練っていきます
(ガムみたいに粘るまで) - 生漆を少しずつ足しつつ、練っていきます
- 完成です◎
続いて、作った麦漆に木粉を入れていきます。
- 麦漆むぎうるし(接着剤)漆を1割くらい横に取っておきます
(失敗した時のために) - 木粉を少しずつ足しつつ、練っていきます
- ちょっとずつ様子を見ながら木粉を足していきます
- ヘラがぎりぎり「ぱっ」と離れるようになったらオッケーです。
(まだ「べたっ」とくっつくようだったら、もう少し木粉を足してください)
刻苧漆こくそうるし(パテ)の作り方
※ 木粉が少ない(麦漆の分量が多すぎる)と
いつまで経っても乾かない刻苧漆こくそうるし(パテ)
になってしまいます!
▸ 刻苧漆こくそうるし(パテ)の詳しい作り方
はじめての方はしっかりと↑こちらのページをお読みください。
(↑カワチ画像)
カワチさんには刻苧漆こくそうるし(パテ)を作ってもらいます。
刻苧漆こくそうるし(パテ)の盛り方
接着箇所にできた深い隙間に刻苧漆こくそうるし(パテ)を埋めていきます。
(↑カワチ画像)
表面はほんのちょっとの隙間なので
このくらいでしたら、錆漆さびうるし(ペースト)を
充填するのもアリかと思います。
(錆漆の方が楽だったかも…
ごめん、カワチ。アドバイスが遅くなって)
(↑カワチ画像)
裏は意外と隙間が空いていました。
このくらい幅が広いようでしたら、刻苧漆こくそうるし(パテ)で
補填する方がいいと思います。
出来るだけ隙間の奥にまで刻苧漆を詰めていってください。
ちょっとずつ刻苧を入れて、ぐりぐり押し込むのであります。
↑ちょっとした隙間。
これを錆漆さびうるし(ペースト)で埋めてもよいと思います。
ただその場合は2,3回に分けて埋めていきます。
一度で錆漆さびうるし(ペースト)を厚盛りすると「すこぶる乾きにくく」なります。
刻苧箆こくそべらで少量の刻苧漆こくそうるし(パテ)をすくい取って
充填箇所に詰めていきます。
それからグイグイ押し込みます。
(↑カワチ画像)
カワチさんも刻苧漆こくそうるし(パテ)の
充填作業が完了しました。
補修部分の周りの汚れは、これはティッシュなんかできれいに拭き取って大丈夫ですか??
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余裕があったらきれいにしておいてください。その方が、漆が乾いた後に作業するより楽です◎
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テレピン(または灯油やエタノール)を付けた綿棒で
周りに付いた漆を掃除をします。
刻苧漆こくそうるし(パテ)を詰めた箇所に触れると
刻苧漆が取れてしまいますので気を付けてください。
あまりギリギリまではやらない方がよさそうです。
綿棒は汚れてきたら取り替えて、新しいもので拭き取り作業をします。
綺麗になりました◎
今回、カワチさんが直している器は表面が「ガサガサ・デコボコ」しているので、
漆が乾く前に掃除をしておいた方が断然、楽だと思います。
乾いた漆がデコボコの溝の中に入っていると…
それを取り除くのはかなり厄介です。
完全にはきれいにならない場合もあります。
大きな隙間や深い隙間だけを刻苧漆こくそうるし(パテ)で埋めて、
それ以外の細い隙間や浅い段差などは錆漆さびうるし(ペースト)で埋めていきます。
刻苧漆こくそうるし(パテ)は器の周りの面とレベルが合うくらい
(ほぼジャスト)を狙って充填します。私は。
刻苧漆こくそうるし(パテ)は硬化するとともに水分が抜けて少し「痩せる」ので、
あらかじめもっこり盛る人も多いと思います。
このくらいの少量の刻苧漆こくそうるし(パテ)でしたら
通常3~4日くらいでしっかりと硬化します。
深い隙間の場合は刻苧漆こくそうるし(パテ)も
2,3回に分けて詰めていってください。
※ 一回で厚盛りすると乾きがすごく悪くなって、
いつまでも乾かなくなる場合があります。
全ての作業が終わったら作業板を掃除します。
テレピン、エタノールなどを垂らして、
ウエス、ティッシュできれいに拭き取ってください。
厳密に言うと、作業板の上には「ごくごく薄っすら」と
漆の成分が残っています。
ですので、この作業が終わるまではしっかりとゴム手袋をして、
ゴム手袋を外したあとは作業板も含めて
漆の道具類を触らないようにした方がいいです。
次の作業工程を見る
【 カワチ製菓コーナー 】
↑カワチ製菓さんのいろいろな種類のグラノーラ。
カワチの作るモノはお菓子も面白いのです。
ねぇカワチ、グラノーラって美味しいの??(美味しそうだね◎)
カワチさんのこと(その2)
カワチとは河合塾講師の同僚として出会ったのですが、
カワチと一緒に教えるのはすごく楽だし、楽しかったんです。
大学の「後輩」だからやりやすかった…というのもあったかもしれませんが、
何よりもカワチが「飾らないヤツ」(むしろ「飾れないヤツ」)だったからだと思うんです。
講師は通常、分からないことや曖昧にしか把握していないことでも「言い切る」のが普通です。
生徒にナメラレないようにと、自分を「強く」見せたいがため。
(↑つまり”自信”がないからですよね)
僕もそうでしたし、周りの講師の誰もがそうでした。
(それもまた一つの「教育的効果」があるので”ダメ”だというわけではありませんが)
ただ、カワチはそれとはちょっと違っていたのです。
生徒と一緒に悩むし(笑)、曖昧なことは「曖昧にしか」答えられなかった。
生徒の描いた絵を講評する時も、言い淀むし、そのコメントは歯切れが悪かった。
僕たち普通の講師が「講師というフレーム」の中で、
その「枠に嵌まったストック・フレーズ」しか用いることができなかった一方で、
カワチは生徒の「試行錯誤の道程」に寄り添い、共感しながら言葉を紡ごうとしていたんです。
だから、サラサラと言葉が出るはずもなく、
もじもじとしながらも、一つずつ小さな金属を叩いてスプーンを成形していくように、
実感を込めた言葉をゆっくりと差し出していました。
カワチは生徒の間で人気があったと思います。
一種の「アジール」のような場所を作る力がカワチにはあって、
生徒はそこで一息ついて、肩の力を抜くことができたのだと思います。
今の「カワチ製菓」の作るカトラリーやお菓子は、そのままカワチ自身に重なります。
シャープですっきりとした作品ではなく、エッジの尖がった作品でもない。
歪んだり、ザラザラしていたり、こってりしている(笑)。
だけど温度があり、「丸味」を帯びていて、隣で寄り添ってくれているような作品。
あれがあのまま、「カワチ」なのです。