ファイツ!!
2020.6 全面リニューアル済み
※ 〈口元が欠けてヒビの入ったマグカップ〉の「伝統的な金継ぎ修理」のやり方を説明していきます。
このページでは金継ぎ修理の工程のうち〈刻苧漆(パテ)を削る~1回目の錆漆(ペースト)を付けるまで〉のやり方を解説していきます。
【マグカップ】
初心者向け
難易度:
充填材:刻苧(パテ)+錆漆(ペースト)
使用粉:真鍮粉(金色の金属粉)
こだわり度:簡単・お手軽
今回のシリーズはあまり「完成度の高さ」にこだわらずに、「そこそこ」に仕上げます◎
■ 前回の作業
確認したい方はこちらのページをご覧ください↓
■ 道具・材料と購入先
【金継ぎ修理を始めるその前に…】
■ カブレ対策
ロクブテ
本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。
※ 万が一、漆が肌に付いた場合はすぐに「油(サラダ油など)」でよく洗って下さい。
油?? そうです。「油」をつけ、ゴシゴシ漆を洗い落としてください。その後、その油を石けんや中性洗剤で洗い流してください。
※ もし、かぶれてしまい、それがひどくなるようでしたら、医者に行って処方してもらってください。
作業を始めるにあたって、まずは装備を…
金継ぎでは本漆を使うので「ディフェンシブ」に行きましょう。
ゴム手袋は必需品です◎ 漆をなめちゃいけません◎
※ 作業後、油分多めのクリームを手、腕など、肌が露出していたところ(夏場は脚・足にも)に塗っておくと、カブレにくかった…というコメントをいただきました。
(塗り忘れたときは、毎回、痒くなった…そうです)
気になる方はやってみてください◎
注意:
修理箇所に油分をつけてしまうと、その箇所だけ漆が乾かなくなります。(手脂でも乾かなくなります)
ご注意ください!
※ 修理箇所に油分が付いてしまった場合は、エタノールで入念に拭きあげるか、台所用中性洗剤で洗えば大丈夫です◎
【刻苧漆の削り】
前回、欠けた箇所に成形のために盛った刻苧漆こくそうるし(パテ)を刃物で削っていきます。
刻苧漆が乾いたか?の確認
刻苧漆が「乾いたのか?乾いていないのか??」が判断つかない時がありますよね。
その時のジャッジですが、爪やニードルのような先が尖ったモノで引っ掻いて、↓こんな感じでチェックしてください。
【乾いている】 |
焼けた食パンみたいに「カリカリ」している。
|
【乾いていない】 |
「ボヨボヨ」している
|
しっかりと乾いている場合、感触が「カリカリ」っとして、爪やニードルのような先が尖ったモノで引っ掻くと引っ掻いた場所が「白く」線が残ります。それから強く押しても「凹む感触」はありません。
※ 表面はしっかりと「カリカリ」しているのに内側は乾いていない…という場合もあります。
刻苧が乾いていない場合は刻苧に「小さな穴」を数カ所あけるか、(非常に残念ですが)刻苧を取り除いて、やり直してください。
刻苧作りが失敗していると何週間経っても刻苧が硬化しないことがあります。
そのまま数カ月放置して乾いたとしても、接着力、強度が下がっているような感もあります。
作業効率も考えると、1週間経っても、刻苧が乾かない時は「やり直し」た方がベターです。
もっと詳しく知りたい方はこちらのページを見てください↓
〈使う道具/材料〉
道具:
下記の道具のいずれか、もしくは複数が用意できると作業がしやすくなります。
①〈平丸〉の彫刻刀
②〈平〉の彫刻刀
③〈カーブ刃〉のカッター
④ 普通のカッター(大)
※ その他、本漆金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
▸ 本漆金継ぎで使う道具・材料ページ
★ ベストな組み合わせは「①〈平丸〉の彫刻刀+②〈平〉の彫刻刀」です。
が、彫刻刀は砥石で研ぐ必要があります。←これって普通の人には厳しいですよね?
ということで、ベストではありませんが「落しどころ」として…
★ 初心者さんには「③〈カーブ刃〉のカッター+④ 普通のカッター(大)」をおススメしています。
「障子用のカーブ刃」は替刃式なので、切れ味が落ちたら刃を変えられます◎
「④ 普通のカッター(大)」は100均のものでオッケーです。
障子用丸刃カッターはホームセンターの「障子貼りコーナー」にありました。刃先が丸くカーブしているので(丸味が付いている)、器の曲面部分、特に「器の内側」部分の削りにもある程度ですが、対応できます。
▪▪▪
想像してみると容易にご理解いただけると思いますが、「凹んでいる箇所に充填した素材」を削るのに、「平らな刃物」では削ることができません。
↑の画像を見てもらうと分かるように、「刃のエッジ」が器に当たってしまって、素材を綺麗な曲線に削ることができないのです。
この図像は分かりやすいように彫刻刀のイラストを使っていますが、カッターの刃でも同じです。
「直刃のカッター」では「内側に湾曲した箇所」を削ることはできません。
【カーブした刃の場合】
▪▪▪
「刃先がカーブした刃物」の場合、「刃のエッジ」が当たらないので、素材を綺麗な曲線に削ることができます。
カッターナイフの場合も「刃先がカーブした」ものの方が、凹んだ部分は綺麗に削れます。
まだ深く凹んでいる場合
- そもそも傷が深かったので、二回に分けて刻苧漆を充填するつもりだった
- 明らかに欠けた空間が埋め切れいない
- 部分的に深く凹んでいる(2㎜以上)箇所がある
このような場合はもう一度、刻苧漆を付けた方が効率がいいことが多いです。
(次の「錆漆(ペースト)付け」でも空間を埋めていくのですが、埋めるべきスペースが深い場合は、刻苧漆で充填した方が効率がいい場合があります)
※ ぎりぎり「薄っすら」と凹んでいる場合は、軽くはみ出した刻苧漆を削って、そのまま「次の錆付け工程」に進んでください。
刻苧をもう一度、付ける場合は、「刻苧付け作業がしやすくなる程度に」、刻苧漆を簡単に削っておきます。
- 欠けた箇所の周辺にはみ出した刻苧漆
- 必要以上に多く盛られている箇所の刻苧漆
を削っておきます。
あまり厳密に作業する必要はありません。
● この動画では欠けた箇所を成形するのに2回に分けて刻苧漆を充填しています。参考までにご覧ください↓
1:33~9:00まで再生
※ 1回目の刻苧漆が乾いた時に「削り作業」をおこなっていませんが、これは刻苧漆の「はみ出し/出っ張り」がなかったからです。
あまり参考になりませんね~。すみません!
▪実作業▪
● 欠けた箇所に充填した刻苧漆を削る時の参考動画です↓
0:32~2:51まで再生
● こちらも同様に、刻苧漆を削る時の参考動画です↓
9:01~から再生
それではカリカリに乾いている刻苧漆(パテ)を削っていきます。
実は…
刻苧漆の乾きが悪かったので、刻苧の「内側」が乾くように「千枚通し」などで「穴」を開けました。
穴?を開ける…ってどういくこと??って感じですよね。
詳しくはこちらのページを参考にしてください↓
それでは改めて、削り作業を始めましょう。
「彫刻刀」を使う場合には「刃表」と「刃裏」がありますが、どちら側を使っても正解です◎
削る場所によって使いやすい方を使ってください。
この「刻苧を充填→刻苧を削る」段階で、なるべく「きれいな形」に成形しておきたいのですが、この段階で100%きれいな形に仕上げる必要はありません。
この後の「錆漆付け」「錆削り」…と作業を進めていく中で少しずつ形を詰めていきます。
段階を追って詰めていく
・刻苧での成形時点→80%の完成度
・刻苧削り時点→85%
・錆付け時点→88%
・錆削り時点→91%
・錆研ぎ時点→95%
・漆塗り/研ぎ時点→99%の完成度
こんな感じのイメージで作業工程を進めていきます。
はい。そういうことです。
刃の裏側の半分くらいを器にしっかりと当てて、器の方のフラットな面を基準にしつつ削っていきます。
360度、いろいろな角度から見て「どこのラインがきれいに繋がっていないのか?」をチェックしながら進めていきます。
削りすぎるとまた刻苧漆を付ける羽目になりますので(涙) 気を付けてちょっとずつ削っていってください。
削りのコツ
▪▪▪
刃の「半分くらい」を器に当てて、「器の面」を基準面のガイドとして利用します。
さらに注意点としては削る時の「刃の角度」です。
※ 刻苧漆も錆漆も削る時のポイントは一緒です。
削るときの「刃の角度」として…
- 始めは①のように「角度を少し大きめ」につけます。(「刻苧/錆漆側の刃」を少し浮かし気味にする)
- ちょっとずつ削りつつ、ちょっとずつ刃の角度を〈②→③→④〉と、器のラインと平行にしていきます。こうすると失敗が少なくなります。(たまに失敗しますが)
何で「角度」を付けるの??かと言いますと…
刻苧/錆漆を彫るときは、削り過ぎて凹まないように注意したいわけです。
Aコース
いきなり、刃を器のラインと平行にして削ると「食い込んで」削り過ぎる可能性が高まります。
器の面は基本的に「湾曲」しているので、その「丸味」を意識して削っていかなくてはいけません。何となく削っているといつの間にか食い込んでいて、「削り過ぎた!…(涙)」となることが多いのです。
(特に初心者さんは失敗しがちです)
Bコース
なので、その対処法としては「刃を斜めに当てる」です。
刃の「器側」の部分は器の素地に当てます。
一方、「刻苧/錆漆側」は少し斜めに「浮かす」ようにします。
この「浮かし」によって、「彫り過ぎ(涙)」を防止します。ちょっとずつ、ちょっとずつ斜めに彫っていくわけです。
器に彫刻刀やカッターの刃を当てると
器が傷ついたり
削れちゃったりするんじゃないの?!
ノンノン!
器の方が刃物の「硬度」よりも硬いので
器には傷が入りません。
怖がらなくて大丈夫ですよ~◎
マグカップの口周りを削る時も、修理箇所のすぐ隣の器の素地に彫刻刀の刃の裏側を当てつつ削っていきます。
削り作業
の Point
■■■
削るときの「コツ」は…
- ① 器に刃をピタリと当てる
- ② 斜め前方に刃をスライドさせる
- ③ 刃が進む方向に手(指)を置かない
もしくは隠す
です。
① 器に刃を「ピタリ」と当てる。
↑このように刃物の刃を器に当てながら削ります。
器に刃を当てることによって、「器の高さ(レベル)」よりも深く削ってしまう失敗を防ぐことができます。
② 斜め前方に刃をスライドさせる
どうゆうことかと言いますと…
このような構え↑で「赤矢印」の方向に刃をスライドさせていきます。
- 削るものに対して刃を「少し斜めに当て」つつ
- 左手(刃物を持っていない方の手)の親指で「横方向」に押し出し
- 「斜め右(赤矢印)方向」にスライドさせるように削っていく。
わけわかんないよ~
ですよね◎
もう少し丁寧に解説してみます↓
㊧:刃は少し斜めに構え(右利きなら、刃の右側を少し前に出す)つつ、「削るもの」に沿って前方へ「軽く」直進させます。
※ 右手(刃物を持つ方の手)はほとんど力を入れてない感じです。
㊨:「左手(刀を持っていない方の手)の親指」で刃の付け根の脇を「右横方向に」押します。
実際は↑こんな感じです。
1回の動作はこのくらいです。
軽く「クイックイッ」と10㎜前後動かすだけです。
そうすると刃先は「斜め右前方に」スライドしていきます。
なんでそんな面倒な削り方
してんですか~??
実際にやってみてもらえると「確かに…」と納得してもらえると思うのですが、、、
「対象物に対して、複数の力のベクトルを同時に与えると、対象物がスムーズに削れていく」
刃物の持っている「切れ」のポテンシャルを引き出すには、「かける力のベクトルを分解せよ」です。
あと、これも大切なことですが、「刃物は押しても切れない。滑らせろ」です。
削りながら…
「刃物をどうゆうふうに構えて、どう刃を動かしたとき、刃が一番滑っていっているだろう?(切れ味が増しているだろう?)」
…と手元の感覚にフォーカスしながら削ってみてください。
「削り」が楽しくなっていくと思います◎
マグカップの内側を削る時は彫刻刀の「刃表」を使います。
器のカーブに合わせながら彫刻刀を動かしていきます。
もし、削りすぎたら…!
- 少しくらいだったら大丈夫です◎次の「錆漆付け」でカバーできます。
- 「すごく」削りすぎたら…刻苧漆をもう一度、付けた方がいいです。
頑張ってください。そういったときもあります。
刻苧の削りの程度
▪ ▪ ▪
刻苧漆を削る際、「どのくらい削り取るか?」ですが、金継ぎ図書館では…
修理箇所の周りの器の高さと「同じ程度(ほぼフラット)」になるまで削る
…をおススメしています。
※ 器の形状に沿って、段差も膨らみも無く…ということです。
● 刻苧漆をフラットに削る理由
←① こちらを目指している/こちらじゃない ②→
上図の①左側…こちらが最終的に目指している仕上がり具合です。
(個人的な好みです)
「ほんの少しふっくら」としているくらいが上品だと最近は感じているので、このくらいの仕上がりを目指したいわけです。
もちろん上図の②右側くらい「もっこり」させると「いかにも金継ぎしてすよ!」って感じに見えるので、こちらでも面白いと思います◎
■ 「ほんの少しふっくらとした仕上がり(①)」を目指す場合
修理箇所の「内側」はどうゆう「層」になっているかというと…
こんな感じ↑になります。
漆を数回塗り重ねると、それなりに「薄っすらとした厚み」がつきます。
ということは、その厚みを計算に入れると、錆漆は「周りの器と同じ高さ=フラット」に研ぎ上げるのがベターだと考えられます。
そう考えると、「漆の層」と「刻苧漆の層」との間に「錆漆の層」を一層挟むには、「刻苧漆の層」が「周りの器より一段下がっている」必要があります。
① 器の高さとフラットに削った刻苧漆は時間が経つにつれて中の水分が抜けるので、ほんのわずかですが目減りします。
② 一段下がった刻苧漆の上に錆漆を付けます。
③ 周りの器と同じ高さに錆漆を研ぎます。
④ 研いだ錆漆の上に漆を塗り重ねると、ほんの少しふっくらとします◎
※ 皆さんが望む最終的な仕上がり次第で、刻苧漆の段階で、または錆漆の段階で「ふっくら気味」にさせておいてください。
最後、いろいろな角度からチェックして、形が歪んで見える角度がないかを確認してください。
【マスキング】
錆漆を充填する際、「器の表面」によってはそれらが汚れとしてこびりついてしまうことがあります。
作業する箇所以外が汚れないようにあらかじめマスキング材で覆っておきます。
マスキングについてもっと詳しい解説を見たい方はこちらのページをご覧ください↓
マスキングした方がいい器とは?
■ マスキングした方がいい器
- 修理する器の表面(釉薬)が「ザラザラ、マットな質」のもの
- 焼き締めの器
- 器の表面に「小さな凹凸」がある器
- 器の表面に「小さなクレーターやピンホール」がある器
- 器の表面を見ても、「ツルツルしているような、でもマットなような…」と判断がつかない場合はケースバイケース
- 高台の裏など釉薬がかかっていない部分↑があれば、そこだけピンポイントでマスキングを行います。
※ 高台の裏は釉薬が掛かっていない場合が多いので、注意してください!
■ マスキングしなくてもいい器
- 修理する器の表面(釉薬)が「ツルツル、ぴかぴかのガラス質」のものでしたら、汚れがついても簡単に落とせます。ですので基本的にはマスキングは行いません。
- 小さな凸凹、クレーター/ピンホールがない器
〈使う材料〉
マスキングで使う素材としては
- マスキング「テープ」
- マスキング「液」
の2種類があります。
使い分け方(金継ぎ図書館的な)
◯「テープ」を使用するのは…
- 単純な形状にマスキングをする場合
- 多少、複雑な形状でも、マスキングをする範囲が狭い場合
◯「液」を使用するのは…
- 複雑な形状にマスキングをする場合
■ マスキング「テープ」の使い方
① 棒(ヘラなど)
③ マスキングテープ(15~20㎜幅前後)
● 動画を見れば一目瞭然です◎ まずはこちらをご覧になってください↓
0:40~3:00まで再生
千切ったテープを修理箇所に沿って、貼っていきます。その際、ヘラなどの棒を使うと作業がしやすくなります。
㊨:テープが修理箇所に「掛かって」しまったら、テープを棒で引っ張って微調整してください。
意外と融通が利きます◎
テープの貼り方ですが、「修理箇所から1~2㎜前後の隙間を開けた方がいい」と思います。
● もう少し詳しい解説を見たい方はこちらのページをご覧ください↓
■ マスキング「液」の使い方
①④ マスキング液
② 水筆+水+中性洗剤
● 動画を見れば一目瞭然です◎ まずはこちらをご覧になってください↓
3:00~7:08まで再生
① 筆先で少量のマスキング液を掬います。
マスキング液はどんどん固化していくので、容器の蓋は閉めます。
② 修理箇所に触れないように、その周りに塗っていきます。
③ 薄く延ばしながら塗っていきます。
マスキング液がどんどん固化していくので、手早く塗っていきます。
マスキング液が足りなくなったら、その都度、液の入った瓶から少量出して使います。
マスキング液は乾くと「透明」になります。
「質感」としてはゴムっぽい感じです。
擦ると簡単に剥がれてしまいますので、気を付けてください。
● もう少し詳しい解説を見たい方はこちらのページをご覧ください↓
【錆漆を付ける(1回目)】
① 刻苧漆(パテ)の上に錆漆を付けていきます。
② 「ヒビ」の彫り下げた箇所も錆漆で埋めます。
作業の目的
「ヒビの箇所の凹み」と「刻苧の表面」に錆を付けることで
- 段差、隙間、凹みを埋める
- 形の精度を上げていく
- 肌のキメを細かくする
刻苧 or 錆漆を使うかの判断基準
(刻苧漆を充填した)欠けた箇所がまだ「深く凹んでいる」場合は、もう一度、「刻苧漆(パテ)」を盛った方がいい場合があります。
以下の基準を元に判断してください。
←刻苧漆(写真左)/(写真右)錆漆→
金継ぎでは欠損箇所を直す充填材として
・「刻苧漆こくそうるし(パテ)」
・「錆漆さびうるし(ペースト)」
の2種類があります。
今回のようなケース以外の場合、錆漆を使うのか、それとも刻苧漆を使うのか…がよくわからない場合は、下記の表をジャッジする際の参考基準としてください。
基本的には「面積」ではなく、「深さ」を基準にしてください。
傷の深さ | 使う充填材 |
▪深さ2㎜以上 |
【刻苧漆こくそうるし(パテ)】を使用 ※ 一回の盛り厚は3㎜程度まで。
|
▪深さ1~2㎜ |
錆漆でも刻苧漆でもどちらでもオッケー◎ ※ 錆漆を充填する場合は一回の盛り厚は1㎜程度まで。
|
▪深さ0~1㎜未満 |
【錆漆さびうるし(ペースト)】を使用 ※ 一回の盛り厚は1㎜程度まで。
|
●「深さ」を基準にするので、充填箇所が…
・面積が狭くても「深ければ」→刻苧漆
・面積が広くても「浅ければ」→錆漆
…というように考えてください。
● 「造形」を必要とされる場合には基本的には「刻苧漆」を使ってください。
↑こういった場合の「造形」には「粘土のように使える」刻苧漆の方が適しています。
〈使う道具/材料〉
道具:
③ 作業盤(ガラスなど)
‣仕立てページ ‣仕立て動画
④ 付けベラ ‣作り方ページ ‣作り方の動画
⑤ 練りベラ ‣作り方ページ ‣作り方の動画
〇 計量スプーン 1/4 (0.25㏄)
※ その他、本漆金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
▸ 本漆金継ぎで使う道具・材料ページ
これらの材料を使って「ペースト状のもの=錆漆さびうるし」を作ります。
錆漆の作り方
作業手順
1.砥の粉を細かく潰す
2.水を少しずつ砥の粉に足しながら、よく練る
3.生漆を少しずつ「水練り砥の粉」に足しながら、よく練る
それでは「錆漆」を作っていきます。
錆漆は…
錆漆=砥の粉+生漆
で出来ています。
配合比は…
【目分量の体積比】
砥の粉 10 : 7~8 生漆
※ 【体積比】です。お間違いなく。
※ 錆漆の「作り置き」はおススメしません。「使うときに作る」が原則です。
作ってから2~3日くらは乾きますが、どんどん乾きが悪くなっていきます。
とはいえ、「明日も他の器を直すので」という方は、残った錆漆さびうるし(ペースト)を保存してください◎
▸余った錆漆・麦漆・漆の保存方法
1.砥の粉を擦切り1杯
2.生漆を7~8分目
3.作業盤の上で砥の粉を細かく潰す
4.脇に水を少量出す
5.潰した砥の粉に少量ずつ水を加えながら、ヘラでよく練る
6.砥の粉が「まとまる」くらいまで水を加えつつ、練る
7.生漆を少量ずつ加えながら、ヘラでよく練る
8.生漆を全部加えたら出来上がり◎
※ 生漆が多すぎると…
- 乾くのにすごく時間が掛かる
- 少しでも厚く盛ると「縮み」という現象(表面に皺がよる)が起こってやり直す羽目になる
→ですので、配合比には気を付けてください。
さらに詳しい「錆漆の作り方」を見たい方はこちらをご覧ください↓
ヘラで錆を掬うテクニック
(4:45~4:59を再生)
【錆スクイ・テク】
▪ ▪ ▪
1.作業板の上で錆漆を薄く均一に広げる。
2.ヘラを少し寝かしつつ、横から滑り込ませる。
3.右側から左側へ通す。
4.そうするとヘラの先っちょだけに錆漆がつきます。
慣れてくるとテンポよく作業ができて、それだけで気持ちがよくなります。
<同一動作の反復>というのは集中していくととても心地いいものです。
▪実作業▪
付けベラ(小さいヘラ)を使います。
■ 欠けた箇所に錆漆を付ける
それでは器の欠けた凹みに錆漆を充填していきます。
●(刻苧漆を充填した)欠けた箇所に錆を付けるときの参考に↓
(1:38~3:55まで再生)
● こちらも、欠けた箇所に錆を付けるときの参考に↓
(3:11~6:18まで再生)
チェックしてみてください。
それでは前回充填した刻苧漆の上に錆漆を付けて、微妙な凹凸を埋め、表面の「肌」も滑らかにします。
まずはヘラの先っちょに少量の錆漆を付けます。
錆漆の厚盛は
厳禁!
■■■
錆漆は一気に厚盛りすると「膿む」(乾かない状態になってしまう)ので、厚盛厳禁です。
「一回の盛り厚は1㎜程度まで」と考えておくと安全です。
(もうちょっと盛ることはできるのですが、初心者の方は安全第一でいきましょう◎)
充填箇所が深い場合には2回に分けて盛っていきます。
(1回目の錆漆が乾いてから、2回目の錆漆付けを行います)
※ 膿んだ錆漆も1カ月も待てば乾いてくれるのですが、それだけ待たされるのは効率が悪いですよね~。
■ 錆漆が膿んでしまった場合の処置の仕方についてはこちらのページをご覧ください↓
欠けた箇所のエッジを利用して箆先の錆漆を置いていきます。
ヘラをエッジに擦りつけつつ錆漆を「切っていく」というような感じです。
箆をエッジに擦りつけるようにしながらスライドさせていくと、錆漆が乗っかります。
次にヘラを手前に通しつつ、ヘラの「面」で錆漆を欠けた箇所に密着させます。
(力を入れる必要はありません)
刻苧漆に開けた「穴」にも錆漆がしっかりと入り込むようにします。
今度は反対側にヘラを通します。
さらにヘラを上下にも通します。
※ ヘラの通す手順については「画像/文字」よりも「動画」の方が断然分かりやすいと思います。
ぜひ、上載の動画でチェックしてください◎
▸ 動画の箇所にGo!
錆漆を動かすことによって、刻苧漆との間の隙間を潰して密着させると同時に錆漆自体の中に含まれている「空気(小さな空間)」を抜いていきます。
ヘラを上下左右
に通す理由
▪ ▪ ▪
何でそんなにヘラを
動かさなくちゃいけないの??
きれいに盛りつけられたら
それでいいんじゃないんですか?
確かにそう思いますよね◎
付けた錆漆の「表面」がいくらきれいに見えたとしても…
「ただ付けた(置いた)」だけじゃ、意外と器の素地との間に隙間が空いていたり(赤の矢印)、錆漆自体に「空気」が入っていたり(黄緑の矢印)するものなんです。
錆漆が乾いた後、研ぐと…
「素地との間に隙間」「凹み」「ピンホール」などが出現してきます。
さらに〈黄緑〉の部分は「内側」に空間があるので、錆漆から段々と水分が抜けて(痩せて)いくうちに、「薄っすらと陥没し」やすくなります。
ですので、、
ヘラを上下左右と通して、錆漆を動かし、なるべく「隙間」や「空気」を潰すようにしてください◎
錆漆の「盛り上げ」
について
▪ ▪ ▪
錆漆を欠けた箇所へ付けるのに、どのくらい盛り上げたらいいのか?ですが…
周りの器の高さよりも「ほんのわずか厚目」に付けられている状態がベストだと考えています。
けど、実際のところそんなにうまくコントロールして付けられないので、「少し厚目」に盛っておきます。
錆漆が乾いてから刃物で削って形を整えますので、「少し厚目」くらいがちょうどいいと思います◎
ただし、「厚く盛り過ぎる」と乾いた後の削り作業が大変になります。
時間もかかるし、成形する難易度も上がります。
「ほんのちょっと厚目」というように心がけておいてください。
外側の錆付けが終わったら、次は内側です。
同様の作業をおこないます。
少量の錆漆をヘラに取ります。
箆を手前にスライドさせながらマグカップの口元で切ります。
箆の面で押さえて刻苧の「穴」に入れ込みます。
箆を上下左右に通して、錆漆の面を整えます。
※ 今回の修理では「ヘラを器の底の方に通す」というのは無理なので、やらなくて大丈夫です◎
最後になるべく「錆漆の表面」をきれいに整えて欠けた箇所への錆付けは完了です。
■ ヒビの彫り下げた箇所に錆を付ける
● ヒビの箇所に錆を付けるときの参考になる動画です↓
(2:46~から再生)
(6:06~8:28まで再生)
● こちらは「割れた器」への錆付けなのですが、ヒビの修理作業と同じなので参考になります↓
(6:57~から再生)
チェックしてみてください。
← 斜め上から見た図 / 断面図 →
「ケガキ」または「ダイヤモンドビットを付けたリューター(機械)」で、ヒビの箇所を彫り下げた(薬研彫りした)箇所↑に…
← 斜め上から見た図 / 断面図 →
錆漆を充填していきます。
錆付け作業をする前に…
器の表面が「ガサガサ/マット」な場合はマスキングをしておいた方が安全です。
マスキングについてはこちらのページを参考にしてください↓
‣もう少し詳しいマスキング「液」の使い方
① ヘラ先に少量の錆漆をすくって、それを彫り下げた箇所に置きます。
② ヒビに沿ってヘラを通し、錆漆を広げつつ、溝に入れていきます。
③ 器を持ち替えて、今度は反対方向にヘラを通します。
ヘラはしっかりと器にくっ付けてください。「浮かさない」ということです。
ペタリと器に沿わせながらヘラを通して、最後、錆漆の「盛り具合」としては「擦切り一杯」にします。
④ ヒビのラインと直角にヘラを通します。
小刻みにヘラを揃えて、通します。
⑤ 逆方向にも小刻みに通します。
⑥ 最後にヒビに沿ってヘラを通し、錆漆の表面の肌をなだらかに整えます。
ヒビへの錆付け完了です◎
※ 「ヒビ」への錆付けの手順については「画像/文字」よりも「動画」の方が断然分かりやすいと思います。
ぜひ、上載の動画でチェックしてください◎
▸ 動画の箇所にGo!
【 お掃除、お掃除 】
▪ ▪ ▪
全ての作業が終わったら作業板を掃除します。
テレピン(又はエタノール、灯油など)を垂らして、ウエスやティッシュできれいに拭き取ってください。
caution !
厳密に言うと、掃除をし終わった後の作業板の上には「ごくごく薄っすら」と漆の成分が残っています。
ですので、この作業が終わるまではしっかりとゴム手袋をして、ゴム手袋を外したあとは作業板を含めて漆の道具類を触らないようにした方がいいです。
錆漆を乾かす
錆漆の乾きに1~2日間待ちます。
錆漆が乾くまで1~2日待機してください。
(調子のいい生漆を使うと4~5時間後に次の作業ができますが、一応大事を取って「待って」ください)
錆漆さびうるし(ペースト)はそれ自体に「水分」が入っているので、とくに湿度のある「漆風呂」に入れなくてもしっかりと硬化してくれます。
ですが、
・「古い生漆」
・「乾きの悪い生漆」
・「調合してから数日、取り置きしておいた錆」
…を使っていた場合は乾きが悪いかもしれません。その場合は初めから湿し風呂に入れて、湿度を与えてください。
始めに湿度を与えて、漆に「闘魂を注入」することが大切です◎
※ 水を固く絞った布を中に入れて湿度を高くしてください。
もうちょい詳しく見たい方は↓こちらのページをご覧ください。
本日の作業はここまでです◎
お疲れ様でした。
次の作業をご覧になりたい方はこちらのページへ↓
その他の作業ページを見る
- P③
- P④
- P⑤