※ 縁が少し欠けたスタイリッシュな碗の金継ぎ修理のやり方を説明していきます。
本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。ご注意ください。
今回は金継ぎの工程のうち、〈欠けたお碗の素地調整~錆漆で欠けを埋めるまで〉のやり方を解説していきます。
器 information
- 器の作家: 田代倫章(のりあき)さん(作家さんが判明しました!益子の作家さんです)
- 器の特徴: カップの外側はざらざらした白くマットな釉薬、内側は黒くマットな釉薬
- 器のサイズ: 直径165㎜、高さ70㎜
- 破損状態: 口元の縁に欠け
- 欠けのサイズ: 8㎜×4㎜
かっこいい器です。
この作り手さんは益子の作家さんとのことです。
フォルムがルーシーリーのようですね◎
器外側のざらざらした肌合いも魅力的です。
微妙な色合いもいいし、センスのすごくいい作家さんです。
欲しくなります。
ただ、他の器との相性がなかなか難しそうですよね。
「スタイリッシュ系」の器を持つなら、同類系の器をいくつか持っていないと、この器だけだと他の器と馴染まず、浮いちゃいそうです。
破損のチェックをします。
この欠け↑を直します。
欠けの面積は[ 8㎜×4㎜ ]です。小さいです。
浅い傷なので錆漆(漆のペースト)で直せそうです。
※刻苧漆(漆のパテ)を使う必要はなさそうです。
周りの釉薬がざらざらマットでしかも白いので、作業時にはマスキングをして、修理箇所の周辺が汚れないようにしようと思います。
修理が「映えそう」な器です◎
01 素地調整
素地調整で使う道具: ②砲弾型のリューターのダイヤモンドビット (ホームセンター等で入手可能/価格 \200~)
金継ぎの素地調整作業では軽く欠け周りのエッジにヤスリをかけます。
リューターのダイヤモンドビットで軽く研ぎます。
とんがりを削ります。
金継ぎの素地調整作業が終了です。
やったのかやっていないのか、ほとんどわかりません。
02 マスキング
マスキングで使う道具と材料(▸ マスキングで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: マスキングテープ
次の金継ぎ工程(錆漆付け)で修理箇所の周りが汚れるのを防ぐためにマスキングを行います。
あらかじめマスキングテープを指で小さくちぎっておきます。
この時、千切ったマスキングテープの形状がいろいろあると使うのに便利です。
なるべく欠け部分の形に合わせてテープを貼っていきます。
一枚のテープで広い範囲を貼ろうとすると難しいので、小さいテープで小さい範囲を少しずつ貼っていきます。
テープ同士は重なって大丈夫です。
欠け部分に軽くテープを貼ってから爪先で微調整して、欠けたラインに合わせていきます。
爪先でやりづらい時は刻苧箆を使って微調整するといいです。
今回は基本的に器の外側の錆付け作業ですし、内側に錆がついたとしてもすぐに取れそうなので、内側にはマスキングをしません。
鳩が邪魔ですが、マスキング作業が完了です。
錆付けが苦手な人(まだうまくできない人)はマスキングの範囲をもう少し広げておくと安心して錆漆付け作業ができます。
03 素地固め
素地固めで使う道具と材料(▸ 素地固めで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: ⑥小筆、⑤付け箆
- 材料: ⑦生漆、①テレピン、②サラダ油、②ティッシュペーパー、③作業板(クリアファイル)
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。
▸ 詳しい筆の洗い方
生漆 10 : 3 テレピン
くらいの割合で生漆を希釈します。
それを欠けた場所に浸み込ませていきます。
生漆を筆に含ませて塗布していきます。
今回は白い釉薬でしかもガサガサしているので、万が一漆が周りに浸みだすと「汚れ」に見えてしまいそうです。
なので、用心して漆を塗る範囲を少し小さくしました。
ティッシュで押さえて、余分な(浸み込まなかった)生漆を拭き取ります。
ティッシュはそっと当てるだけで、左右上下に動かさないでください。動かすとまわりにも漆がついてしましますので気を付けてください。
ティッシュの面を変えつつ2,3度、押し当てます。
漆が拭き取れました。
この後、湿した場所(湿度65%~)に置いて、漆を乾かします。
私は1~2時間して半乾きの時に次の錆付け作業を行います。
一日置いてからでも大丈夫ですが、あまり日数を空けない方がいいと思います。漆が乾いて硬く締まりすぎてしまうと、ツルツルして次の作業の食いつきが悪くなります。
と言っても、断面がざらざらした陶器でしたらそれほど神経質になる必要もないかもしれません。
塗り終わったら油で筆を洗います。 ▸ 詳しい筆の洗い方
筆は付属のキャップを嵌めて保存します。キャップが無かったらサランラップを丁寧に巻いてください。
04 錆漆付け
金継ぎの錆付けで使う道具と材料(▸ 錆漆付けで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: ①プラスチック箆、②付け箆(▸ 付け箆の作り方)、
- 材料: ④生漆、⑤砥の粉、⑥水、③作業板(クリアファイル)
錆漆を作ります。 ▸ 詳しい錆漆の作り方
器の欠けの凹みに錆漆を充填していきます。
ヘラの先に錆漆を少し取ります。
欠けの下部分のエッジを利用して、そこで錆漆を「切る」ようにして付けていきます。
ヘラを斜め右下にスライドさせ、錆漆をエッジに引っ掻けて置いていきます。
次にヘラを左→右へと通して、錆漆を欠け部分に密着させます。
隙間がなくなるように錆漆を少し押し込める感じです。(押し込めるといっても力をいれちゃダメですよ)
今度はヘラを右→左へと通します。「行って来い」です。
一回目に付けた錆漆の量では足りなかったので、錆漆を付け足します。
再び箆先に少量の錆漆をとります。
今度は器の口元のヘリを利用します。
ヘラをスライドさせながら欠けの上部分のエッジに引っ掻けるようにして、錆漆を置きます。
もっこりしてりる錆漆をヘラを通して押さつつ密着させます。ヘラを右に通し、続いて左に通します。
最後にヘラで形を整えます。あまり何遍もヘラで触っていると錆漆の肌がバサバサして汚くなってきますので、 そうなる前に作業を終えます。(諦めます)
どのみち、乾いてから削ったり研いだりできますのであまりお気になさらずに。
いろいろな角度からチェックして凹みがないか注意します。
※ 欠けが深い場合には錆漆は2~3回に分けて行ってください。一回で厚盛すると悲惨なことになりますし、かえって作業の進みが遅くなります。 ▸ 錆漆付けの失敗例
金継ぎの錆付け作業が終わったら1~2日、硬化を待ちます。
次の作業を見る ▸ ②蒔絵完成まで