解説が長くなりすぎて2ページ目になってしまいました。
いよいよ「置き目」の実践に入ります!
- 3.置き目を取りましょ
- ・使う道具・材料
3-a カードケースの上から写し絵
3-b トレペに写す
3-c 手板に転写
3-d チタン白で擦る
3.いざ!置き目を取ろう!
今回は「ガラス写し」というやり方で置き目をとります。
伝統的なやり方では「ガラス」を使うのですが、「カードケース」の方が薄くて作業がやりやすいので、そのやり方でご説明します。
①赤軸根朱替り筆(インターロン 417 丸0号でも代用可)
②カードケース(ハードタイプ)
③置き目刷毛(質の低い漆刷毛でオッケーです)
④爪盤
①焼き漆
②トレーシングペーパー
③チタン白粉
3-a.カードケースの上から図案を写す
「ハードタイプ」のカードケースを用意します。
Amazonで売っているものだと‣こんな感じのカードケースでいいと思います。
このケースの中に図案を挟みます。
これで準備オッケーです◎
このケースの上から図案をなぞって描いていきます。
筆は「赤軸根朱替り筆あかじくねじがわりふで」という蒔絵筆を使います。
蒔絵筆の中で、最も細い線を引くのに適している筆です。
実際にカードケースの上から図案をなぞっていきたいのですが、その前に筆を「洗う」必要があります。
漆を使った筆は使い終わった後に「油」で洗うので、使うときにはその油を除去しなくてはいけません。
何で使った後に油で洗うの??かといいますと、油を含ませたまま保管すると筆の中の漆が乾かないからです。漆は油との相性が悪く、油がついていると漆が乾きません。それを利用して筆を油で洗い、保管するのです。
ただ、使うときにはこの筆に含ませた油を綺麗に除去してあげないと、せっかく塗った漆の中にも油が入ってしまうので乾かなくなってしまいます。
筆の洗い方、準備の仕方についてはまた新たに詳しいページを作りたいと思います。
左手(利き手じゃない方の手)の親指に「爪盤つめばん」を嵌め、それを「パレット」のようにして使います。
この上で筆に含まれる漆の量を調節したり、筆の先っちょを整えたりします。
この爪盤は金継ぎでも大活躍する道具です。
筆をいちいち机の上の作業盤と往復させなくて済みます。それにすぐ目の前で筆の調整ができるので、漆の含み具合、筆先の状態も詳細にチェックすることができます。これが机の上の作業盤ではちょっと遠いのでよく見ることができません。
ぜひぜひこの爪盤を自作してみていただけたらと思います。すごく便利です◎
「簡単な爪盤の作り方」もそのうちページを作りますので、参考にしていただけたらと思います。
偉い先生が書いた昔の技法書によりますと
描く線は”極めて細く”、かつ漆分が十分に紙に透徹するように描くことが肝要である
(「蒔絵 高野松山」 p82)
とのことです。
↑このお言葉は「和紙の上に置き目を描く」場合です。今回は「ガラス写し」なので、描いた漆の厚みが「薄く」なるように筆の調節をします。
その他、いろいろな人から聞いた鳩屋のメモに書いてあったのは
・小指を支点にして筆軸と描く線の進行方向が一直線に揃うようにして描く
・筆は常に「おへそ」に向かって動かす
・手首じゃなくて肘を動かしていくイメージで描く
・筆運びは「遅筆」で、穂の付け根から漆を落としながら線を引いていくという感じで描く
で、意外とかめ先生は画面から顔が離れています。
僕は細かい作業をしようとするとどうしても「棟方志功ばり」に顔を近づけてしまいます。
けど、どうもそうやって顔を近づけて(5~7㎝の至近距離)、細かいところまで見ようとするのはよろしくないような気がしてきました。
筆の軸が顔に当たってしまうし(近すぎ!!)、力も入りすぎてしまう気がします。「視覚」ばかりに頼っているのもバランスが悪い気がします。
やはり「適切な距離」というものがあって、その距離が一番自然に人の体や感覚が働くのではないかな??と思っている所です。
まだまるっきしうまくいっておらず、かなり試行錯誤しています◎
描く画面に対する「筆の角度」です。
ここにも「上手に描くコツ」があるのではないかな?と思って、時々、先生の様子をチェックしています。
立たせ過ぎず、寝かせ過ぎず…ってところなのでしょうか。
今回は60度くらいだったのですが、もっと寝かせている時もあります。
…ってことはあまり参考にならないかな?
ちなみに今回は「カードケース」を使いましたが、伝統的には「ガラス板」を使います。ガラスの下に図案を置き、ガラスの上から図案の線をなぞっていきます。
ガラスの方がカードケースよりも「厚み」があるので、その分、図案との距離ができてしまいます。ほんのちょっと目の位置(見る位置)を変わっただけで図案とガラスに描いた線とがズレてしまいます。
ですので、厚みの「薄い」カードケースの方が描きやすいのです。
3-b.トレペに写す
カードケースの上に漆で図案の線を描き終わったら、次にトレーシングペーパーを用意します。
図案の大きさに合わせて四角く切ります。
これはどこにでも売っているトレーシングペーパーです。半透明の白い紙です。
切ったトレペを漆で描いた上に慎重に置きます。
これはちょっと緊張します。
トレペの手前の方を抑えて、ハラリと置くのがよさそうです。(←これ、説明になってませんね~)
左手でトレペの手前を抑え、トレペがズレないようにします。ズレたら悲しい結末になりますのでご注意ください◎
「置き目刷毛」というのを使って、トレペの手前の方から一方向に軽く擦っていきます。
「置き目刷毛」は漆刷毛を持っている人でしたら、安めの刷毛の毛先を短めにして使ってください。
もしくは刷毛を新しく切り出した際に、切り落とし側の毛の部分を木の板につけて置き目刷毛として再利用してもいいと思います。
厳密な精度が要求されるような作業はしませんので、「適当」で大丈夫だと思います。
漆刷毛を持っていない人がやるのであれば、油絵用の平筆などの「ちょっと腰の強い毛質」の筆の先っちょを切り落とし(半分くらいかな?)、少し短めにしてさらに腰を強くしたものを使えば代用できる…ような気がします。
けど、実際に試したことがありません。
↑このように漆の上にトレペを乗せて、その上から刷毛で何度か擦って抑えてあげると…
トレペの方に図案通りの線が「ほんのり」と転写されます。
↑画像だとかなり見づらいですが、「薄っすら」とトレペに転写されています◎
3-c.手板に転写
次にいよいよ手板の方に図案を転写していきます。
手板の中のどこらへんに蒔絵をするのかを考えて、狙った位置にトレペを置きます。
トレペは「裏返し=漆が描いてある側が手板と接するよう」にしてください。じゃないと転写できませんよね~◎
↑このように漆を描いた面を「裏」にして手板に置きます。
トレペの上から置き目刷毛で一方向に擦りつけます。
擦るときズレないようにします。ズレたら悲しいです。
そっと剥がします。
すると、微かに手板の上に焼漆が残します。本当に「かすか」です。光にかざしたときにようやく「おっ、漆が残っている…◎」って見えるくらいです。
もし、トレペについた漆が多い(厚い)ようでしたら(基本的には「多い」と思いますので)、新聞紙など要らない紙に数回、転写して、余分な漆を吸い取らせてください。
トレペについている焼き漆を薄く均一にします。
トレペには「え、ホント??」ってくらいに「薄っすら」と漆が付いていればいいのです。
手板に転写された漆が厚いと、仕上がりに影響することがありますので、頑張って薄くなるようにします。
僕は何度やっても「厚く」転写してしまいます(涙)
3-d.チタン白で擦る
説明が長くなりましたが、いよいよクライマックスです。
最後の工程です。簡単です。一瞬で終わります◎
たまたま拾った鳥の羽の先っちょにチタン白粉をほんの少しつけ、転写した焼漆の上をサラサラっと軽く撫でてあげます。
たまたま羽が拾えなかった人は真綿を使ってください◎
真綿に粉をちょっとだけつけ、それを軽いタッチでくるくるっと回して撫でてください。
チタン白粉の代わりに消し粉でもオッケーです。砥の粉でも大丈夫なようです。
図案が浮かんできました!!ナイスです!
早いです!
いや、シャッタースピードが遅いのです。
軽く画面に触れるくらいの間合いで撫でてください。
見事に図案が転写されました◎
このあとガンガンに湿した風呂に入れて乾かします。
画面に残ったチタン白粉はそのままにしておいて大丈夫です。乾いてから拭き取ります。
「焼漆」はかなり乾きづらい漆です。でも乾きます◎
手板についている漆は本当に極薄ですし、しかもそこに粉が蒔かれています。ということは焼漆が空気に触れる表面積が大きくなっているということです。
それをガンガンに湿した風呂に入れれば、「かなり乾きづらくなっている漆」といえどもお尻をびしばし叩かれて何とか乾いてしまう…ってことなのだと思います。スパルタですね◎
おっと発見!高野松山先生の本に書かれていました!(今更、気付くとは読み込みが浅い!!)
焼漆とは常温の空気中では絶対に乾固しない性質にした漆で、置き目が後から容易に取除き得るように考えられたものである
(「蒔絵 高野松山」p83)
とのことです◎
極めて乾きづらい漆であるが、乾かないわけではない…ってことだと思います。はい。
2~3日もすれば触れるくらいに漆が固まって次の作業に進めると思います。
(↑ここ、はっきりとわからないので、先生に次回、聞いていみます!)
【2018-10-15追記】
かめ先生に聞いてきました。
「なぜ、置き目には”焼漆”を使うのか??」です。
普通、職人さんというのは大量に同じ商品を作ります。一度の置き目作業で何個もの商品に図案を転写したいわけです。
となると、乾きの早い漆では何個も置き目を取る前に乾いてしまう。焼漆ですと常温ではほぼ乾かないので、いくつも置き目を取っていくことができる。
それからもう一つの理由です。
高野松山先生の本にも書かれていますが「置き目が後から容易に取除き得る」ということです。
手板などに置き目を取って、そのあと実際に蒔絵の作業をしていくなかで、写した下絵通りのラインとは少し変えた方がいいデザインになるな…と気付く場合があります。
その場合、もし初めに描いた置き目が二度と除去できないのであれば、下絵をずらすことができなくなります。置き目は完全に蒔絵で覆い隠さなくてはいけなくなります。
なので、置き目自体が「簡単には消えないが、消そうと思えば消せる」…というのが具合がいいわけです。
焼漆にすると漆本来の持っている固着力に比べるとかなり弱くなります。(もしかしたら数年経てば同じだけの固着力になるのかもしれませんが)
ですので置き目には焼漆を用いるのが都合がいいのです◎