【ホントに金継ぎできるかな?】シリーズとは…
「動画」と「HPでの静止画像+文章」とを連動させることで、これまでどうしてもうまく伝えられなかった細部の動き、手順などをわかりやすく伝えようという企画です。
「ひび」の入った器の「特殊な例」
通常、「ひび」の入った器というのは、ひびの入った箇所に漆を浸み込ませ、その後、上から漆を塗り重ねて直します。
この場合「直す」といっても、実はひびを「隠す」といった意味合いが強くなります。
ひびの修理では、その隙間に何度か漆を浸み込ませ、「ひび部分を漆で接着」させているのですが、僕の経験上、この「接着強度」というのはあまりないと考えています。
「普通」にひびが入っている器でしたら、ひびの隙間に入れた漆に接着強度がそれほどなくても困ったことにはならないのですが、もし、次のような症状が出ている場合は、他の対応策を考えなくてはならなくなります…
ひびの両側を指で持って動かしたとき、ほんの僅か動いたり…
同様に指で持って動かしたとき、微かに「みしみし」と音がしたりする場合です。
「え??そんなことってありえるの??」って思いますよね。
そうなんです。時たま、そういった症状が出ている場合があるのです。(動画を見てみてください。”動き”ますよ!)
そんな場合の修理方法をご提案します。
使う道具・材料
① 細かい動きを見極める視力
② 繊細な聴力
③ 腕力
④ 軍手またはタオル
① ひびのチェック!
ひびの入った器を直す場合、「ひびのチェック」をおこないます。
ひびを挟んだ両側を持ち、ひび部分が動かないか?を試してみます。
(⏱0:15~0:31が再生されます)
ひびの両側を指で持ち、「ズラす」ように動かしてみます。
「薄っすら」と「黒い筋」が見えるのがわかりますか??
それからひび部分を動かしたときに「みしみし…」と音がします。(画像じゃわかりませんよね~)
器の内側からもひび部分が動いているのが確認できます。
それで、「ひび部分が動く」場合、通常の「ひびの修理」を施してもその動きを完全に止めることが難しいため、日常使いしているうちに修理部分が「剥離」しやすいと私は考えています。
ということで…
器を割る!
はい!っということで、器を割ります。(なんと!)
(⏱0:35~0:48が再生されます)
ひびの入った個所の両側をしっかりと掴みます。
割ったときに、割れた器の断面でケガをしないように「軍手」を着用してください。もしくは器をタオルなどで包んで、この作業をおこなってください。
力いっぱい左右に引っ張ります!
けど、割れません~(泣)
陶器を割るのには力が要ります。(比較的、簡単に割れる場合もあります◎)
「器を割る」…って、普段やらないことですし、なんか後ろめたいことやっている気がしてしまうので、多分、自然と力が入らないように意識のブレーキが利いてしまっているのだと思います。
なので、ここは思い切ってやるしかありません◎
はいー◎ 何とか割れました。
(割れた瞬間、ビビりました!)
(追記:2018-06-23)
これ、よくよく考えてみたら、「手で割った」から、割れが大きくなっちゃった可能性が大きいですよね(涙)
割る部分にタオルとか布を当てて、その上からペンチなどで「フンっ」て割ったら、もっと小さい割れになったのかもしれません。
済みません、依頼主さん~!
責任をもってしっかり綺麗に直します!!
ご注意! Caution !
ひび部分の両側を持って指を動かしても、ひび部分が動かない、「みしみし…」という音も聞こえない場合は割らないでください。
ここまで説明してきたような症状がない場合は、通常の「ひび修理」をしてください。(どうしても割りたい人は割ってもオッケーです◎)
ただの「ひび」だったはずが、「割れ」になっちゃいました。
ちょっと罪悪感を覚えますよね~。
ほら、でもこうやってぴったり嵌まるわけですし(当たり前ですね~)、悪いことしているわけじゃないので、頑張っていきましょう◎
鳩は大人の事情を分かっちゃくれないので、放っておきます。
無視無視◎
私の場合、ひびの症状が「グラグラと動くひび」の場合は割ってしまって「割れた器」として修理します。
「動くひび」の場合でも、通常の「ひびの入った器」として修理する金継ぎ師さんもいると思います。
「文化財修復」の現場では
・「現状を維持する」「それ以上、損傷が進まないように処置を施す」
・その物が作られた「当初」の姿に復帰させる
…の二択が多いと思います。
今回のように「ひび」の損傷を「割れ」の損傷にしてしまう、つまり「現状よりさらに壊してしまう」ということは通常、文化財修復の現場では行いません。
ただ、私が修理しているものは「人が使うもの」であり、「実用に耐えるための修理」を優先しているので、今回のような場合は「割る」という選択肢を選んでいます。