ファイツ!!
2020.5 全面リニューアル済み
蕎麦猪口
超・初心者向け
難易度:
充填材:刻苧(パテ)+錆漆(ペースト)
使用粉:真鍮粉(金色の金属粉)
仕上げ:簡単・お手軽
今回のシリーズはあまり「完成度の高さ」にこだわらずに、「そこそこ」に仕上げます◎
※ 口元が割れた蕎麦猪口お椀の「伝統的な本当の金継ぎ修理」のやり方を説明していきます。
このページでは金継ぎの工程のうち
〈刻苧漆の削り~錆漆を付けるまで〉
のやり方を解説していきます。
前回の作業を見る方はこちらから↓
金継ぎ修理を始めるその前に…
本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。
※ 万が一、漆が肌に付いた場合はすぐに「油(サラダ油など)」でよく洗って下さい。
油?? そうです。「油」をつけ、ゴシゴシ漆を洗い落としてください。その後、その油を石けんや中性洗剤で洗い流してください。
※ もし、かぶれてしまい、それがひどくなるようでしたら、医者に行って処方してもらってください。
【道具・材料と購入先を見る】↓
作業を始めるにあたって、まずは装備を…
金継ぎでは本漆を使うので「ディフェンシブ」に行きましょう。
ゴム手袋は必需品です◎ 漆をなめちゃいけません◎
※ 作業後、油分多めのクリームを手、腕など、肌が露出していたところ(夏場は脚・足にも)に塗っておくと、カブレにくかった…というコメントをいただきました。
(塗り忘れたときは、毎回、痒くなった…そうです)
気になる方はやってみてください◎
注意:
修理箇所に油分をつけてしまうと、その箇所だけ漆が乾かなくなります。(手脂でも乾かなくなります)
ご注意ください!
※ 修理箇所に油分が付いてしまった場合は、エタノールで入念に拭きあげるか、台所用中性洗剤で洗えば大丈夫です◎
それでは本日の作業に入ります。
気合入れろー!
【刻苧漆の削り】
前回、注ぎ口の成形のために盛った刻苧を刃物で削っていきます。
刻苧漆が乾いたか?の確認
刻苧漆が「乾いたのか?乾いていないのか??」が判断つかない時がありますよね。
その時のジャッジですが、↓こんな感じでチェックしてください。
【乾いた】 |
「カリカリ」している。焼けた食パンみたいに |
【乾いていない】 |
「ボヨボヨ」している |
しっかりと乾いている場合、感触が「カリカリ」っとして、爪やニードルのような先が尖ったモノで引っ掻くと引っ掻いた場所が「白く」線が残ります。それから強く押しても「凹む感触」はありません。
※ 表面はしっかりと「カリカリ」しているのに内側は乾いていない…という場合もあります。
刻苧が乾いていない場合は刻苧に「小さな穴」を数カ所あけるか、(非常に残念ですが)刻苧を取り除いて、やり直してください。
刻苧作りが失敗していると何週間経っても刻苧が硬化しないことがあります。そのまま数カ月放置して乾いたとしても、接着力、強度が下がっているような感もあります。
作業効率も考えると、1週間経っても、刻苧が乾かない時は「やり直し」た方がベターです。
もっと詳しく知りたい方はこちらのページを見てください↓
〈使う道具/材料〉
道具:
下記の道具のいずれか、もしくは複数が用意できると作業がしやすくなります。
①〈平丸〉の彫刻刀
②〈平〉の彫刻刀
③〈カーブ刃〉のカッター
④ 普通のカッター(大)
※ その他、本漆金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
▸ 本漆金継ぎで使う道具・材料ページ
★ ベストな組み合わせは「①〈平丸〉の彫刻刀+②〈平〉の彫刻刀」です。
が、彫刻刀は砥石で研ぐ必要があります。←これって普通の人には厳しいですよね?
ということで、ベストではありませんが「落しどころ」として…
★ 初心者さんには「③〈カーブ刃〉のカッター+④ 普通のカッター(大)」をおススメしています。
「障子用のカーブ刃」は替刃式なので、切れ味が落ちたら刃を変えられます◎
「④ 普通のカッター(大)」は100均のものでオッケーです。
障子用丸刃カッターはホームセンターの「障子貼りコーナー」にありました。刃先がRなので(丸味が付いている)、器の曲面部分、特に「器の内側」部分の削りにもある程度ですが、対応できます。
▪▪▪
想像してみると容易にご理解いただけると思いますが、「凹んでいる箇所に充填した素材」を削るのに、「平らな刃物」では削ることができません。
↑の画像を見てもらうと分かるように、「刃のエッジ」が器に当たってしまって、素材を綺麗な曲線に削ることができないのです。
この図像は分かりやすいように彫刻刀のイラストを使っていますが、カッターの刃でも同じです。
「直刃のカッター」では「内側に湾曲した箇所」を削ることはできません。
【カーブした刃の場合】
▪▪▪
「刃先がカーブした刃物」の場合、「刃のエッジ」が当たらないので、素材を綺麗な曲線に削ることができます。
カッターナイフの場合も「刃先がカーブした」ものの方が、凹んだ部分は綺麗に削れます。
▪実作業▪
それではカリカリ乾いている刻苧漆こくそうるし(パテ)を削っていきます。
器は違いますが参考になりそうな動画です↓
0:28~1:34まで再生
1:20~3:52まで再生
出っ張った刻苧やはみ出した刻苧を刃物で削っていきます。
彫刻刀を使う場合には「刃表」と「刃裏」とがありますが、その場その場に応じて、どちらでも使いやすい方を使ってください。
器に彫刻刀やカッターの刃を当てると
器が傷ついたり
削れちゃったりするんじゃないの?!
ノンノン!
刃物の「硬度」よりも器の方が硬いので
怖がらなくて大丈夫ですよ~◎
進行方向に対して刃物を斜めに構え、スライドさせるように動かすと削りやすいです。
削り終わったら削りカスをウエスで拭き取ります。
【マスキング】
※ 今回、修理しているような「ツルツル・ピカピカ」している器の場合には「マスキング」する必要はありませんが、場合によっては必要となりますので、記載しておきます。
錆漆を充填する際、「器の表面」によってはそれらが汚れとしてこびりついてしまうことがあります。
作業する箇所以外が汚れないようにあらかじめマスキング材で覆っておきます。
マスキングについてもっと詳しい解説を見たい方はこちらのページをご覧ください↓
マスキングした方がいい器とは?
● マスキングした方がいい器
・修理する器の表面(釉薬)が「ザラザラ、マットな質」のもの
・焼き締めの器
・器の表面に「小さな凹凸」がある器
・器の表面に「小さなクレーターやピンホール」がある器
・器の表面を見ても、「ツルツルしているような、でもマットなような…」と判断がつかない場合はケースバイケース
・高台の裏など釉薬がかかっていない部分↑があれば、そこだけピンポイントでマスキングを行います。
※ 高台の裏は釉薬が掛かっていない場合が多いので、注意してください!
● マスキングしなくてもいい器
・修理する器の表面(釉薬)が「ツルツル、ぴかぴかのガラス質」のものでしたら、汚れがついても簡単に落とせます。ですので基本的にはマスキングは行いません。
・小さな凸凹、クレーター/ピンホールがない器
〈使う材料〉
マスキングで使う素材としては
・マスキング「テープ」
・マスキング「液」
の2種類があります。
使い分け方(金継ぎ図書館的な)
▪「テープ」を使用するのは…
・単純な形状にマスキングをする場合
・多少、複雑な形状でも、マスキングをする範囲が狭い場合
▪「液」を使用するのは…
・複雑な形状にマスキングをする場合
● マスキング「テープ」の使い方
① 棒(ヘラなど)
③ マスキングテープ(15~20㎜幅前後)
▪ 動画を見れば一目瞭然です◎ まずはこちらをご覧になってください↓
0:40~3:00まで再生
千切ったテープを修理箇所に沿って、貼っていきます。
その際、ヘラなどの棒を使うと作業がしやすくなります。
㊨:テープが修理箇所に「掛かって」しまったら、テープを棒で引っ張って微調整してください。
意外と融通が利きます◎
テープの貼り方ですが、「修理箇所から1~2㎜前後の隙間を開けた方がいい」と思います。
▪もう少し詳しい解説を見たい方はこちらのページをご覧ください↓
● マスキング「液」の使い方
①④ マスキング液
② 水筆+水+中性洗剤
▪ 動画を見れば一目瞭然です◎ まずはこちらをご覧になってください↓
3:00~7:08まで再生
㊧:筆先で少量のマスキング液を掬います。
マスキング液はどんどん固化していくので、容器の蓋は閉めます。
㊨:修理箇所に触れないように、その周りに塗っていきます。
薄く延ばしながら塗っていきます。
マスキング液がどんどん固化していくので、手早く塗っていきます。
マスキング液が足りなくなったら、その都度、液の入った瓶から少量出して使います。
マスキング液は乾くと「透明」になります。
「質感」としてはゴムっぽい感じです。
擦ると簡単に剥がれてしまいますので、気を付けてください。
▪もう少し詳しい解説を見たい方はこちらのページをご覧ください↓
【錆漆を付ける】
次に刻苧の表面に錆漆を付けていきます。
※ 前回、刻苧漆(漆のパテ)を充填したわけですが、「まだまだ深く凹んでいる」場合にはもう一度、刻苧漆を充填してください。
「もう一度、刻苧漆を盛るかどうか」の判断は下記の表を確認してください。
作業の目的
刻苧漆で充填したその上に錆を付けることで
・形の精度を上げていく
・肌のキメを細かくする
刻苧or錆漆を使うかの判断基準
←刻苧漆(写真左)/(写真右)錆漆→
金継ぎでは欠損箇所を直す充填材として
・「刻苧漆こくそうるし(漆のパテ)」
・「錆漆さびうるし(漆のペースト)」
の2種類があります。
今回のようなケース以外の場合、錆漆を使うのか、それとも刻苧漆を使うのか…がよくわからない場合は、下記の表をジャッジする際の参考基準としてください。
基本的には「面積」ではなく、「深さ」を基準にしてください。
傷の深さ | 使う充填材 |
▪深さ2㎜以上 |
【刻苧漆こくそうるし(パテ)】を使用 |
▪深さ1~2㎜ | 錆漆でも刻苧漆でもどちらでもオッケー◎ ※ 錆漆を充填する場合は一回の盛り厚は1㎜程度まで。 それ以上の深さに充填する場合は数回に分けて充填する |
▪深さ0~1㎜未満 |
【錆漆さびうるし(ペースト)】を使用 |
●「深さ」を基準にするので、充填箇所が…
・面積が狭くても「深ければ」→刻苧漆
・面積が広くても「浅ければ」→錆漆
…というように考えてください。
● 「造形」を必要とされる場合には基本的には「刻苧漆」を使ってください。
↑こういった場合の「造形」には「粘土のように使える」刻苧漆の方が適しています。
〈使う道具/材料〉
道具:
③ 作業盤(ガラスなど)
‣仕立てページ ‣仕立て動画
④ 付けベラ ‣作り方ページ ‣作り方の動画
⑤ 練りベラ ‣作り方ページ ‣作り方の動画
〇 計量スプーン 1/4 (0.25㏄)
※ その他、本漆金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
▸ 本漆金継ぎで使う道具・材料ページ
これらの材料を使って「ペースト状のもの=錆漆さびうるし」を作ります。
錆漆の作り方
作業手順
1.砥の粉を細かく潰す
2.水を少しずつ砥の粉に足しながら、よく練る
3.生漆を少しずつ「水練り砥の粉」に足しながら、よく練る
それでは「錆漆」を作っていきます。
錆漆は…
錆漆=砥の粉+生漆
で出来ています。
配合比は…
【目分量の体積比】
砥の粉 10:7~8 生漆
※ 【体積比】です。お間違いなく。
※ 錆漆の「作り置き」はおススメしません。「使うときに作る」が原則です。
作ってから2~3日くらは乾きますが、どんどん乾きが悪くなっていきます。
とはいえ、「明日も他の器を直すので」という方は、残った錆漆さびうるし(ペースト)を保存してください◎
▸余った錆漆・麦漆・漆の保存方法
1.砥の粉を擦切り1杯
2.生漆を7~8分目
3.作業盤の上で砥の粉を細かく潰す
4.脇に水を少量出す
5.潰した砥の粉に少量ずつ水を加えながら、ヘラでよく練る
6.砥の粉が「まとまる」くらいまで水を加えつつ、練る
7.生漆を少量ずつ加えながら、ヘラでよく練る
8.生漆を全部加えたら出来上がり◎
※ 生漆が多すぎるといつまで経っても乾かない錆漆になってしまいますので、配合比には気を付けてください。
さらに詳しい「錆漆の作り方」を見たい方はこちらをご覧ください↓
ヘラで錆を掬うテクニック
作業に入る前に<ヘラテク>をご紹介します↓
(4:45~4:59を再生)
【錆スクイ・テク】
▪ ▪ ▪
1.作業板の上で錆漆を薄く均一に広げる。
2.ヘラを少し寝かしつつ、横から滑り込ませる。
3.右側から左側へ通す。
4.そうするとヘラの先っちょだけに錆漆がつきます。
慣れてくるとテンポよく作業ができて、それだけで気持ちがよくなります。
<同一動作の反復>というのは集中していくととても心地いいものです。
▪実作業▪
修理している器は違いますが、「錆漆付け」の参考になりそうな動画です↓
1:53~7:06まで再生
1:53~から再生
まずはヘラ先で錆漆を少量取ります。
錆漆を接着箇所に置いていきます。
ヘラを横に滑らせるようにして錆漆を付けていきます。
横スライドです。
ヘラを反対方向に返して、錆漆を伸ばします。
今度は接着ラインに対して直角にヘラを通します。
小刻みに通して、隙間や段差に錆漆を入れていきます。
反対方向にもヘラを通します。
両方向からヘラを通すことで隙間にしっかりと錆漆が入り込みます。
最後に接着ラインに沿ってヘラを通して、錆漆の表面を均します。
ヘラを上下左右に通し、錆漆を動かすことによって、器の素地との間の隙間を潰して密着させると同時に錆漆自体の中に含まれている「空気(小さな空間)」を抜いていきます。
【 ヘラを上下左右に通す理由 】
▪ ▪ ▪
何でそんなにヘラを
動かさなくちゃいけないの??
きれいに付けられてたら
それでいいんじゃないんですか?
確かにそう思いますよね◎
付けた錆漆の「表面」がいくらきれいに見えたとしても…
「ただ付けた(置いた)」だけじゃ、意外と器の素地との間に「隙間」が空いていたり(赤の矢印)、錆漆自体に「空気」が入っていたり(黄緑の矢印)するものなんです。
錆漆が乾いた後、研ぐと…
「素地との間の隙間」「凹み」「ピンホール」などが出現してきます。
さらに〈黄緑〉の部分は「内側」に空間があるので、錆漆から段々と水分が抜けて(痩せて)いくうちに、「薄っすらと陥没し」やすくなります。
ですので、、
ヘラを上下左右と通して、錆漆を動かし、なるべく「隙間」や「空気」を潰すようにしてください◎
余裕があれば周りについた錆漆をヘラで取り除いてしまいます。
(「マスキング」した場合は、この作業は不要です◎)
※ アルコールや灯油を軽く浸み込ませた綿棒で掃除してもオッケーです。
今回の修理している器は表面がツルツルぴかぴかなので、綺麗に錆漆の掃除ができます。
接着ラインの両側とも掃除をします。
同様にして他の接着部分にも錆漆を付けていきます。
これで錆漆付け作業が完了です。
まわりに錆漆が付いていますが、乾いた後に簡単に除去できますので、このままにしておきます。
ご注意!
錆漆は一気に厚盛りすると「膿む」(乾かない状態になってしまう)ので、厚盛厳禁です。
※ 今回はどのみち「厚盛り」することはないと思いますが。
もうちょっと盛ることはできるのですが、「一回の盛り厚は1㎜程度まで」と考えておくと安全です。
「厚く盛る」と錆漆が「膿んで」乾かなくなってしまう時があります。
錆漆の厚盛は十分ご注意ください。
【 お掃除、お掃除 】
▪ ▪ ▪
全ての作業が終わったら作業板を掃除します。
テレピン(又はエタノール、灯油など)を垂らして、ウエスやティッシュできれいに拭き取ってください。
caution !
厳密に言うと、掃除をし終わった後の作業板の上には「ごくごく薄っすら」と漆の成分が残っています。
ですので、この作業が終わるまではしっかりとゴム手袋をして、ゴム手袋を外したあとは作業板を含めて漆の道具類を触らないようにした方がいいです。
錆漆を乾かす
錆漆の乾きに1~2日間待ちます。
錆漆が乾くまで1~2日待機してください。
(調子のいい生漆を使うと4~5時間後に次の作業ができますが、一応大事を取って「待って」ください)
錆漆さびうるし(ペースト)はそれ自体に「水分」が入っているので、とくに湿度のある「漆風呂」に入れなくてもしっかりと硬化してくれます。
ですが、
・「古い生漆」
・「乾きの悪い生漆」
・「調合してから数日、取り置きしておいた錆」
…を使っていた場合は乾きが悪いかもしれません。その場合は初めから湿し風呂に入れて、湿度を与えてください。
始めに湿度を与えて、漆に「闘魂を注入」することが大切です◎
※ 水を固く絞った布を中に入れて湿度を高くしてください。
もうちょい詳しく見たい方は↓こちらのページをご覧ください。
本日の作業はここまでです◎
お疲れ様でした。
次の作業をご覧になりたい方はこちらのページへ↓
他の「蕎麦猪口の修理」ページを見る
▸p01 素地の研ぎ~接着まで
▸p02 麦漆削り~刻苧漆の充填
▸p03 刻苧削り~錆漆付けまで
▸p04 錆削り~漆塗りまで
▸p05 漆研ぎ~蒔絵/完成まで