※ 口元からひびの入った中国湯呑の合成樹脂を使った金継ぎ修理のやり方を説明していきます。本物の漆は使っていません。ご注意ください。
今回は金継ぎの工程のうち、〈ひびの入った部分の器の素地をやすりで削る~新うるし塗りまで〉のやり方を解説していきます。
一気に完成までご紹介します。長いですがご付き合いください。
【必要な道具・材料を見る】↓
新うるしの安全性について
「新うるし」の安全性についてのメーカー側の説明:
・本品は毒性の強い物質ではありませんが念の為、食器等口に含む恐れの有る物に塗装しないでください。
※ 新うるしの安全性について、詳しく知りたい方はこちらのページをご覧ください↓
‣新うるしって何?安全なの??
当図書館としては、新うるしなどの「合成うるし」の安全性について、「黒寄りのグレー」と考える立場をとっています。ので、下記の使い方をおススメします。
合成うるしで壊れた器を直してもOK!
ただし、「合成うるし」を使って直した器は直接、修理箇所に口を付けない使い方を強くおススメします。
例えば
・食器として使わない(大切な思い出の品として飾っておく・小物入れとして使う)
・食器として使う場合は「乾きもの」を入れる程度の使い方に限定する(菓子器として使うとか)
金継ぎ図書館ではこのような使い方を前提にして、「簡易金継ぎのやり方」を解説しています。
金継ぎする器 information
- 器: メイドインチャイナの湯呑。現代の量産品です。
- 器の特徴: 磁器の絵付け、ややピカピカの釉薬
- 器のサイズ: 直径75㎜、高さ55㎜
- 破損状態: 口元からひび 総計52㎜(縦に42㎜、横に10㎜)、口元に欠け(大きさ5×5㎜)
今回のメインで取り扱う「ひび」の他に「欠け」もあります。
うっすらとひびが入っています。
しかも男爵の髭のように横にもひびが伸びていました。
かなりしっかりとチェックしないと見えないようなひびです。これを見落とさないように気を付けてください。
内側もひびが入っています。
内側は髭のようなひびはありませんでした。…としっかりチェックしたはずが、完成してから内側にも「髭ひび」が入っていることが判明して、げんなりしました。
「欠け」あるところに「ひび」あり…と、基本的には疑っていった方がよさそうです。
01〉 素地調整
道具:
① ダイヤモンドのヤスリ
② リューターのダイヤモンドビット
※ 簡易金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
ダイヤモンドビットのカスタマイズのやり方は↓こちらのページをご覧ください。
このうっすらと入ったひびに沿ってダイヤモンドのやすりをかけます。
傷をつけて新うるしの食いつきをよくします。
いきなり力を入れてやするのではなく、ゆっくりとなぞるように軽く2,3往復させてから少し力を入れて研ぎます。
ひびが見えづらい場合は目印として鉛筆や油性マジックで線を引いてください。
その上をゆっくりとダイヤモンドビットでなぞっていきます。
内側も同様に作業を行います。
このうち側にも「髭ひび」があったとは…まったく気が付きませんでした。
うっすらと「傷」がついたら素地調整作業が完了です。
次は「欠け」部分にエポキシペーストを補填します。
「ひび」の修理だけを見たい方は下のリンクを押せば、ショートカットできます。 ▸ひび修理の続き
02〉 エポキシペースト付け
道具:
② 作業板(クリアファイルなど)
③ 付けベラ ‣作り方ページ ‣作り方の動画
④ 練りベラ ‣作り方ページ ‣作り方の動画
材料:
① エポキシパテ
⑤ 砥の粉
⑥ ペースト状のパテ
⑦ テレピン
⑧ エポキシ接着剤
※ 簡易金継ぎで使うおススメの道具・材料の一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
▸ 簡易金継ぎで使う道具・材料ページ
※ 大きな穴や隙間があるときは ▸エポキシパテ で埋めてください。
今回は器の損傷個所の欠けが小さいので、「エポキシパテ+エポキシ接着剤」で作った「エポキシペースト」を使って充填したいと思います。
① 作業盤の上にエポキシ接着剤のA剤、B剤を等量出し、しっかりと混ぜ合わせる。
② ゴム手袋をして、パテの方も手でしっかりと練り合わせる。
③ パテの方に少量ずつ接着剤を加えつつ、練り合わせていく。
※今回は欠けた部分に盛るためのペーストなので接着剤の分量を少な目にして(2割くらい)やや硬めにします。
練りからしくらいの硬さにしました。
もう少し詳しくエポキシペーストの作り方を知りたいという方は↓こちらn
こちらが↓「ペースト状のパテ」です。
「泥状」の素材で、ヘラで伸ばして付けることができます。
こうゆう商品があったんですね~。
ヘラの先に少量のエポキシペーストと取ります。
まずは欠け部分の向かって右側からペーストを置いていきましょう。
欠けのエッジにひっかけるようにしてペーストを置いていきます。
次は欠け部分の向かって左側にペーストを置いていきます。
再度、ヘラの先にペーストを少量取ります。
欠けの左側のエッジにひっかけるようにヘラをスライドして、ペーストを置きます。
最後に向かって奥側のエッジを利用してペーストを置きます。
ヘラをひっかけるようにしてスライドさせます。
ちょっと「盛り気味」ですが、ひとまずこれでよしとさせてください。
まだ「ベスト」なエポキシペーストの使い方が確立していません。試行中です。
現在は「ちょい盛り気味に置く」をベターアンサーとして暫定的にご紹介しています。
以後、やり方が変わるかもしれません。そうしたらまたご説明します。
ちょい盛り気味にして、硬化してから刃物で削ります。
ジャストを狙って盛るのが一番いいのですが、万が一盛り足りなかった場合、そのリカバリーがかなり面倒なのです。(今のところいい方法が見つかっていません)
ですので盛り気味です。
硬化するまでの間に、エポキシペーストは流動性が高いので「垂れて」きます。(この辺が「錆漆」と違いますね)
ですので、「垂れ」が生じても影響の少ない置き方にします。今回は一応、逆さまに置きました。
この「垂れ」をうまく利用したペースト付けというのもありそうですね。今後、検証していきます。
03〉 ペースト削り・研ぎ
道具:下記のいずれか
① 〈平丸〉の彫刻刀
② 〈平〉の彫刻刀
③ 〈カーブ刃〉のカッター
④ 普通のカッター(大)
※ 簡易金継ぎで使うおススメの道具・材料一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
初心者さんには「障子用のカーブ刃」のカッターが扱いやすいかと思います。
替刃式なので、切れ味が落ちたら刃を変えられますし◎
「普通のカッターナイフ(大)」も100均で購入できるので、できれば「障子用カッター&普通のカッター」の二刀流で作業してもらえたらはかどると思います。
刃物を砥石で研ぐことができる方におススメの刃物は「平丸」の彫刻刀です。かなり作業が楽にきれいに、さらには楽しくできます。(言い過ぎかしら)
▸ 金継ぎで使う彫刻刀のカスタマイズ・ページ
それではエポキシペーストを削っていきます。
器の外側は基本的には彫刻刀の「刃裏」を器に当てながら削っていきます。
上から見るとこんな感じです。刃裏の平面を器に当てることで面の繋がりのガイドとします。
口元周りを削るときもできるだけ周りの器に刃裏を当てて、それを頼りに平面のレベルを把握します。
削りつつ、いろいろな方向からペーストを盛った面の繋がりをチェックします。
膨らんでいる箇所を見つけて削っていきます。
削るときは進行方向に対して彫刻刀を斜めに構えて、しかも斜めにスライドさせていきます。
その方が抵抗が少なくなって、削りやすいです。
この「より多くの(複数の)方向に動きのベクトルを分ける」っていうのは武道でも工藝でも動きの肝心なところなのかもしれませんね。
器の内側は「刃表」を当てて削っていきます。
削るときは少しずつ慎重に削っていってください。削りすぎるとエポキシペーストに戻る羽目になりますし、しかも修正が面倒です。
刃物で削り終わりましたら、続いて耐水ペーパーで水研ぎします。
道具:
③ ウエスまたはスポンジ ④ はさみ(切れ味の落ちたもの)
⑤ 豆皿(水入れ用) 〇 水桶
材料:
① 水差し
② 耐水ペーパー(今回は#600)
※ 簡易金継ぎで使うおススメの道具・材料一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
耐水ペーパーは小さく切って使います。
切れ味の落ちたハサミで、耐水ペーパーを1×1㎝くらいに小さく切ります。
それを「三つ折り」にします。
ペーパーに水を少量つけながら研ぎ作業をおこなってください。
削りでできたわずかな削り跡の段差を滑らかに研いでいきます。
ペーパーをつまんで、 なるべく器本体を研がないように(厳密には無理ですが)、研いでいきます。
研ぎ終わりました。
04〉 新うるし塗り
道具:
① サラダ油 ② ティッシュ
③ 作業板(クリアファイルなど)
④ 練りベラ ‣作り方ページ ‣作り方の動画
⑤ 小筆 ⑥ ゲル板
材料:
⑦ テレピンもしくは薄め液
⑧ 新うるし(今回は「ゴールド色」)
※ 簡易金継ぎで使うおススメの道具・材料一覧(購入先も)を↓こちらのページにまとめました。
※ チューブを使い始める前にぜひ、見ておいて欲しい!
「使っているうちにチューブの蓋が固まって開かなくなる問題」につての解決方法↓
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。
▸ 〈使用前〉の洗い方ページ ‣〈使用前〉の洗い方動画
毎回、作業が終わったときに筆を”油”で洗っているので、使うときにはまず筆の中の油を取り除きます。
① 作業板の上に数滴テレピンを垂らす。
② その上で筆を捻ったりしてテレピンをよく含ませる。
③ ティッシュペーパーの上でヘラで筆を優しくしごく。
※ ティッシュの上じゃなくて「ゲルの板」↓の上でやった方が筆の痛みが軽減されるので、現在はゲルを使うことをおススメしています。
続いて新うるしを塗る準備をします。
1⃣ 作業板の上に少量の金属粉をヘラで取り出します。
2⃣ 新うるしも少量だけ作業板の上に出します。
3⃣ ヘラでよく混ぜ合わせる。
手順としては器の内側から塗り始めた方がいいと思います。
先に器の外側を塗ってしまうと、内側を塗っているときにうっかり、塗ったところを触ってしまうことがあるからです。
口元も忘れずに塗ります。
もし、塗る面積が広くて、描いている途中で新うるしに粘り気がでてきてしまいましたら、テレピン(もしくは専用の薄め液 ‣Amazonで見る)を混ぜて緩めてください。
- 新うるしの横に1,2滴テレピンを垂らす。
- ヘラでテレピンを掬う(”濡らす”程度)。
- それを新うるしに混ぜる。
ただし、テレピンを何度も混ぜているとどんどん新うるしの濃度が低くなってしまいます。
「薄くなりすぎたかな…」と思ったら、新たに金属粉と新うるしを混ぜ合わせたものを作り直してください。その方がきれいな仕上がりになると思います。
器の外側にも新うるしを塗っていきます。
ひげ部分が描き終わったら修理完了です。
使い終わったら油で筆を洗います。
① 筆に油を含ませて、作業盤の上で筆に馴染ませる
② ティッシュの上(ゲル板の上の方がベター)に筆を置き、ヘラで優しくしごく
※ ティッシュの上じゃなくて「ゲルの板」↓の上でやった方が筆の痛みが軽減されるので、現在はゲルを使うことをおススメしています。
筆は付属のキャップを嵌めて保存します。
キャップが無かったらサランラップを丁寧に巻いてください。
キャップがない、もしくはキャップを作りたいという方向けに簡単なキャップを作るページありますので、ご覧ください。
▸ 筆のキャップの作り方ページ
新うるしの表面は何時間かで硬化しますが、しっかりと固く「締まる」までには2~3日を見ておいた方がいいと思います。
とくに「厚塗り」した時は乾きが遅くなります。1週間くらい待つ感じでしょうか(いや、もっとかも)。
使い出すまで、ちょっと辛抱してください。(新うるしの”匂い”が取れるのに数日かかりますので、どのみち待ちたくなると思います)
〈簡単金継ぎの完成〉
器自体の口元周りのデザインを借りて、かけ部分に「+」を描いてみました。
髭の先っちょには「ドット」です。器に入っているガラス質の「透かし」が丸い(楕円かな)ので、馴染みがいいかと思い、描きました。
内側のひびの先にもドットです。
ひげ男爵っぽさが引っ掛かっていたので、 数日後に描き足しました。葉っぱです。
どでしょう?
【2020-04-02追記】
現在、同じ損傷の器を簡易金継ぎで修理するとすればおそらく以下の手順を選択するかと思います。
① エポキシパテで充填→削り・研ぎ
② 「ペースト状のパテ」▸Amazonで見る でわずかな凹みを埋める→研ぎ
③ 合成うるしを塗り重ねる→完成
※ この元記事を書いた当時、世の中に「ペースト状のパテ」が売っているとは知りませんでした。
プラモデルや車修理の世界だと当たり前の商品だったんですね~。