”金継ぎスピリット”とは「モッタイナイ」や「侘び寂び」ではない
「自我を超えて他者へ繋がろう」とする渇望にも似たその志向性のことである
※ 「取っ手がバラバラに割れてしまった急須」の金継ぎ(金繕い)修理のやり方を説明していきます。本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。ご注意ください。
※ 万が一、漆が肌に付いた場合はすぐに「油(サラダ油など)」でよく洗って下さい。 油?? そうです。「油」をつけ、ゴシゴシ漆を洗い落としてください。その後、その油を石けんや中性洗剤で洗い流してください。
今回は金継ぎ工程の内の〈接着剤の削り~布を貼り付ける〉までのやり方を解説していきます。
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ファイツ!!
私、金継ぎ初めてなんですけど、どんな道具とか材料が必要なんですか?という方へ
↓ こちらのページを参考にしてください◎
▸ 本漆金継ぎで必要な道具と材料/そのお値段と買えるお店のご紹介
作業を始める前に…
金継ぎでは「本物の漆」を使うので、直接、漆に触れると「カブレる」可能性が高くなります。「ディフェンシブ」に行きましょう。ゴム手袋は必需品です◎
前回は麦漆むぎうるし(接着剤)で壊れた急須の取っ手を接着したところで終了しました。
あれから、そう、2週間ほど経ちました。
ついに完成!…していません!まだ、全然終わっていません。
麦漆でしっかりと取っ手がくっついたようです◎
しっかりときれいなアーチに戻っています。
接着に使った麦漆がちょっとはみ出しています。これをこの後、刃物で削っていきます。
内側もちょいはみ出しです。
はい、全然完成していません。これからが長いのです。気を引き締めていきます◎
03 接着剤の削り
道具 ①彫刻刀(平丸刀) ②彫刻刀(平刀) ③障子紙用丸刃カッター ④カッターナイフ(大)
▸ 道具と材料の値段/販売店
※ 今回は取っ手の内側の麦漆削りに「彫刻刀の丸刀」も使いました。
上記の道具のいずれか、もしくは複数が用意できると作業がやりやすくなります。
おススメは 【①と②の彫刻刀】ですが、「研ぐ」ことができないと、使い捨てになってしまいますので、現実的な初心者用の刃物チョイスとしては 【③と④のカッター】を用意してもらえたらと思います。
③ の障子用丸刃カッターはホームセンターの「障子貼りコーナー」にありました。刃先がRなので(丸味が付いている)、器の曲面部分、特に「器の内側」部分の削りにもある程度ですが、対応できます。
はみ出した麦漆を削っていきます。
彫刻刀の刃を器にペタリと付けて、はみ出しを削っていきます。
削るときは刃を持っていない方の手(右利きの場合は左手)の親指を使います。親指は「横方向」に押し出します。「よこ」ですか?!はい、「横」です。刀を持っているの方の手は「軽く前方」に進めます。「軽く」です。
どちらかというと、補助しているように見える「親指」の方で削っていく感覚です。普通は刀の「持ち手」の方で、力を入れて「えいっ!」と削っていくイメージがありますよね。
↑の画像でいうと、補助している左手親指が「右方向のベクトル」、持ち手の右てが「左方向のベクトル」、それが合わさって「赤いベクトル」になります。
対象物に対して、ベクトルを細かく分けられるようになると、削りがさらに滑らかにいくようになります。「この2方向以外にどうやってベクトルが分けられるっていうの?」といいますと…分かりません(笑) だけど、これを探っていくというのは「工藝」のかなり重要なポイントなんです。
身体感覚を細かくして、削っている時の感覚を微細に感じてください。そうしたら、「あれ?何か、今、気持ちよく削れた…。何だろう??でも、どうやったか分からない(泣)しょうがない、もうちょっと探っていってみよう」ってことが起こるかもしれません。
こうゆう「微細な身体感覚を探る」ことこそが重要な「学び」です。だけど、小、中学校ではそんなお話、聞いたことがないですよね?僕も聞いたことがありません。「美大」ではそういったことが教えてもらえるの?いえ、「そういうお話し」はありません。
それじゃ、どうすればいいの?と言いますと、「そういったことに気が付いている”師匠”」を探し求めるしかありません。こちらが必死で探し求めた時にはじめて、「ん?何か分からないけど、この人?かな?」ってセンサーにヒットする可能性が出てくる。そういうものだと思います◎
あっ、話が長い、金継ぎ図書館。
取っ手の内側のはみ出しも削ります。この内側部分は彫刻刀の「丸刀」を使って削りました。彫刻刀の平刀では無理だったのですが、カッターナイフだったら「刃」が横についているので、削れるかもしれません◎
今回は、取っ手の部分に「欠け」がなく、接着の際に「隙間」もできていなかったので、次の「素地の研ぎ」の工程に進みます。
もし、「欠け」や「隙間」があったら刻苧漆こくそうるし(パテ)や錆漆さびうるし(ペースト)を充填し、それを削ってから次の工程に進んでください。
刻苧漆こくそうるし(パテ)を使う場合は ▸こちらのページへ
錆漆さびうるし(ペースト)を使う場合は ▸こちらのページへ
04 素地を研ぐ
道具 ①リューターのダイヤモンドビット ▸ 作り方 ②ダイヤモンドやすり
▸ 道具・材料の値段/販売店
今回は↑の②を使いました。「半丸」のヤスリです。片面は「平」で、もう片面は「丸」です。取っ手の内側をやするときに「丸」じゃないと、ヤスれませんのです。
ダイヤモンドヤスリで研いでいきます。この作業の目的は陶器の釉薬に「傷」をつけて(荒らして)布を貼る時の接着をよくするためです。
研ぐ前に、「どこまで研ぐのか=どこまで布を貼るのか」を決めて、鉛筆で目印を書いておきます(黄色いライン)。
その写真も撮ったと思うのですが、見当たらない…(泣) 最近、もろもろの「管理」に混乱が生じてくるようになってきました。館長の脳みそのキャパを超えているのかもしれません。
で、この時に気をつけなくちゃいけないことは(話、くどいですか?)
↑こういうことです。
「パーツ同士を接着した箇所から余裕を持って広めに布を貼る」ってことです。接着箇所ギリギリで布補強を終わらせてしまうと、その補強効果が弱くなります。「それじゃ、どのくらい”余裕”を持てばいいの?」…そうですね、「よりけり」です。(おっ、逃げた)
今回は接着断面が広かったので、接着のみでも結構な接着強度が出ていると思うのです。さらに今回の急須のボディーは小さくて軽目なので、それほど「がっつり」と補強する必要はないと判断しました。
これが「取っ手が細い(=接着面が小さい)」とか、「支えなくちゃいけない重量が大きい」などの条件だった場合は、もうちょっと強度の出る補強を考えたいところです。
さらに気を付けたいのが、補強ヵ所が「どん臭い」見え方にならないようにする…ということです。(「どん臭く」見える…というのは、「自分の都合」しか考えていなくて、「対象物」が置かれているもろもろの要素との「関係性」が見えていないってことです。つまり相手への「想いやり」が足りていないってことかもしれませんね~)
布補強をした箇所は一回り「厚く」なりますし、「色」も他の周りとは変わります。どうしても「変化」が大きく見える…といことです。なので、どこならその「変化」が違和感なく収まるのか、もしくはもう一歩進められるのであれば、どこにその「変化」をもってくれば、それ自体が魅力的に見えるのか…を考慮します。(←これ、難易度高いですよね。ちょっと私にはそういったセンスがないから…という方でも、少し考えてみてください。そうするとこれまで使ってこなかった部分の「感覚」が少しずつ研がれていきますよ◎)
この時の僕の「返答」は↑こんな感じでした。もちろん、これが「唯一の正解」ってわけじゃありません。いくつもの回答の仕方があると思います。
とはいえ、実際にやってみないと「見え方」なんて分かりません。なので、あまり考え過ぎずにやってみてください。
鉛筆で描いた内側をやすっていきます。この「付け根」部分は研ぎづらいです。やすりの「丸」の方を使って研いでいきます。
アーチの外側はやすりの「平面」の方で研いでいきます。
ヤスリの種類はいろいろありますが、やはり「ダイヤモンド」がいいです。ゴリゴリ研げます。「粗目」のものを選んでください。100均でも売っています。
アーチの内側はやすりの「丸面」の方で研ぎます。
取っ手の付け根はやすりがかけづらいので入念に。鉛筆で描いたラインからなるべくはみ出さないように気を付けてください。
研ぎ終わったら、研いだ細かい粉を堅絞りした布で拭き取ってください。
05 布着せ(一回目)
道具 ②作業板 ▸作り方 ③練りベラ ▸作り方 ④付けベラ ▸作り方 〇先丸ヘラ(先っちょがカーブしているヘラ) ⑦マスキングテープ
材料 ①水 ⑤生漆 ⑥小麦粉
▸ 道具・材料の値段/販売店
この工程では修理部分に「麻布」を貼って補強します。接着剤は何を使うの?といいますと、いつも使っています麦漆むぎうるし(接着剤)です◎
今回はさらに↑の「麻布(目が細かいもの)」と「布を切るためのハサミ」を用意してください。
麻布は 1m×1m/¥2,000くらい(だったかな??)
漆屋さんで購入できます。
布は「麻」じゃないといけないのですか?「綿」じゃダメなんですか?ガーゼとかだったらドラッグストアでもすぐに手に入るし。
そうですね、「麻」の方が繊維一本一本が長いので、それで補強した方が頑丈です。「綿」は短い繊維が縒り集まっているので、糸自体が切れやすいのです。実際に漆で固めた麻布と綿布とを「折る」実験をしてみたことがあるのですが、結構、その耐久性に違いがありました。綿布の方が明らかに折れやすかったです。
とはいえ、薄くて目の細かい「麻布」を手に入れようとすると漆屋さんくらいしか僕は聴いたことがないので、ちょっと不便ですよね。価格も結構するし。なので、ご自分の器を直すのであれば「綿布(ガーゼなど)」も考えていいと思います。綿布であっても貼ると貼らないとでは大きな強度差が出ますので、ぜひぜひ「布着せ」をやてみてください◎
それでは布を貼るための接着剤を作ります。※使うのは「竹練りベラ(幅広のヘラ)」です。
▸ 麦漆むぎうるし(接着剤)の詳しい作り方
そう、漆と小麦粉で「接着剤」が出来ちゃいます。料理??
※ 麦漆むぎうるし(接着剤)の”消費期限”は2~3日くらいと考えてください。基本的に「使うときに作る」が原則です。保存があまり効かないので、「作り置き」は避けてください◎作った時が一番「乾き」がよく、時間が経つほど、どんどん乾きが悪くなってきます。
【 麦漆むぎうるし(接着剤)漆の作り方 】 【体積比/目分量】… 小麦粉 1:1 生漆 ※水は適量
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【 麦漆むぎうるし(接着剤)の作り方動画 】
初めのうちは失敗しないように、小さな計量スプーンを使うといいです。
(ベストは1/4サイズです。けど、滅多に売っているお店がありませんー)
布を貼る場所の大きさを計っておいて、その幅に合わせて布を切ります。ここで重要なのは布を「バイアスになるように切る」ということです。糸の織ってある方向に対して、「斜めに切る」ということです。せっかくの布に使わない「無駄な部分」が出てしまってもったいないのですが、ここはより良い仕上がりのために我慢してください◎
今回は「取っ手の幅」にジャストになるくらいの幅を取りました。
↑こんな感じに糸が通っている「帯」になります。何で「バイアス」にするの?かと言いますと、「斜め方向に糸が通っている」帯ですと、縦横に伸び縮みしやすいからです。三次曲面に貼る時、伸び縮みする方が、断然貼りやすくなります◎
それから今回は「陶器」に布を貼っているわけですが、漆芸の場合、多くは「木地」を使います。木というのは空気中の水分を吸ったり吐いたりするので、「動く」わけです。そうすると、木地が多少動いても、布の方がその「動き」を吸収できるべく状態にあった方が望ましいわけです。ご了解いただけましたでしょうか?
でも、今回は「陶器」ですから、これ、関係ないのですが。
それでは最初にアーチの内側に布を貼っていきましょう。
まずは布を当てがって、「長さ」を決めます。長さに合わせて布を切ります。
ちょっと余裕を持った長さをとります。
布を貼る場所にあらかじめ麦漆を薄く塗っておきます。
内側の「取っ手付け根」部分は普通の「平」のヘラだと麦漆を付けられないので、↑このような「先っちょがカーブ」したヘラを使います。ぜひみなさんも作ってみてください。普通の「付けベラ」を作るのと同じ要領です。最後に先っちょを削ってカーブさせるだけです◎ ▸作り方
今回の布貼りの手順としては、次の3ステップを考えています。
- 素地に麦漆を薄く塗る
- 布を置いて、ヘラで上からしっかり押さえつつ、密着させる
- 布の上から、さらに麦漆を塗る
つまり「布を麦漆で挟む」感じでしょうか。
鉛筆で目印を描いた内側=やすりで研いだ部分に塗っていきます。
なるべく薄く、均一に塗っていきます。
「取っ手の付け根部分」は はみ出さないように気を付けてください。はみ出したら、ヘラでなるべく綺麗に麦漆をとってから、綿棒+エタノールで拭き取ってください。
それ以外の取っ手の部分(取っ手の表側)などに麦漆が付いてしまっても全く問題はありません。どのみち、そこには後日、布を貼りますので。ベッタリと付いてしまったら、さすがにそれはヘラで取ってくださいね◎
内側に麦漆を塗り終わりました。
こんな感じです。そんなに神経質にならなくても大丈夫です。案外うまくいきますよ◎
はーい、ハーイ!質問。 割れた破片をくっ付ける時には、麦漆を塗った後できたら「半乾きになるまで待った方がいい」って言ってましたけど、布を貼る場合も同じようにした方がいいのですか??
なるほど、ね。布の場合はすぐに貼っちゃってください◎ 乾きを待つ必要はありません。
破片の接着の場合には、パーツ同士をくっ付けるとその後、外気に触れないので乾きがすごく悪くなるのです。なので、あらかじめギリギリまで乾かしておいた方がいいのです。
布を貼る場合は空気に触れているので、布を貼った後も乾きはよいです。4~5日くらい乾きを待ちたいところですが。
あの、あのですね、あたし、「ヘラ」が苦手なんです。こんな複雑な形のところにヘラで塗るなんてできなそう…(涙)
という方、いらっしゃるかと思います。でも意外とできちゃうものですよ◎と言いつつ、そんな苦手意識を持っている方の救済方法です。
↑”固めの毛(豚毛など)”の筆で塗ることもできます◎ 筆は100均で大丈夫です。3本組とか5本組のものでオッケー。豚毛でしたら毛が硬いので、麦漆の粘りにも負けず「引っ張る」ことができます。この後おこなう「布を押える作業」もできます。
柔らかい毛質のものだとこれらの作業がやりづらいので、ご注意ください。使用後は他の筆と同じように「サラダ油」で洗って下さい◎
まずは布をパサッと置いて、それからヘラで位置をずらしてちょうどいいポジションにします。
ゴム手袋をしているようでしたら(ゴム手、してくださいね。漆、ナメちゃダメですよ◎)、指でつまんで布を置いてもオッケーですし、もうちょっとカッコよく作業をしたいのでしたら、ヘラを使って布を置きます。
ヘラの先にちょっとだけ麦漆つけ、置いてある布をその部分で引っ付けて持ち上げます。意外とこんなんで出来ちゃうものです◎
布のポジションが決まったら、ヘラで押えます。押さえて、麦漆の中に沈めるような感じというか、麦漆を布に浸み込ませていくというか。
布の一か所を厳密にズレがないようにして、それから次の箇所に進む…のではなく、まずは布全体を軽く押さえてズレを修正します。それからしっかりと押さえていきます。
取っ手の付け根部分もしっかりと押さえます。
布の両端の「耳」の部分を押さえていきます。
押えて、麦漆に馴染ませて…です。この時、布がどうしても浮いてきちゃうんですけど(泣)…となってもあまり気にしないでください。この後の作業でしっかりと接着させていくので大丈夫です◎
ひとまず、布全部を押えました。
次に布の上から麦漆を塗っていきます。布を麦漆で挟んでしまう感じです。
このバイアスになった「布の目」 の中に確実に麦漆が入り込むように、いろいろな方向からヘラを通してください。どんどん麦漆を塗っていきます。
「耳」の部分もしっかりと上から麦漆を塗り込んでいきます。この時点ではもう、布が浮いていないようにしてください。基本的に布は水分(麦漆)が浸み込めば「ヘナヘナ」となってくれると思います。そうしたら、しっかりと素地に密着できるはずです。
取っ手の付け根ヵ所は「先丸ベラ」で麦漆を塗ります。
できました!麦漆が厚くつき過ぎた所があったら、ヘラで余分な麦を取ってください。麦漆が薄すぎて「白っぽく(布の色が見えている)」なっている箇所があったら、そこには麦を塗り足してください。
全体をチェックして、塗り残しなどがないか確かめます。麦漆は「厚過ぎず、薄過ぎず」です。
わかりづらいとは思いますが、↑こんな感じの「見え方」になるようにしてください。
4~5日くらい乾きを待ってください。
漆風呂は入れても入れなくてもどちらでも大丈夫です。(勝手に乾くはずです◎)
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