※ 取っ手が3ピースに割れたマグカップの金継ぎ修理のやり方を説明していきます。本物の漆を使った修理方法ですので「かぶれる」可能性があります。ご注意ください。
今回は金継ぎの工程のうち、〈割れた破片を麦漆で接着~麻布を巻いて補強するまで〉のやり方を解説していきます。
※ 半年前に修理したマグカップです。
このサイト自体を作る前というか、「よし、作ってやる!」と悪戦苦闘しているときに撮っていた初期の画像なので取るタイミングも、取っていたロケーションなどなども、なんやかんやと至らないところだらけです。
ですが、「麻布を使った補強修理」の解説はネット上にほぼないと思いますし、私も滅多にやらない修理なので(今のところこの一回だけです)、不備があろうともサイトにアップしておきます。
金継ぎとは
金継ぎとは欠けたり、割れたりした器を漆で直す日本の伝統技法です。漆で接着し、漆で欠けや穴を埋め、漆を塗って、最後に金粉や銀粉を蒔いてお化粧をします。
器 information
- 器の作家: 服部竜也さん(←作家名が分からなかったら、H.Aさんが教えてくれました。どうもありがとうございました◎)
- 器の特徴: カップの外側はざらざらした黒くマットな釉薬
- 器のサイズ: 直径75㎜、高さ105㎜
- 破損状態: 取っ手の割れ3ピース
とにかくカッコイイ。スタイリッシュですよね。
外側の黒の釉薬のざらざらした表情といい、カップ内側のシルバーの鈍い光沢といい、
洗練された感じがします。
現代のリビングにマッチするフォルムと配色だな、と思います。魅力的です。
で、取っ手が薄い…。いやー、これは困ります。作家さん、もうちょい厚く作ってと懇願したくなります。
今回の金継ぎ修理ですが、強度の問題を無視するのであれば「ただ麦漆でくっつける」でいいと思います。その場合はお飾りとしてだけ取っ手が存在していて、「なるべく取っ手を持たないで使ってくださいね◎」という、ややへんてこりんな修理になります。
麦漆接着だけでも何年かはもつと思うのですが、でもやっぱり不安といいますか、いつなんどき取っ手が外れるかわからない…というのでは、使う方の気持ちとしても収まりが悪かろうと思うわけです。
そういうわけで今回は麻布を使って補強することにしました。
「おう、鳩屋!麻布ってどうゆうことじゃ!?あたまおかしくなったか?」
と思われるかもしれません。ええ、あたまはいまいちよろしくないのは仰る通りなのですが、「麻布」を漆で使うっていうのはかなりオーソドックスな技法なんです。
普通に木地のお椀にも使われますし、「乾漆(かんしつ)」という麻布で造形する技法もあります。興福寺の阿修羅像なんかがそうです。あれ、主要部分が麻布で作られているのです。
金継ぎstep 01 素地調整
素地調整で使う道具: リューターのダイヤモンドビット (ホームセンター等で入手可能/価格 \200~)
まずは割れた断面のエッジをやすりで軽く削ります。
「接着でのズレを軽減するため(ごまかす)」、「接着面を少しでも多く取り、接着強度を上げる」ためです。
金継ぎstep 02 素地固め
素地固めで使う道具と材料(▸ 素地固めで使う道具・材料の入手先・値段)
- 道具: 小筆、付け箆
- 材料: 生漆、テレピン、サラダ油、ティッシュペーパー
まずは使う前に筆をテレピンで洗って油を洗い出します。
▸ 詳しい筆の洗い方
割れた断面に漆を浸み込ませます。
筆で生漆を塗った後、それをティッシュで軽く押さえて吸い込まなかった余計な漆を拭き取ります。
画像が見づらいです。黒い器を黒バックで写真を撮ってたら、そりゃ見づらくなりますよね。
済みません。我慢してください。
塗り終わったら油で筆を洗います。 ▸ 詳しい筆の洗い方
洗い終わったら筆にキャップをつけて保管します。
キャップがなかったらサランラップで優しく包んでください。
金継ぎstep 03 麦漆の接着
麦漆接着で使う道具と材料
- 道具: プラスチックへら、付け箆 ( ▸ 付け箆を作り方 )
- 材料: 生漆、小麦粉、水
漆を使って接着剤を作ります。 ▸ 麦漆の詳しい作り方
取っ手を接着していきます。
付け箆を使って割れた断面に麦漆を薄く塗ります。
塗った後、麦漆が乾き始めるまで待ちます。30~60分といったところでしょうか。(毎回、この待ち時間が変わっているような気がしますが…。そのくらい個別性が高いということです)
麦漆の乾きかけを狙って接着します。マスキングテープを細く切っておいて、それを補助として接着部分に貼ります。
接着する時は上下左右、斜め、さまざまな角度からズレをチェックします。
なるべくズレが収まるようにします。でもあちらのズレを直すとこちらがズレ、こちらを直すとあちらがズレ…というイタチごっこになりますので、そこそこズレが収まったら観念します。
乾きに2~3週間見ておきます。放置です。
金継ぎstep 04 麦刻苧を詰める
麦刻苧詰めで使う道具と材料
- 道具: プラスチック箆、刻苧(こくそ)箆(▸ 刻苧箆の作り方)
- 材料: 生漆、小麦粉、水
まずは麦漆を作ります。 ▸ 麦漆の詳しい作り方
それに少量の木粉を加えて練ります。
接着した箇所にちょっとした隙間があったので、そこに麦刻苧を詰めます。
で、「麦刻苧」なんてあったっけ?と思われるかもしれません。
正解です。
そんなものありません。でもいいのです。使えるものはすべて使う。レヴィストロースです。
普通ならこういった隙間は錆漆で埋めます。それは「平滑な面」を作るためです。
今回は「より接着強度を上げるため」の素材を充填したいと考えました。
基本的には「接着剤」である麦漆を詰めたいところですが、乾きの効率とか詰め作業の効率を考えて「接着力の高い刻苧漆」を使うことにしまいした。
刻苧漆に混ぜる木粉の量を少なくしただけです。(なーんだ、それだけか)
刻苧箆で隙間に詰めていきます。
再び2週間くらい乾かします。
金継ぎstep 05 麻布補強1回目
麻布補強作業で使う道具と材料
- 道具: プラスチック箆、付け箆 ( ▸ 付け箆を作り方 )
- 材料: 生漆、小麦粉、水、麻布、はさみ
まずは漆を使って接着剤を作ります。 ▸ 麦漆の詳しい作り方
「麻布」じゃなきゃダメなの?綿じゃダメ??同じじゃない?
はい、麻の方が断然強いのです。繊維一本一本が長いようです。韓国の乾漆仏研究者のJ.Jさんに力説されました。「あなた、綿は弱いのよ。知ってた?」と。
でも、まぁ綿布でも代用できますのでわざわざ麻布を手に入れるのが億劫な方は綿で行きましょう。麻布も綿布も漆屋さんで売っています。布屋さんでも売っていますが、やはり漆芸に使うのに勝手がいいようなものは見つけづらいと思います。薄くて、かつ目が細かいものはなかなかないかなと。
麻布補強の一回目は取っ手の表と裏に一枚ずつ布を貼ります。
まずは麻布を取っ手の幅よりほんの少し小さいサイズで切って準備しておきます。はさみで切ります。
で、ここで重要なのが網目が「バッテン(バイアス)」になるようにカットすることです。
取っ手の内側から布貼り作業を行いました。後程、作業の解説をします。
取っ手の下の付け根部分も割れた箇所だったので、ここを補強するためにマグカップ本体にまで麻布を伸ばして貼りました。
続いて取っ手の外側です。
まずは取っ手の方に麦漆を薄く塗ります。
付け箆で塗ります。(今回修理する箇所がフラット穴ので比較的、へらでもやりやすいですが、もっと複雑な形状のものに布を貼る場合は100均で買った油絵用の豚毛の固い筆で塗るのもありです。筆は油できちんと洗えば何度でも使えます)
麦漆は薄くです。
麻布を貼ります。引っ張らないようにしながらパサっとやさしく置くだけのような感じです。
箆先にほんの少し麦漆を付けた付け箆で布を持ち上げて、それを取っ手部分に置きます。
塗った麦漆の上に麻布を置いたら、その上からヘラで優しく押さえて麦漆と麻布がしっかりと馴染むようにします。
さらに麻布の上から付け箆で麦漆を塗ります。薄目に塗ります。
この時、ヘラで布を引っ張ってしまわないように気を付けます。
麦漆が 布目にしっかりと入り込むようにします。塗り残しがないようにチェックします。
取っ手の外側も麻布の一枚目が貼り終わりました。
麦漆なので硬化に時間がかかります。1週間くらいを見ておきます。
金継ぎstep 06 麻布研ぎ
金継ぎの麻布研ぎで使う道具
- 道具: 空研ぎペーパー(#240~320くらい)…空研ぎがなかったら耐水ペーパーで。
かるくサササッと研ぎます。突起物をはつる感じです。
研ぎ過ぎるとせっかく貼った布の強度が落ちますのでご注意を。
こんなもんでオッケーです。
研ぎで出た粉を湿らしたウエスで拭き取ります。
では次、いきましょ。
次の作業工程に進む ▸ ②蒔絵完成まで