02‐① 置き目を取る…ための漆を準備する(高蒔絵:椿)~かめかめ蒔絵教室

かめかめ蒔絵教室

 

 

蒔絵を始めるにあたって、まずは「置き目」という方法で図案を器物に写しとります◎

 

 

 

 

 

 

1.「置き目」とは?

 

 

油絵などの絵画表現では、形や色のバランスを探りながら、時に失敗、修正を繰り返しつつ絵の具を塗り重ねていくうちに次第に絵ができてきます。
絵を描く以前には完成形が見えておらず、描き進めるに従って、時に自分でも想像してなかった作品として着地することもあります。

一方、蒔絵表現というのは基本的には「下図」があって、それをそのまま器物に写し取り、計画的に工程を積み重ねて完成させます。
即興性は基本的にはありません。描き始める前からある程度の完成形がすでに見えている…といった感じです。

 

 

 

それでは「置き目」の説明に入ります。

図案の輪郭を「器物に下絵として写す」ことを「置き目を取る

といいます。多分、業界用語ですね◎

 

まずは紙の上で高蒔絵のデザインを考え↑このような図案ができたとします。この通りの高蒔絵をしたい。
そこでこの図案を手板※1に下絵として写そうと思うわけです。

※1 手板…漆を塗った小さな板のことです。見本用や漆技法の練習用として使われます。作品のキャンパスとしても使います。
手板の作り方はまた別途ページを作って詳しく解説していきたいと思います。

 

 

↑このように手板に図案を写したい。

ただし、手板に「ぶっつけ本番・フリーハンド」で正確に写すだけの技量は持ち合わせてない。というか無理ですよね。

 

今の時代でしたら図案を描いた紙と手板の間に「カーボン紙」を挟んで、紙の上からなぞれば図案をそのまま手板に写せますよね。

 

 

ただ、このやり方は今回のように写す対象物が「平面」でしたらいいですが、お椀や棗のような立体物のようなときには転写が困難になります。
それに蒔絵は工程が多いので(時間がかかるので)、作業を繰り返していくうちに転写したカーボンの下絵が消えてしまう恐れがあります。

そこで、昔からの方法で「置き目」という転写のやり方があるのでそれをやってみます。

で、どうやって紙に描いてある図案を手板の方に写すのか??ですよね。

それをこれからご説明していきます◎

 

 

 

 

2.とにもかくにも漆の準備

 

置き目を取るにはそれ専用の漆を用意します。それが「焼き漆」です。

 

2-a.まずは「焼き漆」を作る

 

 

何だか怪しい写真ですね。
かめ師匠が火を使っています。

 

 

金属製のスプーンに「絵漆※1」を入れて、それをライターや蝋燭の火などで加熱します。
金継ぎで使う漆の量はほんのちょっとなので、小さなスプーンが使いやすいです。
(大量に焼き漆を作りたいときはお茶碗に漆を入れて、ラップをかけ、電子レンジでチンすると早いです)

※1絵漆…生漆を天日に当てながら練りつつ、水分を飛ばし、そこに弁柄を適量加え、よく練り合わせたもの。

↑蒔絵において(もちろん金継ぎでも)この「絵漆」のデキの良し悪しがかなり重要だと思います。
こちらの詳しい解説はまた他のページでさせていただきます。

漆を火で炙りますと…

ブクブク泡を吹いてきます。恐ろしい光景です。
漆を焼いたときに出る煙は「カブレやすい」とのことです。ご注意ください。でもどうやって注意すればいいのでしょう?怖いですね~。

漆は一定時間、高温状態にしておくと、漆の中のラッカーゼ”という酵素の活動が低下してしまいます。

このラッカーゼという酵素の活性を低下させるほど、「極めて乾きづらい漆」ができあがります。

 

 

 

「置き目」ではこの「極めて乾きづらい漆」を使います。

置き目は何で「焼き漆」じゃなくちゃいけないですか?普通の絵漆じゃまずいんですか??

おっ!なるほど。そういえば何ででしょう??僕も気づきませんでした(笑)
そうですよね~、、不思議ですよね~
「置き目」は通常、和紙の上に極めて「細く、薄く」線描きをします。ということは漆の器物の上に描くよりも遥かに乾きが早くなります。
ということで、置き目の作業中に漆が乾いてしまっては不都合なので、焼き漆を使う…ってことかもしれませんね。
次回、かめ先生にお会いした際に聞いてみます。
(↑聞いてきました!ページ②の最後にご説明します。そこまで読んでからの方が理解しやすいかと思います)

 

 

 

 

2-b.漆を濾す

 

ただいま作った焼き漆の中に入っているゴミを濾します。

「漉し紙」というのが漆屋さんに売っています。本物の和紙ですと、結構、お高くなります。なので「新吉野紙」という和紙に似せてレーヨン紙で作られたものを使います。
100枚/1000円くらいです。

 

通常、売っている新吉野上の大きさが30㎝×50㎝くらいなので、それを少し小さく裂いて使います。
8等分くらいにすればいいと思います。

 

「お猪口」などの小さい器の上に漉し紙を被せ、その上から焼き漆を垂らします。
漉し紙で絞った漆がそのままお猪口の中に入るようにする…ってことです。

 

 

ヘラ2本を上手に使って焼き漆を濾し紙の中央に乗せていきます。
(この「漆の濾し方」も後日、新たにページや動画を作りたいと思います。お待ちください~)

漆が乗った部分を中心にして漉し紙を折り畳み、絞っていきます。

 

(「焼き漆」を濾した時に写真を取り忘れたので、「生漆」バージョンのを使っています)

濾した漆がお猪口に入るように、器の上で濾します。

 

 

 

 

2-c.「ショウノウ」を混ぜて漆を緩める

 

ショウノウとは「樟脳」です。楠(クスノキ)から採れた白い半透明の結晶です。漆屋さんで売っています。
これを漆に混ぜると「緩く」なります。(粘性が低くなります)

ただ、買ったままの「結晶」の大きさですとなかなか漆と混ざり合いません。
これを「パウダー状」の微粒子にしてあげるとものすごく素早く混ざり合います。

 

ということで、樟脳をパウダー状の微粉にするやり方を解説します。
すごく簡単です◎

 

お猪口などの小さな器を用意し、その上に漉し紙を置きます。漉し紙の上に小脳を少々乗せておきます。ほんの僅かで大丈夫です。

 

 

↑こんな感じです。樟脳はもっと少なくて大丈夫です。

 

 

続いて金属製のスプーンをチャッカマン、蝋燭などで炙って熱します。(またか!)

 

 

(画像ではスプーンの中に漆と樟脳が入っていますが、これは無視してください)

しっかりと熱してください。熱し方が甘いと樟脳が微粉になりません。

 

十分にスプーンが熱せられたら、すぐに漉し紙に乗った樟脳に押し当てます!

 

 

「ハンダごて」でもいけそうですね◎ 用意するのが面倒かしら?

 

そうすると、漉し紙の上に乗った樟脳の結晶が一瞬で液体化し、漉し紙をすり抜け、器の中に落ちていきます。
そして落ちた瞬間に空気に冷やされ再び結晶化します。今度の結晶はかなりの微粉になります。「ふわふわ」状態です。

 

この「ふわふわ結晶」が器の底に溜まっているので、それを筆先に少量つけ、焼き漆に混ぜて漆の固さを調整します。

ふわふわになった樟脳の粉は漆にすごく馴染みます。一瞬で消えていく感じです◎

これがテレピンだとかだとそこまで相性が良くない感があります。

ちなみに「アルコール」「エタノール」といった「揮発性の高い溶剤」は使わない方がいいと思います。

せっかく混ぜても揮発が早いので、すぐに「粘り」または「固く」なってきます。

 

混ぜる樟脳の量が多くなると漆が緩くなりすぎて「筆が走る」とかめ先生が言っていました。適度な粘度があった方が漆は描きやすいようです。そのへんの感覚はまだ僕には掴めていません。

 

説明が長すぎて「置き目」にまで辿り着けませんでした!
次ページでいよいよ実践に入ります。